IS~インフィニット・ストラトス~死神の黒兎   作:曾良

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八月も後半、みなさんはどのようにお過ごしでしょうか。私は…………色々なことに追われる日々です。いえ、それはもういろんなのに……。

ということで、約三か月ぶりの投稿です。はい、(/・ω・)/


ということで、第七話をどうぞ!


第七話 教師と女と紛う顔

「なるほど。だから、こんな大量の書類を持ってたのね」

 

 楯無が納得したように頷いた。時刻はすでに五時を回っている。校内からは午前中のような喧騒は聞こえてこず、異様なまでに静かだ。特に生徒会室があるこの階は文化部が使う教室がこれといってないため、それが顕著であった。

 

「それ今日中に提出だからさ、お前が手伝ってくれるとすごい助かるんだが」

 

 楯無の手作り弁当を頬張りながら、玄兎は楯無を見た。楯無は逡巡していた。いくら幼馴染の頼みとはいえ、こればかりは考えてしまう。この書類の処理は確実と言っていいほど面倒な作業だ。しかも、今回は楯無にとってなんの見返りも得もないのだ。これで迷うなというほうが無理がある。

 

 だが、楯無もそこまで鬼ではなかった。面倒とはいえ、古い幼馴染の頼みだ。それを無碍にするつもりは、彼女にもなかった。

 

「そんなことなら、この楯無お姉さんに任せなさい。勿論、あとでお礼はたっぷりとしてもらうけど、今日中ぐらいには終わらせてあげるわ」

 

「おお、サンキュー」

 

 厚焼き玉子を口に運びながら、玄兎は言った。

 

「にしても、お前料理の腕上げたなぁ。どのおかずもうめぇよ」

 

 依然として料理を食べる手を休めず、玄兎は感心したように言う。どれも味付けがきちんとしていて、癖がない。から揚げも下味がしっかりとついており、美味だ。それに弁当全体の栄養バランスも考えてある。玄兎が食べ盛りであるのことも考慮してか量も多めだ。玄兎としてはかなり満足する出来栄えであった。

 

 そんな本音を包み隠さず素直に料理の感想を述べた玄兎に楯無は、

 

「そ、そう……。こちらとしても作ったかいがあったというものね」

 

 少し照れくさそうに彼から視線を逸らした。

 

「ところで織斑先生から渡された書類って、いったいなんの書類なの?」

「そればっかは俺にもさっぱりなんだ。入学に必要な書類は提出したし、専用機に関するやつも書い

たんだよなぁ」

 

 つい先日の事のように思い出すのは、あの地獄の日々だ。朝から晩まで似たような書類を何度も何度も書かなければならなかったあの時のことは、長らく忘れることはできないであろう。そんなことだから、その書類の内容も大雑把にだが記憶に残っていた。確かにあの中には入学に必要な書類も、専用機に関する書類も入っていたはずである。いまさら追加で書かなければいけないことなど、ほかに何があるのだろうか。

 

「入寮願書……え?」

 

 玄兎が昼休みに秋庭からもらい、あの膨大な量の書類を入れていた紙袋から書類を取り出した楯無が、呆然とした表情で固まっていた。どうしたのだろう、と玄兎が彼女が持つ書類を覗き込むと、そこには「入寮願書」という文字が書かれていた。

 

「なるほど、寮の関係か。そういえば、ここ全寮制とかいってたっけ」

 

 入学前の楯無の説明を思い出す。あの時確か楯無は、この学園に所属する生徒は無条件で寮生活をしなければならない、と言っていた。それは世界で二人しかいない男子生徒であっても例外ではない。「ねぇ、なんで入寮願書なんてものがあるのかしら?」楯無が不意にそう呟いた。玄兎はわけのわからないと言いたげな瞳で、

 

「寮に入るからだろ?」

 

 と純真無垢な答えを口にした。確かに、そうなのだが楯無が言いたいのはそういうことではないのだ。彼女の言いたいのは、ここIS学園は全校生徒が〝無条件で寮に入らなければならない〟という規則があるにも関わらず、なぜ千冬は彼に入寮願書なるものを渡したのか、ということだった。無条件で、ということは言い方を変えれば強制的に、ということである。ここの生徒である限り、寮以外で生活をすることは〝許されない〟ということと同義なのだ。つまり、ここに入学が確定した時点でその生徒の入寮は確定しているはずである。特例ではあるが玄兎も一応、ここの生徒だ。入寮はとっくの昔に確定しているはずだった。だが、入寮願書がここにあるということは、玄兎はまだ入寮が確定していないということなのだろう。願書というのは、つまり入るか入らないかを聞くためのものだ。無条件で入らなければならないのなら、そんなことを聞く必要もないはずなのに、千冬はこれを玄兎に渡した。生徒会長で学園の事には一般生徒よりも詳しい楯無にとって、それは少々疑問に思うことであった。

 

 だが、そんな楯無の疑問を知る由もない玄兎は空になった弁当箱を片付けながら、

 

「とりあえず書くか。内容はどうであれ、適当に書いて出せばあの人も文句ねぇだろ」

 

