機動戦士ガンダムSEED COORDINATION 作:笑嘲嗤
MPが来て騒ぎは終わった。だけど空気は最悪だった。ラグンヒルはアビントンを露骨に軽蔑した眼差しで見ていたし、アビントンはそんなラグンヒルを伺うようにしつつも俺に憎しみの目を向ける。犯人がアビントンとその隊の連中であることはわかったが、それでもどうしようもなかった。俺にできることは何もない。俺は出来るだけ自室に籠っているようにしていたし、ラグンヒルも俺のそばにずっといた。あとはひたすら肌を重ねることばかりしていた。仕事はする気にはなれない。そんなさなかに俺たちに隊のシフトのときに艦が不審船を発見した。
「地球からの方から来た船のようだが、識別コードがない。拿捕して欲しい。臨検する」
「了解しました」
この宙域は宇宙海賊が多い。もしかすれば密輸船なのかもしれない。俺たちの隊は艦長に命じられて出動した。そして護衛もつけていなかった丸腰の船を拿捕して戦艦のドックに入れた。歩兵たちが船員たちを引きずり出して、中の荷を検める。俺とラグンヒルはモビルスーツの中からその作業を見ていた。
『え?子供?うそ?なんで……』
船の中から出てきたのは十数人の子供たちだった。人種はバラバラだったが、見た目からするとおそらくナチュラル。艦長が船員の胸倉を掴んで怒鳴り散らしているのがモニターに映る。
『人身売買なのか?最悪だな……』
『ひどい……』
サブウィンドウに映るラグンヒルは悲しそうに俯く。犯罪はプラン後の世界でも結局なくなっていない。人は容易く悪に堕落する。そんな中だ。船員の胸倉を掴む船長にアビントンが近づいていった。
「なんだ?」
『スペンサー?!なんのつもり?』
アビントンは艦長に何事かをひそひそと喋っていた。小声過ぎてMSのマイクで声を拾えない。俺は嫌な予感がしてMSの中から出て、無重力の中を遊泳して、艦長たちに近づく。同じようにラグンヒルも傍に降りてきた。
「一体何ごとですか艦長?」
艦長は悔し気に唇を引き結び、船員から手を放していた。艦長は何も語ってはくれなかった。隣のアビントンの様子が気になる。彼は子供たちを嫌な目で見ていた。
「スペンサー。なに?なんなの?!あなたはこの船に何か関係があるの?!」
「大きな声を出さないでくれラグンヒル。大したことじゃない。あの船は俺の実家の会社のチャーターした運び屋だ」
「はぁ?!え?どういうこと……」
「別に大したことじゃない。ラグンヒル。わかっているだろう。コーディネーターの出生問題は深刻だ。だからだ」
「だからって。だからなんでこの子たちが関係あるっていうの?」
「あの餓鬼どもはモルモットとして輸入した。健康だけがとりえのプランから弾かれた劣等種どもだよ。俺たちコーディネーターのために実験材料にするのさ」
それを聞いた瞬間、震えが体に走った。ラグンヒルもひどく驚いて両手で口を押えている。
「うちの実家は製薬会社だ。プラントの出生問題の解決のために今も研究者たちが研究を続けている。必要なんだよ。新鮮なモルモットがつねにな」
なんてこともないように、アビントンはペラペラしゃべる。こいつは何を言っているんだ?こいつは本当に人間なのか?ラグンヒルが震えている。
「スペンサー、あなたは……」
「ああ。俺はプラントのためにこうして頑張っているんだ。ラグンヒル。過ちは許すだからそんな雑種なんかとは縁を切るんだ」
「うぅうあぁあああああ!!」
ラグンヒルはアビントンに飛び掛かる。ヘルメットでひたすらアビントンを叩き続ける。
「やめろ!やめてくれ!」
「お前は喋るな!死ね!死ね!殺されろ!私に殺されろ!!」
すぐにMPたちがやってきてラグンヒルを止める。
「はなして!はなしてぇ!殺させて!そいつは人間じゃない!始末させてぇ!」
ラグンヒルは涙をボロボロ流している。
「くそ。ラグンヒル可哀そうに。雑種なんかに絆されて……。艦長。ガキどもは牢に入れておけ!もうこの船で直接プラントに送る」
艦長は逆らわず、MPに指示を出す。子供たちは牢へと連れていかれる。アビントンは政府の許可を取っているのだろう。だから艦長も従っている。こんな非道がまかり通っている。すべてはプランの名の下に。
