ようこそ開拓者がいる教室へ 作:アイボウ
祝勝会が終わった直後、オレは彼女に話がしたいとメッセージを送った。するとチャイムが鳴る。待たせる訳にはいかないと駆け足気味にドアを開ける。
「さっきぶりだね、綾小路」
「すまないな、開道」
オレが呼び寄せたのは開道である。開道は祝勝会に参加していた1人だ。取り合えず、部屋へと招く。開道は丁寧に上がっていった。オレらは座った。
「それで呼び出した理由はなに?」
「今回の出来事を振り返ろうと思うんだ。それも期間は開くが定期的にやろうと思ってる」
「反省会って奴だね。でも、なんで私を呼んだの?」
開道は不思議そうに顔を横に傾ける。前から思っていたが、可愛いな。開道は自覚があるか分からないが美人だ。オレは開道のことを見つめる。
「綾小路?」
「あっ、すまない。呼んだ理由だったな」
ついまじまじと見ていたが、開道の言葉で我に返る。オレは開道をこの反省会に呼んだ理由を打ち明ける。
「オレ一人だと、オレだけの主観で考えが纏まってしまう可能性がある。だから開道を呼んで、違う視点や考えを聞きたかった」
「そうなんだ。必ず違うとは言えないけど、良いの?」
「構わない。オレは、開道だから呼んだんだ」
「結構綾小路って大胆だね……」
オレに鈍感系主人公のような特徴は無い。だから小声でも多少聞くことが出来る。試しに聞いてみるか。
「なんか言ったか?」
「大胆だねって思っただけだよぉ」
開道は正直に答えてくれるか。まぁ、開道らしいな。
「じゃあ、そろそろ語るか」
「そうだね」
オレと開道は今日までの出来事を振り返る。
「入学して1ヶ月間のことは語らなくても分かるだろう。全部を振り返っていると時間が無くなる」
「あの頃は本当に酷かったと思うよ。自由というより無法地帯って言葉が合ってたかも」
開道の言う通りだろう。あれは自由ではないと今でははっきりとわかる。
「須藤が平田の言うことを聞かずに教室を出た時よりも、お前が須藤を追って教室を出た時は驚いたぞ」
「あの時動かなかったら、須藤はクラス中に見限られるんじゃないかなって思ってね。行動せずにはいられなかった」
「まぁ、開道ならそうするよなって納得するオレがいる。バスケで勝負したんだったな」
「私有利のルールでね。須藤は本当に凄かったよ。1点入れるだけでも1時間は掛かった」
開道のおかげで須藤は勉強をするようになった。それは開道と共にオレも教えていたから分かる。あと、須藤に教えることで、人にどう教えることが分かりやすいか学ぶことが出来た。
「……人を成長させるっていうのは、案外自分の為になるのかもしれないな」
「そうだね。そして、自分自身も成長出来たら良いよね」
「ふっ、そうだな」
オレが成長か。自分で気付いていないだけで成長しているのかもしれない。成長と言えば――
「堀北も変わったな」
「うん。堀北が自らの意思で須藤に歩み寄ったり、謝罪したり、助けようとした。変わった、と思うよ」
「今でも堀北は嫌いか?」
「口にしないだけで許してるよ。でも、堀北もこれからじゃないかな」
「そうだな」
確かに今回は上手くいった。堀北も変わった筈だ。しかし、ずっとこのままでいれるほどこの学校は甘くはないだろう。
オレと開道は語り合うのだった。
「話はこのくらいかな?」
「そうだな、大体話せた」
オレと開道の話は終わる。反省会はここまでで良いだろう。そうだ、まだ答えはないだろうが開道にここに来た理由を聞いてみよう。
「開道、最後に聞かせてくれ。お前がここに来た理由はなんだ?」
開道はちょっとだけ悲しい雰囲気を出す。も、もしかして聞いてはいけなかったか? オレは答えたくないならと口を動かそうとする。その前に開道が口を開いた。
「私、記憶喪失なんだ」
口が動かなかった。記憶喪失? 開道が?
「話をしていると全然そんな風には思えないな。幼い頃に水泳を習っていたと言ってなかったか?」
「それはお母さんから言われたことなんだ。だから、実際どうなのかは分からないけど、信じているんだ」
「……そうなのか、すまない。悪いことを聞いた」
「ううん。むしろ聞いて欲しいかも。……駄目?」
「オレで良ければ聞くぞ」
オレから質問したことだからな。責任をもって聞くつもりだ。
「ありがとう。……私、中学生になる前の記憶が一切無いんだ。何処の小学校、幼稚園に入っていたのか。どんな生活を送っていたのかすら分からない。幸いだったのは家族が記憶喪失の私を受け入れてくれたことかな。だから中学では不自由なく過ごせたんだ」
「そうなのか……」
どんな言葉を掛けるべきか分からない。開道は素直に答えているだけだが、聞いているオレは身勝手ながら重い話だと受け止めていた。
「それで私がここに来た理由は、未来に向かって歩く為かな」
「未来に向かって……」
「青春っていうのを味わってみたい。甘いか苦いか分からない恋もしてみたい。そして、未来に向かって歩いていく為の力を付けたいんだ」
「そうか。……きっと青春や恋も味わえる筈だ。未来に歩んでいける力も、付けるさ」
オレにしては不確定なことを言っていると思う。多分、開道に情があるのだろう。
「何言ってるの綾小路。少なくとも青春は一緒に味わいたいと思ってるよ」
「えっ?」
「私一人だけ満足するのはつまらない。せめて、私の友達は青春を味わって欲しいよ」
「……全く、敵わないな」
本当に、開道には敵わない。
「なら、これからも友達としてよろしく頼む」
「うん、綾小路もよろしくね!」
開道の秘密と理想を知る。それでもオレと開道の友達という関係は変わらないだろう。今はそれで良いと思える自分がいるのだった。
嘘つくことを認めるんですが、次、開道視点から話が始まります。