 そう言って、楯無の手から書類を奪い取り、机の上に広げた。そして、願書に書いてある項目を次々に埋めていく。慣れた手つきである。ものの一分もしないうちに書き上げてしまった。とんでもない早さだ。

 

「って、これ今すぐ出さないといけなくないか? 入寮願書ってことは、これ出さなきゃ寮に入れないってことだよな?」

「ええ、そういうことになるわね」

 

 楯無はつっけんどんに答えた。こればかりは楯無もこれ以外に言うことができない。千冬の意図がまったく読めない以上、彼にこれ以上の助言をくれてやることは無理だ。

 玄兎は「そっか。じゃあ、次に行こうか」と言い、紙袋から次の書類を数枚取り出し、そのうちの何枚かを楯無に渡した。書け、ということなのだろう。

 

「じゃあ、がんばりますか」

 

 腕まくりするようなしぐさをした玄兎が、気合十分といった面持ちで書類にペンを走らせた。

 

 

 

「そう。だから、くろむーは会長と一緒にいたんだねー」

「あ、うん。てか、くろむーって呼ぶのね、俺の事」

「えへへ。おりむー、とくろむーってなんだか響き似てるよねー」

「おまえが似せたんだろうが」

 

 ずるずるとそばをすすりながら、玄兎は呆れ声で言った。場所は食堂である。現在の時刻は七時を半刻ほど過ぎたころで、ちょうど夕飯時だ。楯無と共同で作業をしていた書類処理は今より三十分ほど前に終わった。量にしては内容は軽薄で、さほど書くのに時間はかからなかった。逆に、そのあとに付き合わされた生徒会の書類のほうが時間を食ったくらいだ。

 

「にしても、ざるそば美味いなぁ。次々と食える……おかわりっと」

「まだ食べるんだねー……そんなに食べて太らない?」

 

 玄兎の隣に座り、楽しそうにうどんを食べている布仏本音が少しばかり羨ましそうな視線を向けながら言う。ぶかぶかな制服に間延びした喋り方が特徴的な彼女だが、その特徴故かどうも間抜けそうな印象を受ける。そのため、先の発言も玄兎には〝本気でそう思っている〟ようには見えなかった。どちからといえば、その場の雰囲気や流れといった〝ノリ〟で発言しているのではなかろうか、とさえ思えてくる。

 と、そんなクラスメートについて考察をしている片手間にも玄兎は次で七杯目となるざるそばを口に運んでいた。つい二時間ほど前に楯無の手作り弁当を平らげたばかりだが、食欲が人一倍強い玄兎にとってこれぐらいのことは比喩ではなく、朝飯前だ。

 

「はぁはぁ……なんとか間に合った」

 

 玄兎が十杯目のざるそばを完食し終えたころ、食堂の入口に猛烈な速度で突っ込んでくる人影があった。少しだけほっとしたような表情を浮かべている一夏だ。息をきれているところを見ると、かなりの速度で走ってきたようだが何かあったのだろうか。玄兎が頭の隅でそんな考えを浮かべていると、一夏もこちらの存在に気付いたようで「お、玄兎もいたのか」と歩み寄ってきた。

 

「おりむーどうしたの? そんなに焦って、何かあったー?」

 

 本音の言葉に一夏は困ったような表情で、

 

「色々と」

 

 とだけ言って、踵を返してしまった。どうやら夕食を注文しに行くようだが、気のせいか踵を返す際顔が赤かったようなにも見えた。本当に何があったのだろう。

 

「あれ、お前箒と一緒じゃなかったのか?」

 

 山盛りに置かれたそばの器を片付けながら、玄兎は何気なく思っていたことを口にした。箒の事だから当然一夏と一緒にいるとばかり思っていたが、彼の様子から察するにどうやらそうではないらしい。「喧嘩でもしたんか? あれは束に似て怒らせると、厄介な女だぞー」

 

「束さん? 玄兎、束さんと知り合いなのか?」

 

 夕食の焼き魚定食を持って玄兎たちの席へとやってきた一夏が、意外そうな顔で言った。「おう。あいつとはかれこれ二年以上の付き合いになるな。あれ、三年だったけか……?」と、いつのまに持ってきていたのか、食後のデザートであろう杏仁豆腐(三人前)を食べながら、玄兎は首をかしげた。はて、いつほどから彼女と一緒にいるのだろうか。考えたら、かなり長い時間一緒にいるような気もするが、正確にはと言われると玄兎としても答えに窮する。彼女と初めて出会った時のことは覚えている。が、どういうわけか玄兎には束とそれよりも前にも一緒にいた、というような感覚があるのだ。つまり、デジャブがある。一夏の何気ない問いかけで、それが玄兎に起こった。――――――あれ、昔こういうこと一夏に言われなかったけ?

