お気の毒ですが、あなたは殺処分の対象です   作:うずつるぎ

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 セントラルタワー

 共栄都市中心に聳え立つ碧き尖塔。
 高さは300mあり、共栄都市全体の電波塔として機能している。
 
 セントラルタワーこそが、人々の思考を誘導する電磁波を発している。
 宗教法人『人世学会』の連中は、立ち入り禁止区画であるセントラルタワーをそう批判している。
 都市管理局と議会はこれを真っ向から否定しているが、その真偽は定かではない。


第11話 中二の演者は虚構を愛する

 

 銀色の弾丸は曇天を切り裂いて、真っ赤な大花火を朽ちた道路に打ち上げている。

 

 レジスタンスの制服は次々と路上へ崩れる。

 虐殺を引き起こすは──円を描くようににして淡々と銃声を轟く、二丁拳銃。

 

 それはまるで、世界を司る法則が、何かの間違いを引き起こしたかのようだった。

 

「な、に……」

 

 が、起きた……?

 

 言葉半ばに、唇は掠れた呼気を洩らす。

 吹き抜ける硝煙の匂いだけが、ひやりと、確かな現実を突き付けた。

 

 ぐわりと揺れる視界に、七色の光束が遥か上空から廃都市へと降り注ぐ。

 

「て、敵襲!戦闘機が──」

 

 言い終えることなく、雑兵は神の真槍にどてっぱらを貫かれた。

 虹のように輝かしいレーザー砲は、半球を描いて俺とアルナを囲う檻となる。

 

「アルナ……これは、なんの真似だ……ッ!!」

 

 レーザー砲のけたたましい音だけが、身体の内側を響き渡った。

 

 手のひらに覆った翡翠の義眼は、氷塊に閉じ込められたようなアメジストの瞳を映している。

 大地を抉る虹色の檻を無視して、俺は思わず一歩詰め寄った。

 

 とそこに割り入る形で、1本のロープが垂れる。

 

「キャハハ!!クロの時もそうだけどさぁ、親しくなるほど鈍くなるよね、A006って」

 

 悪意に満ちた嘲笑が、ロープを伝って頭上を煽る。

 

「あっ、違うか!!信じた人に裏切られるのが怖いから、見て見ぬ振りしてるだけかぁ!!」

 

 深紅の瞳が、心の闇にパチリと瞼を開いた。

 

「久っしぶり~、A006!!」

 

 青いシュシュを纏ったツインテールが、くるりと乾いた地面を踊る。

 脳裏を過るレオナルドの祈り──

 だのに身体は、神経が抜き取られたみたいに微塵も動かない。

 

「あっれ~?茫然自失って感じかなぁ??」

 

 邪悪に歪む赤い唇は、構えも取れぬ俺へとスキップするみたいに歩み寄って、

 

「でも、そろそろ理解しよっか!アルナ・ミュラーが『裏切り者』だったってことぐらい♪」

 

 

 ふっくらとした人差し指が、ローブの上から俺の心臓に止めを刺した。

 

 

 乾いた大地の感触が、背中をざらつく。

 俺は尻餅を着いたまま、パクパクと唇を震わせる。

 

「……うそ、だ……!」

 

 アメジストの瞳は、俺を映すことなく大地に沈んだ。

 

「……ごめんね、六ちゃん」

 

 周囲を響く悲鳴と銃声が、どこか違った世界の物事のように遠く聞こえる。

 

「……約束は、守ってくれるんだよね?」

「もちろん♪アルナちゃんは新人類第一号だから特別だよ~!」

 

 乳白色の手が、邪悪の象徴と結ばれた。

 

「それじゃ、ここも危なくなるし行こっか!」

 

 快活な太陽が闇に抱きかかえられて、ロープを降ろした戦闘機に回収されていく。

 

「あ、アルナ……!!」

 

 衝動的に手を伸ばせども、その手が選ばれることはなくて、

 

「じゃあね、六ちゃん」

 

 七色の粒子が水泡みたいに消え去る廃墟の街に、俺だけが取り残された。

 

 

 

 

 

 

 

 一寸先も見通せぬ暗黒が、篝火の温もりを深奥へ呑み込んでいく。

 

 雪崩れ込む機械兵の足音。

 次々と撃ち抜かれる同胞。

 何も聞こえない。見えない。

 俺は底なし沼に両膝を投げ出したまま、荒野の風にフードを靡かせる。

 

「……理人くん」

 

 事務的な冷声が、脳内をぎこちなく囁く。

 

「今は、安全な場所に避難を」

「──あの阿呆を追い掛けるぞ」

 

