ヤンガスもゲルダもそれぞれ同じウワサを耳にし、口々に言うならもうここは「海賊の洞窟」なんだろう。
実際、放棄されて久しい古びた調度品はどことなく海に生きる人間らしさらしきものが沢山残っている。
船の操舵の見た目をした仕掛け、残された荒々しい武器たち、そして船がなければそもそもたどり着けない立地。
ここが海賊の元アジトだとして、彼らのお宝が残っているかもしれないというのはロマン溢れる考え方だ。
今は魔物の巣窟と化しているけれど、いくらか使えそうな武具が残っているのも確かで探索しているとちょっとワクワクする。
ヤンガスなんて途中で良さそうな盾を見つけてそれを戦利品にするらしかった。
湿気がすごい空間のわりに保存状態も悪くないみたいだ。
これが陸にある洞窟ならとっくに誰かに見つかって荒らされていてもおかしくないのかも。
どう見てもここの所有者はとっくにいないので見つけたものはおのおの好きにしたらいいんじゃないかな。
ここにきてまさか、冒険小説の醍醐味ともいえる「トレジャーハント」ができるなんて思ってもいなかった!
一年くらい前の、まだどこにも鱗が生えてもいない、ただ暇を持て余しているだけの僕に教えてやりたいくらいだね。
あのころの僕は暇を持て余しすぎて鍛錬に明け暮れ、そうじゃなきゃ城の中を散策している外の国の人間を捕まえては話を聞いたり、ぼーっとバルコニーから外を見ているだけだった……。
なんたって、今の僕たちは占いのチカラに導かれ、既に廃墟となった海賊の洞窟に潜入し、そのお宝を狙っているんだから!
なんて冒険ロマンに溢れているんだろう!
ともあれ。
海賊側もみすみす侵入者にお宝をくれてやるつもりは無いらしく。
アジトの中にはいくつか「仕掛け」が施されていて少しばかり頭をひねる場面もあった。
ただの行き止まりの部屋に見える場所には実は隠し扉があったり。
淀んだ水が塞いでいる先にはしごが繋がっていて、通るために水栓を探し回ったり。
薄暗い中、曲がり角で突然魔物に襲われたのは……さすがに海賊側の意図したものではないのかな?
途中、いつの間に追い抜かされたのか水栓を動かしたらゲルダが現れて先を越されるなんて事もあったけど……。
それまで全く気づかなかったから、横道に逸れた時に抜かされたんだと思うけど、それにしたって誰一人まったく気づかなかったのだから彼女の「忍び足」の実力は本物らしい。
ヤンガスの言う「弱い」っていう発言は過分に心配も含まれていると思うのだけど、確かにこの凄まじい実力じゃ実戦経験は少なそうだ。
とはいえ、連れてきた屈強そうな部下? 手下? を船に残し、単身で魔物の巣窟に乗り込んでくるくらいなんだから無策ではないと思いたい。
この洞窟内に生息している魔物は一撃で斬り捨てられるから別に強くないけど、ゲルダにとってもそうかは分からない。
出会い頭に襲いかかってくる魔物たちを次々と斬り捨てながら、ほとんど陽気に散歩しているのと変わらない速度で進み続ける。
そして……。
「やっぱり先を越されていたみたいでがすね……」
「しかもわざわざ追いついてくるのを待ってたのね。あーあ、ゲルダさんとの交渉は骨が折れるわよ」
こっちの会話が聞こえているのかいないのか。
最奥に位置している、ひときわ豪華な宝箱の前に陣取っていたゲルダは僕たちを眺めて、いや……ヤンガスにまっすぐ視線を向けて、宣言した。
「遅かったね。まぁあんたにしては早かったか。だけど残念、海賊のお宝はあたしが頂いていくよ。ここまで骨を折ったんだから中身くらいは見せてやってもいいけどね」
「くそっ自慢かよ……すいやせん兄貴、アッシがもっと早く海賊のお宝のことを思い出していたら、こんなことにはならなかったでがす……」
「……は、兄貴? あんた、見ないうちに変わったね。昔はあれだけとがっていたのに」
「変なことを言うんじゃねぇぞ。今は兄貴に命を救われたご恩を返すために心を入れ替えて生きてんだ! これには聞くも涙、語るも涙のふかーい話が……」
「こんな所で面倒な話はしなくていいから」
僕の知っているヤンガスはよく慕ってくれる姿しかほとんど知らないものだから、もともとの態度とかほとんど思い出せないくらいなのだけど、相当昔とは違うらしい。
さて。
ゲルダにとって、海賊のお宝よりもっと欲しいものと交換条件を出す、とかうまくやれたらいいんだけど。
それでもわざわざ船まで仕立てて出向くほど熱意がある人間を説得できるか怪しいような……。
ルイネロの占いを疑っているわけじゃないけれど、あの宝箱の中身が例の海図じゃなければ話が早いんだけどな。
豪華な貴金属とかが入っているなら僕たちそんなのはいらないんだし。
海図の保管場所を探して引き返すだけでいいんだから。
とはいえ、まさか後ろから不意打ちで手荒な真似をして奪い取るなんて許されることではないし、それ以前に単純に彼女とは距離があった。
僕らが止める間もなく、交渉の余地もなく、ゲルダは海賊の宝箱に向かい合った。
その時。
全身の毛穴という毛穴が逆立ってしまうような異様な怖気が走り、僕は反射的に剣を抜いていた!