 

「まぁ、とりあえず知り合いだ。うん」

 

 頭の中にはまだもやもやとしたものが残っているが、玄兎はそこで思考を止めた。それを今考えたところで、恐らくだが答えは出ないだろう。なら、今は目の前のことをやった方がいい。玄兎はそう考え、二杯目の杏仁豆腐へと手を伸ばした。

 

「それでそれで、おりむーはなんで喧嘩したのー?」

「あれ、のほほんさんいたの?」

「地味に酷いよー、それ!?」

 

 本音としては脱線しかけている話題を元に戻そうとしていただけで、このような反応は予想していなかったのだろう。本当にショックを受けたような表情を浮かべていた。

 そんな二人をよそに玄兎は黙々とデザートを食べ進めている。そして、最後の杏仁豆腐を食べ終えると、「ふぅ、食った」とため息を吐いた。

 

「うんで、喧嘩したのか? それとも他にあいつを怒らせるようなことでもしたのか?」

 

 一夏が箒を怒らせたということはすでに玄兎の中では前提としてあるらしい。

 

「…………なぁ、この話題やめないか」

 

 一夏が何やら困り顔でそう呟いた。どうやらこの話題は彼にとって触れられたくないものらしい。

 それを見た玄兎がやや面白なさげに、「ちぇー。せっかく、一夏君の弱み握れるとか思ったのによー」と唇を尖らせて言った。どうも玄兎との思惑としては、ここで一夏の弱みの一つや二つを握って、千冬への対抗手段としておきたかったらしい。世界で一番多く彼女と接している身内ならば、彼女の弱点ぐらい知っていると思ったのだろう。

 

「じゃあ、俺はこの辺で戻りますか。寮の部屋もどこか聞いてないし、鍵貰ってこねぇと」

 

 立ち上がり、空となった容器を返却口へと置くなり玄兎はそう言った。そういえば、今日提出だと言われていた書類をまだ生徒会室に置きっぱなしだったことを玄兎は思い出した。千冬に出すのは夕飯を食べてからでも遅くはないだろう、と思い生徒会室を出てくるときそのまま置いてきていたのだ。どうせなら、それを提出するついでに寮のことについても聞いておこう、と玄兎は少々早足に食堂を出た。

 

「あ、くろむー! 私も行くー」

 

 

    *    *    *

 

 生徒会室へは本音がいたおかげか、無事たどり着くことができた。極度の方向音痴というのは、こういう見知らぬ場所では邪魔でしかない。見知った土地でも時折迷子になる玄兎にとって、特にこの学園のように入り組んだ構造となっている建物は〝天敵〟なのだ。もしかすると、本音はそういった玄兎の〝特異性〟を楯無から聞いていたのかもしれない。

 

 しばらく、廊下を歩いていると奇妙な看板を見かけた。『情報売ります。買います』と書かれてある、プラスチック製の貧相な看板だ。その安っぽいつくりの看板と売り文句のせいか、とても怪しげな雰囲気を漂わせている。

 

「なんだ、これ」

 

 玄兎が訝しむような声音で呟いた。一見すると、単に情報を金で売買するだけの店とも思えなくはないのだが、場所が場所だけに違和感を拭いきれない。

 

 そんな玄兎を見た本音が何かしら事情を知っているようで「ああ、それはねー」と言った。

 

「神皇ちゃんがやってる、バイト……みたいなもの?」

「なんで疑問形なんだ。しかも、バイトって……」

「とりあえず、情報屋っていってたよー」

 

 情報屋か、と玄兎はしかめっ面で言った。情報屋と神皇という二つの言葉の組み合わせに妙な不安を覚えたのだ。玄兎はこの学園に来るまでは束たちと一緒に世界中を便利屋『紅い兎』として飛び回っていたのだが、その際に幾人もの人との出会いがあった。それは主に依頼人なのだが、中にはどこから噂を聞きつけてきたのか大会社の社長なんていう人もいたこともあった。そして、そんな依頼人の中でも特に玄兎の記憶に残っている人物が一人いる。黒いフードを目深く被った二十代の男性で、名を神谷といった。その男は話を聞くところによると、どうやら世界中のありとあらゆる情報を金で売買する商売しているらしく、いわゆるこの看板と同じ『情報屋』である。その時に依頼されたのは、仕事の手伝いをしてほしいという旨の内容だったことを玄兎はうすぼんやりと覚えている。その人物のことははっきりと覚えているにもかかわらず、その時に依頼された内容を覚えていないというのはいささかおかしな話だが、その後の出来事があまりにも衝撃的過ぎてしまったため、いまいちそのあたりのことは記憶が曖昧なのだ。

 

 話を戻す。依頼を承諾した後に起こった出来事については割愛するが、とりあえずその依頼を遂行した後の玄兎たちの惨状を表現するには悲惨という言葉が一番似合っていた。玄兎やそのほか『紅い兎』メンバーとしては、思い出したくない過去である。そして、そんな過去があったせいか玄兎は『情報屋』という職業に並々ならぬ苦手意識を持っていた。

 

 玄兎は依然として苦々しい表情で、「とりあえず、こんなのは無視して生徒会室に行こうぜ。あんまり遅くなると、織斑先生がうるさいから」と言った。正直なところ、これ以上この場にいるといらぬことに巻き込まれそうな気がする。

 

「にゃっ!?」

 

 足を踏み出した瞬間、玄兎は何かに足を取られ可愛い声を上げながらその場に倒れてしまった。

 

