翌日。選抜レースにて。
「すげえ勝ったのに見事に誰も声かけへん」
芝2000のレースには勝った。勝ったのだが、全員から遠巻きにされている。
しかも「あいつが例の…」とか「選抜は勝ってるがその程度」とかちょくちょく聞こえてくる。
まさかここまで噂になっているとはこのレイの目をもってしても見抜けなかった。
まあいいや。トレーナー目当てじゃないし。
芝のコースを走ってわかったのは、個人的には、ダートよりも芝の方が走りやすかった。
ダートは脚が沈むけど、芝は脚が沈まないし、ダートと比べると路盤が硬いから走りやすかった。
しっかし、中央ってのはほんとにすごいね。芝のコースもダートコースもあるし、何ならそれが複数ある。しかも聞く限りじゃあレース場と同じ芝使ってるらしいし。まさかこんなとこで中央と地方の違いを実感するとは思わなかった。
ここでやれることもないし、私はそのままオグリさんのトレーナー室へ向かった。
*
「オグリさーん、居ますー?」
そう言いながらトレーナー室のドアを開けると、見知らぬウマ娘が部屋にいた。
そのウマ娘はこっちを向くと、私に向かって優しく笑っていた。
「あっ間違えましたー」
そう言いながら扉を閉める。
トレーナー室を間違えてないかしっかり確認して、もう一度扉を開ける。
やっぱり見知らぬウマ娘が部屋に居る。ピンクの長い髪をした女のウマ娘。
「誰ぇ…?」
思わず口に出てしまった。
すると後ろからオグリさんに声をかけられた。
「む、レイどうした?」
「いや、知らないウマ娘がいるので、どうしたもんかなと」
オグリさんは私の言葉を聞いてトレーナー室の中を覗くと、そのまま中に入って行った。
「ウララ、別にここで待ってなくても良かったんだぞ?」
「ううん、ちょっと気になってたから。オグリさんの新しい担当の子」
オグリさんとウララと呼ばれたウマ娘は仲睦まじく話し始めた。
私は置いてきぼりになってますけど。
「あっ、ごめんね。自己紹介してなかったね。私はハルウララ。よろしくね!」
「ファントムレイダーです…よろしくお願いします…?」
「ウララは7、8年近くトゥインクルシリーズで走っているウマ娘だ。今も現役なんだ」
わあお思ってた数倍すごい人じゃないすか。まじで偉い人やらすごい人やら何も言わずに連れてくるのやめてほしい。まあ言ったところでだろうけど。
「緊張しなくても大丈夫だよ〜。わたし特別すごいわけじゃないんだ。ただ長い間走ってるだけ」
「でもJBCスプリントとかチャンピオンズカップには勝ってるじゃないか」
ダートのGⅠで勝ってんじゃん。重賞ウマ娘じゃん。十分すごいじゃん。
「で、わたし呼ばれて来たけど何するの?」
「ああ、ウララにはレイと併せをしてほしいんだ。」
「併せって、並走トレーニングですよね、坂路とかじゃなくていいんですか?」
「いや、ウララは芝もダートも両方走れるからな。走り方の癖と、芝での走り方を教えてもらおうかと」
「わたしいわゆる感覚派?ってやつだから、うまく説明できなかったらごめんね」
ウララさんはそうやって謝ってきたけど、芝とダート両方走れるってだけで異常だ。
ダートはパワーが、芝はスピードが重要だと聞いた。つまりウララさんは、最高水準とまではいかなくても、高い能力を持っている事になる。
「じゃあレイ。着替えてグラウンドまで来てくれ」
オグリさんにそう言われて、色々考えていた頭を切り替えた。
*
「はぁ……はぁ……ウララさん、何で、ダートも芝も、同じスピード、同じ走り方で、走れるんすか…」
それから3時間くらい、並走トレーニングをしていた。
ただ、私は途中でスパートかけろとかの指示を受けていたとはいえ、ウララさんはまだ元気そうなのに、私はもう100mも走れそうにないくらい疲れている。いや、人間換算だと100mもおかしいんだけどさ。
しかもウララさんは、基本的にダートも芝も、同じスピード同じ走り方で走っていた。
対して私はバラバラ。一貫して差しの走り方を続けていたウララさんに対して、その前を飛ばしたり、後方に流されたり。完全に身の程を知った感じだ。
「うーん。これに関しては私がずっと走ってるのもあると思うんだ。ただね、ファントムレイダーちゃんは別に能力が低いってわけじゃないの」
「レイって呼んでください。能力が低いわけじゃないっていうのは?」
「ダートはずっと走ってて均してないからっていうのもあるんだけど、レイちゃんはね、足元の状態を見てないの」
足元の状態を見ていない、とな?わけがわからず首を傾げると、ウララさんはわかりやすい説明をしてくれた。
