機動戦士ガンダムSEED COORDINATION 作:笑嘲嗤
ロミは船の操縦席に引きこもった。曰くラクス・タオの顔を見てると殺しかねないそうだ。俺はガンダムの武装をチェックし終えてから休憩室に行った。
「~~~~♪」
そこでは子供たちを優しくあやしながらラクスが歌っていた。子供たちはぐっすり眠っているようだ。
「子供をあやすのが得意なのか?」
俺はラクスの横を通って、冷蔵庫からカロリー飲料を取り出して吸う。
「慣れていました。第一次大戦後にオーブで戦災孤児たちをみていたので」
ラクスは儚げな笑みでそう言った。
「第二次大戦ではデスティニープランを否定したな。なのに今や帝国のお姫様に収まってる」
「それは……」
「事情はある。だがその子たちはそのプランの犠牲だよ」
少し意地悪し過ぎてしまったか。ラクスの顔は暗い。
「なんで世界はこんなに歪んでるんだ?」
ラクスは答えない。答えられないんだろう。
「すまない。俺も少し参ってる。子供たちのことをありがとう。あんた本人は優しいんだろう」
「そんなこと。そんなことありませんわ……」
「そうかな。この世界は歪んでるけど、あんた自身だから優しいんじゃないか?」
ラクスはどこかはっとしたような顔をしている。何かを思い出しているように見える。
「わたくしは……」
「ユウ!すぐにきて!ザフトの船を補足したわ!」
「ち!わかった!ガンダムにスタンバる!」
俺は休憩室を出てガンダムに向かう。どうせこうなるのはわかってた。俺は俺のなすべきことをしよう。
船内の空気は最悪だった。あからさまにやる気のないアンサラー大佐。それにピリピリしている皇太子。ラグンヒルはいたたまれない気持ちでいっぱいだった。
「大佐!皇太子殿下!ガンダムです!」
モニターに小さな船とそれを守るように立つガンダムが見えた。
「本当にガンダムが出たとは……アンサラー大佐!あの機体は何処から出てきた!エゥーゴか!」
皇太子が鋭い目でガンダムを睨んでいる。ガンダムは二度もデスティニープランに立ちはだかった機体だ。因縁の相手だろう。
「知らないな。むしろ知りたいから追いかけている。ヤヌアリウスから出てきたのは確かだ。だがそれ以上はわからない。ただ言えるのは……」
アンサラーはやる気が全くない返事だ。投げやりに見える。
「言えるのは?」
「あれはデュランダルの置き土産ではない。デュランダルがあれを持っていたら第二次大戦で使用していたはずだ。だが出てこなかった。旧クライン派。それもさらに暗部の連中ではないかな?」
「クライン派の暗部?」
「単純なクライン派の機体であれば、第一次大戦のヤキンに投入してたはずだ。だがそうなってない。あの機体はコーディネーター対ナチュラルの戦争を想定していないように思えるんだよ。まあ勘だがね」
「当てにならないな。ブラックナイツ出撃だ!ガンダムの悪夢はここで終わらせる!」
「おいおい。ラクス嬢は何処へ行った?」
「ラクスがこの宙域にいるならなおのことガンダムは危険だ!!」
「それはガンダムがラクス嬢に危険を曝すからか?それともラクス嬢がガンダムに合流してデスティニープランに反旗を翻すからか?」
アンサラーの口元が歪んでいる。それに苛立たしさを隠さずに皇太子は舌打ちをする。
「とにかく出撃だ!ガンダムを粛清する!」
発進シークエンスが始まる。ラグンヒルもドックに向かおうとする。
「ラグンヒルはここで見ていろ」
アンサラーが止めた。
「なぜですか?!ガンダムがいるんですよ!!」
「面白いものが見られるぞ。くくく。あのガンダム。おそらくは……」
アンサラーが笑っている。そばにある冷却ボックスからアイスキャンディを取り出してパックを破って口にくわえる。もう一本取り出してラグンヒルに渡す。
「まあ観劇としゃれこうもうじゃないか。アイスのおかわりはいくらでもあるとも」
一体何をこの人は見ているのだろうか?ラグンヒルはアイスキャンディのパックを破って口にくわえる。ガンダムの姿をじーっと見つめながら。
ガンダムを出してすぐに向こうの船から四機のMSが出てきた。
『きゃはは!本当にガンダムだ!!』
『時代遅れじゃね?』
『ガンダムは敵だ』
『油断せずにシンクロアタックしますよ!』
よりにもよってだ。
「ブラックナイツかよ!!」
すぐにクロスビットを展開する。そしてビームを放って牽制する。だが相手は避ける意志さえ見せない。ビームはすべて相手の装甲でかき消された。
「フェムテックか!やはりきつい!」
『きゃはは!ビームとか効かないんだよ!こわい!!』
すぐに一機が突っ込んできた。俺はビームサーベルを抜いて、相手の斬撃を止める。だがそれで攻撃はやまない。他の機体からビームライフルが放たれる。それらをクロスビットのアンチビームフィールドで防ぐ。
『ビームを消した?』
『知らない武器だ。だけどフェムテックほどじゃない』
相手はこちらに気にせずに突っ込んでくる。いちいち攻撃を受け流してみるが、なんどもなんども攻撃してくる。
「数が多い!」
『もっと多くしてあげる!きゃはは!!』
