IS~インフィニット・ストラトス~死神の黒兎   作:曾良

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これはにじファンの方で掲載させていただいた作品に加筆修正を加えたものです。




プロローグ

 冬の寒い風が肌に沁み、雪の冷たさもあるせいかより一層寒く感じさせる。雪の上を歩くたびにギュギュという音がやけにうるさい。上を見ると太陽の光を雲が遮断し、純白の雪が空から降り注いでいる。クリスマスが近いせいか、辺りには人がチラホラ見えていた。賑わっているというほどではないが、小さな田舎の商店街にしては多い方だろう。

「やだ、あの子………」

 一人の年増の女性がそう言いながら指をさしている方には、雪の白とは真逆の漆黒の髪、服はボロボロの布一枚という恰好をした少年が居た。見た目からまだ4~5歳だろうと思われる少年は、路上に座り込むと降り積もっている雪を手で掴み口に入れている。その光景を周りの大人たちは見て見ぬふりをし、通り過ぎていく。触らぬ神に祟り無し、誰も厄介ごとに関わりたくないのだろう、話しかけるどころか少年を避けるように歩いていていた。

 少年はそんなことを気にしてないのか、雪を只管食べ続ける。飢えを凌ぐうえで仕方ないことだとはいえ、何の味もせず、只冷たいだけの雪を食べ続けることは通常の人間には苦痛のはずだ。なのに、少年は食べ続けている。無感動に、貪るように。

 そんな少年を唯一一人だけ、避けずに見ている少女がいた。

「雪……おいしいの?」

 

その問いに少年は静かに頷く、すると少女は好奇心からか少年と同じように雪を一口食べる。

当然、おいしいとはいえる代物ではない。少女は顔を歪め、不味そうに雪を吐き出す。

 

「まず~い、なにこれ……よくこんなもの食べられるね?」

 

 

だが、少年は少女の問いに答えずに無言のまま。

「こんなものより……これ、あげるよ」

 

 少女の手に握られていたのは一粒の飴。それを興味深そうに見ている少年に差し出すと少年は驚いたような表情で少女を見る。

 

「………いいの?」

「うん!」

 

 恐る恐る飴玉を少女の手から取ると、口に入れた。すると、今まで無表情だった少年の表情は一変して、笑顔に変わり美味しそうに飴玉を舐め続ける。

 

「君……一人?」

 

 少年は小さく頷き、少女から顔を背ける。それを見ていた少女は屈託のない笑みを浮かべ、飴玉を嬉しそうになめ続ける少年に告げる。

 

「私とあっちに行かない? 楽しいよ?」

 

 少年の有無を聞かずに少女は引っ張って連れて行こうとする。少年は飴が美味しいのか未だ笑顔で顔を歪めたままだ。飴玉を咥え笑顔の少年と、その少年を引きずりながら走り回っている少女。不思議な雰囲気を醸し出す二人は真冬の空の下で出会った。

 

 

 

     ***

 

 

『アリサちゃん、準備はいいかい?』

 

 目の前に表示されているモニター映像に映る金髪の男はそういった。名を江波・アルバ・フォードといい、すらりと長い長躯の身体と幼さの残る顔が特徴の青年だ。

 微笑みを浮かべる江波の問いにアリサはそれとは正反対の冷たい笑みを浮かべながら答えた。

 

「準備など、とっくに終わってる」

 

 大きく首を回す。長い時間同じ態勢でいる所為か節々の関節が音をたてた。深呼吸を五回ほど繰り返し、呼吸を整える。目を瞑り、神経を研ぎ澄ませ意識を集中させる。

 漆黒に染まる夜空を一人、高速で落ちていく彼女の目前には煌々と輝く街の情景が広がっていた。だが、彼女の目指す場所はそこではない。煌々とする街から少し離れた浜辺に隣接する施設群。大きな長方形の建物がいくつも並び、その中にドーム型の施設もいくつか見受けられる。アメリカ軍が所有する研究施設、通称『フロント』それが眼下に広がるこの施設群の名前である。

 瞑っていた目を開き、目標をその視界にとらえる。眩しく光り輝く街とは違い、室内から漏れる微かな光が唯一辺りを照らしているだけの『フロント』はその暗さも相まってか不気味だった。落下速度を調整し緩やかに落ちていくアリサは、それ見ると小さくだがため息を漏らした。