 フードの底で陰りを帯びた唇が、身勝手な衝動を溢れ出した。

 

「お気持ちは分かります。しかし……まずは戦況を整えなくてはなりません」

「そうではない。アイツがマーシャに連れられた先は、MCの詳細な所在であるはずだということだ」

 

 首輪から抜け出した言葉に論理を武装する。

 指を振るって空間ディスプレイを展開。異常なスピードで共栄都市へと向かうアルナの位置情報を確認する。

 

「予定には早いが、作戦通りに共栄都市へ潜入する」

「で、ですが、先制攻撃でこちらの戦力は激減しています」

「この程度も掻い潜れん雑魚は戦力にならんだろう」

 

 極めて現実的な意見を押し返す。

 事務的な声が、少々の荒っぽさを帯びる。

 

「……無茶です。相手の本拠地ですよ?いくら理人くんでも、せめて肉壁を用意しないと──」

「──俺は今からセントラルタワーを目指す!ついてこれる奴だけ集まって来い!!」

 

 俺は脳内電信を利用し、混沌の戦場と化した廃都市に生き残った連中へと鋭く宣告した。

 

 言っているうちに、機械兵がわらわらと戦闘機から降り立つ。

 赤い単眼が舞い上がる砂埃に紛れて、洞穴のコウモリみたいに俺を囲んだ。

 

 朽ちた路上を蹴り潰し、ヒートソードで無心に斬り捨てる。

 機能不全になろうと構わない。

 ミンチのようにぐちゃぐちゃになるまで叩き伏せる。

 バキリと、足裏と大地に挟まれた頭部は木の実みたく踏み割れた。

 

「……ッ」

 

 息を吞む音が、脳内を浸す。

 漆黒の全身鎧は廃墟の街の彼方から迫って、王に跪く兵士のように兜を垂れた。

 

「……分かりました。それでは、私も御供いたします」

「いらん。貴様は後続を引き連れて第二陣を形成しろ」

 

 人一人を簡単に乗せられそうな漆黒の肩が、ピクリと微かに動く。

 ぐっと、黄金のV字を刻んだ将軍の兜が持ち上がった。

 

「私では、まだ力不足でしょうか」

「勘違いするな。これから貴様には、地底の街で少々動いてもらう」

「地底の街で……?」

 

 チカチカと、兜の青い光が点滅した。

 

「アルナの部屋を隈なく調べろ。恐らくそこに……奴が裏切った理由があるはずだ」

 

 なぜ、阿呆が裏切り者だったのか。

 思い当たる節は──ないわけではない。

 

──絶望夕刊3号。

 アイツが頑なに俺に見せなかった、マーシャの悪意。

 それを読み解けば、或いは。

 

「こんな状況では貴様にしか頼めん。できるな?レイ」

 

 路上に片膝を突く漆黒の鎧は、漆黒の籠手を尖ったアーマープレートに押し当てた。

 

「それが、六月一日隊長のご命令とあらば」

 

 準備は整った。

 鉄クズを小石のように足の甲で蹴飛ばす。

 カラスの群れみたいな漆黒の群衆が集う交差点へと駆ける。

 

「クックック……星追いの英雄よ、我らの準備は既に整っているぞ」

 

 ユンジェを筆頭に15名。

 予算度外視で量産された戦闘服を纏う精鋭たちが、頬に砂埃を浴びたまま直立している。

 俺は奴らの前に立ち、ぶわりと漆黒のローブを、ダムみたいに立ちはだかる外壁へ翻した。

 

「貴様ら、俺の後に続けッ!」

「「ハッ!!」」

 

 俺達は共栄都市を目指して、廃墟の街を超速に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処までも続く闇色が、乱れ響く足音を忙しなく数えている。

 

 狭苦しいトンネルの薄闇で、雑兵たちはキョロキョロと首を振る。

 俺は群れを率いる狼のごとく、先頭を飛び出した。

 

「……闇を切り払う最果て……如何なる試練が待ち受けるか……」

「安心しろ。この通路はセントラルタワー直結だ」

 

 トンネルに至るまでの経路は極々平易なものだ。

 ジャックの死骸から得た情報を元に、まずは外壁の扉に暗証番号を入力。

 秘密の抜け道から共栄都市へ潜り込み、そのまま歓楽街にある俺のねぐらへ向かった。

 

「……師匠、か」

 

 湿った空気を過ぎ去りながら、ねぐらに見つけた『写真』を手元に見下ろす。

 

