#激辛ディストラクションの二次創作です
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〈 前書き情報/敬称略 〉
【ぺーにょ】
・オレ / アンタ / 26歳 / 超ポジティブ気質
【サルサ】
・オレ / アンタ / 26歳 / 猫の様な人見知り
・脳内では比較的喋る

〈 共通点 〉
・義務教育受けていない
・漢字読めない
〈 推奨 〉
・夜間モードでの閲覧(ページ最下部バー)
・右上のメニュー→閲覧設定→挿絵表示有



【キャロメルの帰宅】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「 あざとーさっさっしたー 」

 

 

 深夜帯特有の、気の抜けたコンビニ店員から商品を購入し、手提げ袋を受け取った青年キャロメルはどこかふらりと疲労を感じる重い足取りで帰路に着いていた。

 

 またそれだけでは無い。

 背負いの鞄も決して軽量ではなく、医学生として通学している過去から現在に至るまで、医学実習に関する書類の他、購入にて使用される山程の教習本が入った物も含まれている。

 

 

 ———疲労、睡魔、そして鞄の重み。

 

 それら全ての辛さが、彼の歩みを鈍らせていた。

 三重苦とはいえ、キャロメルにとって明日が休日である事が唯一の救いと思わずにはいられない。

 

 ただ残酷な事に、束の間の平穏が到来することへの安堵心しかなく、彼の休日に対する歓喜の感情は一欠片も見受けられないことだろうか。

 

 それ程キャロメルにとって、ここ数日はまさしく忙殺という言葉が過剰でも冗談でも無い程に辟易(へきえき)としていた。

 同学部他学部問わず、それなりの友人との挨拶や交流もあるとはいえ、今日に至っては普段挨拶を交わすのが当たり前だったはずが、目線を合わせて小さな会釈をするまでが限界だったのだ。

 

 

「 ……くそっ、全部指導医のせいだ 」

 

 

 何より元々の原因は、数日間における実習先の指導医による時代錯誤も甚だしい、実に非効率な熱血型の指導実習のせいで予定を大きく超えて時間を奪われてしまったこと。

 また、その為に時間が後ろ倒しになった事によるその他の補講への食い込みや、レポート提出への弊害が次々と発生したためだった。

 

 とはいったものの、やはり悪態を吐く声も本当は叫んでやりたい。だが目の霞(かすみ)も酷く、叫ぶほどの気力も無く、少年時代のように道端の小石を蹴る意欲すらまるで湧き上がってこない。

 

 ただでさえ日常の大半が多忙の医学生としての実生活。

 医学の中でも細胞培養や動物実験に関連する分野では、研究室内で宿泊し始めてからが一人前だの酷い言われようなところもあるのだ。

 

 また重複にはなるが、医学に関連する永遠と終わる気のしない度重なる講義と実技。これもまた膨大な情報量を暗記した後に、毎度の如く試験も繰り返し行われている。

 

 積りに積もった指導医への愚痴をせめてもの抵抗として心の中で呟きながら、歩き進めて気付けば静まり返った見知らぬ住宅街。

 深夜帯とはいえそれなりにどの住宅も室内の暖色系の明かりが漏れ出ていた。

 

 少し肌が冷えそうな心地良い夏の涼夜と合わさって、視線や意識を傾ければ、通り過ぎる家からはバラエティ番組の様な音が漏れ聞こえる。

 深夜で幼い子どもは寝静まっているだろう。それでも学生や夫婦といった人々が過ごす家族団欒のような温かさを、一人暮らしのキャロメルにとっては少し羨ましく思えた。

 

 

 そのまま少し錆びた経年劣化を感じる電柱の灯りに沿うように、キャロメルは私物のスマホと目の前の道を交互に見比べながら歩いている。

 

 歩きスマホ、ダメ、絶対。

 

 

「 はあータクシー拾うか……いや、でもなあ…… 」

 

 無意識に俯きながら溜め息を吐くキャロメルにとって、足取りが重い理由はもう一つあった。

 

 理由は単純明快。

 帰宅する際に終電の電車に乗り込んだはいいものの、連日続いた極限の疲労から一駅分を寝落ちしてしまうというやらかしをしてしまったのだ。

 

 それに実家が裕福な医師家庭とはいえ、生活費は厳しく制限されている。

 

 自立させようとする両親の意思なのか、彼にとってのお小遣いというのは意識して節制しなければあっという間に無くなってしまう。

 

