機動戦士ガンダムSEED COORDINATION   作:笑嘲嗤

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第10話 思惑

 ババ引いた。そんな言葉が思い浮かぶ。嫌な沈黙が場を支配している。ラクス・タオはフワフワ浮いていたが、床に降りた。そしてガンダムに目を向ける。

 

「ガンダムですの?」

 

 その瞳にはどこか郷愁のような悲しさが映っているように見えた。その時だった。ロミが銃をラクスに向けた。

 

「おい!何してんだ!?」

 

「シーゲルおじ様との約束よ。わたしはラクス・クラインを殺さなきゃいけない。世界のために」

 

 ロミの視線は鋭い。だがラクスはそれに動揺はしていないように見えた。

 

「お父様の意思ですか?」

 

「ええ。そうよ。アコードのあなたが世界を鎖してしまうことを彼は恐れていた。本当にそうなった」

 

「……そうですわね。わたくしはアコードだった。流されるままにディスティニープランは実行されてしまったのですから」

 

「何暢気に言ってんだよ!ロミ!銃を下げろ!」

 

 俺はラクスとロミの間に立つ。

 

「邪魔しないで」

 

「子供たちの前で銃を振り回すな!」

 

 俺がそう言うとロミは子供たちに視線を向ける。彼らは怖がっていた。それを見て、ロミは銃をしまった。

 

「殺すのを諦めるわけじゃない。今はやめとく」

 

 ロミはそう言ったがラクスは何も答えなかった。しかしどうすればいいのかわからない。

 

「あなた方はどうしてこの宙域にいらしたのですか?」

 

 ラクスが俺に問いかけてきた。

 

「ザフトから逃げてきた。この子供たちはプラントでの生殖技術開発のための実験材料にされるところだったんだよ。俺が連れ出した」

 

「そんな……!」

 

「その顔だと知らなかったみたいだな。だけどこれがこの世界の闇だよ。とりあえずあんたは大人しくしていてくれ」

 

 俺はロミを連れ出してガンダムのコックピットの方へと飛ぶ。そしてラクスと子供たちに聞こえないように会話する。

 

「どうする気?はっきり言うけどどう考えたってこの先の邪魔にしかならないわよ」

 

「そんなの分かってる。だけどエゥーゴに合流するならラクス・タオは使える」

 

「さっきからタオって言ってるけど、どういうこと?ラクスの姓はクラインじゃないの?」

 

「同じアコードのオルフェ・ラム・タオと結婚して姓が変わったんだよ。今は大ファウンデーション帝国の皇太子妃だ」

 

「彼女はキラ・ヤマトに惹かれてたんじゃないの?あのフリーダムを渡すくらいだったのだし」

 

「キラ・ヤマトは死んだよ」

 

「スーパーコーディネーターの彼が?!そんな!」

 

「スーパーコーディネーター?」

 

「キラ・ヤマトは人工子宮で生まれたコーディネート技術を100%発現できる特殊個体。理論上最優のコーディネーターよ」

 

「ふーん。そんなのあったの。でもアコードたちに殺されたよ。そう言えばお前はどっちだ?見た目は綺麗だからやっぱりコーディネーター?」

 

「いいえ。遺伝学的にはナチュラルよ」

 

「なんか含みがあるな」

 

「言わないで。出自の話はお互いにやめておきましょう。ろくなもんじゃないんじゃない?あなただって」

 

「そうだな。すまなかった。とりあえずエゥーゴとの接触を目指す。ラクス・タオは取引材料にする。いいな?」

 

「ええ。それでいいわ」

 

 俺たちの方針は定まった。だけど絶対に波乱があるだろうということはいやでも感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラグンヒルとアンサラーは新型の戦艦ペルセウスに搭乗していた。そのMSドックに一機の機体が立っている。

 

「これは?ガンダムに似てますけど」

 

「ああ。私に回されてきた機体だ。だが君に譲ろう。これは百式。残っていたガンダムを100回改造して作られた最新鋭のオンリーワン機体だ」

 