 ローブを羽織った俺と、同じくローブを羽織った金髪女が映る写真。

 その上、ねぐらにはレモネードの香りと俺よりも大きなローブを並べたクローゼットが残されていた。

 阿呆の言う通り、少なくとも、俺には同居人が居たのだろう。

 

 だが今は『スーパーゾーン』の代償に気を取られている場合ではない。

 俺は首だけ振り返り、綿毛みたいに闇の中で白い光を発する新型バトルスーツ共ヘ声を張り上げた。

 

「良いか貴様らッ!今はゼウスを破壊することだけを考えろ!!他は全て無視して良い!!」

「「ハッ!!」」

 

 意外にも、整った返事を木霊する精鋭たち。

 続いて、事務的な声が脳内を届く。

 

「六月一日隊長」

「どうした、レイ」

「アルナさんの部屋で、奇妙なモノを2つ発見しました」

 

 青い光が、トンネルの闇を和らげる。

 

 紙屑みたく皺だらけに丸まった絶望夕刊3号と──血の付着したアレックスの前腕が、空間ディスプレイを映った。

 

 喉に詰まる空気を塊のまま呑み込み、フードの底にポツリと吐く。

 

「……廃都市難民を殺した真犯人は、アルナか」

「判然とはしませんが……その可能性は高いかと」

 

 もはや言い逃れの出来ぬ物的証拠から目を逸らすように、俺は絶望夕刊3号を拡大した。

 

 

────

 

 

 診療契約書

 

 医療法人『共栄救済会』会長天神雷夢(以下、「甲」という。)とアルナ・ミュラー(以下、「乙」という。)は、次のとおりに医療契約を締結する。

 

(目的)

 第1条 甲は、甲の設置運営する施設の入所者の健康管理の為、乙の患うカミキリ病の先端治療を施し、乙はこれを受諾し、カミキリ病の寛容を目指す。

 

 ~~~~~~

 

(治療)

 第4条 乙は、以下の条項を了承する。

 (1) 甲による先端治療が失敗した場合、如何なる苦痛をも許諾する。

 (2) 甲による先端治療が成功した場合、乙は、治療に際する記憶を消去される。

 (3) 乙は、甲による先端医療の成否に関わらず、一切の不都合を受け入れる。

 

 ~~~~~~

 

(報酬)