 それにコンビニで夕飯という名の夜食も買った、これ以上の不必要な出費は極力避けたい。

 

 

「 あー早く寝てぇ〜 」

 

 駅を降りてから足取りはおぼつかず、惰性と睡魔で歩いているせいなのか左右に頭がずっと揺れている。何ならこのままその辺りで野宿してしまいたい。

 

 彼の育ちの良さ故に、決してすることはないだろうが———

 

 

◆

 

 

 涼夜とはいえ、額や首元から若干の汗を流しながら歩き続けて数十分。

 電灯頼りの薄暗い夜道の中、ふと気付けばキャロメルは自然公園の目の前を通っていた。

 

 

 「 確か、ここは…… 」

 

 手持ちのスマホに表示されている場所は先日ブックマークした程、自然豊かで休日にいつか訪れてみたいと思っていた広大な自然公園だ。

 

 耳を澄ませば森の木々が風で靡(なび)き、枝葉の揺れる音や、夏の風物詩である蝉や鈴虫の鳴き声。自然公園の中では池などの水源があるのか、蛙の鳴き声だって僅かに聞こえてくる。

 

 県外かつ土地勘もない、医学生としてこの辺りに引っ越してきた身としては、いつか休日に散歩してみたい候補の場所の一つでもあった。

 

 

 ———なんだ、この匂いは?

 

 

 そんな自然の夢見心地に浸る前に、ふと自然公園の入り口手前で鼻をつく匂いに気が付いた。

 

 

 「 なんか、あの匂いみたい。なんだっけ 」

 

 焼けた草のような、炭のような匂い。

 そう、まるで田舎特有の焼畑の香りに似ている。

 

 だが、漂うこの匂いは自然公園の奥から発生しているようにキャロメルは鼻を抑えながら感じ取った。

 

 

 「 ……まさか、火事か!? 」

 

 さっきまでの睡魔が一瞬で弾け飛んだ。よく目を凝らして見れば、木々の奥に赤い揺らめきが見える。深夜にその灯りは実によく目立った。

 

 

 「 救急車!? いや、違う!消防車ッ! 」

 

 手元のスマホに通報の番号を打ちながら、火元の状況を確認するべく自然公園の入り口から早足で駆け寄った。

 

 発信後、耳元にスマホを当てる。

 通報が完了すればひとまずこれで安心だ。

 

 

 

「 あっもしもし! 実は——— 」

『 こちら警察です、事件ですか?事故ですか? 』

 

 

 

 電車での寝過ごした件といい、早速またやらかした。睡魔は覚めたが、どう考えてもやはり肝心の頭脳が回っていない。

 

 

「 ……すみません。 間違えました 」

 

 焦りと羞恥を帯びながらすぐに電話を切り、改めて消防署に掛け直そうとしたその時、焚き火付近に人影が段々と見えてきた。

 

 

 パチ……パチ……と、焚き火の心地良い音が聞こえる。その人影に挨拶を交わせるほどに近づいた結果、思わずキャロメルは呟いてしまった。

 

 

「 ……マジかよ 」

 

 静かに漏れ出たその声は、どちらかと言うと状況を理解できない心の声が漏れたという方が近い。

 

 

「 サルサ〜っ!これちょうどいい焼き加減だぜ! 」

「 ああ……! 」

 

 何せその焚き火の光に照らされているのは、寒冷地帯に使われる様な耳当てつきの帽子を被った二人組の男が、昆虫の串焼きを貪(むさぼ)る姿だったからだ。

 

 

 

◆

 

 

 

 「なあ、お前ら何してるんだ?」

 

 キャロメルは正直言って、いわゆる美形やイケメンと呼ばれるに近い顔付きをしている。そこに真顔のまま、日々の蓄積した疲労や隈が合わさるとどうなるか。

 

 

 ぶっちゃけ、まあまあ怖い。

 

 何なら限界状態というデバフすら掛かっている。めちゃクソ怖い。

 

 

 そんな挨拶の最中、月の逆光も合わさって人体の影の中から眼光だけが二人に向けられていた。

 どうみてもキャロメルの方が不審者である。

 

 一般人ですら反応に困りそうな状況の中、二人の内の一人である少しゆるい雰囲気が醸し出されている青年が、串焼きを手に屈託のない笑みでこちらに応えてくれた。

 

