︎︎まのさばが良すぎて感情が高まったので、衝動的に殴り書きました。牢屋敷での騒動から数ヶ月ぶりに再会した、エマ達仲良し組のお話です。
※本作はゲーム、魔法少女ノ魔女裁判(まのさば)のネタバレを含みます。本編を未プレイの共犯者さんは、クリア後にお読み頂く事を強くオススメ致します。
「はぁ、今日も暑いなぁ……」
雲一つ見えない頭上には燃ゆる恒星が輝き、天から降り注ぐ炎は大地を燃やし、じっとりとした熱気が肌にまとわりつき、流れる汗がボクの神経を逆撫でていく。
「二人とも、もう来てるのかな」
季節は夏。あの島での騒動から、早くも四ヶ月が経とうとしていた。
「あ、ほら!来ましたよ!おーい!」
「やっと来やがりましたわね。コチラですわ~!」
離れた所に見える友人達が、大きく手を振る姿が小さく見えた。それを横目に過ぎていく通行人達は、呆れたり笑ったりと多種多様な反応を見せ、それを見ていた
「ごめんね二人共、待たせちゃったかな」
「全然気にしてねぇですわよ」
「今日は良い天気になって良かったですねー」
ボクが軽く手を挙げて謝ると、片やポーチから取り出したハンカチで汗を拭いながら、片や被った帽子のツバに手を当て、空を見上げてそう言った。
「本当にごめんね。父さんとお母さん、アレからちょっと過保護気味になっちゃって」
ボク達が社会という虫籠から隔絶されてから約一週間。牢屋敷で目覚めたボク達は、戸惑いながらも無事に魔女裁判を乗り越え、魔女の呪いから解放された。そして一部のメンバーは島に残る事になり、残りのメンバーはそれぞれ元の場所へと帰還する事になったが、国が秘密裏に運営していたこの施設における生還者の前例は無く、今回の様な事は異例中の異例。その為、様々な手続きや検査の兼ね合いもあり、保有していた魔法の危険度が高い人程、釈放が遅くなってしまった。
その中でも、たった一度の魔法で全人類を殺す可能性を秘め、その自覚すら持っていなかったボクは他のメンバーよりも釈放が大幅に遅れ、気が付けば外で過ごした最後の記憶から、約一ヶ月が経過していた。
そうして家に戻ったボクを、お父さんとお母さんは、何も聞かずに優しく抱き締めてくれた。表向きには友人達と旅行に出掛け、その行き先である無人島で遭難した、という説明がなされており、それに話を合わせるように両親とも話をしたが、その結果、夜中に突然旅行に出たくなったボクが何も言わずに旅行に出かけ、その先で危険な目にあった、という筋書きが生まれてしまい、大好きな両親にこれ以上心配を掛けたくないというボクの意思も相まって、帰還してすぐの頃は学校にも送り迎えをして貰う事となった。今は少しずつその束縛も軽い物になりつつあるが、外出時は何処に行くかと何時までに帰るかを伝えて出るのと、スマホのGPSは常にオンにしておく事が義務付けられている。
「あら、それはとても良い事ですわね」
「あっ、……ごめん。ボク、そんなつもりじゃ無かったんだけど、その……」
気軽に口に出したその言葉に、我が事ながら辟易した。
ボクのバカっ!二人の家庭の事は分かっているはずなのに、何でこんな事言っちゃったんだろ……。ボクがこんな事言っても、嫌味にしか聞こえないよね……。
「……いいえ。今のは
「ううん!ハンナちゃんは何も悪くないよ!ボクが変な事を言っちゃっただけだから……」
「もー、ハンナさんもエマさんも気にしすぎじゃないですか?せっかく久しぶりに集まったというのに、いきなりそんな暗くてどうするんです?今日は目一杯楽しむ予定なんですから、もっと明るくいきましょうよ!」
