お気の毒ですが、あなたは殺処分の対象です   作:うずつるぎ

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 アーマー・パージ

 アレックス・ベルトランの切り札。
 装甲を全展開し、別な形に組み替えることで平時とは異なる戦闘力を発揮する。
 狼型のモード・『賢狼』は、人と獣に揺れる緩急によって、相手を翻弄するのだ。

 唯一の隙である変形時には、各パーツがレーザー光線を発することで時間稼ぎが可能。
 変形機能を巧みに操る柔軟性は、まさしく『規格外』だけが使いこなすことのできる切り札だろう。
 なお、変形パターンが幾つあるかは、本人のみぞ知る事柄である。



第16話  ハレルヤ

 

 赤く細長い獣の瞳が、四つ脚を蹴り上げて大地に死神を足音を響かせている。

 

 引き締まった漆黒の後脚は、コンクリートを泥のように抉り飛ばした。

 鋭利なメタルクローが、ひゅんと頭上を黒光りする。

 

「そんな攻撃が当たるか──」

 

 大地を後方に蹴って一撃を躱す──つもりが、がくりと膝から抜け落ちる力。

 

「な……!」

 

 スーパーゾーンの反動か。

 意に反して制御を失った身体に、意識を引っ張られたのも束の間のこと。俺は片膝を路上に着いた状態で、すかさず左腕を前に出す。

 

 

 ずぶりと、長い鉤爪がサイボーグの肉を抉り込んだ。

 

 

「ぐ……ッ!!」 

 

 刺々しいスパークが皮膚を弾け、筋繊維を模すコードが解れた。

 俺を踏みつけんと、続けて大地に土埃を上げる四つ脚。

 逃れるために、震えるばかりの両足を無理やり路上へ転がす。

 

「グゥゥウウウ……ッ!!」

 

 漆黒の狼は、威嚇に頬のない顎から蒸気を吐き鳴らした。

 

 狩人の細長い赤光が、土色に汚れたローブを反射する。

 不味い。次なる一手が来る。

 分かっているのに、身体は胸奥を乱れ叩く呼気を響かせるばかりだ。

 

「か、身体が動かん……!!」

 

 たてがみを模した装甲が、ガシャリと銃口に歪んだ顔を映した。

 弾丸はうねるように大地を穿つ。

 止めの一撃とばかりに、銃弾は俺の四肢へと迫り──

 

「──彼女を援護しろッ!!」

 

──寸前、意識外の合図と共に、弾幕が展開した。

 

 壁面型のバリアーのように広がる無数の銃弾。

 俺は路上を藻掻き、なんとか窮地を凌ぐ。

 餌にもならぬ羽虫を払うように、夢幻の足取りはモブ共を翻弄する。

 

「固まるな!散れ、散れぃッ!!」

 

 

 漆黒の顎は包囲網を喰い破っては、肉と骨を砕く音を戦場に響かせた。

 

 

「あ、ぐぅ……ッ!」

 

 もう一歩も動きたくはない。

 しかし、ここは退かねば俺が死んでしまう。

 

 土を握り締めて痙攣する筋肉へ鞭を打ち、走るという文字すら憚られる逃避行に息を乱れる。

 雑兵の1人が、恐怖に足を絡ませた。

 運よく、偉大なる生贄に立候補してくれる。

 

「う……わぁぁぁぁああああッ!!」

 

 背後を振り向く必要はない。

 お陰で、俺は命からがら死地を脱出できて、

 

 

 今にもへし折れそうな白刃が、狼と雑兵の間を流れ込んだ。

 

 

「我に助けを求むは誰か──」

「な、に……ッ!?」

 

 尻目に揺らぐ骸骨のネックレスに、逃げ惑う足が硬直する。

 白銀の軌跡は、闇を呑み込む顎につっかえ棒の役割を果たした。

 

 しかしすぐに星屑と化し──包帯の巻かれた右腕は、容赦なく顎に閉ざされる。

 

「ぐ……おぉおお……ッ!?!?」

「ユンジェッ!!」

 

 俺はほつれたローブの裾を勢い良く翻した。

 