なぜなら、ゲルダが開けようとした宝箱の上には半透明の人型……どこからどう見ても幽霊としか言いようがない……がいたからだ!
幽霊だなんて実在したのか!
アンデッド系の魔物がいるのは知っているし、なんならおじ上が用意してくださった僕の剣は「ゾンビキラー」だけど、人間らしい形をしっかりと残した存在なんて聞いたことがない!
幽霊のせいか周囲の気温がぐっと下がった気がする。
もともとひんやりとした洞窟の中が、オークニスの薬草園のような強い冷気を帯びているように感じる。
『我が名はキャプテン・クロウ。かつて世界の海を股にかけし海賊の中の海賊……。
なんじ、我が財宝を求める者か?』
「チッ……一筋縄には行かないか」
『我が財宝に相応しいチカラを持つ者か? ならば我と戦い、その資格を示すがいい』
幽霊は名乗った通り、いかにもな「海賊」の男だった。
ドクロマークのついた大きな羽根つき帽子を被り、不精髭を生やし、長いコートを着ていて、髪は伸び放題の粗野な容姿。
左手にはカットラス……パッと見はレイピアに似ているけれど、あの湾曲した形はレイピアじゃないだろう……を携えている。
もしかして、ステレオタイプな海賊って、彼から来ているのか? と思えるくらい「らしい」。
本人の言葉が正しいなら、今残っている海賊の物語は彼が原型なのかも。
ゲルダが応じるようにナイフを抜いたのを見るとそのまま剣で何度も打ち合った。
小さなナイフは悲鳴を上げ、ゲルダは慣れない手つきでキャプテン・クロウの剣をいなしていく。
手さばきはぎこちないけれど、その反射神経は見事なものだった。
……あれ、あの海賊には殺す気がないね。
言葉通り「資格」を見るつもりなだけ?
しばらくの打ち合いの末、ゲルダは吹っ飛ばされてしまう。
彼女のナイフが僕らの近くに突き刺さり、倒れた彼女はピクリともしない。
だけど、出血もなければあの攻撃が致命傷だったとは思えない。
倒れた時の打ちどころが悪ければ話は別だけど、山ほどの人間を叩きのめしたことのある僕から見れば上手く気絶させられただけに見える。
ならず者の「海賊」の割に仁義があるというか、妙に良心的というか。
化けて出ているわりには真っ当な行動というか。
こっちからすれば幸いだ。
「みんな。ゲルダを介抱していてくれないかな」
「兄貴、ゲルダはそんなにやわじゃねぇでがすよ」
「そう? でもそれを抜きにしても僕、ちょっと腕試ししてみたくって。大昔の海賊相手に一騎打ちなんてそうそうできることじゃない。ダメかな?」
「あ、兄貴ぃ……」
この場で一番ダメとは言わなさそうな人に聞くのは狡かったかな?
なんて思いつつゼシカとククールの方を伺う。
なんだかちょっと……微妙な……呆れたような……そんな顔だけど、止める気はないみたい。
「あー、そういえばあのワガママ王子の従兄弟だったっけ」
「チャゴスと僕に差なんてないさ。正面からワガママを突き付けるか、ちょっと断りにくくして押し付けるかの違いだけ」
「好きにさせとけ。俺は背が低い太っちょの馬に蹴られないように治療するんだ、ゼシカは手伝ってくれ」
「じゃ、頑張ってね」
オロオロしているヤンガスには悪いけど、ぜひゲルダの方を心配していて欲しい。
「キャプテン・クロウ! さぁ、次は僕が相手だ。神鳥の島へ用事があるんでね」
『ほう……光の海図を知る者か。なんじも我と戦い、資格を示すがいい!』
言うが早いか素早く剣が迫る。
わざわざ受けてやる必要はない。
軽く身をかがめて避けると、僕は胸元めがけて剣を叩き込んだ!
生身の人間相手には到底できない凶行も、姿が透けている幽霊にならやったって構わないでしょ!
剣から伝わってくる手ごたえは「かたい」ような「弱い」ような、虚空を突いているほど虚無ではなく、だけど肉のついた生物を突き刺すような感触もなく。
『良い踏み込みだ』
「お褒めは結構」
姿が幽霊だから攻撃できる、だけど幽霊だから生身の相手ほどダメージを通せない?
それともたまたま僕の剣が「ゾンビキラー」だから攻撃を通せているんだろうか?
だけど、そんなことはどうでもいい。
効いているなら倒せる!
巻き起こされた真空の刃が眼前に迫る。
大きく跳躍してそれを避け、天井を蹴って勢いよく上から斬りかかる!
剣は狙い通りキャプテン・クロウの身体を真っ二つにした、ように見えたけれど致命傷ではなかったようだ。
幽霊をどうやって剣で倒すというのか、「資格」を示せば戦いを終わらせてくれるのだろうか?