「くだらないな」

 

 そう彼女が言ったのとほぼ同時に先程まで江波が映し出されていたモニターに見覚えのある「うさみみ」がこちらを覗き込んだ。「うさみみ」は何故かピクピクと小刻みに動き、やがて止まった。そして、次に現れたのは「動くうさみみ」よりももっと珍妙な女性だった。青いワンピースに白いエプロン、頭にはうさみみの形をしたカチューシャという独特なファンションはまるで「不思議の国のアリス」を一人で表現したような、滑稽な姿だ。もちろん彼女からしてみればれっきとしたお洒落なのだが、アリサはどうしてもそれが理解できなかった。それを初めて見た時、馬鹿なのかと思いもしたが今となっては指摘を入れるのも億劫になっていた。

 

 画面いっぱいに映し出された女性の顔は「いつも」のように笑っていた。

 

『あーちゃん、どう?』

「どうって、何がだ」

 

 不機嫌気味に答えるアリサに女性は「ごめんごめん」と軽く謝罪し、

 

『そこから見える景色のことだよ。綺麗でしょ?』

「知るか。暗くてよく見えん」

『そこはね景色がすごいんだよー? 高台から見る海が絶景で夕暮れともなると夕日がきれいで幻想的なんだ~』

「見たことあるのか?」

 

 アリサが何気なく返した言葉に画面越しにこちらを見ている篠ノ之束は、顔を綻ばせながら答えた。

 

『前にね、くーくんとね……えへへ……』

 

 その時のことを思い出しているのだろうか。モニターに映し出される束は幸せそうな笑みを浮かべながら、体を右へ左へと動かしている。そんな束を一瞥すると、アリサは今度こそ彼女たちとの通信を終えた。

 束はどうやら彼との思い出話になるとにやけてしまう癖があるらしく、アリサはそれが嫌いだった。彼女の中にある「彼」との思い出を聞かされるたびにぶつけようのない苛立ちと、なんともいえない切なさがこみ上げてくる。自分でもこの感情の「正体」はなんなのか分かっている。「彼」の話を幸せそうに話す彼女に対して感じる胸苦しさが、なんなのかを……。

 

「……感傷に浸ってる場合じゃないな」

 

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。アリサはすぐにその考えを頭から振り払った。

 ――――――今やるべきことに集中しろ……。

 そう自分に言い聞かせ、また静かに重力に身を任せた時、ISのハイパーセンサーがけたたましい警告音を鳴らし始めた。

 

「ちっ……もう気付かれたか」

 

 落下の勢いそのまま空中で転がるように横に移動すると、その数秒遅れで先ほどまでアリサがいた場所をエネルギーの熱線が通過した。熱線の余波で少しだけシールドエネルギーを削られてしまったものの、熱線そのものを避けることは容易そうだった。

 

「約……一、二…………対IS用レーザー機銃が十門か」

 

 暗闇の中で閃く場所と数を瞬時に把握するとアリサはすぐに迎撃態勢に移行した。ISには武器を量子化して保存できる特殊な領域が存在し、操縦者の任意のタイミングで呼び出すことができる。

 アリサの右手に集まる光の粒、量子化された武器は徐々にその姿を現していく。通常の拳銃の数倍はある巨大な銃身をもつ大型狙撃銃『PGM ヘカートII』を呼び出したアリサは通常地上で「銃口制退器(マズルブレーキ)」を装着し使用されるそれを空中で、落下しながらという態勢で構えた。

 

 『PGM ヘカートII』は通称「アンチマテリアルライフル」とも呼ばれる大型のボルトアクション対物ライフルだ。これは本来射撃を正確に行うため前方に二脚、後方に一脚と反動軽減のために高効率の「銃口制退器(マズルブレーキ)」と呼ばれるモノを装着した状態で長距離での破壊射撃、嫌がらせ射撃などに用いれる武器だ。

 普通だとそれを持ち上げるだけでも女性にとってはかなりの重労働だが、ISを纏っているアリサには少し重い程度の感覚もない。スコープを覗き機銃の位置を再度確認し、引き金に指を当てた。落下しながらという不安定な態勢で対物ライフルを正確に操ることは難しいことこの上なかった。