「だ、大丈夫ー……?」

「糸だ。細い糸がある……」

 

 床に倒れこんだままの玄兎が自分の足元を指さしながら呻くように言った。玄兎が指した方をよく

見てみると、彼の言う通り細いワイヤーのようなものがあった。目を凝らさなければ見えないような、細いものだ。

 

「なんでこんなものがここにー?」

「ちょっとした悪戯だよ。本音ちゃん」

 

 本音が何気なく口にした疑問は、思わぬところから現れた彼女によって答えをもたらされた。

 

「び、びっくりしたぁ。なんでそんなところから、出てくるのさー」と本音が抗議の声をあげるが、当の本人は悪びれた様子も見せず、

 

「びっくりさせてこその、悪戯なのだよ。本音ちゃん」

 

 と、笑顔で言ったのは〝IS学園の歩くニュース番組〟こと瀧岸神皇だ。本音の背後から顔をのぞかせている彼女は、倒れている玄兎を見ると満足そうな表情を浮かべた。自分の仕掛けた悪戯が予想通りに成功したことが嬉しいのであろう。その表情はまるで、他人を嘲笑するかのようにも、鼻で笑っているようにも見える。

 

「と、そんなことはいいってことで。こんなとこで何してんの? 二人とも」

「えーとね、今から生徒会室に行くとこなんだよー」

「あ、例の玄兎さんが渡されたっていう膨大な書類のこと? 織斑先生も酷なことするよね。入学初日から、あれだけの書類書かせるなんて」

 

 神皇が同情するように何度も頷く。「てか、なんでそのこと知ってんだ……?」と玄兎は相変わらず床に倒れこんだまま、疑問を口にした。なぜ、神皇が書類のことを知っているのか。あれを知っているのは、玄兎と楯無を除けば、職員室を出る際にばったり会った秋庭と書類を渡した張本人である千冬ぐらいのはずだ。

 

「うふふ……! 伊達に教師陣に隠れて『情報屋』なんて開いとりませんよ、私は」

 

 誇らしげに胸を張る。

 

「このぐらいの情報なら、速攻で仕入れることができますよ。あ、ちなみに今日の午後玄兎さんがお腹の減りすぎで倒れたことや、生徒会室で会長とふたりっきりで会長の手作り弁当を食べていたっていう情報も仕入れ済みですよ?」

 

「……お前、ますます〝神谷〟の野郎に似てきたな」

 

 

 呆れたように玄兎は半眼で神皇を見た。この少女は玄兎達『紅い兎』のメンバーが二度と依頼を受けたくないと言わしめた、あの神谷とどういうわけか顔見知りであった。そして、これまたどういうわけか彼女はその神谷を尊敬し、情報屋としての師匠としている。確かに、神谷は情報屋としてはかなり優秀で、その名は裏社会において知らぬ者はいないとすら言われているほどだ。すごいといえば、すごいのだろう。

 

 「情報を制す者が世界を制す」というのは神皇の口癖である。これは神谷の受け入りらしいが、この言葉を聞いた神皇はとても感心し、今のような『情報屋もどき』をするにまで至ったという。玄兎には何をどう聞けばそれが感心できるような言葉になるのか、甚だ疑問だったがあえてそこは口にしてはいなかった。

 

「私が似せてるんですよ。あの人は私の尊敬する人物なんですから」

「尊敬ねぇ……てか、そんなことはどうでもいいからこのワイヤーほどいてくれよ。細いくせに頑丈で、もう足の感覚がおかしくなっちまってる」

 

 神皇の言葉をどうでもいいと言わんばかりに玄兎が言った。本音も神皇もだが、玄兎が床に倒れているのにも関わらず助けようともしてこない。なんとも薄情な少女たちだった。

 

「情けないですねぇ……元軍人ともあろうお方が」

「おめぇが仕掛けたせいだろうが。てか、こんな場所にトラップが仕掛けてあるとか誰も思わねえよ」

「そりゃ、そうでしょうね。大体、これ玄兎さんが来ると思ったから仕掛けたトラップですもん」

「お前、あとで玄武でしこたま殴っていいか?」

「そうなったら、織斑先生のとこまで全力疾走で逃げます――――――あ、本音ちゃん。ちょっとあっち向いててくれる?」

「おーけー」

 

 そう言って、本音がこちらに背を向けたのを確認すると、神皇は玄兎の顔を見てにぃと口角を釣り上げた。何やら企んでいそうな笑みだ。神皇の考えることは、どことなく楯無の思考回路に似ている。ただ、こちらの少女の場合は多少なりと強引と危険が伴っているが。

 

「ではでは、ちょっと危ないから手は引っ込めておいてくださいね?」

「お前……何する気だ?」

「何って、ワイヤーを斬るだけですけど……?」

「〝きる〟のニュアンスに若干不安を感じるんだが!?」

「大丈夫ですよ。一瞬です。痛くはありません」

 

 神皇が右手を振りあげる。そして、その瞬間彼女の掌がカッと微小な光を発したのかと思うと、そこに一振りの刀が出現した。

 