「レイちゃんはね、走る時のコース取りがバラバラなの。内側走ったり、外側走ったり、私の後ろ走ったり。外側とかわたしの後ろはともかく、内側は基本芝が荒れてるの。
特に今日は芝の状態が悪かったからね。レイちゃんは内側走った時に、荒れてる芝を無理やり走ってスタミナを使いすぎちゃったんだと思う。
だから後ろに流されていっちゃったんだと思うの」
「んーと、つまり私だけダートで走ってたみたいなもんって事ですか?」
「もっと言うなら、ダートで芝の走り方してる状態だけどね」
なんと。思っていた以上にバカなことしてたみたいだ。
足元、足元か。確かに、走ったらそれだけ地面は荒れるんだ。
「そういえばレイちゃん、レイちゃんは夢ってあるの?」
クールダウンのために軽く歩いていると、不意にウララさんがそう聞いてきた。
「夢…ですか?」
「うん。例えば、このレースに出たい、勝ちたいとか。このウマ娘には勝ちたいとか。この距離では負けないとか。私だと、有馬記念で勝ちたいって夢があるの」
「…考えたことなかったです。ずっと、走りたいから走ってただけなので」
夢か。やっぱり、基本はクラシック三冠かトリプルティアラが目標なんだろうな。
皐月賞、日本ダービー、菊花賞。もしくは桜花賞、オークス、秋華賞。多くのウマ娘がこのどちらかを目標にして走っている。
やっぱりここはクラシック三冠がいいんだろうか。いや、なんかそれだけだとなんかつまんないな。なら…。
「決めました。私の夢」
「聞かせて?」
「無敗でクラシック三冠を獲ります」
「うん…うん?む、無敗の三冠?」
珍しくウララさんが困惑している。頭の上にはてなマークがついてそうな顔をしている。
落ち着かないままウララさんは話し始めた。
「無敗のクラシック三冠って、シンボリルドルフさん、ディープインパクトさん、コントレイルちゃんの3人しか達成してないんだよ?トリプルティアラはデアリングタクトさんだけだし」
「まあ、難しいと思いますよ。でも、先駆者がいるなら不可能じゃない。なにも、前代未聞の事をやるわけじゃない。なら、まだ成功する可能性はある」
「レイちゃんはすごいね。普通こんなの聞いたら諦めちゃうものなのに」
「おーいレイ、今日のトレーニングは終わりだ。ストレッチしておいてくれ。ウララもありがとう」
ふと、オグリさんが声をかけてきた。それを聞いて、ウララさんと別れて私はグラウンドの端でストレッチを始めた。
いでででで。今日めちゃくちゃ走ったから全身の筋肉が悲鳴をあげておる。しばらく全力で走ってないのもダメだったかな。
「お前、結局ダートで走るんだな」
そんな事を考えながらクールダウンをしていると、ふと後ろから声をかけられた。
後ろを向いて確認すると、そこには初日に私に喧嘩を売ってきたヴォイドエールがいた。
「あんだけ啖呵切っておいて結局ダートに逃げるのかよ。お前もその程度だったってことか」
「誰がダートしか走らん言うたんや。芝もダートも。両方走って負かしたる」
やはりと言うべきか、ヴォイドエールは私に喧嘩を売ってきた。わざわざこんなとこまでご足労ありがとうございますお帰りくださいませクソ野郎様。
そんな事を考えながら睨み合っていると、ヴォイドエールが口を開いた。
「ホープフルステークス」
「はぁ?何言うとんじゃワレ」
「お前今年デビューすんだろ。今年の年末、中山の2000。そこでお前を完膚なきまでに叩き潰してやる」
「…はっ。お前もバックダンサーの練習ちゃんとしとくことやな」
ヴォイドエールは大きな舌打ちをすると、そのまま歩き去っていった。何してくるのかと思ったら宣戦布告だった。血気盛んだねぇ。
少しして、オグリさんがやってきた。タブレット持ってるから、今日の並走のデータとかをまとめてきたんだろう。
「レイ、今日の並走のデータなんだが…」
やっぱりそうだ。
オグリさんが色々話しだそうとしたところを静止して、一方的に話をする。
「オグリさん。とりあえず、年末のホープフルステークス。そこで勝ちます」
「……わかった。とりあえずはデビュー戦が先だが、その後はホーププルステータスに出れるよう調整しよう」
「ホープフルステークス、ね」
この人。わざとボケてんのか生粋の天然なのかどっちなんだろ。まあ後者だろうけど。じゃなきゃタマモクロスさんがあそこまで苦労してるはずがない。
とりあえず、すぐに認めてくれて良かった。
まずは6月後半にあるメイクデビュー。そこで勝つ。
ウララちゃんです。ウマ娘のウララちゃんは有馬記念勝つまで頑張って走り続けるイメージがあります。
史実と違ってダートならGⅠ勝ててます。やったねウララちゃん!