 残された雑兵が、赤い目を狙って援護射撃を放つ。

 その隙に中二病はなんとかデッドゾーンから逃げ仰せた。

 が、表情は酷く青い。

 腕は辛うじて繋がっているものの、あのままでは多量失血死は免れないだろう。

 

「貴様……何をしているッ!?!?」

 

 モブ以下よりも優先されるべき、規格外の命。

 その大前提を覆すふざけた行動に、思わず唾を飛ばす。

 

 とすると高慢な笑みは、地底の爆発にガラス片の飛び散る間を置いて、ぎこちなく引き攣った。

 

「ク、ックック……星追いの英雄よ……貴公は、いつまで高みの見物を決め込むつもりだ……?」

 

 

 

 

 

 

 その一言は俺の胸倉を掴み、完成された世界に軋み音を鳴らした。

 

 玉のような汗を顔に噴きながらも、ニヤリと口元を歪めるユンジェ。

 足先に支える大地が泥炭と化して、渦巻きに吞まれていく。

 

「た、高みの見物……だと?」

「星は……自己を燃やして、他人の目を焼く……望遠鏡を覗くだけでは、届かぬ世界よ……」

 

 血の滴る包帯が青い顔を覆い隠したところで、慌ただしく担架が運び込まれた。

 ユンジェは雑兵どもに囲まれて、本部へ連れて行かれる。

 

 大地に崩れるその姿は、とても無様で──

 

 

 なのに、どうしてまた、誰かがあの夜の師匠と同じく酷く輝いて見えるのだろうか。

 

 

 己が魂を焼き焦がした輝きが、右眼の闇を慄かせているのだろうか。

 

 

「クックック……周回軌道は、まだ遠き日か……?」

 

 消えゆく中二病の姿が、唖然と眩んだ頭の中を濃く余韻する。

 悲鳴の重なり響く路上を立ち尽くす身体。

 やがて、暗い靄の向こうに、進むべき道筋が照らされる。

 

「あぁ……そう、か……」

 

 

 俺の求めた輝きは──星。

 

 

 自らの命を他者へと燃やす、瞬きの流星。

 師匠もヨルも、アルナもユンジェも──自分の命を投げ出す覚悟で、他者の為に、

 

「……」

 

 それはきっと、俺の目指した王座から遠ざかる道だ。

 果てへと辿り着いたところで、俺の求める安寧はない。

 深く考えるまでもなく、理解の及ぶことだ。

 

 それでも──無法地帯へと、踏み直る脚。

 血肉を食い荒らす狼に向けて、俺はいま再び、剣の切っ先を突き付けた。

 

「勘違い、するなよ……貴様の相手は、この俺だ──ッ!」

 

 熱の籠った風をローブに切り裂く。

 くるりと漆黒の機体は旋回して、鋭い鉤爪が、赤く点滅した人工光に反射した。

 

 前に転がり込む形で一撃を回避。

 俺はヒートソードを両腕に振り向き──後ろ足を一本、吹き飛ばす。

 

「キャオォオン……ッ!!」

「そう何度も、喰らってやるか……!」

 

 朦朧とぼやけた視界に、熱く息を吐き洩らす。

 ヒートソードに重心を預けて、3つに揺れ重なる漆黒の狼鎧を見上げる。

 

……いや、違う。

 これはスーパーゾーンの限界とは関係ないッ!

 アレックスの全身鎧は、本当に分解されている──

 

 見覚えのある光景に、頬の表情筋は戦慄と引き攣った。

 

「まだ……変身しやがる、のか……ッ!?!?」

 

 思わず零した悪態に応えるかのごとく、漆黒の全身鎧はあらゆるパーツ単位で宙を浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 粒子となって空気を拡散する無数のパーツが、高速に飛び交いながら立体パズルみたいに人型を模していく。

 

「ク、ソ……!」

 

 俺は唇を噛んで変貌する漆黒の鎧を見上げ──思えば、狼に変じた際も、尖った胸部は直径1mの立方型を保ったままだった。

 

「あそこ、か……!!」

 