「おいおい、ちょっとそれはやばくねえか?」

「仕方ないですよ。ほかに刃物がないんですから、ねっ!」

 

 玄兎の意を介さず、神皇は手の持つ刀を躊躇なく振り下ろした。狙いはもちろん彼――――――の足元にあるワイヤーだ。刀の切っ先だけをワイヤーに触れるようにし、神皇は刀を振りぬく。まわりの事を考えて動きを小さくしているつもりだろうが、そんなことをせずとも刀身をワイヤーに当てて少し動かせば、彼女の持つ刀の切れ味ならばそれだけでワイヤーは紙のように簡単に切れる。それをしないあたり、彼女は最初から玄兎にこういった類のことをやりたかったんではないだろうか。その証拠に彼女の表情はどこか嬉しそうである。

 

「たくっ、なんでトラップなんか仕掛けるんだよ……まったく」

 

 服に付いた埃を払いながら、文句を垂れる。今考えれば、あの貧相な看板もこのワイヤーのトラップがばれないようにするためのものだったのだろう。たかがワイヤー一本を足に絡ませて転倒させるだけの、ちっぽけな悪戯にこれだけの労力をつぎ込むとは、さすが楯無仕込みの悪戯っ子である。

 

「なんでって、そりゃあ玄兎さんの入学祝ですよ。同じ高校に来るとなれば、悪戯の一つや二つするっきゃないでしょ!」

 

 彼女はそういうことはいつも適当だった。理由なんていい。思いついたから実行したまでだと言わんばかりに、彼女は適当だった。

 

「たくっ、変なところで時間喰っちまったな」

「だね。くろむーも急がないと」

 

 いつの間にか玄兎の隣に来ていた本音が急かすように言う。「それもそうだな」と玄兎は自嘲気味に肩を落とす。朝起きた時から面倒なことが立て続けに起こっているためか、どうも頭が痛い。

 再び歩き出した玄兎の後ろには、本音と先ほどのお粗末な看板を携えた神皇がいる。白々しい笑顔で、何食わぬ顔で神皇はこの一行に加わっていた。

 

「今日はなんだか肌寒いね、本音ちゃん」

「だねー。今週はずっとこんな感じらしいけど……」

「異常気象ねぇ…………作物に影響でなきゃいいけど」

「相変わらず、そっちにしか興味ないんですか玄兎さんは」

「そもそもドイツ育ちなんでね。あっちはこっちよりもちっとばかし寒いんで、慣れてるんだよ」

「まぁ、わかっちゃいましたが」

 そんな会話を交わしながら、玄兎たちは生徒会室へとたどり着いた。まだ誰か中にいるのか、扉の隙間から明かりが漏れ出している。「楯無のやつ、まだいるのか?」などと思いながらも玄兎が扉を開けると、そこにいたのは楯無ではなかった。

 

「うあぁ? なんだ、おまえら」

「それはこっちの台詞なんだが、あんた誰だ?」

 

 中にいたのは女性だった――――そもそも、この学園にいる男性は玄兎と一夏を除くと、一人しかないのだが――――。生徒会が所有する高級ソファーに堂々と腰かけ、左手にはどこから持ち込んだのか日本酒の一升瓶を持ち、その目前にあるテーブルにはつまみと思わしき料理がある。状況から判断するに、一人で酒盛りをしているようだった。

 女が玄兎たち三人をなめまわすように見てきた。その言葉遣い、顔のほてり具合、一升瓶の減り具合から見て、彼女は相当量飲んでいるようで、俗にいう出来上がっている状態だった。だからだろうか、女性の瞳が入口で立ち止まっている玄兎に固定されたまま動こうとしない。すると、女が不意に口元を緩ませた。

 

「おい、そこの女。ちょっと来い」

「本音呼ばれてるぞ」

「いやいや、布仏じゃなくてそこの女。お前だよ、お前」

 

 そういって女が指さしたのは神皇でも本音でもない――――男である玄兎だった。

 

「俺……?」

「そうそう、そこの女。お前だよ」

 

 女と言われて玄兎は少しだけむっとした表情をしたが、すぐに気を取り直した。こんなことはいつものことだろ、と自分に言い聞かせると玄兎はあたりさわりない笑顔を浮かべ、とりあえず手招きする女の方へと歩み寄った。玄兎は中性的な顔立ちで、それは一見すれば女と見間違うほどのものだ。これまでも幾度となく女性と間違われてきた。どちからいえば、初対面の人間から男性だと言い当てられたことのほうが少ないのではなかろうか。今朝の自己紹介の時も玄兎が男だと認知されていたのは、既に一夏ともにその名前と顔が連日のようにニュースで流れていたからだ。もしも、彼女らがその事前情報を知らず玄兎を見たらならば、十中八九性別を間違えて認知するだろう。玄兎の風貌とは、それほどまでに〝女性より〟なのだ。

 

「な、なんですか?」

 

 どうせこの酔っ払いに「自分は男なんです」と言ったところで聞く耳を持たないだろうと判断した玄兎は、なるべくおだやかな口調で話しかけた。

 

「ふむ、顔は満点。口調は男勝りで、短く切られた髪がそれを助長している、と。身長は標準よりも少し高いくらいか……まぁいいや」

 

