ミリしかしらない橘シェリー過去捏造ストーリー 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
原作:魔法少女ノ魔女裁判
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 まのさば まのさば二次創作 橘シェリー 捏造 捏造しかない 原作未読 前日譚
※この作品は公式HP、公式YouTubeアップ動画等公式が公式として出している『情報のみ』でキャラを解釈して勝手にストーリーを作っています
※本編は1ミリも触れていません
※その為全身解釈不一致になってる可能性があります
※以上をお読みいただいた上で閲覧ください
「お前さぁ、今月分の金まだなのォ?アタシそろそろ限界なんだけど」
「今はまだ用意出来てない……」
「用意出来てない、じゃねえんだよ!使えねえなあ!!お前は!!アタシの!!財布係くらいしか!!生きる価値無いの!!分かる?生きる価値を見出してやってんの、わざわざ、このアタシが」
「……はい」
「もう良いわ、やっちゃって」
「へーい」
この世は地獄だ、と感じる。
それは誇張表現でもなんでもなく、15歳の人間という自分が真っ当にそう思う、そう思うしか無かった人生表現だ。
幼稚園までは良かった、優しい両親や親族に囲まれて友人もいて、何不自由無く暮らす事が出来た。
だけど小学校入学直後に父親が死んだ、ひき逃げだった。
そこから母親がおかしくなった。
酒に溺れまともに自分を見なくなり、度々近所でもトラブルを起こすようになりやがて犯罪をして捕まって、そのまま刑務所送りにされた。
その後あの人がどこに行ったのか、もう刑期は終わってるのか終わってないのかさえ分からないまま親戚の家に引き取られたがその時の親戚の目はあまり良く無かった。
やはりと言うべきか、犯罪者の息子を引き取るのは渋々だったと言う事なんだろう、容易に想像が付いた。
噂というものはすぐ伝播するものだ。
学校にもすぐその噂は伝わり、入学してすぐ出来た友達どころか幼稚園の頃からの友達さえも自分を汚物扱いした。
子どもは深く物事を考えない、考える力を持たない。だから容易に人を傷付ける事が出来るそれは仕方の無い事だ。
だからと言って受けてる子どもがそれを理解出来るはずがない、更に言えば理解したとして苦しまないはずがない。
こうしてイジメ続けられた自分は、いつしか中学でも一番の権力を持つと専ら噂の不良女集団に目を付けられた……というのがここまでの顛末になる。
「はぁ……スッキリした。次アタシらに逆らったらこれくらいじゃ済まないからね、良い?これチクろうとしたら逆にアタシがアンタにレイプされかけたって言ってやるから。そしたら世間は女の味方だから、アンタも晴れて犯罪者ね!ギャハハ!」
体育館裏で殴り蹴られを喰らい惨めになった姿に誰も気が付かない、いや気が付いたとしても助けようとは思わないだろう。
理不尽な理由でイジメられているという事は中学生にもなれば多少なり分かる人間はいる、教師だってそうだ。
だが人間、結局のところ無償の善性で動く奴なんていない。
助ける事にメリットを感じなければ助けない、それどころか今度は助けた側も巻き込まれると思ってしまえば声を掛けるという行為すら無くなる。
母親だって同じだ。
あの優しさだって父親ありきのものだ、家族を失って辛かったのは同じだが結局アイツは実子を見放した、その事実になんら変わりはない。
「あ!またボッコボコに殴られてますね!立派なタコさんです!面白いです!」
「うっしゃい……」
だが、この子だけは違っていた。
橘シェリー……どこかのハーフなのかどうか分からないが、非常に整った顔立ちとにこやかな可愛い笑顔、明るく元気で敬語を使い……そして道徳心をどこかに放り投げてきたのかと疑うレベルの発言を繰り返すバカだ。
クラスでも意味の分からない天然バカ発言を繰り返す為、蔑称は『妖精さん』と言われている。
「ほらほら、何をボケっとしてるんですか?早く私の家で治療しないと!」
「助かる……」
「じゃないと面白いタコが醜い顔に変わっちゃうじゃないですか!」
