カサマツの2番星   作:美涼

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第一章 中央入学 ジュニア級
中央初日 問題児


冬が過ぎて、桜の花が咲き始めた頃。

私とスズノミレイは、府中に居た。あとオグリさんも一緒に。

 

 

「わあお建物でっか」

 

「ずっとズボン履いてたからなのか、スカート慣れないなぁ…」

 

「わかる、わかるぞ!腰布だけで生活するのは慣れないよな!」

 

 

なんなのオグリさん。ふんすって効果音がつきそうなほど興奮してるけど。別にそこまで苦手意識はないんだよ。

 

今私たちは、日本ウマ娘トレーニングセンター学園、一般的にトレセン学園と呼ばれる所に来ている。

今日から中央での生活が始まるから、めちゃくちゃ緊張している。

 

 

「お久しぶりですオグリキャップさん。そして初めまして。ファントムレイダーさんとスズノミレイさん」

 

 

学校のデカさや雰囲気に気圧されて校門前で突っ立っていると、緑の服を着た人が話しかけてきた。

 

 

「たづなさん!お久しぶりです」

 

「ええ。お久しぶりです。あ、私はこの学園の理事長秘書を勤めています、駿川たづなと申します。この学園で分からないことがあったらなんでも聞いてくださいね」

 

 

たづなさんは笑顔でそう言ってくれた。

オグリさんは書類仕事が少し残っているらしく、オグリさんの代わりにたづなさんが学園を案内してくれた。

 

そして、クラスはスズと私は別クラスだった。

スズは「嫌やぁ〜レイと一緒がいい〜」と泣き言を言っていたが、未出走ウマ娘と地方重賞ウマ娘ではクラス違って当然だろう。まあ最終的に、なんとか説得してスズと別れた。

 

で、今。

 

 

「デビューすらしてねえ田舎モンが何で中央に来てやがる。とっとと尻尾巻いて帰りな」

 

 

編入生の紹介してもらってたら、凄い喧嘩売られました。もう、なんか、こう、とにかく凄いです。わざわざ後ろの辺りの席から前まで来て、壁ドンされました。きゅんってなるやつじゃなくて、ドンっていう威嚇する感じのやつ。

まあ言ってることも理解できなくはない。地方でデビューすらしてないのに、中央来たところで何もできないって考えるのが普通だろう。

 

 

「理由は私もわからないですよ。でもスカウトされたので。中央の方が設備もいいですし、走れるレースも多いので中央に編入してきました」

 

「お前がスカウトぉ?どうせもう1人の方の併せのためだろ」

 

「もしかしたらそうかもしれませんね」

 

「どうせデビューすらできねえんだ。今のうちに帰りな」

 

 

わあおすごいね。ここまで喧嘩売られるとは思わなかった。というか、地方差別?格下差別?的なのってこの世界でもあるんだ。

まあ中高生っていう多感な時期に勝つか負けるかの勝負、それも自分の価値を見出すような勝負を何度もしてれば、ひねくれる子もいるよなぁ。

 

 

「それに、カサマツって不祥事起こしたトコだろ?どうせお前もその類で入ったんだろうな」

 

 

その言葉を聞いて、私はつい相手の胸倉を掴んだ。

 

 

「お前、自分で何言ったかわかっとるんか。お前は中央が汚職に染まってるって自分で言うとるようなもんやぞ。あとな、喧嘩売んのはターフの上だけにしとき。レースで勝てんから私貶しとる言われたくなかったらな」

 

 

そう言い切った後、相手を離す。地元をバカにされたのと、カサマツのみんな、それにスズも一緒にバカにされてる気がして、手が出てしまった。

喧嘩を売ってきたウマ娘は大きく舌打ちをすると、自分の席へ戻っていった。

 

 

「えぇと…喧嘩はやめてくださいね…?あと、言いにくいけどファントムレイダーさんはヴォイドエールさんの隣の席です…」

 

 

へえ。あの子ヴォイドエールって言うんだ。てかよりによって隣かよ。嫌だよこんなやつとしばらく隣で授業受けるの。

そんなこんなで、私の中央での生活はしばらく荒れることになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喧嘩売られたからその喧嘩買ったぁ!?バカじゃないの!?」

 

「スズ、待って、声大きい」

 

 

初日ということもあって、授業は午前中で終わった。だから私たちは、今オグリさんのトレーナー室にいる。オグリさんはちょうど書類を出しに行く所だったらしく、今は私とスズの2人だけだ。

スズに今日の出来事を話すと、凄い反応をされた。

 

まあそれが自然な反応だろう。何勝かしてるならともかく、デビュー前のウマ娘が重賞ウマ娘に売られた喧嘩買ったんだから。

スズは未だ興奮冷めやまぬ様子だったが、私は1つ考えてたことがあった。

 

 

「落ち着いてスズ。とりあえず今日の出来事があったおかげで私の目標決まったから」

 