 遂に見つけた心臓部。

 アレを破壊したなら終わり。

 もはやアレックスを生存させることは出来ない。

 しかし、それでは。

 

「……ッ!」

 

 混濁と澱む心は、無意識にヒートソードを構えて、

 

 

 瞬間、脳細胞は意志を持ったみたいに別方向へ乱れ狂った。

 

 

「……ぐ……ぉおおおおおおお……ッ!?!?」

 

 激熱を弾ける脳内。

 意識の核がドロドロと焼け溶ける感覚に、堪らず路上へ両膝を投げ出す。

 握り締めた両拳を瓦礫に叩き付ける。

 

「ぎぃあ……ぐぅぅう……!!」

 

 火炙りの路上をのたうち回る肉体。

 狂熱を澱む脳裏。

 今すぐに手放さねばならぬスーパーゾーンの手綱を、しかし俺は必死に握り締める。

 

 まだここで斃れるわけにはいかない。

 歯を食いしばって意識を繋ぐうちに、何もかもが吹き上がる業火に吞まれていく。

 翡翠の半目が…………誰で……おれ、は……???

 

「がぁぁぁぁぁあああッッ!!!!」

 

 ブチりと、意識のブレーカーは世界を切り離した。

 

 

 黄金のV字マークが、将軍のように猛々しく兜を飾っている。

 

 

 スタイリッシュを描く巨腕が携えるは、大剣と、大盾と。

 兜の双眸を宿る赤光。

 まるでヒーロー然とした機動ロボットは、岩壁の光に濃い影を落とした。

 

「頼、ム……ジかンヲ、わtasいニ……ッ!!」

 

 大柄な背丈はおよそ3メートルと言ったところ。

 普段よりも2回りほど大きい。

 その分、装甲は薄くなっているだろう。

 俺は腕を脱力させながら、ふらりふらりと立ち上がり──

 

 

──ヒートソードを胸の前に握って、にこりと、『緩やかに笑み』を向けた。

 

 

「……そっか。それが、あなたの奥の手なんだね?」

 

 それから俺は、抉れた左腕をゆるりと差し出して、

 

「燃え尽きるまで一緒に踊ろう? アレックス」

 

 まるで気の抜けた自然体で、舞踏会の始まりを待ち望んだ。

 

 

「gyayayaaaaaaaaaaッ!!」

 

 

 狂人の雄叫びが、地底の街を轟く。

 暗黒に濡れたヒーローの影が、大剣を振り上げて抉れた大地を歪に伸びる。

 

「……うん。分かっているよ」

 

 液状化したみたいに波打つ石畳。

 俺はふわりと踊って、死神の鎌を真横へ駆ける。

 右手に握った小銃を、万華鏡のように狙いを一点へと定める。

 

 狙うは──胸部の立方体。

 一寸も違うことなく、何度も、何度も何度も同じ箇所へと銃弾を撃ち込む。

 やがて尖った胸部に亀裂が走って、俺は小銃を軽く投げ捨てた。

 

 

 もう、準備は整ったから。

 

 

「……maダ……まダァァァッ!!」

「そうだね。もっと一緒に踊っていたいね」

 

 洗練されたフォルムに黒光りする脚部が、ジェット噴射を勢いよく放つ。

 低空飛行に機甲の大翼を生やした漆黒の鎧が滑空して、大剣を振り被る。

 

 俺は──僅かにだけ、身体をずらす。

 

 必殺の一撃は、流れる金色の長髪を数本切るだけに終わる。

 

「でも、これで終わりだよ」

 

 大地を踊るラストダンス。

 俺は構える左手にキラリと刃を光らせ──漆黒の胸部の亀裂へと、緩やかに一太刀を走らせた。

 

 

 一瞬の静寂が、地底の街を染み渡る。

 

 

 剣を振り切ったまま、時が止まったみたいに硬直するお互い。

 やがて、バキリと亀裂が光を走って、沈黙が破れた。

 立方体の闇底から、酷い火傷跡を残した女性の生首が覗く。

 

 