「こんの道徳心0女は……」
そんな『バカ』のお陰で俺はほんの少しだけ死ぬのをもう少し待ってみようと思えるようになった。
次はどんなバカな発言をしてくれるのか、忘れかけていた感情を思い出させてくれるのか楽しみになっていたからだった。
「はい染みますからね〜そおい!」
「痛い痛い痛い!殴り蹴られした時より痛いからそれ!」
「だから言ったじゃないですか染みるってそおい!!」
「お前!お前ェ!間が無さすぎるんだよ!道徳心以外の何かも飛ばしてきてるだろ絶対!」
但し、面白ければ何をしても許す訳ではない。
怪我人に対してモーションと事前告知ほぼ無しで消毒液に浸したガーゼを優しめの力とはいえ押し付けてくるのは殺人行為に等しい。
だがこの女シェリーはこんなでも俺相手には明らかに優しめの対応をしているのが見て取れるのが分かる。
道徳心と頭のネジを数本空の彼方に吹っ飛ばしてそうなこの女だが、そんなシェリーでも俺の事をかなり近しい友人としては扱ってくれているらしい。
触れてはいけないものとして扱われている自分に対して何故、そこまで親しみを込めて接してくれているのかは正直到底分からない。
というかそもそもシェリーと出会ったのだって今年度に入ってからだ、そうなると出会って数ヶ月程度のものだ。
……思えばあの時からこの女俺の殴られた後のタコ顔気に入ってたよな、よく友人になれたと自分でも何となく不思議に思ってしまう。
「どうかしましたか?叫び散らかしたと思ったら急に大人しくなりましたけど」
「いや、ふとシェリーと初めて会った日の事思い出してな。あの時もお前俺の顔の事ゲラゲラ笑ってたよな」
「なんてったってタコ顔に一目惚れでしたからね!」
「清々しいなお前……」
まあいいや、今は少しその時の事を思い返してみるとするか……
「あームカつくムカつく!何回殴っても蹴ってもむしゃくしゃするわね!まともなサンドバッグにすらなれないとかお前の存在価値0どころか-1万って感じ?」
「もう良いっすよ姉さん、疲れるだけッスからこんな汚いのは放置してなんか食って帰りましょー」
「ハッ、まあそれもそうね。今日はこのくらいにしといてやるけど、次ムカつく目したらぶっ殺す」
あの日、俺はまともに目も開けられないレベルで殴られていた。
正に絵に描いたような『タコ殴り』だ、あの時の俺の顔を今のシェリーが見ても絶対同じ反応をするんだろうなと思いながら回想をする。
そう、その本人が来るのはそれから数分後だった。
「わあ!タコさんがいます!」
おもむろにやってきたコイツの開口一番は、間違いなくこの世で最もデリカシーを持たない人間の一言だっただろうと自信を持って言える。
たった10文字というシンプルな短文でこんなに人を侮辱出来る奴がいるのかと、怒りとか憎しみとかより先に驚きが来た。
そして驚いてる自分に驚いたんだ、何せこんな感情を抱いたのは父親が生きてた時以来だったからだ。
そもそも俺に怒ってり憎しみを抱いたりするようなリソースももう無く、あるのはこの世への嘲笑と諦めくらいだったが。
「おーい聞こえてますかー?まさか死んでます?」
「生き、とる……わ……」
「またまたびっくり!生きてました!」
「死んで、る、前提……かよ」
こんなに軽口を叩いたのなんて間違いなく人生初。
何故だろうか、たった数回会話した初対面の奴にこの瞬間からもう興味を惹かれていたという確信を持つにはあまりにも容易い事であった。
「まあ死んでないなら良いです。私なんか貴方に興味が湧きました!なので連れ帰って治療します!何故ならそのタコ顔が好きなので!それ以上ボコボコにされると醜くてタコ顔が拝めなくなっちゃいますから!」
「……頭おかしいだろ」
「なんでですか?」
「俺は……犯罪者の息子、って言われて……イジメられ続けて、そのせいで……ここでもターゲットにされた、から……アンタにメリットなんか無いぞ……」
「私はイジメというのがどういうものなのか理解出来た試しが無いのでその点は気にした事も無いですねー、それにメリットならさっきも言いましたがそのタコ顔が見たいからです!」
「おい道徳心」