なんて他のことを考えていたからなのか、気づけばカットラスが迫っていて、僕は剣で受け止めて振り抜いて弾き返した。
ああ、左利き相手は慣れてないから少しやりにくい!
「
剣を振りぬいた右腕では間に合わない!
左手で放った雷で海賊をひるませ、僕は再びキャプテン・クロウの懐に飛び込んだ。
狙うは心臓か? それとも首か?
いや。
平気で自分の身体を刺し貫くような軌道で僕を斬りつけようとするのを、盾と鱗の生えた腕で攻撃を逸らして払いのけつつ左腕を狙って斬りかかる!
普通なら骨ごとすっぱり断っただろうに、幽霊だからか腕が落ちることはなかった。
でも、無事では済まなかったらしく、地面にガランと音を立ててカットラスが落ちた。
そのまま、主人から離れた剣は空気に溶けるように消えていく。
ぶらんぶらんと奇妙な方向に曲がった腕が揺れ、普通ならこれで戦闘不能だろう。
しかし、やる気はまだあるようだ!
なにやらチカラをためている海賊の身体が奇妙な紫の光を帯びて輝く。
大技が来るのか!
ここは飛び退くか、それとも。
相手は自壊を恐れないだろうから、張り付いたままが安全とは言えない、かもだけど。
だけど、敢えて。
僕はタイミングを見計らって素早く背後に回り込み、真空刃の直撃を避けた。
さっきまでいたキャプテン・クロウの前方の地面は深くえぐれている。
当然余波が僕を切り刻んできたけれど、問題ない程度だ。
だけど、海賊の方は利き腕と剣を失い、チカラを使い果たしたのだからこれ以上の追撃は無理だろう。
僕は肩から思いっきり突っ込んで海賊を地面に引き倒すと、眼前に剣を突き付けた。
「僕の勝ちだ」
『見事だ。資格ある者よ、我が財宝、持っていくがいい……』
満足そうに言い残したキャプテン・クロウの姿は、魔物を倒した時と同じ青い光に包まれて消えた。
未練のあまり姿は変わっていないけど魔物になってしまっていたのか。
後には彼の被っていた海賊の帽子だけが残っていた……一応拾っておこうかな。
戦利品というよりは敬意というか……トレジャーハントというよりは称える気持ちというかね?
チャゴスに土産話をするときに現物が何かあった方がいいかもだし。
緊張が抜けた瞬間に真空波にざっくりと切り刻まれた頬やら腕やらの痛みを感じて、回復呪文を唱えた。
うん。
なんだか頭の中がスッキリした気持ち。
思いっきり戦うって気持ちいいな、やっぱり。
「あー、楽しかった!」
「楽しかったって、お前な……」
「どんな悪人相手でも殺すつもりで攻撃できないでしょう? 魔物相手にやるような攻撃を人型相手にやれる機会が来るなんて思ってもなかったよ」
「あ、ゲルダさん起きたわよ」
じゃあ憂いなくお宝を検分できるね。
宝箱を開けると、中には古びた紙が入っていた。
そっと広げると海図で間違いない。
すると、いつの間にか傍に来ていたゲルダも覗き込んでいた。
「なんだ、あれだけ厳重に守っていたのに中に入っていたのはお宝っていうのはこんなぼろっちい紙切れかい」
「ゲルダ、もう起きて大丈夫なのかよ?」
「あんたたちのおせっかいのお陰でね。あー、こんなところまで来て無駄足だったって訳か」
それならそもそも取り合いしなくてよかったな。
ま、結果論でしかなくてまず宝箱を開けるためにはキャプテン・クロウと戦わなければいけないわけで、どっちにしろって感じかな?
「ま、今回は途中で手に入れた一万ゴールドで我慢しておくことにするさ」
「お前、この洞窟でそんな大金手に入れてやがったのか! まったくちゃっかりしてるぜ……」
いやほんと、全然ゲルダの気配に気づかなかったのに途中でしっかりトレジャーハントしているのはすごいね。
「それじゃああたしはお先に失礼するよ。こんな洞窟はもうこりごりだからね」
多分回復はしてあげたと思うけど、気絶直後でもしっかりした足取りでゲルダは去って行った。
本当に心配なさそうだ。
僕は海図を丁寧に畳んでカバンに仕舞いこむと、ゲルダが消えた方向を見ていたヤンガスに向かって、努めてさりげない口ぶりを心がけて言った。
「それで、ゲルダとはどんな関係だったの?」
「ただの古い知り合いでがすよ!」
「ホント? 昔の山賊仲間ってこと?」
「あいつは盗賊でがす」
「そうなんだ……」
残念、これ以上深くは聞けそうにないか。
キャプテン・クロウは左利き
休み攻撃(ぱふぱふ、ステテコダンス)に弱すぎて有名ですが、普通に冒険やってたら気づくわけがない弱点
ボスの癖に勝手に見とれてテンションがパーになってて愉快になりそうですが、ゼシカが戦ってないので真面目でした