「100回も改造したんですか?!それもガンダムを?!」

 

「嘘だ」

 

「ぐは!」

 

 コーンに乗ったストロベリーアイスを舐めながら、シレっとアンサラーは冗談を言った。

 

「だがガンダム系列のデータを使用した最新鋭機であるのは確かだよ。フェムテックほどではないがビームコーティングで装甲は覆われている。単機での大気圏突入も可能だ」

 

「これをわたしに?」

 

「ああ。あのガンダム相手に戦うならこれくらいの機体はないとな。まあ頑張り給え」

 

 ラグンヒルは静かに決意する。必ずこの機体で愛する人を取り戻すと。そんな時だった。

 

「アンサラー大佐」

 

 よくとおる声だった。ラグンヒルたちのそばに一人の男が降り立った。金髪の美しい青年。ラグンヒルはその顔を見てすぐに最敬礼する。

 

「おやおやこれはこれは。皇太子殿下がこんなところにわざわざ来るなんてどういう風の吹きまわしですかな?」

 

 オルフェ・ラム・タオ。帝国の、この世界の実質的最高指導者。その人を前にしてもアンサラーはまだアイスをぺろぺろ舐めている。全く敬意を払う気が見られなかった。

 

「この船を借りに来た。すぐに出航だ」

 

「どこへ?この船はガンダム追撃に出る予定なのですがねぇ?」

 

「デブリベルトでエゥーゴにラクスが襲われて行方不明となった。すぐに救出に向かわねばならない」

 

「そうですか。そんなことですか。うちは忙しいので他所を当たって欲しい」

 

 ラグンヒルは驚愕を隠せなかった。皇太子妃が行方不明になったことも衝撃だったが、それをそんなことと切って捨てたアンサラーの態度に戦慄を覚えた。

 

「何を言っているんだ貴様は!ラクスは帝国を支える大切な人だぞ!」

 

 皇太子の怒りはもっともだと思った。

 

「たかが女一人。替えなどいくらでもいるでしょう」

 

「たかが?!」

 

「それよりガンダムの方が大事だ。放っておけばあれはこの世界を破壊するやもしれない。くく。それはまずいでしょう?」

 

 皇太子も引いている。アンサラーの態度は常軌を逸している。

 

「アンサラー大佐。君がいくら母上と親しいとしてもその態度には問題がある」

 

「くだらない。一人かけたところで、お前らアコードなどいくらでも作り直せばいい」

 

「アコードを侮辱するのか?!人類を導く優良種たる我らを?!」

 

「遺伝子を弄らなければ優秀になれなかったお前ら等ただの成金でしかない」

 

 コーディネーター思想の前提さえも否定する。あまりにも危険な思想の持主だ。この男は何処までも傲慢だ。底が見えない。

 

「言わせておけば!?」

 

 皇太子は剣を抜こうとするが、アンサラーは意にも介さない。

 

「オルフェ。やめよう」

 

 女の声がした。いつの間にか青い髪の女が皇太子の傍に居た。

 

「しかし!」

 

「アンサラー大佐は話が通じない。アンサラー大佐。例の機体建造の許可を皇帝陛下に奏上してもいいです。それならどうでしょうか?」

 

 それを聞いてアンサラーがやっと皇太子たちの方に顔を向ける。

 

「ふむ。ならいいだろう。どうせガンダムもデブリベルトあたりにいるはずだ。ついでにラクス嬢を捜索してもいい」

 

「ありがとうございます。こちらからはブラックナイツを出します。指揮権はお預けします」

 

「わかった」

 

「イングリット!こんな奴に譲歩などするな!」

 

「オルフェ。でもこの船じゃないとラクスの救出は間に合わない」

 

「ちぃ。なら私もこの船に同乗する!」

 

「そう。好きにしたまえ」

 

 アンサラーは興味なさげにそう言った。帝国の最高指導者さえに譲歩させるこの男はいったいなんなのだろうか?そしてこんな男の下でユウさんを果たして取り戻せるのだろうか。ラグンヒルは果てしない不安に襲われるのだった。

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