 玄兎をまるで値踏みするかのように、女は淡々と玄兎に対しての評価を羅列していく。彼女が口にする節々から察するに、どうやらかなりの高評価らしい。だが、それは玄兎の〝男として〟の評価ではなく、あくまでも〝女として〟見た時の評価だということが、なんとも複雑だった。まるで自分が男としてより、女としてのほうが魅力的だと言われているような気がして、妙に腹立たしかった。

 

「松木(まつき)遠所(えんじょ)。IS学園で二年生の学年主任で、二年三組の担任と生徒会の顧問を受け持っています。担当教科は実技と外国語。因みに独身」

 

 後ろの方で神皇がメモ帳のようなものを開き、そこに書かれてある事柄を淡々と読み上げていった。さすが情報屋を自称するだけあって、この程度の情報は知っているようだ。

 

「おい、瀧岸。人の情報べらべらと他人に話すな。あと、独身は余計だ」

「事実ですけど?」

「ふん。この学園で独身じゃないのは、学園長ぐらいなもんだよ。あとの教師はみんな、独身。毎日寮暮らしのせいで出会いもないし、そのうえここは女しかいないからなぁ、男子生徒との禁断の愛すらもできやしねぇ」

「禁断の愛って……」

 

 松木の愚痴に神皇が苦笑を返した。酒が入っているせいか今日の松木はやけに饒舌だ。彼女は元からおおらかな性格で、よくしゃべるがここまで思っていることをそのまま口にするタイプではない。酒の力を借りて、溜めに溜め込んだ愚痴をストレスとともに吐き出しているのだろう。

 

「でも、おりむーやくろむーが入学してきたから」

「ああ、ここに努めてはや五年。私にもチャンスが巡ってきたってところだ。もうすぐ、二十代も後半だし、そろそろ結婚しておかないとやばいんだな、これが」

「先生はとっくに三十路です」

「昔の同級生が続々と結婚していくなか、私は毎日乳臭い女に囲まれての生活。やになるね、まったく」

 

 神皇のツッコミを無視した松木は、やるせない表情であと残り少なくなった一升瓶を口へと運び、一気に飲み干した。しかし、それはそうとその乳臭い女たちが目の前にいるというのに、松木は言いたい放題である。

 

「だが、そのチャンスは狭き門。織斑はあの脳味噌がちがち千冬の弟で、手出ししたら後でなんて言われれるか、わかったもんじゃないし、赤神はまさかの楯無のやつと出来ちゃってる疑惑があるし……」

「出来ちゃってる疑惑って…………」

 

 その疑惑は半分正解で半分不正解のようなものだったが、あえて玄兎は何も言わなかった。言えば、さらに墓穴を掘りそうな気がしたからだ。

 

「だからさ、この際もう女でもいいかなーって思うんだよ。ほら、それならそこらじゅうにいるだろ?」

「でも、それって本末転倒だよねー」

 

 本音の言葉も耳に入ってないのか、松木は続ける。

 

「だから、そこの女。どうだ、うちに来ないか?」

「丁重にお断りします」

 

 即答だった。

 

「………………………………そうか…………ふっ」」

 

 そう言って、ふらりと松木が立ち上がる。そして、千鳥足のようにおぼつかない歩きで玄兎や本音たちを押しのけ、生徒会室の外へと出たと思った次の瞬間、彼女は酔っ払いとは思えないほどの脚力で廊下を駆けだした。

 

「女にもふられたぁああああああああああ!」

 

 そんな彼女の悲痛な叫びは、この静まり返った学び舎の廊下で悲しく響き渡っていた。

 

 

 

「書類なら、私が生徒会の書類を提出するついでに、持って行ったけど?」

 

 生徒会室に忘れ物を取りに来たという楯無からそんな情報を得たのは、あの松木の奇怪な行動からすぐのことだった。彼女はどうやら生徒会の書類を提出しに行ったついでに、玄兎の分の書類も千冬に提出してくれていたらしい。「これで貸し一つね」と楯無は嬉しそうに言った。楯無が貸しだのなんだのというときは、たいてい面倒事やよくないことをしようとしているときなので、玄兎としては微妙な面持ちであった。

 

 玄兎はそんなそこはかとない不安を感じながらも、それをどうにか表情には出さずぐっと胸の内にとどめた。どうせ楯無の頼みならば断わることができない質だ、それならばここでとやかく考えていても仕方がない。玄兎はそんな不安を紛らわすため、先ほどまで松木が食べていたつまみを一つだけつまみ口に放り込んだ。焼きするめであった。

 

「それより、さっき松木先生が猛スピードでここから飛び出していったようだけど…………なにかあった?」

 

 妙に神妙な面持ちでそう尋ねてくる楯無を、玄兎は焼きするめを何度も何度もかみしめながら、

「色々と」とだけつぶやく。まさか自分が女と間違われて、なおかつ初対面でしかも女であるはずの松木からプロポーズされたなんて言えるはずがない。

 