絶望的ともいえる状況下で尚、底抜けの明るさを『最後』まで失わなかった彼女に、ボクたちはどれだけ救われた事だろうか。あの時と何も変わらない彼女の様子に、ボクは懐かしさすら覚えた。ふと隣を見ると、同じ様な表情を浮かべ、こちらを見ているハンナちゃんと目が合い、二人して吹き出してしまった。
「あれ?私また変な事を言っちゃいましたかね?これでも結構、普通の女の子になれてる自信あるんですけどねー」
そう言って顎に手を当て首を傾げるその仕草も、実に彼女らしいと思ってしまい、更に吹き出しそうになったのをグッと堪えた。
「ううん。ちっとも変なんかじゃないよ。シェリーちゃんはやっぱりシェリーちゃんなんだなー、って」
「あら、奇遇ですわねエマさん。私も同じ事を思っていましたわ?本当、妖精さんはどこまでいっても妖精さん、ということかしら」
「あれ?もしかして私、ディスられてます?」
「いいえ、気のせいですわ。むしろ褒め散らかしているくらいですもの」
「あ!そうなんですか?やったー!ハンナさんに褒められたー!」
「ちょっとシェリーさん!こんな街中で大声で騒がないでくださいまし!皆さんに見られているでしょう?!」
「……見られてるのは、どちらかと言うとハンナちゃんの喋り方のせいじゃないかな……?」
出会った頃と変わらぬまま、騒ぎ始めた二人の横で、ボクが呟いたその言葉は、二人の耳に入る暇も無く、街の熱気を浚う風と共に、空へと消えていった。
◇
それから少し歩き、ボク達は近くの喫茶店に腰を下ろしていた。
「そういえばエマさん。無粋かとは思いますが、気になってしまっていますので、ずばりお聞きしますわ!ヒロさんとは上手くいっていますの?」
「う、うん。上手くいってる、と思うよ?」
目を輝かせてテーブルの対面から身を乗り出すハンナちゃんに少し尻込みしてしまうも、ボクは少し考えてそう答えた。
二階堂ヒロちゃん。ボクの幼馴染であり、ある意味ボクの因縁の相手でもあった人。あの島、牢屋敷での騒動を経て、昔の様な友人関係に戻るどころか、それを通り越し、何とボクはヒロちゃんとお付き合いさせて貰う事になった。まだ短い期間でのお付き合いではあるが、その関係は良好と言っていいものだろう。
「ヒロちゃん、ボクがバイトの日とかで電話に出れなかったりすると、すっごく心配そうな顔でお店に来てくれたり、家まで来てくれたりするんだ」
「確かお二人は学校は別々なんでしたっけ?やっぱり違う学校に通っているとなると、ヒロさんも寂しくなったりしちゃうんでしょうか?」
「エマさんがヒロさんにベッタリというのも良いですが、ヒロさんがエマさん欲しさに引っ付きに行く光景というのも、実に見てみたい気がしなくもねぇですわね!」
ハンナちゃんの隣に座るシェリーちゃんの言葉に、彼女は更に瞳を輝かせていた。ボクがヒロちゃんの話をする時のハンナちゃんは、最近はいつもこんな感じだ。ボクとヒロちゃん。女の子同士の恋愛に興味があるのか、はたまた自分がそうなった時の為に何かと情報を仕入れておきたいのか。
どちらにせよ、ハンナちゃんが楽しそうで良かった。
長い手続きを終えて無事に釈放され、現実へと帰還したばかりのハンナちゃんは色々と大変だったらしい。細かい話は聞いてはいないが、以前に住んでいた場所へと真っ先に足を運んだ時、そこにはもう、ハンナちゃんの居場所は綺麗さっぱり無くなってしまっていたらしく、今は恩赦として与えられた仮住まいで一人暮らしをしており、ボクやシェリーちゃんだけでなく、あの日々を共に乗り越えた仲間達が、たまに遊びに行くこともあるみたいだ。