相手の動きがより早くなった。モニターのあちらこちらにブラックナイツの機体が表示される。どこから攻撃が来るのか読みづらい。
『こいつ思考が早いな』
『なら墜とそうか』
『闇に墜ちろ』
あの日のフラッシュバックが俺の身体を震わせる。母とミウの血だらけの身体。それを招いたのは俺の迂闊な行動。呼吸が荒くなる。視界が鎖されていく。
『飲まれては駄目。さあ運命に抗いなさい』
ラグンヒルはブラックナイツに圧倒されるガンダムの姿を見て必死に堪えていた。このままではユウさんが死んでしまう。だけどここでは何もできない。だけどアンサラーは面白いことが起きると言った。それに必死に縋っていた。
「ん?この感じはなんだ?いや!ははは!そうか!そうなんだなぁ!面白いなぁガンダムは!!」
アンサラーがアイスキャンディを食いちぎって椅子から立ち上がる。突然の奇行に周囲は唖然としている。
「アンサラー大佐。もうガンダムは墜ちる」
「いいや。まあ見ていろ!ガンダムは面白いんだよ!!」
モニターに変化があった。ブラックナイツに猛攻されていたガンダムはビットを背中に戻した。それらはまるで翼のように広がり、虹色の粒子を放ちだした。
『なんだ。これは』
『なんで闇に墜ちないの?!』
『知らないよこんなの?!』
『皆さん落ち着いて!うあわあああ!!』
ガンダムは残像を残しながら近くのブラックナイトに迫る。その時だ。十字架の一つが割れて、その中から実体剣が一本出てきた。それは日本刀の様に見えた。
『そんな真正面から来たって!受け止められるし!!』
ガンダムは大上段から刀を振り下ろす。それをリデラード機は盾で受け止める。火花が散る。
『きゃはは!そんなのが奥の手!やっぱりださ……きゃぁああ!!』
不可思議な現象が起きていた。リデラード機は正面でガンダムの刀を受け止めていたはずだった。だが。
「なんでガンダムがもう一機?」
ラグンヒルの目にははっきりと映っていた。もう一機のガンダムがリデラード機を背後から斬りつける姿が。
「ありえない?!」
皇太子はひどく驚いている。
「ミラージュコロイドの分身か?」
「違うな。あれは質量がある分身だ」
アンサラーが楽し気に答える。
「質量のある分身?!」
「じゃなきゃ説明がつかない。正面からも剣圧が楯にかかっている。その背後から斬りつけられてスラスターが損傷した。あの分身には質量がある」
そしてガンダムはさらに分身をしていった。それぞれが残像を残して宇宙を縦横無尽に駆け巡る。
『知らないよこんな武器?!』
『どれが本物なんだ?!』
すでにブラックナイツの面々は恐慌状態だった。徐々に刀で装甲を剥がされていき、脚部や腕部も破壊されていく。
『うわぁあああああああああああああああああ』
『ぎゃぁああああああああああああああああ』
悲鳴が響きわたる。だがガンダムは一切容赦せず攻撃を続けていく。だが。突然すべての分身が止まる。虹色の粒子の発現も止まり、分身たちは陽炎のように消えていく。
「む?時間制限ありか。まあ当然だろうな」
アンサラーはアイスを舐めながらそう言った。
「ちゃ、チャンスだ!今のうちにガンダムに攻撃しろ!!」
皇太子はブラックナイツに命令を飛ばすが、恐慌状態の彼らには命令が届かないようだった。
「ラグンヒル。すぐに出てガンダムを回収してこい」
アンサラーが命令を出す。
「いいや!すぐに破壊だ!あんなものは存在してはいけない!!」
ラグンヒルは矛盾した命令を受ける。
「じゃましないでいただきたいのだが?」
「これは帝国全体の問題だ!!」
「それよりもガンダムの方がずっと面白いだろうが!!」
やいのやいのとアンサラーと皇太子が揉めだす。ラグンヒルは身動きが取れなくなった。そのときだった。
『ザフトに告ぐ。こちらにはラクス・クラインがいる。繰り返す。こちらにはラクス・クラインがいる』
映像が入ってきた。そこには金髪に蒼い瞳の女がラクス・タオに銃を突きつける姿があった。
「はは!これはこれは!皇太子殿下。ガンダム、どうぞ討ってください」
「貴様!!」
「帝国のためでしょう?ほらガンダムは無防備だ。早く討ちたまえよ」
アンサラーはにやにやしている。皇太子は逆に今にも激昂しそうな真っ赤な顔をしている。
『どうしたの?ラクス・クラインの顔をズタズタにするわよ?』
「待って!それはやめろ!」
『ならMSを引きなさい』
皇太子はすぐにブラックナイツに指示を出した。彼らは母艦に戻ってきた。ガンダムも機能を復活させたのか、船に戻っていく。
「人質交渉に屈する。なんとも格好の悪いことだ」
「黙ってろ!!」
アンサラーは肩を竦める。だが面白がっていることだけはわかる。
「ラクスをすぐに引き渡せ」
「こちらの安全が確保されるまで不可よ。ではまた会いましょう」
チャンネルはそれで切れる。事態は新たなる局面に突入してしまった。だがそれよりもラグンヒルには映っていた金髪の少女に引っかかりを覚えた。
「ユウさん。その女だれ?」
その呟きは誰にも聞こえることはなかった。
アンサラーとかいうエンジョイ勢