機動戦士ガンダムSEED COORDINATION 作:笑嘲嗤
俺はただこの世界を、宇宙の姿が知りたかった。そこに理由はない。ただただ好奇心だけが走っていた。俺にはそれを知るための自由があるはずだった。この世界にデスティニー・プランが施行されるまでは……。
機動戦士ガンダムSEED COORDINATION
今日も俺は宇宙海賊に定型的な警告文を発することをしていた。
『すぐに武装を解除し投降せよ。あなた方には正当な裁判を受け刑に服した後、デスティニー・プランに従った適正かつ正当なる職を得る権利がある』
この警告はデスティニー警告と呼ばれている。かつての大西洋連邦におけるミランダ警告のように、被疑者に対する権利として大ファウンデーション帝国が定めた警告である。だが宇宙海賊たちからの返答はない。すでに彼らのザクたちがこちらへと銃を構えて侵攻している。
「やっぱり無駄だな。総員に告ぐ。戦闘だ。一機も漏らすな」
俺の隊であるニニギ隊は宇宙海賊たちとの有視界MS戦闘に突入する。こちらは新鋭の量産機であるハイザック。負ける要素は何一つもない。
『ディストピアの奴隷共が!自由万歳!自由の騎士キラ・ヤマトの加護あれ!』
迫る海賊のザクから無線が入る。
「キラ・ヤマトか。故人も大変だな。自分の名前が勝手に祀り上げられるのは」
俺は敵機とすれ違いざまにコックピットをヒートアックスで切り裂く。それでザクは沈黙した。宙域のあちらこちらで閃光が散る。海賊たちは宇宙に散っていく。彼らは海賊と称されているが、実際はデスティニー・プランに服属することを拒否したものたちだ。自由に生きることを選んだ戦士たち。
『ニニギ隊長!海賊共が逃げていきます!どうしますか!』
部下のラグンヒル・イングスタッド中尉から報告が上がる。彼女は俺の隊の副長を務めている。
「追わなくていい。ここは通商ルートからも遠い。これ以上はこちらが危険だ」
ファウンデーションが世界を制しても宇宙は広い。抵抗勢力はあちらこちらに潜んでいた。
「撤退する。十機も落とせば十分だろう」
『それってシャレですか?』
ラグンヒルがくすくす笑っている。そんなつもりは毛頭なかったんだけどね。俺たちは海賊を掃討し、母艦へと帰還した。
宇宙生活は退屈の連続だ。出撃がなければ基本は待機。他の連中は無重力化でしかできないボールスポーツを楽しんでいたりするが、俺はそこへは混じれない。俺はハーフコーディネーター。コーディネーターしかいないこの船では異物に等しい。それの上、彼らが蔑むナチュラルの血を引きながらも彼らよりも高官の俺は疎まれていた。俺は自室で物理学の論文を書いていた。プラン以降は大学を追われたが学者であることをやめたつもりはない。いまでもジャーナルには論文の投稿は続けていた。だけど戦闘のストレスとその他雑務で時間が喰われて俺の研究のクオリティはどんどん下がっている。プランによれば俺の適正職はザフトの兵士らしい。だがどう考えても俺にはそんなものちっとも向いていない。ザフトに従軍して三年近いがPTSDを発症して薬で心を守る日々。
「自由よりも運命。それがこの世の定め」
本当にそうなのだろうか?古典的SF小説の世界が実現したこの世界では幸福は義務のはずなのに、俺にはやりがいもなければ、はりあいもない。退屈とストレスだけがここにはあった。
「失礼しますニニギ隊長」
俺の部屋に一人の女性兵士が入ってきた。赤服を纏っている。ラグンヒルだった。銀髪に緑色の美しい少女。ザフトでも一二を争う凄腕のパイロットだ。
「勝手に入らないでくれ」
「でも退屈で」
「だったら他の連中に構ってもらえ。俺は忙しくなりたいんだ」
ラグンヒルを無視してパソコンのモニターに顔を向ける。だけど肩に柔らかな温もりを感じた。ラグンヒルが俺の背中に越しにモニターを覗き込んでいる。
「また論文書いてるんですか?隊長の適正職は軍人ですよ。無駄じゃないですか」
第三世代コーディネーターのラグンヒルには俺の行為は無駄に見えるようだ。
「俺は仕事に生きるつもりはないんだ。趣味やプライベートを優先したい」
「それってプラン違反ですよ。遺伝的にもっとも適正かつ適切な仕事を人々をこなすようになってからこの世界は平和に回るようになったんですよ」
その平和に俺が討った海賊たちは含まれてはいなかった。ラグンヒルからすればプランに従わない人々は命ではないのだろう。だけど俺にはどうしてもそうは思えなかった。
「ねぇねぇ暇ですよぅ。かまってくださいよー」
「お前の婚約者もこの船に乗ってるだろ。そっちへ行け。プランに従ってな」
コーディネーターたちは厳格な婚姻統制が敷かれている。俺にはそれが適応されていない。そもそもプラントのハーフコーディネーターは誰からも恋愛対象にならないから、結婚なんて俺には縁もないけど。
「あの人は駄目です。退屈なんです。それに隊長にいつもつかかっては凹られてるじゃないですか。情けなくて冷めるんですよ」
「だけどプランはあいつがお前の婚約者だって言ってるんだろ。相性はいいはずなんじゃない?」
「……隊長はあの人がわたしに構っても気にしないんですか?わたしがあなたの副長ですよ」
何が言いたいのやらよくわからない。だけどラグンヒルがむすっとした顔をしていることだけはわかる。
「はぁ。まったく仕方がないな」
俺はモニターを閉じて、ラグンヒルの傍による。
「あっ……」
「なに?文句ある?」
俺は彼女の長い髪を弄る。頭のあたりで三つ編みを結んでいく。
「女の子の髪を許可なく触るのは……どうかと思います」
「嫌なら言えばいいんだ。その自由はある」
「わたしは副長だから隊長には逆らえません」
そしてラグンヒルの髪の毛は三つ編みのハーフアップになった。鏡を見ながらラグンヒルは微笑んでいる。
「なんか可愛く仕立ててきましたね」
「妹がいるからね。こういうのは得意」
「きょうだいかぁ。わたしはひとりっこだからよくわかんないなぁ」
一人っ子のコーディネーターは多い。とくに第三世代だと顕著だ。かつて外来種の根絶によって絶滅させられたウリミバエのような不妊化措置を思い出してしまう。コーディネーターはこの世界の貴族になった。なのに未来は未だに見えない。もっともハーフの俺には関係のないことだ。この世界の運命なんて俺にはどうでもいいことだ。目の前の生活だけ守れればいい。ただの個人の俺はそう信じるほかなかった。
准将が自由の象徴になってるのがエモい