ああ、この女は最初からこんな調子だったな。
つまりは殴られ続けろと言う凡そ正気とは思えない発言、普通ならこんな奴と関わるのすら御免だと思うのが当然なんだろうが。
「ぷっ……くくく……」
「はて?何故笑ってるんですか?」
「なんでだろうな、俺にも分からないんだ」
「変な人ですねー」
あの日あの時、俺が笑えたのはどんな崇高なものでもお笑いのプロでもなく、その正気とは思えない道徳心の欠片も無いような発言。
そう、俺に感情がほんの少しだけとはいえ……シェリーの前でだけとはいえ見せられるようになったのは、その初対面のぶっ飛んだそれがあったから。
……流石に感謝を言うのはなんか癪だから言ってないが、気が向いたら言っても良いくらいにはちゃんと感謝している。
それだけ大きい存在になっているんだ、俺の中では。
「うーん」
「なんだよ人の顔見つめて、もうタコはいません。売り切れです」
「いやそうではなくてですね」
回想に浸ってる間にコイツが俺と目と鼻の距離くらいまで顔を近付けていた事に気が付かなかった。
平静は保っているし道徳心と頭のネジが吹き飛んでる女なのは承知の上で、顔が良いからドキッとしてしまうのだ。
何も知らない下級生が一目惚れで告白してるところもチラホラ見るが、フラレ方さえ選べない相手に告白してしまって目も当てられない事になっている。
しかし何なんだろうか、もうタコは売り切れなんだが。
「ほら、私って顔良いって良く言われるじゃないですか」
「実際『顔は良い』からな、顔は」
「別にルッキズムに興味がある訳でもなければ顔が良い悪いというのも良く分からないので自分の顔がどれくらいの立ち位置なのか全く分からないんですが、もし私の顔を貴方の意見を反映させてルッキズムの上位に置くとして」
「置くとして」
「それを基準に見た場合、目元上げたら貴方もそこそこルックス良いと思うんですよねえ。だから目元隠して俯いて歩いてるの勿体無くないのかなと」
「は?ルックス良い?俺が?」
コイツは藪から棒に何を言うのかと思えばまたトンチンカンな事を言い始めるのだ、もう慣れたものではあるが相変わらず何を言っているのか意味が分からない。
「はい!あくまでも今まで告白してきた男性から根掘り葉掘り聞いて個人的に作り上げた主観的なルッキズムで自分を上位に置いた時の話ですけどねー」
「フラれた上でそれ聞かれるのダメージデカそうだな。知らねえけど。というか急に賢くなるのやめろ」
「あ、髪の毛なら私が切ってあげても」
「顔がタコじゃ済まなくなるからもっとやめてくれ」
だが何となく、本当に薄く何となくだが、根本的な主観的ルッキズムなんて見解を持ってる訳が無いシェリーの言葉なら……いつか信じてみても良いかもしれない、なんて思っても良いのかな、なんて。
とは言っても、シェリーのお陰で踏ん張れただけで俺の立場が何か劇的に変わる訳ではないのなんて分かっていた。
それでもタコ顔になってアイツと軽口を叩き合って何となく笑い合って、それがふと終わったいつかの日に死んでしまえば人生多少なりともマシな時もあったとバカなノンデリ少女を思い出して苦笑いしながら死ねるはずだ。
しかし人生、ちょっと救いを求めればいつもこうだ。
「はぁ……はぁ……最初からこうするべきだったわ。コイツの顔を見る度に何をしてもされてもイライラするんだもの。だったら事故に見せかけて殺しちゃった方がスッキリするわ」
「あ、姉さん?流石にやり過ぎじゃ……」
「は?アンタもこうなりたい?」
「い、いやその……も、文句言わないッス……」
またいつものようにタコ殴りにされるのかと思いきや、適当に車に押し込められたと思ったら連れてこられたのは山の中。
それだけでもうこの後自分が何をされるのか、想像するのは容易かった。
手足を折られ、あまり高さはないとはいえ崖の下に落とされ……まあ年貢の納め時ってやつだろう。
元よりイジメ加害者というものは、イジメに特別な理由も無ければ徐々にどこまでしていいかという加減も出来なくなる生き物だ。
自分で死ぬか、コイツらにこうして殺されるか……どちらにせよ遅かれ早かれ多分翌年度は迎えられず死ぬものだと思っていたからどうでも良いんだが。