 

「 ん!セミ食ってる! 」

 

 百点満点の元気な返答。

 一方もう一人は緊張しているのか、硬直し無言のまま、返事をした明るい青年の隣に座っている。

 

 だが、そんな彼も口をぱくぱくと開けながら必死に耳打ちしているのだろうか。

 キャロメルには現実味のない状況に囚われていて、それどころでは無かった。

 

 

「 なあ、よかったら食うか? 」

「 いらない 」

「 ……っ!(やめろって! なんかよく見たらアイツ目がめっちゃ怖いんだけどォ〜〜〜!?) 」

 

「 ……なんかBoutuberみたいなことしてんな 」

 

 即答後、変わらずため息混じりの誰にも聞こえないくらいの疲れきった小さな呟きだ。

 

 それとBoutuberとは、世界的人気な動画プラットフォームで投稿する者たちの略称である。

 

 ———動画撮影だろうか、と辺りを軽く見渡してもキャロメルの目には撮影機材らしきものは何処にも見当たらない。

 

 Botuberの中には、迷惑行為を嬉々として行い、それを撮影をする者たちもいるが、少なくとも彼らの軽装を見るに同類とは判断する必要はなさそうだった。

 

 

「 なあ 」

 

 それはそれ、これはこれ。

 目の前にある、少し焦げて分かりづらいが、昆虫の串焼きらしきものについて追求する前に、先程の焦っていた自分を思い出した。

 

 

「 そもそもここ自然公園だろ、火気厳禁じゃないのか? 」

 

 やはり自覚はあるのか、先程会話を交わした彼はキャロメルの指摘に「えへへ」とばかりに悪戯がバレた子供のような愛想笑いを浮かべて誤魔化した。

 

 

 ———何か、訳アリみたいだな?

 

 

 それに二人を見て目の前の串焼きといい、そこまで姿見は汚くはないが、猛暑が続く中で毎日丁寧に入浴しているかと思うと確信できない、この妙な雰囲気と違和感は差し詰め———

 

 

「 お前ら、まさかとは思うけどホームレス? 」

 

「 おっ! よくわかったな! 」

「 ……えっ(初対面なのにコイツ言い方失礼すぎるだろ!?) 」

「 せっかくだしここ座ったら? 」

 

 焚き火周りの床をぺしぺしと叩き、そして明るく笑う彼は、「オレ、ぺーにょ! んでこっちがサルサ! 」と名乗った。二人は26歳の双子だという。

 

 

「 …………ッス 」

 

 小さく返したサルサの目線は、ほとんど焚き火の炎を追っている。

 

 サルサの言葉も動きも控えめだ。

 話題を自身に振られた怯えもあるが、まるで知らない人間からの干渉を受けたくない猫のよう。

 

 また正直、自分と同じくらいの年齢だと勝手に信じていたキャロメルにとっては、話を始める前に出鼻を挫かれた様に錯覚していた。

 

 

「 えっ歳上!? ……あーその、なんだ。失礼な事しました 」

「 いいって!いいって!そんなの気にしねーし! 」

「 そっか、疲れてるし助かるよ 」

 

 焚き火前の地べたに座り、サルサという青年を流し目に見ている。ふと思ったのが、彼はさっきからほとんど無言だ。

 キャロメルから見て自己主張が控えめというか、人見知りで間違いはないのだろう。

 

 第一、この双子は訳アリなのだ。

 若干怯えているサルサの表情や距離感を察して、無理に近づかない方がいいか、と小児科志望のキャロメルは彼を繊細な子どもとして扱う方のように意識し始めていた。

 

 

「 ところでアンタは? 」

「 え?俺?……キャロメル 」

「 へぇ〜!キャラメルみたいな名前だな! うまそ〜! 」

 

 キャロメルがサルサに意識を向けていると、ぺーにょに言われたことの無い例えに思わず「ははっ確かにな」と自然と友人と接するように答えていた。

 

 そんな中、自己紹介や会話が進むにつれて彼ら二人の雰囲気は、勝手に想像していたホームレス像とはかけ離れていた。

 どこまでも明るく、それでもどこか飄々としていて、そして強かな生命力を感じる。死人のような顔付きで過ごしている自分とは対極もいいところだろう。

 

 

 

「 それで 」

 