俺の横で裸のラグンヒルが涙を流しながら寝ている。優しい子だ。俺は頭を撫でる。だけど優しいだけではこの世界はどうにもならない。俺はベットから出て、パソコンを開き、プログラムを組む。そしてそれを艦内ネットワークに流した。すぐにパイロットスーツに着替えて、俺は部屋を出て牢に向かう。牢のエリアの入り口にはMPが二人立っている。カメラも回っていた。俺は通路の曲がり角に隠れて時計を見る。
「5,4,3,2,1」
持ってきたタブレットにプログラムが起動したポップウィンドウが出た。これで監視カメラはしばらく止まる。そして俺は壁を蹴ってMPたちのもとへ飛び、二人を殴って気絶させる。そして持っているカードキーを奪い、牢のエリアを開けて、中に入る。子供たちは柵の中に入れられていた。
「おい。この中で一番の年長は誰だ?」
俺が子供たちに呼びかけると一人の女の子が手を上げた。
「私ですけど」
「名前は?」
「クレア」
「クレア。これで子供たちを縛っていってくれ」
俺はロープを渡す。
「どうして?」
「君たちを逃がす。このままだと君たちは遠からず死ぬ。だから逃げよう。大人しく従ってくれ」
クレアは頷き、子供たちをロープでつないでいく。俺は牢の鍵を開けて、クレアを先頭に子供たちを外出す。
「無重力にはなれていないだろう?俺がロープを引っ張るからついてきて」
子供たちは大人しくロープを握り、俺に引っ張られていく。そして艦の脱出ポットの入り口までつれてきた。
「全員中に入って。そしたら椅子に座ってベルトを締めて待っていてくれ」
子供たちをポットの中に入れて全員がベルトを締めて座ったのを確認して、俺は入り口を締める。そしてボタンを押して、艦からポッドを切り離した。すぐにドッグに向かう。
「うん?ニニギ隊長?あなたのシフトじゃないですよね?どうしてここに?」
「ちょっとした演習だ」
俺は整備兵たちに声をかけられたが、それをスルーして自分の愛機のハイザックに搭乗する。そしてすぐに武装して歩き出す。
『ニニギ隊長!?発進許可は出ていませんよ!』
モニターに管制官の顔が映る。俺はすぐにそのウィンドウを閉じて、音声だけブリッジに送る。
「俺をすぐに外に出せ。じゃなきゃここで暴れるぞ」
『どういうことだ?!ニニギ大尉!何のつもりだ?!』
「もうプランにはうんざりだ!!俺は子供たちを連れて脱走する!すぐにハッチを開けろ!じゃなきゃ壊してでも出る!!」
モニターに映る艦長は渋い顔をしていた。だけど本気度が伝わったのだろう。すぐに整備兵たちが退避して、ハッチが開いた。俺はそこからバーニアを吹かして外へ出る。そして脱出ポッドを拾って加速する。だけど予測通りに声が聞こえた。
『脱走兵になったな!雑種ぅう!待っていた!お前をぶち殺す瞬間をようぅ!』
「鬱陶しい」
俺は脱出ポッドを放して、迫ってくる。六機のアビントン隊のハイザックたちに機体を向けた。
「こっちは六機だぜ!敵うもんかよ!しねよや!」
ハイザックたちが一斉に俺にビームライフルを撃ってくる。だがその弾道は単純だった。俺はそれらを全て躱して、一気のハイザックに肉薄して胴をビームサーベルで切り裂く。
『は、はやい?!』
動揺の声が向こうのチャンネルから流れてくる。すぐに三機のハイザックが俺を取り囲む。皆ビームサーベルで俺のコックピットを突きさそうと迫ってくる。だから俺はあえて一機に狙いを定めてそいつの頭部にケリを入れる。そしてその反作用の勢いでそのまま。反対側のハイザックに迫り、胸にライフルの銃口をあてて引き金を引いた。
『う、うそだ?!あり得ないもう二機も?!』
「いいや三機だ」
俺はすでに迫っていた三機目のハイザックにビームサーベルを投げていた。それはコックピットを貫いて、機体を爆散させた。あとは二機。アビントンの乗る機体と副長の機体。
『くそぉ?!』
アビントンの機体がビームサーベルを抜いて副長機と共に迫ってくる。俺はブースターを吹かして一旦距離を取る。そして爆散した機体の足を掴んで迫る二機に投げつける。
『ちぃい!このがらくた』
「ああ、すぐにがらくたになれ」
副長のハイザックが足を切り裂く。その隙を狙って後ろに回り込み、ライフルで背中から狙撃して撃破する。
「あとはお前だけ……いない……」
アビントン機ははるか先にいた。追いかけて倒す余裕はこちらにはない。俺は装備をしまって脱出ポットを拾いなおして、艦から大急ぎで離れたのだった。
そりゃ逃げる。誰だって逃げる。