 

 それから数十秒後、アリサは引き金を引いた。

 

 耳を劈くような轟音が夜空に響き渡り、少し遅れて地上から爆発音が聞こえてきた。恐らく機銃の一つが先程の射撃により爆散したのだろう。

 それを確認するよりも早く、アリサは手慣れた手つきでボルトを後方に引き薬莢を排出、弾薬を薬室に装填させる。この一連の作業がボルトアクション式の狙撃銃の特徴であり、欠点の一つでもあった。ボルトアクション式の狙撃銃はセミオートの狙撃銃と違い次弾装填までに時間がかかり、連続での射撃ができない。だが、アリサは「それがいいのじゃないか!」という理由からボルトアクション式を使用している。

 次弾を装填し終えるともう一度スコープを覗き込んだ。微かに施設から漏れている光と月明かりを頼りに敵の位置を確認すると、再び引き金を引く。へカートⅡの轟音が空気を震わせ、発射された弾丸が無機質な鉄の塊を穿つ。なおも執拗に迫るレーザーをかわし、再度次弾を装填する。

 二度目の装填を終えると今度は視界の端に先程まで束が映し出されていたモニターが現れた。モニターの奥にいたのは江波だった。

 

「なんだ、今忙しいんだが」

 

 そのあまりにも素っ気ない返答に江波は苦笑いを浮かべた。

 

『相変わらず酷いなぁアリサちゃんは……まっ、いつものことだから気にはしないけど』

 

 彼が今のように冷たい言葉を浴びせられるのはこれが初めてではない。アリサに冷たくあしらわれたといって、一々気にしていたらきりがない。彼女と会話する際は今の江波のように軽く受け流す方が正しい対処方法なのだ。

 視界の端に映し出されている江波を一瞥し、アリサはへカートⅡの引き金に右手の人差し指をかける。すぐ真下に位置する場所にあるターゲットに狙いを定め、呼吸を整えるように息を大きく吸い、吐き出す。神経を指先に集中させ、一瞬だけ見せるターゲットの隙を見逃さず指を手前に引いた――――――。

 

『そういえば玄兎(くろと)とはうまくいってるの?』

「ぶっ!」

 

 江波の唐突な一言に思わず吹き出してしまった。それにより手元が狂いへカートⅡの弾丸はターゲットよりも数メートル横に着弾した。

 

「な、何を突然言い出すかと思えば……!」

『何って、ただ僕は気になっただけだよ。で……どうなの?』

「どうなのって……どういう意味だ」

 

 仏頂面で訊いてくるアリサに江波は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、

 

『デートに誘えたの、って意味だけど?』

 

 再び虚空に響く鈍い轟音。

 

『だ、大丈夫?』

「貴様が余計なことを言うからだ」

『だからって、墜落はしないと思うよ?』

「うるさい。黙れ、撃つぞ」

 

 鋭い視線が画面奥の江波に突き刺さる。画面越しにでも感じる取ることができる殺意に江波は冷や汗をかいた。彼女ならやりかねない、実際半年前に一度アリサに「撃つぞ」と言われた時は実弾が装填された拳銃を向けられたこともあった。その時はなんとか間一髪危機を脱したのだが、あれがもう一度となると到底無事でいられるとは思えない。

 

『あー、ごほん。本題に入るね』

 

 これ以上は自分の身が危ないと察した江波は話題をすぐに切り替えた。

 

『アリサちゃんの方は無事に着いたし、これで後は玄兎(くろと)からの連絡待ちだけど……どうする?』

「ふん、彼奴に心配は無用さ………………それよりこっちの方が深刻だろう?」

 

 自分を囲むように現れる機械の群れを見ながら、アリサは呆れるように肩を竦めた。再びへカートⅡを構え、そのずっしりとした重さを感じながら引き金に指をかける。がISを展開している状態では多少重いモノでも軽々と持ち上げてしまうため、へカートⅡのような大口径の銃を持っても重いとは感じない。

 

 だが、アリサは確かに感じる、これの重みを。

 

 感じるはずのない重さを握りしめ、アリサは引き金を絞った。

 