 と、その時生徒会室の外側が何やらやけに騒がしくなった。耳を澄ませてみると、「せ、先生!? 大丈夫ですか!」「なんでガラスに頭突っ込んで? って、酒臭い……」「酔っぱらいすぎですよ。というか、また酒盛りをしてたんですね」などという声が聞こえてきた。

 

「…………それで本音と神皇ちゃんは何してるの?」

 

 どうやら外の騒ぎは無視することにしたようで、楯無は少し恨みがましい視線を二人に向けた。

 

「くろむーの付き添いー」

「暇だったので」

 

 なるほどね、とどこか不満そうに楯無は頷いた。もしかすると、楯無は玄兎と二人っきりになれると思っていたのかもしれない。食堂へ行くと言っていた玄兎が、食後にここへ書類を取りに立ち寄ることぐらい、直前まで一緒にいた楯無ならば容易に想像がつくだろうし、書類を置いていったのだから必然的に彼はここに来なければならなかったはずだ。そうすると、時間を見計らってここに来れば当然玄兎と鉢合わせすることになる。楯無はそれを狙っていたのだろう。狡猾というか、策士というべきか。もっと堂々としていればいいものを、なぜそのような回りくどいことをするのだろう、と神皇は不思議でならなかった。

 

「それで、会長は何を?」

「え、えーと……忘れ物を取りに来たの。忘れ物」

 

 正確にいえば、今日玄兎ために作ってきた弁当を取りに来たのだ。初日ということで少し張り切りすぎて多く作りすぎてしまい、かなりの量になったあれは持ち運ぶのにはいささか不便だったため、この場所に一時的においていたのである。そもそも、食堂が完備されているこの学園において弁当というのは少し珍しい食事だ。時折、自分で作ってきた弁当を食べている生徒を見かけることがあるが、それでも一か月に一人見かけたら多い方だった。かくいう楯無もつい先日までは――――特別な用事でもない限り――――食堂でしか食事をしかたことがなかった。そんな人物がいきなり手作りの弁当を携えていると、それはそれは妙に見えることだろう。それもその弁当が明らかに大きく、とても一人の少女が食べきれる量ではなかったら、なおさらだ。そして、それを見た生徒は十人中九人が同じ答えを導き出すだろう。

 

 ――――――あいつ、抜け駆けする気か!

 

 ということで、もしこの弁当箱を持ったまま廊下を不用意にうろつくと、どんな目にあうかわかったものではない。ただでさえ、生徒会長という立場は色々と面倒なことが付きまとうのだ、これ以上面倒事を増やしたくなかった。 

 そういった理由も相まって、楯無は今この場にいた。とはいえ、玄兎と二人っきりなるという目的は予想外の闖入者により達成することは出来なかったのだが。

 

「って、そうそう。楯無、書類提出するとき織斑先生何か言ってたか?」

 

 するめをかみながら、玄兎が思い出したようにぽつりと呟いた。

 

「うん? ああ、えと……確か何か言ってたような、言ってなかったような気がするのよね………」

「曖昧だな」

「興味なかったからね」

 

 呆れたような顔をする玄兎に楯無は悪びれもせず率直に答えた。言葉オブラートに包み込もうとすらしないあたり、本当に興味がなかったのだろう。

 

「最低だな」

「会長らしいー」

「最高です、会長!」

「なんで、一人だけ楯無をほめてるんだよ!」

 

 彼女らは基本、自分に忠実なのだ。

 

「あ、でも寮のことについては色々と聞いてきたわよ? それと、あの入寮願書についても」

 そう言って楯無が話し始めたのは、玄兎が思わず頭を抱えたくなる事実であった。

 

 

    *    *   *

 

 

 日本のとある民家。どこにでもありそうなその家からは、ここ最近連日のように奇妙な叫びとどたばたという足音が響いていた。

 

「ちーちゃんにはめられたぁぁあぁ…………!」

「やっぱり、ここは力尽くで行くしかないのか……」

「そこの二人! そんなとこで落ち込むぐらいなら、荷物の整理を手伝ってください!」

 

 一人は膝から崩れ落ち、一人は悔しさに満ちた表情で唇を噛み、一人はそんな二人を叱責する。そんな光景が日夜繰り広げられているこの家は、世界で二人しかいない男性IS操縦者の片割れである赤神玄兎が創設した便利屋『紅い兎』の日本での居住地であった。

 

「そんなこといっても、ナギちゃん! くーくんが、くーくんが!」

「あーはいはい。そこは仕方ないですよ。いつかはこうなることぐらい、師匠ならわかってたでしょうに」

 

 大きな段ボールを持ったナギが落ち込む束に、呆れ顔でそう言った。束が落ち込んでいる理由はわかっている。玄兎だ。彼が世界で織斑一夏に次ぐ男性IS操縦者として、IS学園へと入学することになったことはすでに世界中で周知の事実となったが、彼女は玄兎の入学が決まってからというもの毎日のようにこうやって落ち込みは、昔馴染みである織斑千冬に抗議の電話を入れるという行為を繰り返していた。

 

 そして、ついさっき届いた一本のFAXがそんな束の絶望をさらに深い場所へと誘った。

 