妹さんの事、ご両親の事。ハンナちゃんが心に閉じ込めた最奥、トラウマは牢屋敷の皆が知っている。勿論ハンナちゃんだけじゃなく、皆がそれぞれの禁忌を知るからこそ、ボク達は皮肉にも真の友達とも呼べる関係を築けている。そういう意味ではボクは、あの場所に感謝の念すら抱いているのかもしれない。
メルルちゃん……。ユキちゃん……。
あの島で失くしてしまった、二人の友人。ボクには彼女たちを恨む事なんて出来ないし、あの島での出来事を、忘れたくないと思っている。
「エマさん?どうかされまして?」
そんな思いが少し顔に出てしまっていたのか、ハンナちゃんが心配そうに声をかけてくれた。
「えっ、あ、うん。もしかしたら、メルルちゃんもこうやって一緒に遊んだり、こんな風に笑ったりする世界も、あったのかなって、そう思って」
「で、ですが、メルルさんのせいでわたくし達はあんな目にあったのでは無くて?少々人が良過ぎるのでは?」
ハンナちゃんは、まだメルルちゃんやユキちゃんの事を本当の意味で許せてはいないみたいだ。
ボクもシェリーちゃんも、それを今更どうこう言うつもりはない。大事なのは今であり、過ぎ去り、消え去った事を考える必要は無いのだ。けれど、ハンナちゃんは今もそれを悔やんでいる。時折ボク達の顔を見て思い出すのか、突然泣きそうな顔になり哀願するように謝られる時がある。
「うん。それはハンナちゃんの言う通りだよ。ユキちゃんが居て、メルルちゃんが居たから、あの騒動は起きた」
ボクはそんなハンナちゃんの顔は見たくない。ハンナちゃんやシェリーちゃん、それに他の皆にも、ずっと笑っていて欲しい。幸せであって欲しい。それが今のボクが持つ、純粋な願いだった。
「で、でしたら──!」
「でもね、ボクはこうも思うんだ。ユキちゃんとメルルちゃんが居たから、ボク達は今こうしてここに居る。あの二人が居なかったなら、ボクはずっと、ずーっと、あの地獄の中にいたかもしれない」
「で、でも、エマさんの地獄はユキさん?が創り出した物では無かったかしら?つまりユキさんが居なければエマさんはそんな辛い目にあっていなかった、ということになりますわよね?」
「うん。そうだね。でも、そうしたらやっぱり、ボクはここには居ないんだ。こうしてハンナちゃんやシェリーちゃん、大切な友達と出会えていなかったんだよ」
「……エマさんは良いですわよね」
「えっ?」
蚊の鳴くような声。正直、ハンナちゃんが何を言っているのか、ハッキリとは聞き取れなかった。そして聞き返そうとして気が付いた。ハンナちゃんの肩が、声が震えていた。
「だってエマさんは!……誰も殺していないんですもの……!」
激情という刃物を突き付けられたボクの思考は、そこで完全に停止してしまった。
「大切な友達と出会えた?その通りですわ!でも!そんなかけがえの無い大切を、……わたくしは……自らの手で、壊してしまったの……」
ハンナちゃんの瞳から、涙が零れ落ちていく。過去の未来で起きた事件。彼女がその記憶に縛られ、ずっと後悔している事は分かっていた。それでも、その心に打ち込まれた楔の大きさまでは、分かっていなかった。いや、違う。分かった気になっていただけだ。
「わた、くしは……皆さんの事、大好き、なのに……」
現実から目を背け、保身の為に目を瞑り、地獄から逃げ続けたあの日々が、頭の中に鮮明に蘇る。
次第に『私』の呼吸は乱れ、視界はジワジワと歪み、捻れ、自身が座っているのか倒れているのかも分からなくなる。
やめて。もうやめてよ。
その言葉が、ほんの一握りの勇気が出なかった現実が、どれだけ否定しようとも、逃げる事の出来ない罪が、ボクの心を締め付ける。そしてボクの思考は完全に途絶え、目の前に広がる景色は黒一色に染まって──。
︎︎バンッ!