     ***

『そこを……右、ってそっちは左だよ!』

「え……あ、ああ。すまんすまん、間違った」

 

 携帯型通信端末により空中投影されているディスプレイからのとぶ檄に明らかに反省の色が見られない謝罪をすると、左右に分かれていたT字型の通路を左ではなく右に進んだ。無事に右へと進むと、ディスプレイから安堵のため息が聞こえてきた。

 

『一体今ので何回目なんだろうね……玄兎(くろと)が道を間違った回数』

 

 呆れ顔でそういう少女――――ナギは、黒光りする髪を弄りながら指を順に折っていく。

 

「……五回ぐらいじゃなかったか?」

『違うよ。最低でも十回以上は道間違ってるから……あ、そこ右ね』

 

 玄兎が数秒の思考の末出した結論は少女によってあっさりと否定された。ナギの指示通り右に曲がり、暗い通路を奥へ奥へと進んでいく。暗い通路を照らすのは申し訳程度に光るオレンジ色の照明だけ。弱弱しい光を放つ照明は時折その灯が消え、一時を置きまた点いたりしている。

 

「あれ……行き止まりか?」

 

 壁伝いに進んでいくと大きな壁が行く手を塞いでいた。

 

『さっき確認した地図だとそんな壁ないはずだけど……シャッターか何かかな?』

「……ふむ。なるほどな、さっきあんだけ馬鹿うるさい警報鳴ってからあり得ない話じゃないな」

 

 玄兎がここフロント内部に潜入してすぐ、フロントの警備セキュリティーに引っかかり先程まで無人捕縛ロボットに追いかけまわされていた。その時、この施設内ではけたたましい警報音が鳴り響いていたのを思い出し、玄兎は頭を掻いた。これはまた彼奴に怒られるな、と思うといっそのことこの場から逃げ去りたいという気持ちが湧き上がってくる。

 

 湧き上がりかけた逃亡という二文字を頭から振り払い、玄兎はもう一度目の前にある壁を見た。

 見るからに分厚そうな鉄の壁はちょっとやそっとの衝撃ではびくともしないだろうと思わせる威厳を放っている。さすがは最新鋭などと呟きながら玄兎はディスプレイの奥で忙しくキーボードを叩いているナギに軽い口調で言った。

 

「うんじゃ、頼んだな」

『言われずとも、やってるって――――――――はい、終わったよ』

 

 ナギが最後のキーを軽くタッチすると、小さい機械音と共に鉄の扉が開いた。

 

「さっすがはナギ。お見事」

『はいはい、ありがと……って、玄兎(くろと)! 後ろ後ろ!』

「後ろ……?」

 

 何気なく後ろを振り向いた玄兎はそこにいたモノを見て、思わず後ずさりした。そこにいたのは無人捕縛ロボだった。丸みを帯びた銀色のボディーにそこからのビル細長い腕、闇に浮かぶ赤い瞳が玄兎を凝視する。

 

 ――――――シンニュウシャ、ハッケン。ホバク、シマス。

 

 無機質な声が辺りに木霊し、それと同時にけたたましい警報音がロボから発せられる。

 

「やばいよね……これ」

 

 玄兎が小声でそう呟いた。無人捕縛ロボが警報音を発するのは侵入者の位置を他のロボに知らせ、四方八方から侵入者を追い詰めるようにするためだ。フロントに侵入して早々、無人捕縛ロボに追いかけられた玄兎はこれから逃げるのに相当苦労した――――玄兎が迷子になった理由の一旦でもある。

 後ずさりしながら相手の出方を窺う。捕縛ロボは未だ離れた位置で警報音を鳴り響かせ、細長い腕をくねくねと上下させているだけで目立った行動はまだない。

 

「これは逃げた方がいいのかね……」

『そうだね。逃げないとたぶん…………あれに蜂の巣にされると思う』

 

 ナギがディスプレイ越しに指差した方向には細長い腕にどこからか取り出したサブマシンガンを装備した捕縛ロボがいた。サブマシンガンの銃口がゆっくりと玄兎に向けられる。そして間髪を容れず発砲。

 

「撃ってきやがった……!」

 

