機動戦士ガンダムSEED COORDINATION 作:笑嘲嗤
銃を出した俺たちを見て他のお客さんたちが逃げまどっている。だけど目の前の黒人の青年はちっとも動じていない。
「何の目的でラクスに近づいた?!」
「君たちが考えているようなことではない。私はアコードたちの支配下にあるつもりはないし、ラクス・クラインを手に入れて政治的野望を叶えようとは思ってない。ただ問いたいのだ。ラクス・クライン?答えてくれ」
ラクスは体を震わせていた。ナイフとフォークを床に落としてしまう。
「私は自由を愛しているよラクス・クライン。だからコンパスにも志願したし、そこで戦うことも誇りだと信じていたし後悔もない。死んだ戦友たちだってきっとそうだ。だからだ。だかこそなんだよ」
「だからだからうるせぇよ!ラクスを責めているだけだろうが!!」
俺は引き金に指をかける。精一杯威圧する。
「くくく。一つ言っておくがね、コクピット越しで人を殺すのと実際に引き金を引いて殺すのじゃ心の痛みは段違いだよ。どっちもしたことがあるからわかるんだ。自由は引き金を引いた者たちによって維持される」
黒人の青年はステーキを切ってフォークで刺してそれを食べる。そこには何の不安もない。
「ラクス・クライン。自由は尊いものだ。だがこのステーキの様に腹を満たしてくれるわけじゃない。それに比べて運命はどうだね?この街を見たか?私が自由を与えているのに、運命をよこせと喚き散らしている人々の姿を」
「お前は帝国軍の関係者か?」
「いかにも、ああ、自己紹介が遅れたね。私はディショーン・カーター中将。この北米大陸を統べる帝国軍の司令官だよ。運命の番犬ってやつだ。あはは!」
まさかのビックネームに俺の方がはるかに動揺してしまう。
「ユウ・ニニギ。君はザフトの脱走兵だそうだな。子供たちを救うために戦った。立派な兵士だ。だが駄目だった。上手くいかなかった。自由を選んだはずなのに。いや、わかってるんだろう?」
「やめろ!!俺は!俺は!!」
「自由の代価だ。自由とは他者の犠牲の上にある。誇れ。君は自分の選択で他者の命を消費してみせた。自由の騎士だよ。まるでキラ・ヤマトのようじゃないか!!」
その名を聞いてラクスはぽろぽろと涙を流す。あんまりだ。こんなの。
「彼は戦場で人を殺すのを厭うた。ラクス・クライン。君はそんな彼を戦場に立たせ続けた。君は自由を掲げた。その自由を信じてキラ・ヤマトや私の戦友たちは死んだ。ならば君は」
「言うな!言うんじゃない!」
「運命の女神そのものではないか」
そうだ。キラ・ヤマトも多くの戦争でもそうだ。自由を掲げつつも人々を戦いに煽り立てたのはラクス・クラインだった。そのたびに勝利はした。平和は勝ち取った。だけど。その裏には……。
「ラクス・クライン。私は君のしたことを尊いと信じているよ。犠牲だって仕方がないことだ。だがねぇ。なぜアコードたちに屈した?今までの犠牲は無になってしまうではないか。私たちが戦える理由を奪うのだけはよしてくれよ」
「わたくしが……わたくしが戦う理由?」
「ああ。君のためならと命を投げ出したんだ。なのに君はもっとも忌むべき運命に膝を屈した。命を無駄にしたんだよ君は。私たちが命を捨てられる理由を君は投げ出してしまった。彼らの魂は何処へ行けばいいんだい?どこで私は彼らの魂とまた会えるんだろう?」
目の前にいるのは傷ついた兵士だ。命は惜しまない。だが戦う理由だけは……奪ってはいけなかったんだ。
「いつかは人はわかりあえるとか、平和は尊いとか、自由を謳歌するとか、そんなことはどうでもいいんだ。ただね、私は納得できる理由が欲しかった。私たちが生きるには、命を捨てられるだけの理由が欲しかったのだ……」
俺は銃を降ろしてしまう。痛いほどによくわかるから。ザフトに入れられて自分なりに必死で戦う理由を作った。折り合いをつけた。意味がある戦いだと思い込みたかったから。家族を守るためとかそんな誰もを納得させられる手を血で汚す理由が欲しかっただけなんだ。
「ラクス・クライン。いまだに君には人々を争わせるだけの価値がある。私の野望は君が死ぬことで果たされるんだ。ラクス・クライン。次に会うのは戦場でだ。君のために戦うよ。今度は敵としてね」
ステーキを食べ終わったディショーンは立ち上がった。レジにお金だけ置いて軽い足取りで消えてしまった。
「……わたくしは……ユウ、わたくしは……」
「違う!ラクス!違う!そうじゃないんだ!違うよ!違うんだよ!絶対に間違ってる!君は悪くない!世界が!世界の方がおかしいんだ!!」
俺はそう叫ぶ。だけど誰にも届かない。間違った世界でも俺たちは生きていかなきゃいけない。だけどその理由が俺にはわからなかったんだ。
部品が宇宙から届いてオハイオの地下都市の工場でガンダムは修理された。
「名付けてジュディケーター・アセンション」
ジュディケーターガンダムはなんか見た目がマッチョみたいになってた。おかしいな?部品の交換だけじゃなかったの?
「なんか見た目がすごくマッチョになってるんだけど?何したの?」
俺がそう言うと部品屋のおっさんがどやって顔をした。
「このガンダムの設計を見たときに閃いたんだ。筋肉をつけてやろうと」
「馬鹿じゃねぇの?MSに筋肉なんていらねーよ」
「ジュディケーターは設計上、拡張の冗長性がすごく高かったんだよ。この機体、第一次大戦期の頃のだろう?」
「確かにそのころみたいだけど」
「だが未来を見越してたんだよ。ブラックボックスの中心部はともかく、四肢や駆動系なんかはワンオフのくせに数世代後の回収にも耐えられるだけのフレームに遊びがあったんだ。こいつの設計者は天才だよ」
おっさんはガンダムを尊敬の目で見てる。そんなにすごい機体のかこれは。だからこそ解せない。なんで倉庫で眠らせていたのかが。
「で弄ってていくつか気づいたことがあるから言っておく」
「あんまりいい話じゃなそうだな」
「ああ。このガンダムどこかと常に量子通信してた。中身は量子暗号の都合で解読は不可能だが、データの行き先だけはわかった。デスティニープランの中枢サーバーだ」
「はぁ?なにそれ?え?じゃあこの機体って常にトレースされてるのか?そんな期待に乗っていくのは敵地で遊んでるのと一緒じゃないか?!」
「だからこそだ。解せない。お前たちの話を聞く限りプランサーバーの持ち主の帝国でさえお前たちを必ずしも追跡に成功してない。あいつらもプランがガンダムと通信してるのは把握しているはずだが、プラン側がそれを帝国に渡してないんだろうさ」
「どういうことだよ。プランは帝国の支配下だろう?なのにプラン側が帝国にこのガンダムの情報を開示しない?」
「プランはもともとデュランダル議長の理論を実装したもののはずだが、現行のサーバーを作ったものたちの情報は伏せられてる。バックドアがあるんだろうな。そしてそのバックドア側の思想とこのガンダムは繋がっている。このガンダムは世界の秘密そのものだ」
「世界の秘密……はは。運命だったのか?くそ!」
偶然手に入れたはずのガンダムも世界と繋がっていた。その事実のやるせなさに俺はため息しか出なかったのだ。