でも……少しだけ残念だ。
奴らが去ってもう何時間放置されてるか分からないが、その間ずっと、出来たらもう一言二言アイツと、シェリーと話せたらと思ってしまう。
なんというか、それだけ楽しかったんだろうな。
ずっとずっと真っ暗な人生の中にいた、唯一の光。
「…………シェリー」
「はい?呼びました?」
「…………遂に幻聴まで聴こえるようになったか」
ふと名前を呟く。
何故だかすぐ近くで声が聞こえたがきっと幻聴だろう、走馬灯というものは人生を振り返るものだが俺の中に鮮明に残ってる記憶なんぞシェリーとの数ヶ月くらいなものだからな。
どれだけ絆されてしまったのやら。
「何言ってるか分かりませんが橘シェリー!行方不明の同級生をはっけーん!またまた事件解決ですね!」
「本物なのかよ……」
……本物だった。
アイツの愛用する虫眼鏡をぴとりと頬に当てられた冷たさがそう思わせるのには時間は掛からなかった。
「いやーいつもならタコさんになってる頃合いかと思ったんですが、どこにもいないので事件の匂い!という事で名探偵橘シェリーとして捜索していたんです。生きてて良かったです」
「お前からそんな道徳心のある言葉が出るとは思わなかった」
「生きてればまた遊べますからね!貴方で!」
「貴方でって事さえ言わなきゃ今の言葉撤回せずに済んだんだぞ」
骨を折られてて全身ボロボロで激痛なのに、本物と分かった瞬間話したかった気持ちが先行してずっと話していたくなってしまう。
こんな気持ちになるだなんてな。
「さあそれでは私は貴方を山道の方まで引き上げて、後はそろそろ来る救急隊の方々にお任せして『もう1つ事件を解決しに行ってくる』ので!」
「ついでみたいに解決したのかよこっち……」
まあ……もう少し一緒にいるのも悪くないよな。
もう大丈夫だろうと取り敢えず激痛に耐え切れそうにない意識が遠のいていくのには抵抗はしなかった。
「生きてます?」
「ほんっと言い方最低だなお前は」
「そんなに褒めないでくださいよー」
「褒めてねえよ」
「てへっ」
身体の大半を包帯でグルグルと巻かれてベッドで横たわる俺の隣のパイプ椅子に腰を下ろしながら、いつものやり取りをする。
死ぬんだと思った翌日にまたこうして生きているという感覚がどうしても少し拭えない違和感にはなっているが、『死ななくて良かった』明確にそう思っているのも事実だ。
「つーかお前、右の頬にケチャップ付いてんぞ。何食ってきたか知らないけどもう少し綺麗に食べてからこいよ」
「やー美味しかったのでつい」
「お前さ、顔は良いんだからそれくらいちょっとは気にしたら?」
「そうですかねー」
何気ない会話をしながらテレビを見る。
どうやら今日は猛暑日らしい、道理でコイツがいつにも増して目のやり場に困る服な訳だ。
しかしそんな少し甘いような甘くないようなおかしな雰囲気は、突然遮られる事になった。
『本日未明、■■県□□市の森にて5名の女子中学生の首吊り遺体が発見されました。遺体の身元は全て判明しており、全員同市□□中学生徒の――』
「……マジかよ」
突然流れてきたニュース、それは俺の通っている中学校の生徒5人が一斉に首吊りの遺体として発見されたというもの。
いや、それだけならそこまで関心は無かったと思う。
だがその名前は全員、俺をイジメていたあの集団だった。
主犯格の2人の名前も勿論あった。
しかし俺は昨日確かにそいつらに拉致されて殺されかけた。
警察と話したのは俺が今日起きてからだ。
『全ての学生のポケットからは遺書も見つかっており、同級生をイジメていた事に対する責任を取ると記されていたとの情報も入っています。警察は引き続き事件と自殺両方の線を探るとして亡くなった学生達の親や教師らからも話を――』
ぞわりと寒気が走った。有り得る訳が無い、全ての鬱憤を俺にぶつけるようなクズ集団が反省どころか自責の念で自殺?
そんなバカな訳が無い、俺を殺したと勘違いして自責の念を抱くにしても他責思考の自分が一番可愛いと思ってる連中がそんなの無理だ、到底考えられない。
だとするならどういう事なんだ?