 咄嗟に横の部屋の扉を開けそれを盾に銃弾を防ぎながら、護身用として携帯していたコルト・パイソンを腰のホルスターから抜いた。銃声が鳴り止むのと同時に玄兎は扉の陰から飛び出し、捕縛ロボに向かってコルト・パイソンの引き金を絞った。勢いよく撃ちだされた弾丸は捕縛ロボの片目を貫き、大きく捕縛ロボを後退させる。

 

『ううっ……機械越しでもやっぱりうるさいね』

 

 耳を手でふさぎ顔を顰めているナギを横目で見ながら、玄兎は再度パイソンの引き金を絞った。射撃の反動で腕が跳ね上がるが、捕縛ロボに一直線の弾道を描きながら.357マグナム弾が捕縛ロボを穿つ。だが、二発の弾丸を撃ち込まれながらもなおも抵抗の意を示す捕縛ロボに、玄兎は肩をすくめた。

 

「機械ながらあっぱれだな。開発者の性格が垣間見えるよ……まったく」

 

 捕縛ロボの人間でいうちょうど眉間に当たる部分にパイソンの照準を合わせ、引き金に指を当てた。

 

 自身の半分ほどの高さしかないロボを見下ろしながら、

 

「面倒くせぇな」

 

 間もなく、.357マグナム弾が無人捕獲ロボの眉間を貫いた。

 

    * * *

 

「これで…………ラスト!」

 

 へカートⅡが小さな火炎を迸らせる。直後、轟音と共に最後の機銃が爆ぜた。

 ふぅ、と息を吐きへカートⅡを肩に担いだ。

 

「疲れるな……これ」

『お疲れさま、アリサちゃん』

「それであのバカはどこにいるんだ?」

 

 バカという単語に江波は苦笑しながら、

 

『玄兎なら……あ、ほらあそこだよ』

 

 江波が画面越しに指差した方向を見ると、薄暗い地上で小さな人影がこちらに向かって必死に手を振っていた。

 

「おーい、こっちこっち!」

 

 50メートル上空にいてもはっきりと聞こえるほどの透き通った声、艶のある黒髪は短い。その人物の名は赤神玄兎(あかがみくろと)といい、本人曰くアリサと江波の上司らしい。アリサはそうは思ってないが本人が頑なに「俺はお前の上司だ」と言い張っているので、今は仕方なく妥協している。

 アリサがへカートⅡを担いだまま、降りていくと満面の笑みを浮かべた玄兎がそれを出迎えた。

 

「いやー助かった助かった。ここあんまり広いからさ、迷子になってたんだよ」

「馬鹿か貴様は……」

「いやさ、中に入ったらいきなりロボットに追いかけられてさ……。まったく今回の仕事は大変だったよ」

「…………まぁ、いいか。で、貴様はちゃんと仕事をしてきたのだろうな?」

「そこんとこは大丈夫。キッチリと仕事してきたよ――――ほらっ」

 

 玄兎は腰のホルスターからコルト・パイソンを抜き、それをアリサの手に乗せた。玄兎が護身用に携帯していたこれは元々、アリサが趣味で集めていたもので今回の仕事にあたって玄兎がアリサに許可を得て拝借していたものだ。

 

 アリサは玄兎から受け取ったパイソンを眺めながら、

 

「ふん、傷つけてないだろうな?」

「ドントウォーリー。三発ぐらい撃っただけだから、傷一つついてないよ」

『何故、英語……』

 

 ディスプレイに映し出されているナギが困惑気味でそう呟いた。

 

「さてと、依頼された物も無事にとってきたし。さっさと帰りますか。あー腹減った」

 

 そう言って玄兎は踵を返す。この男は性懲りもなくまた施設内を通って帰ろうというのか。アリサとナギは同時にため息を漏らした。中にはまだ警備ロボがうようよいるというのに、彼はそれをどうやって、切り抜けるつもりなのだろう。

 しかし、彼女らのそんな疑問はすぐに氷解する。玄兎が屋上の出入り口付近でいきなり、振り返って言った一言によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえばどうやって帰るの?」

 

「分からんなら、先導するな……っ!」

 

 

 




お久しぶりの方はお久しぶりです、初めての方は初めまして……曾良と申します。
IS~インフィニット・ストラトス~死神の黒兎を読んでいただきありがとうございます。

次回の黒ウサギもよろしくお願いします!

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