 ようやく本題に入り、キャロメルがずっと気になっていたのは2人が手に持っていた串焼きだ。

 何ならまだ焚き火前には、まだセミらしき形の串焼きが地面にいくつも刺さっている。

 

 ほのかに漂うこの香りは、焼いた蟹や海老に近いのだろう。

 キチン質が含まれた甲殻類特有の空腹を刺激するような、とても食欲のそそる香ばしさだ。

 

 とはいえセミはセミである。

 

 

「 今なんて言った? え、毎日? 」

「 そーそー!毎日!あとこの辺の食える草とか、結構美味いぞ!」

 

 そう言って見せた彼の手には、よく見かけるコンクリートの隙間から生えていそうな雑草が握り締められている。

 

  ———見たらわかる、食えないやつやんっ!

 

 ぺーにょの信頼と経験に基づく自信のある笑みを見て、キャロメルはふとバラエティ番組で見ていたお祭り芸人の声がそのまま脳内で再生された気がした。

 

 

「 マジかあ 」

「 マジマジのちょーマジ! 案外いけるんだぜこれ!それとな他にもな、サルサって素手でめっちゃセミ取るの上手くて、オレだとガキ共から虫取り網を借りないと———」

 

 

◆

 

 

「 まあ......なんだ、お前らの事はよく分かった 」

 

 結論。

 キャロメルはこの双子を、このまま放ってはいけないと判断した。言い換えると普通にドン引きである。

 

 医学生としての端くれだろうか、それとも見知らぬうちに病気になったりでもしたら関わった以上、寝覚が悪くなるような気がして。

 

 毎日毎日、懲りもせずに昆虫食やら野草やら。

 食料どころか水分に至っては池水や降水頼りだ。

 それ程までに栄養も、衛生も、何もかもが心配で安全な生活とは遥かに程遠い。

 

 そんな彼ら双子の食事風景を見て、同じ医学生として不安にならない奴がいたら、義憤に駆られてそれこそ聞いてみたいくらいだ。

 

 

「 ……これ、やるよ 」

 

 鞄から取り出した手提げのビニール袋を、次のセミの串焼きに手を伸ばしていたぺーにょに向けて投げ渡した。

 中に入っているのは割引シールの貼られたハンバーグ弁当と、気休め程度の野菜ジュース。

 あとは、帰り道に小腹を満たすためのおにぎりだ。

 

 

「 おっ!? マジで!? ひゃっほ〜! 」

 

 嬉しさのあまり、焚き火の前で軽快なステップを披露するぺーにょの姿は、まるで修学旅行のキャンプファイアーで盛り上がる学生とほぼ変わらない。

 

 そんな純粋な彼を見て、キャロメルはそもそも二人の現状に至った人生背景が気にはなったが、深入りをする気はなかった。普通に疲れているからだ。

 

 

「 いいのか!? 本当に!? 」

「 あぁ……多分俺、このまま家着いたらどうせすぐ寝そうだし、あげる。……あと夏だから今日中に食べろよ? 」

 

「 サルサ! 中見てみよーぜ! 」

「 ……ぁ、おにぎり…… 」

「 聞いてる? 」

 

 そんな二人が食糧を物色している間に、キャロメルが鞄の中からシワの入ったメモ帳を取り出し、最近インクの出が悪いボールペンで走り書きを始めた。

 

 

「 ここ、軍粮精病院 」

 

 書き終わった後、そのメモ用紙をぺーにょに向けてトントンと指差した場所には、名前と電話番号と住所が記載されていた。

 スマホ持ってなさそうという勝手な偏見でメモ用紙を渡した彼の行動は、果たして正解か不正解か疑問が残るところなのだが。

 

 

「 ここの院長は俺の知り合いがやってるから、何かあったら俺の名前使って頼れよ 」

 

「 マジで!? って、あー…… 」

「 ん?どうした? 」

 

「 ……漢字読めねえ! 」

「 あー!もうっ!! 」

 

 渡そうとしたメモ紙を引っ込めて、手早く平仮名で書き出したまま補足としてスマホの地図アプリを参考に順路も描き始めた。

 

 将来の医者の卵として、彼らの助けになることに気持ちを綻ばせながら、最寄駅からの道案内を書いている途中、不意にある言葉が脳裏に差し込んだ。

 

 

 

 

 

『 中途半端な施しはやめろ。却ってその者たちを期待させ、苦しめるぞ 』

 

 

 

 

 

 父の声だ。

 