 その頭部は、生命維持に無数のコードで繋がれていて……きっと、彼女がアレックスだったんだ。

 

 

「u……ア……」

 

 光に目が眩んで、焼け爛れた瞼は微かに息を吹き返す。

 脳に繋がるコードが点滅して、漆黒の籠手に大剣を握り込んだ。

 

 けれど──大剣を振り被る腕部は、もう片方の腕に阻まれる。

 

「……titiチ、チガ……ッ!!コんナノ……ワタsiジャ……ッ!!」

 

 巨大な機体が小さく震えて、割れた胸部の向こうに瞼が持ち上がった。

 大剣を握ったり離したりする漆黒の籠手が、俺へと手のひらを藻掻き苦しむ。

 

「六月一日……殿ッ……! イや、da……ミ、ライの為二……死ヌわけniハ……私ヲ、殺シてくレ……ッ!!」

 

 誰よりも、生きたいと願った。

 それは仲間の祈りを叶えるために。

 仲間に生きる彼女はその心を利用されて、最後には、他人を蔑ろにしてまで生に縋る怪物へと堕ちた。

 

 

 それでも──終わりの果てに、誰かの未来を望めた。

 

 

 それが、アレックスなんだ。

 

 

 眩いまでの意志力に、思わず目を伏せる。

 暴れ狂う左腕を自らもぎ取り、電気コードを吐き出した漆黒の鎧へと、静かに歩み寄る。

 

「そこに……居るんだね、アレックス」

「私ハ……私はァァァァあああ……ッ!!」

 

 壊れてしまっても、覚悟を貫いたあなたに敬意を。

 ヒートソードを投げ出す。

 藻掻き暴れるロボットの前に跪いて、頭部に繋がれたコードを丁寧に剥がしていく。

 

「生キた、カった……!まダ、仲間ノ、祈リヲ……ッ!!」

「大丈夫だよ。安心して。俺が、あなたの祈りをぜんぶ食べてあげるからね」

 

 もう苦しくないように。

 安らかに心を漂わせられるように。

 俺は赤子を抱くようにして、火傷跡を残した頭部を柔く胸に包み込む。

 

 

 間隙、アレックスは糸が切れたように言葉を失った。

 

 

 暫しあって、澄み渡った機械音声が響く。

 

「六月一日殿……済まない」

 

 その懺悔を境に、兜の赤い光は闇色に馴染んだ。

 

 けれど、線香花火はまだ光り続けている。

 前腕に隠された収納スペースが、小さなUSBメモリを吐き出す。

 

 胸に抱く少女は、唇を小さく震わせた。

 

「──」

「……うん。ありがとう、アレックス」

 

 ゆるりとフードの底に湛える微笑み。

 火傷跡に重い瞼が、闇中に沈み込む。

 

 俺は祈るようにアレックスを抱き締めて──静かに、意識を地底へ閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過剰なエタノールの香りが、泡のように鼻腔を溢れ返っている。

 

 上体を漬物石に押し付けられたような感覚に、呼気が仄かな息苦しさを帯びた。

 しゃぼんの甘い香りに包まれて、むずりと、俺は瞼を押し開く。

 

「……おはよっ!六ちゃん!!」

 

 

 子犬が朝の挨拶に覆い被さって、ほわほわと快活にアホ毛を振っていた。

 

 

「先生っ!六ちゃん起きたよ!!」

 

 まるで何事もなかったように、身体から剥がれ落ちる紺色の制服。

 華奢な手が、薄緑のカーテンを捲る。

 チェックのスカートに揺れる健康的な太ももは、断絶したはずの脚を完全復活していた。

 

 思わずぽっかりと開いた口に、真っ黒な三日月が浮かび上がる。

 

「やぁやぁ、眠り姫くん。調子はどうかな?」

 

 

 どうやらここは、医務室で間違いないらしかった。

 

 

 一体何がどうあって、俺はベッドに寝そべっているのか。

 というか、地獄の呼び声があちこちから響いているのは何なのか。

 霞む頭に疑問が積み重なって、かひゅりと、掠れた空気音が喉を切り裂く。

 