「…嫌な予感がするけど一応聞いておく」

 

 

お、スズは勘が鋭いようだ。まあ、普通なら絶対誰もやらないであろう事をしようと思ってるからね。

 

 

「私、悪役(ヒール)で売っていくわ」

 

「…………ごめん私耳が悪かったみたい。悪役(ヒール)で売っていくって聞こえたんだけど」

 

「そう言ったもん」

 

 

スズはそれを聞くと天井を向いて大きなため息をついた。

そのタイミングでオグリさんがちょうど帰ってきてしまい、オグリさんはあわあわしていた。

 

 

「ど、どうしたんだ?何かあったのか?」

 

「オグリさん。コイツダメです。悪役(ヒール)で売っていくとか言い出しました」

 

「?別にいいんじゃないか?」

 

「ストッパーになんねえのかよこの人!!」

 

 

わあおスズが今まで見たことないほど荒れておる。いやまあ原因私だから何もいえないけど。

さて、スズに理由を教えてやりますか。

 

 

「スズ、ちゃんと理由があって選んだから」

 

「……理由って?」

 

「まず、多分喧嘩のことは結構な噂になると思う。そうなると普通に売ってくのは無理。それに私はオグリさんがトレーナーになってるからね。否が応でもいずれ変な噂は立ってたと思うよ」

 

「…確かに、それは否定できないけど。それでも、レイが悪役(ヒール)で売る必要はないでしょ」

 

「いやー私『喧嘩売んのはターフの上だけにしとき。レースで勝てんから私貶しとる言われたくなかったらな』って言っちゃったからデビュー戦とか負けらんないし。それにさ」

 

 

一息ついてから、言葉を続ける。

 

 

「不祥事があったカサマツ。そこからデビューもしてないのに編入。しかもスカウト。そんな事を知ったらマスコミは変に報道するだろうし。普通に走ってても結局貶されるくらいなら最初からその方がいいし。それに、明確な”敵“がいた方が勝負は盛り上がるでしょ?」

 

「そうかも、しれないけど、さぁ…」

 

 

スズは未だ納得していないようで、どうにか私が普通にレースできないか考えているようだった。

でも、申し訳ないけど私の意思は変わらない。

そんな事を考えていると、オグリさんが口を開いた。

 

 

悪役(ヒール)は、レースに勝っても歓声はおきない。ブーイングばかりだ。負ける事を望まれる。更にいえば、学園内での肩身も狭くなる。それでも、悪として生きるのか」

 

 

オグリさんは、いつもよりも低い声で、私を威圧しながらそう聞いた。

気圧されそうになったけれど、私は堂々と返事をした。

 

 

「だからなんだ。私はそう決めた。ウマ娘も、観客も、マスコミも。全てを騙す道化師(ジョーカー)になってやる」

 

 

オグリさんはそれを聞いて、柔らかな笑みを浮かべた。

 

 

「そこまで覚悟が決まっているなら、何も言うことはない。ちなみにレイのことはトレーナーの間で結構な噂になってるぞ」

 

「もうそんな広まってたんだ」

 

「あんたら何で事をこんな簡単に見とんねん…」

 

 

あ、スズがまた頭抱えてる。かわいそ。まあ元凶のうちの1人は私なんだけど。

 

 

「まあええわ。で、レイ。明日の選抜レースどれ出る?いやそもそも選抜レース出る?」

 

 

選抜レース。まだトレーナーのいない、もしくはチームに所属していないウマ娘が、自分をアピールする場。

このレースでトレーナーと担当契約を結ぶ、もしくはチームに入ると、トゥインクルシリーズに参加できるようになる。

ちなみに私とスズはオグリさんがトレーナーとしてついている。

 

 

「選抜レースねぇ…。まあ私が芝でどんだけ走れるのか知りたいし、芝の2000走ろうかな」

 

「へー。マイルとかは行かない感じ?」

 

「マイルちょっと短いからスパートかけれるか微妙なんだよね。だったら中距離行こうかなって」

 

 

そんな話をしていると、あたりが暗くなっている事に気がついた。とりあえず今日はそこで終わりにして、寮に帰ることになった。

寮は私が栗東寮で、スズが美浦寮だった。スズはまた離れるのが嫌だと言っていたけれど、寮母のヒシアマゾンさんと協力して、なんとか引き剥がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、寮の同室のウマ娘はいない。

寮母のフジキセキさんによると、元々同室はいたけど負け続けて中央トレセンから地方のトレセンに編入したんだそう。

 

広々とした部屋に、1人だけ。

何も私を邪魔するものはない。だからこそ、色々考えてしまう。

 

 

「私は、私だ。他の何でもない。ファントムレイダーだ」

 

 

そう呟いて、私はベットに入って寝た。




オリウマ娘のヴォイドエール。
親はシングレで最初にオグリに喧嘩売ってたブラッキーエールです。
親子の血は争えなかった。
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