ふと何となくシェリーを見る。
「どうかしましたか?」
いつもの何を考えてるか分からない軽薄そうな笑顔。
だが……毎日見ていた俺にだけは分かる、その目が俺ではない何かを見つめている事を。黒く黒く濁っている事を。
「……いや」
「あ、今報道されてる人達ですか?そうですよ、私が殺りました」
「じょ……うだん、とかじゃないよな、お前が言うなら」
聞いた方が良かったのか悪かったのか、それはもう分からない。
ただ彼女はやはり笑っていた。無邪気に、いつものように難事件を解決したと自称する時の顔付きで。
「はい、事件は解き明かすだけじゃなくて解決するのが探偵ですから!」
「…………そうか、『ありがとう』」
「いえいえ!お悩みとあらば名探偵橘シェリーにお任せあれ!」
俺は……それを受け入れた。
だってそうじゃないか。
ならばそのシェリーとの時間を妨害してきた奴らが消えて無くなるのは至極当然の報いなのだ、今まで苦しんできた分の仕返しに過ぎないのだ。
そしてそれをシェリーがやってくれた、だとするならばこれ以上に心惹かれるものがあるだろうか。否、そんなもの存在しない。
シェリーは、橘シェリーは俺だけの光なのだ。
「これからはタコ顔にはなれないが、お前に倣ってちょっとだけバカになって生きてみる事にするよ」
「そうですねえ、私も最初はタコ顔が何となく面白かっただけだったんですが今はそれ以上に私は貴方の事を気に入ったみたいです」
「へぇ、そりゃまたどうして?」
そんなものは分かりきっている。
だがついつい聞いてみたくなってしまうのが探偵という、何事かを探求する生物なのかもしれない。
「さあ、なんででしょうか。私には人間の気持ちなんて到底理解出来ないのでさっぱり分かりません。でも……」
「でも?」
「『分からない事象』を『追求したくなる』のが探偵の性!つまり、これは難事件の匂いですね!」
「
そうと決まればおちおち死んじゃいられない。
壁にぶつかったり苦しんだら今度はシェリーと共に、俺も一緒に今日みたいに解決しよう。
だからちょっとだけバカになって、人生を一生共に生きていく覚悟を持って。
……いつか俺のこの胸に秘めた難事件も解決してもらわないといけないからな。
最早ニュースには気にも留めずあくびを漏らす彼女を尻目に、穏やかな笑みを1つ、零した。
満月と、もうすっかり満面緑色になってしまった桜並木。
学生服姿の俺は夜更けのベンチに腰掛ける。
「……まだ事件は解決してないんじゃないのかよ」
彼女、橘シェリーが失踪してから1ヶ月。
あの日……俺がシェリーに『難事件』を抱いてから俺は変わった、良くシェリーとバカしたり進路について考えたりし始めた。
そして出した結論が、隣の県に2人とも引っ越してその県にある高校に通うという決断だった。
何を考えてるか分からないあの女が果たして首を縦に振るかという一世一代の大賭けはあったものの
「元より事件の元凶である貴方に着いていく予定ですから!」
と自信満々に言ったので心配するだけ損だったと安心と複雑な気持ちにさせられたのは記憶に新しい。
金の方は今の俺の親権を持ってる親族が出すらしく、要約すると顔を見なくて済むなら金くらい出すという事らしかった。
アイツがどう思ってるか分からないにせよ、高校でもこの2人の世界でいられるものなのだと確信した、夢見心地だった。
だが――入学式の日、よりにもよって失踪した。
また何か難事件でも解決しに向かっているのかと思って2日、3日、1週間待てど終ぞ帰ってくる事は無かった。
そして桜はほとほと散り終わり、季節はゆっくりと時計の針が進んでいるのを残酷に形容していた。
「なあ……俺先週イメチェンしたんだ」
月に語り掛ける。
そこには当然誰もいない、いや、月には誰かいるのだろうか。
下らないと自嘲を零す。
何故彼女が消えたのか。
何故連絡も無いのか。
何故誰も知らないのか。
分からない、分からない、分からない。
だが……1つある。『分かる』ものが。
その目には、耳には、もう……1人の人間しか映らないことが。
「お前言ったよな、自分の顔をルッキズムの上位に置くなら俺もそこの立ち位置にいるって」
「12人、この数なんだか分かるか?この1週間で逆ナンされた回数だよ、シェリーお前ほんと凄いな。俺より俺のこと分かってたんじゃんって褒めたかったんだぞ」
「……まあ全員断ったけどさ」
「ナンパを全員断った理由も難事件として押し付けたかったのに、探偵本人がいないんじゃ意味ねえじゃねえか」
「シェリー……今どこにいるんだ?」
月は答えない。ただ静かに照らすだけ。
借り物の光で、道化師として舞台で、無音で、嗤うだけだ。
「俺には難しいよ、この事件を解決するのはさ」
絞り出した声は、誰にも届かなかった。