「お水?はい六ちゃん!」

 

 ほわほわと快活な笑顔が映る透明なコップを、握り潰すように奪い取る。

 

 はずが、手のひらは亀みたいにゆっくりとコップを掴んだ。

 

「……?」

 

 それはまるで、俺だけが世界の流れに取り残されたような感覚。

 

 微かに首を傾げる。

 それさえもが思うように動かぬ。

 乾燥した指先が、起き上がった俺の胸を、ローブの上からとんと小突いた。

 

 

「それはね──運動神経障害だよ。断じて寝たきりのせいとかじゃないね」

 

 

 視界に映る卵色の壁面が、ばくりと伸縮した。

 

 

「な……に……?」

 

 はらりと額を抑える手先。

 医務室を駆け回る看護師たちの足音が、耳奥をよく響く。

 

「悪いけど、今は忙しいんだ。詳しい話はまた後でね」

 

 皺の多い白衣はベッド脇を翻って、簡易マットに寝そべる戦傷者たちの元へと向かう。

 ギプスを巻いた中二病が、雑兵に見舞われてニヤリと口元を歪めていた。

 

「こ、困ったことあったらいつでも呼んでね」

 

 何の気休めにもならぬ別れの言葉に、個室からは人の気配が失せた。

 

「……我ながら、名演技だな」

 

 誤魔化すように、無理やり頬を歪める。

 俺はじれったく腕を伸ばして、枕横に置かれたホルスターを掴んだ。

 

 その内部に隠した、USBメモリを取り出す。

 

「……」

 

 アレックスが最期の最期で俺に手渡した、1つの謎。

 曰く、このUSBメモリには──

 

 

──六月一日、殿……特殊部隊L7th、に……裏切り者が……──

 

 

「……まったく、面倒なことになったな」

 

 俺はUSBメモリをライトパネルにかざして嘆息し、今はベッドに沈んで身体の回復を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムカつくムカつくムっカつく──」

 

 深紅の瞳が、青い薄闇に激しく歪みを帯びている。

 

 ここは世界の何処か。

 誰も知らない秘密の部屋。

 車椅子に座ったエプロンドレスの童女に対して、鼻に突く失笑が、ホログラムから響き渡った。

 

「これまた、随分と派手にやられたみたいだねぇ」

「殺す……K076もお兄ちゃんも殺して殺して殺しまくってやる……ッ!!」

「もう彼らは死んでいるよ」

 

 嘆息と共に返る渋い声。

 

「そういう問題じゃないの!私はそれぐらいイラついてるってこと!!」

 

 ふっくらとした右手が、青いシュシュを乱暴に解き放った。

 まるで飽きたとばかりに、復活した左足は車椅子をひしゃげる。

 

「そんな彼女のお弟子さんは、君のお兄さんの意志を受け継いだみたいだけどねぇ」

「……私って、面倒なストーカーに付き纏われる運命なのかなぁ?じゃあ、悪意こそが全てだって教えたあげないと──」

「──その必要はないよ。ボクが出よう」

 

 不意と闇の奥を澄み渡る、人魚の歌声。

 

 ピタリと、デコレーションされた小靴が硬直する。

 深紅の瞳は際限なく見開き、ツインテールを勢いよく翻した。

 

「マザーが出るの……!?!?」

「もう、準備は終わったからね。そろそろ終わりの時間と行こうか」

 

 それは、世界の支配者が下す絶対的発言だ。

 詰まらなそうな舌打ちが響いて、マーシャは壊れた車椅子に座り込む。

 

「じゃあ仕方ないや、色々考えながらバカンスし~よっと」

「……流石の規格外たちも、マザーが直接出るとなれば終わりだろうねぇ」

「終わりも何も、全ては初めから決まっていたことさ」

 

 緩く長いまつ毛を伏せる、深海色の瞳。

 

 その会話を最後にホログラムは消失し、秘密の部屋は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

『遥か大空より天翔ける地底を見上げて』・完

 

 




 次回の投稿日は9月30日の火曜日です。
 それでは、まあ次話でお会いしましょう!
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