『本日から、私、赤神玄兎はIS学園の寮に入り、卒業までの三年間、共に学ぶ仲間とともに生活することをここに誓います』

 

 これは千冬から届いたFAXのほんの一部だ。他にも数枚、これに準ずる内容の書類が届いている。そのどれも玄兎の筆跡によるものであった。これが、束の落ち込んでいる理由だ。束は千冬に抗議する際、何度も「くーくんが嫌がっている」「無理やりというのは駄目だよー!」ということを言っていた。さすがに無理やりに入学させておいて、寮にまで無理やりというのは教育者としてどうなのか、と束は言いたかったのだろう。それには一理あるが、いくらなんでも無理があるだろ――――――アリサ以外の『紅い兎』メンバー全員が心の中でそうツッコミを入れたのは言うまでもない。

 しかし、そんな束もさすがに玄兎の筆跡で『私は寮に入ります』と書かれた書類を見せられたら、どうしようもなかったらしい。先ほどからアリサともに絶望の淵に立っていた。玄兎がいなくなっただけで、大袈裟人たちだ、とナギは嘆息しながら重たい段ボールを床へとおろした。

 

 額に流れる汗をぬぐいながら、ナギは大きくため息をついた。

 

「なんで、国を移動するたびにこんな大荷物持ち歩かないといけないんだろ……」

「はは。仕方ないよ。うちの家計は火の車だから、家ごとに服や食材はおいていけないんだよ。もったないから」

 

 ナギの愚痴に江波が疲れを微塵も感じさせない爽やかな笑顔で答えた。

 

「でも、毎移動ごとにこれだと、さすがに疲れてきたよ……」

「それもそうだね。こっちは玄兎がいなくなったことで労働力はダウンしているし。何かいい方法はないか考えとくね」

 

 いまだ絶望から回復していない二人をしり目に、ナギはふと思い出したように、

 

「あれ、なおちゃんと瑛梨さんは?」

「それなら、夕食の買い出しだよ。今夜は少し遅めの夕食だから、あっさりと食べれるものだって」

「そういえば、お腹が減ったような」

 

 自覚するとなおさらそんな気がしてきた。時刻は八時を過ぎ、一般的な夕食時からは大きく遅れている。どうりでお腹がすくわけだ。

 

 ナギが段ボールだらけとなった部屋を見渡しながら、満足げに「よし、完了だね」と言った。

 

「今回は前と違って、長期間の滞在になるからね。部屋も前のところよりも、広くなってるし、なんといっても和室があるから居心地はいいはずだよ」

 江波が下に敷き詰めてある畳を触りながら、感慨深げに言う。前にいたところは床がフローリングだったため、日本にいる、という感じが薄かったのだがこれならばそれをより一層感じることができるであろう。これは江波の夢でもあった。日本に来たら必ず畳のある部屋に住もう、と。

 

 江波が感動したように畳を撫でていると、家の玄関から声が聞こえた。

 

「ただいま帰りましたよー」

 

「た、ただ……いま」

 

 買い出しに行っていた二人がどうやら帰ってきたようだ。

 

「あれ、何してるの? アリサちゃんと束さんは」

「気にしないほうがいいよ? それより早く夕食!」 

 

 瑛梨が二人を指さしてそう尋ねてきたが、面倒だったのかナギはぞんざいに返答し、夕食を作ってくれと催促した。いい加減腹が減って、おかしくなりそうだ。

 そんなナギを見た瑛梨は何やらおかしくなってしまい、少しだけ吹き出してしまった。「まるでナギちゃんがお姉ちゃんみたい」

 

「師匠と玄兎の相手を二年も続けていたら、嫌でもこうなります」

 

 実際の年齢と精神年齢がかみ合わない二人を相手にしていたら、否が応でも面倒見の良い性格になってしまう。元々、ナギにはそういった資質があったが、それをさらにあの二人が加速させたといっても過言ではない。

 

 瑛梨の後ろでナギの催促を聞いていたのか、なおが、

 

「じ、じゃ…………私、作って、くる……」

「私も手伝うー」

「じゃあ、僕も手伝おうかな?」

 

 瑛梨と江波がなおに続くようにして台所へと入って行く。

 

「くーくんぅうぅ……」

「やっぱり、夜に奇襲……」

「…………あ、もうすぐドラマ始まるじゃん。テレビつっけようっと」

 

 やっぱりまだ立ち直れていない二人を無視するように、ナギはテレビをつけた。

 どうも二人が立ち直るのは、もう少しかかりそうだ。

  

 

 




今回登場してきたオリジナルキャラクターである、松木遠所。名前がおかしいのは、愛嬌だと思っていてくださいな。

そして、玄兎が女顔だというのはすでにちょくちょく触れていましたけど、今回ではそれをより強調してみました。因みに、昔便利屋時代には男性に交際を申し込まれたとか、なんとか…………という噂もあるとか。
男装の麗人であるアリサと並んでいると、二人とも性別を逆に言われることもしばしば。


さて、次回はどこまで進むのか! 作者もいまだわからない! どうなる、皆の衆!

ということで、次回で会いましょう。( `ー´)ノ
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