カサマツの2番星   作:美涼

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冬になり、衝撃の一言

カサマツトレセン学園に入学してから、3ヶ月ほど過ぎて12月になった。

クソみたいな暑さの夏なのか秋なのかよくわからない季節が過ぎ去って、少し寒くなって来た。

 

私はこの3ヶ月、ずっとトレーニングをしていた。脚をダートに慣らすために、走り方を教えてもらいつつダートで走っていた。その結果、半分くらいの力で走れるようになった。

 

あとトレーニングと並行して、柔軟もやっている。オグリさんの超前傾姿勢で走るには、体の柔軟さが何よりも必須だと聞いたからだ。

なお、オグリさんはトレーニングはともかく、柔軟は加減がわかっていないのか、力で引き延ばすせいで毎日絶叫する羽目になっている。

 

一部のウマ娘は今月あるレースに向けて調整している子もいるが、多くは休みが多い。地方とはいえ、年末のレースはクラスが高い重賞ばっかりだから、それに出れるような上澄み以外は基本練習の頻度が減る。

そんな中私は、オグリさんから衝撃の一言を受けた。

 

 

「中央への編入するぅ!?え、今年!?本気で言っとんの!?」

 

「至って本気だが?」

 

 

あーそうでした。この人嘘とか冗談とか誤魔化すの苦手なんだったな!!

とりあえず一旦冷静になってから、もう一度聞き直す。しかし返答は同じだった。

 

 

「終わった…これから勉強地獄や…」

 

「ん?勉強地獄にはならないぞ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

詳しく話を聞いたところ、私は確かに編入はするもののスカウトという形で編入するため、難しい試験などは特にないらしい。

 

 

「でも、今まで一回もレースで走った事ないんだよ?変な目で見られない?」

 

「それは大丈夫だ。高等部に上がってからメイクデビューする子もいる。デビュー前に編入するのも珍しくはない」

 

「ならいいのか…いいのか…?」

 

 

とりあえず私は、一旦はその場を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってな事があってさ〜」

 

「おおう…。色々衝撃だけどとりあえずほんとに親みたいよねレイ」

 

 

寮に帰った後、同じ部屋のスズノミレイに愚痴を撒き散らしていた。

 

 

「でもいい事じゃない?中央なんてこことは設備から何から違うやん」

 

「そりゃそうなんやけどさ。でもオグリさんに何回か勝ってるフジマサマーチさんでも中央行ったら全く勝てなくなってたんだよ?てか中央のレースカサマツ(こっち)とは格が違いすぎるし」

 

 

そう。

中央と地方では、格が違いすぎるのだ。

 

日本総大将、異次元の逃亡者、皇帝、帝王、世紀末覇王、砂のハヤブサ、白い稲妻、不沈艦、女帝、ターフの演出家、金色の暴君、芦毛の怪物。

 

こんな二つ名をつけられるウマ娘がゴロゴロいる。更にいえば、それと接戦を演じるウマ娘たちが数えきれないほどいる。

 

その中に入ってまともにレース出来る自信があるかと聞かれたら、誰もが否と答えるだろう。

 

 

「で、どうすんのさ」

 

「まだ迷い中。アンタも知ってるでしょ。今は1つ上の世代がおかしいってこと」

 

 

もう1つの問題は、今言った通り1つ上の世代がおかしいのだ。

本来メイクデビューはあまり注目されないのだけど、1つ上の世代は違った。

中山2000m。1着はコースレコードより0.4秒遅いだけ。しかも1着から7着までのタイム差が0.5秒もないという、本当に前代未聞のレースを展開していた。

 

私はこのまま進むなら、おそらく来年にはメイクデビュー戦に出るだろう。初戦に勝てなくても、年内には一勝はできると思う。多分。

 

でも、私がクラシック級になった時、GⅠに出るとなった時の相手が、その上の世代なんだ。

まともに相手できるのか、という不安が襲ってくる。

 

 

「全く、いつからレイはそんなに臆病になったんだか」

 

 

スズは苦悩する私を鼻で笑い、真剣な表情で話し始めた。

 

 

「お前はファントムレイダーだ。ずっと坂で走ってたんやろ?ならスピードもパワーも根性も一般ウマ娘の範囲で収まってるわけねえだろ。トレセンに入る前の事を思い出せ。お前は、舐められたままで終わらせるのか?」

 

「…いや、終わらせない」

 

「なら答えは1つだ。走れ。そんで勝て。お前はファントムレイダーだ。幻影の襲撃者だ。上の世代だろうがなんだろうが、襲って、勝て」

 

 

そうか。私は無意識のうちに上の世代に勝てるわけがないって決めつけてたのか。

中山レース場のコースレコードより0.4秒遅いなら、レコードを更新してしまえば勝てるんだ。

 

 

「…ありがとう、スズ。私も踏ん切りがついたよ。私、中央に行ってくる」

 

「そりゃあよかった。あ、レイ。中央に行く時一緒に行こー」

 

 

はい?

すぐに口に出そうになった言葉をなんとか飲み込み、一旦冷静に聞いてみた。

 

 

「一緒に行く、ってのは?」

 

「私もスカウトされてたからさー。どうせなら一緒に行こうよ」

 

 

…………………うん。

とりあえず、スズは凄いんだなあ。

 

 

「そういうことは先言えや」

 

「ごめんね」

 

 

まあなんやかんやありまして、私の中央行きが決まったわけであります。

ちなみにこの事をクラスメイトに話したら、あっという間に学校中の噂になっていったのは、また別のお話。




スズノミレイはデビュー済みです。
東海優駿(旧東海ダービー)と東海菊花賞(どちらもSPⅠ)を勝ってる、何気に凄いウマ娘です。
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