突如鳴り響いた爆音に反射的に身を震わせ、沈んでいたボクの意識が急浮上する。どれくらいの時間そうなっていたのかは分からないが、恐る恐る顔を上げると、そこには両手を合わせ、ニコニコと笑みを浮かべるシェリーちゃんの姿があった。
「私、さっき言いませんでしたっけ?暗いのは無し、ですよ?」
顔は笑っているが、その目はこれっぽっちも笑っていないシェリーちゃんの姿を見たボク達は、声を揃えてただ一言そう呟いた。
「「ご、ごめんなさいでした……」」
◇
「まったく。どうしてお二人はすぐにそう暗い感じになるんですか?さっきも言ったと思うんですけど、もしかして分かってもらえて無いんでしょうか?それとも、分かった上でわざと暗くしているんでしょうか?」
静かな店内に突然響いた怒声と「殺した」というワード、更には大爆音で放たれた合掌?も相まって無事に店員さんからの注意を受けたボク達。それから暫く経ち、ようやく少し落ち着いたシェリーちゃんだが、頬を膨らませ、ぷりぷりと怒る様を見て、ボクとハンナちゃんはただ平謝りを続ける事しか出来なかった。
魔女因子が無害化し、
皆に笑顔でいて欲しい。そう願った矢先に一人を泣かせ、一人を怒らせてしまった。本当にボクはダメな人間なんだ……。
「はぁ。お二人の言う事は分かります。私も、あの記憶の全てが幸せだったかと聞かれると、答えはノーで返すと思います。それでも、エマさんが言う様に私は皆さんと出会えて幸せです。こんな私を気味が悪いと避けず、罵らず、真正面から受け止めてくれた、大切な友人だと思っています。ハンナさんも、私達の事をそう思ってくれていると嬉しいです」
「も、勿論ですわ。お二人だけでなく、皆さんの事も大切だと思っておりますわ!」
さっきの大合掌で驚きが勝り、涙も引っ込んだハンナちゃんが、シェリーちゃんの目を見てそう言った。
「ありがとうございます。嬉しいです。ハンナさん、私はここじゃない『別の世界』で、ハンナさんを殺しました。あの時に魔法の力で見た世界とは別、他の世界ではもっと酷い殺し方をしていたかもしれません。友達だから、なんて理由もなく、ただ己の為だけに殺していたかもしれません。そうだとして、ハンナさんは、それを恨みますか?私の事を、嫌いになりますか?」
「いいえ……いいえ!嫌いになんてなるはずがありません!だって、シェリーさんは……、皆さんは、わたくしの宝物なんですもの!」
唇を噛み締め、震える拳をグッと握り締めていたハンナちゃんの手を、シェリーちゃんが優しく包み込んでいた。
「それは私にとっても同じです。そして、それはエマさんにとっても同じだと思います」
「うん。シェリーちゃんの言う通りだよ。ボクはハンナちゃんが好き。シェリーちゃんが好き。皆の事が大好き。だから、皆には笑っていて欲しい。一人で抱え込まないで欲しい。辛い事があったら、頼って欲しい。ずっと、幸せであって欲しい。それが、身勝手なボクからの、皆へのお願いだよ」
「そんなの、ズルいですわ……。そんな事言われたら、わたくしは……」
「ハンナさん」「ハンナちゃん」
「ずっと一緒です」「ずっと一緒だよ」
「「
「わた、わたくし……、ごめん、なさい……」
その言葉を皮切りに、嗚咽を漏らすハンナちゃんの瞳からは、大粒の涙が溢れた。けれど、先程や以前までとは違う、何処か重荷を下ろした様な、穏やかな表情を浮かべていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
再び静けさを取り戻した店内には、啜り泣くハンナちゃんと、その手を握り、優しく頭を撫でるシェリーちゃんの姿があった。何故か遠くで鼻をすする様な音がした。
◇
「も、申し訳ありません。お見苦しい姿をお見せしました……」
耳まで真っ赤になったハンナちゃんが、恥ずかしそうに下を向きながらそう呟いた。
「お二人共、ありがとうございます。わたくし、もう大丈夫ですわ。わたくしは、一人ではありませんものね」
自身の中で整理が着いたのか、ハンナちゃんは顔を上げ、曇りのない目でそう言った。それは、いつか四人で行ったピクニックの時と同じくらい、晴れやかな顔をしていた。
「その通りです!何かあれば、いつでも頼ってください。私達は、友達なんですから。ハンナさんの為なら、何時だって、何処に居たって、私が必ず助けに行きますよ」
シェリーちゃんのその言葉に、ハンナちゃんは再び顔を赤らめ、下を向いてしまった。それを見たシェリーちゃんは首を傾げていた。そんなありふれた光景を見て、少し笑ってしまったボクは二人から視線を外して外を見た。
きっと、これからも色々な事がある。辛い事。悲しい事。一人じゃ抱え切れないような事。
それでも、ボク達には他の人には言えないような、深い繋がりがある。喜びを、怒りを、哀しみを、楽しさを、全てを分かち合える人達が居る。
私達は一人じゃない。
だから、今日も生きていく。
過ぎ去った時間に、嘘をつかない為に。ボク達を信じて、去っていった友人達の為に。絶望が溢れるこの世界で、前を向いて、希望を持って、夢を追って、幸せを願って、生きていく。かけがえの無い、仲間達と共に。
窓ガラス越しに見た空は、気持ちが悪いくらいに、本当に良い天気だった。