 医師である父が、かつてそう語っていた。

 

 

 正論だ。

 ただ正論だけの父との心の距離は、納得出来ないと喧嘩してからずっと離れたままだ。

 

 その言葉に至るまでの現実に、父は何度も困難にぶつかってきたのかもしれない。だがキャロメルには、その言葉の意味を未だ飲み込めずにいた。

 

 

「 ……何やってんだろ、俺 」

 

 図面を描いていた手が思わず止まる。

 深夜と疲労も相まって、思考の渦が深森の暗闇の如く光の無い方向へ流れ込んでいく。

 

 ビクリと小さく、嫌な事を思い出した時に一瞬全身が硬直するような感覚に襲われた。

 

 どうせこの出会いも今日限りかもしれない。

 このホームレスの双子だって、初めて会ったとはいえ場所を転々としている可能性もあるのだ。

 

 

 では、この行為は一体誰のためだ?

 

 

 少し喜んでもらえるだけで、根本的な問題の解決になりそうにないのに、まるで承認欲求のためだけに彼らを利用している様な罪悪感がキャロメルの中に重くのし掛かる。

 

 

 それでもと、重くなった思考に蓋をするように、キャロメルは無理やりメモを書き上げ、目線を下げてぺーにょに気付かれない程度に手を震え抑えながらメモ紙を渡した。

 

 

「 ほら、出来たぞ。あと流石にそろそろ帰る。警備員とかに捕まるんじゃねーぞ 」

 

 メモ紙を渡した後、もうこれ以上彼等に要はない。

 

 

 

 

 

「 じゃあな 」

 

 

 

 

 

 焚き火の前から背負い鞄を持ってキャロメルは立ち上がった。

 また、彼の声も最初のような覇気のない雰囲気に包まれている。何よりいつも被っている鍔のある帽子のおかげで目元の様子は全くわからない。

 

 先程、ぺーにょ達二人に教えた病院の場所は、徒歩だとはっきり言ってかなり遠い。

 何せ最低でも数駅以上離れた場所である。

 

 それでも、教えないよりかはというお節介な気持ちではあったが、何故こんなに遠いのだと嫌な反応もされるのでは無いかと心のどこかで怯えていた。

 

 

 故に彼らの顔を見たくない、見られない。

 

 

 期待させておいてあまり有意義な事が出来ない自分と、承認欲求として彼らを利用した事を認めたくなかったのだ。

 

 認めたくなかった、はずなのに———

 

 

 

 

 

「 おーい!キャロメル〜! 」

 

 

 

 

 

 自然公園の出入り口から出ていく時、歩みを止めてわずかに振り返る。

 視界の隅でようやく少し見えるくらいの、小さな身じろぎだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「 アンタ最高なヤツだな!ありがとな〜!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

「 …………フッ 」

 

 

 夜風は止まり、森のさざめきは鳴りを潜めている。

 

 そんなキャロメルの耳に確かに届いたのは、照れも迷いもない真っ直ぐな声だった。

 気になっていた目元の隈も溶けていくような、純真の温かさ。

 

 

 

 キャロメルは振り返らず片手を挙げ、離れた彼らに見えるよう手を振った。

 

 少々格好つけた去り方だが、中々に様になっている。

 そんな自己満足も今回ばかりは浮き足が立つ程とても心地が良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ハンバーグ弁当とおにぎりと野菜ジュース…… 」

 

 

 

 

 

 

「 これで5日はいけるな! 」

「 うん! 」

 

 

 最後の最後にそんな声が聞こえて思わず、“絶対に何かをやらかしそう”、“医学生として食中毒の可能性は見逃せない”と結局咄嗟に振り返って大声で叫んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 今日中に食えって言ってんだろ!このおバカァーッ!! 」

 

 

 

 

 

 Fin




〈 後書き 〉

【ロイ・キャロメル】
・俺 / お前 / お前ら / 22歳
・医学生小児科志望 終電帰りの一人暮らし
・日々の疲労から隈や人相が少し暗い
・人の悪口を言わず、また強い言葉を嫌う。『おバカーッ!』と言ったのも彼にとっては全力の罵倒のつもりだった。
・いつか優しさと甘さを間違える日が来る。
・でも今日だけは底抜けの明るさに救われた日だった。

〈 Special thanks! 〉
【原作&挿絵提供者 @metyakaraiyo】

【挿絵表示】

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