 第7条 甲は、乙に対して無償で治療を行い、金銭的債権を有しない。

 

 ~~~~~~

 

(治療終了後)

 第11条 甲は、乙の治療が終了次第、治療に関する記憶を消した状態で乙を解放し、乙はこれを受諾する。

 

 

────

 

 

「これは……診療契約書か何か?」

 

 迷宮みたいに長いトンネルを駆けながら、青い光に目を細める。

 付随してクリップに挟まれた写真は……偽アルナと思しきエセ淑女。共栄都市で出会った、阿呆のそっくりな奴である。

 

「或いは……そういうことか……」

 

 顎に手を当てて思慮に沈み、洞窟に1つの可能性を掘り当てる。

 セントラルタワーの敷地に入った途端、防火壁を降ろされたみたいにアルナの位置情報はプツリと閉ざされた。

 

「よくやってくれた、レイ。あとは後続を引き連れて──」

 

──一気にセントラルタワーを叩くぞ。

 

 それでマーシャとゼウスを破壊して、全てを終わらせてやる。

 闇色のトンネルに浮かぶ、微かで、けれども確かなエンドロールへの光。

 俺は掴むように手を伸ばして、

 

 

 闇色のトンネルが、天地をひっくり返したみたいに暴れ狂った。

 

 

「ッ!?」

 

 爆音を重なり響く壁面。

 疾駆する脚が凍りつく。

 

「む、六月一日隊長──」

 

 突如として、脳内電信が途絶えた。

 後続の雑兵たちは、両耳を塞ぎ込んで軋み音に顔を歪めている。

 

 トンネルの壁面は陶器のようにひび割れて白に闇を照らし始め──まさかッ!!

 

「貴様ら、落下に備えろッ!!」

 

 

──闇色の世界は、パズルのように崩落した。

 

 

 白光が、世界を清廉と焼き尽くす。

 眩んだ瞳を思わず閉ざし──容赦なく、突風が耳を叩いた。

 投げ出された身体で芝生の大地を転がり、痺れ渡る衝撃を受け流す。

 

 

 世界樹のように天を貫く白亜の尖塔が、円形の壁に囲まれていた。

 

 

 素早く周囲に首を振る。

 整然と広がるは、緑の草原と石畳の道だ。

 その世界の最果てみたいに浮世離れした光景は──

 

「……クックック。共栄都市の中枢に到達、か……」

 

 無粋な白亜の機械兵が、セントラルタワーの根元から妖精とばかりに侵入者の排除に溢れ出す。

 が、もはや俺が出る必要はない。

 雑兵たちは初めてバイクに乗ったみたく戦闘服の超速に振り回されながらも、鉄クズを制圧していく。

 

「おいおいヤベェな戦闘服!こんなん無敵だろ──」

「今更機械兵なんかにやられるかよ!!」

 

 頬を紅潮する雑兵たちにとってすら、機械兵は障害とならなかった。

 

 程あって、セントラルタワーの入り口は静まり返る。

 俺は機械兵の肉片が散らばった石畳の道を悠然と歩く。

 

 ぬっと、いぶし銀の籠手が、出入り口の枠組みをスプーンみたいに歪ませる。

 

「新手か……?」

 

 古びた銀色の輝きを放つ機械兵が2体、青い単眼を灯してヒートソードを肩に担いだ。

 

 その成人男性程度の大きさは、通常の機械兵と変わりない。

 が、筋肉を必要最低限に洗練した細身のモデリング。

 赤い単眼の連中とは、何かが違っていると見える。

 

 とは言え、所詮は機械兵だ。

 

「今度は俺の番だぜ──」

 

 新たな獲物を見つけた雑兵共は、我先にと2体の機械兵へ突っ込み──

 

 

──その身体を、戦闘服ごと一刀両断された。

 

 

 

 

 

 

 

 竹割りのごとき一撃が、雑兵を脳天から真っ二つにして芝生へと斬り捨てていく。

 

「な、に……?」

 

 みるみるうちに赤く染まる芝生の海。

 が、唇を開いている間はないらしい。

 いぶし銀の機体が曇り空に鈍く光って、刃紋みたいに血液を滴る刀を構える。

 

 足裏のタイヤはぎゅるりと石畳の道を転がり──変幻自在に蛇行しながら、俺達へと迫り来た。

 

「ッ!」

 

 悲鳴を上げる間もなくさいの目切りに崩れる雑兵たち。

 今度はこちらへ刃が駆け込んだ。

 俺はヒートソードを構え──左下から勢いよく振るう。

 

 はずが、ぐんと、青い単眼は急な弧を描いた。

 

「なにッ!?」

 

 背後から迫る刺突。

 大地を抉って身体を捻る。

 避け切れず、浅く熱が脇下を弾けた。

 

 ぽたりと、草原の緑が赤く濡れる。

 

「……チッ」

 

 それは明らかに、これまでの機械兵とは一線を画する性能だった。

 

 気は抜けない。

 意識を深海へと潜らせる。

 今度は青い単眼の軌跡すら見逃さず、硬質に音を鳴らして迫る刃を弾き返す。

 

「なるほどな」

 

 アドラには到底及ばぬが、それなり。

 頬を伝うぬめりと温かな感触を親指で拭い、後ろへ跳ね飛ぶ。

 

 どんと背中をぶつかる人肌の感触に、同じく背後に跳んだユンジェと背中合わせの形になった。

 尻目に映る血を零した口の端は、ニヤリと、不敵に歪む。

 

「クックック……星追いの英雄よ。どうやら終点には強大な門番が居たらしいな」

「恐らくはハイエンドだろう。行けるか」

「無論──」

 

 当然とばかりに、疾風に揺らぐパープルカラーのウルフカット。

 二刀流の機械兵と、桃色の瞳が猫のするプロレスみたいに縺れ合う。

 

 互角の攻防を後ろ目に確認し──とその最中に目前へ迫る切っ先。

 態勢を低く構えて、流れる星屑の輝きを躱す。

 

「悪いが、貴様ら如きに手間取っているわけにはいかんのでな」

 

 刃先を芝生に抉りつつ、無防備な胴体への斬り上げ。

 

 これでチェックメイト。

 つもりが──銀色の機体は情報端末みたいに腰を90°に折り曲げて、人外の仰け反りを繰り広げた。

 

「なッ!?」

 

 返すように繰り出された刃。

 素早く右腕を構え、鋭利な痛覚が深く食い込む。

 

 思わず眉を顰め、しかし、これで動きは止まった。

 左手に握り直した小銃が、青い単眼を粉々と砕き割る。

 

「……ふぅ」

 

 流石は、本拠地の番人といったところか。

 

「残ったのは5人か……まぁ良い。行くぞ──」

 

 そう言って俺は、再びセントラルタワーのエントランスへと足を踏み出して、

 

 

 いぶし銀の『軍隊』が、出入り口から行進を重ね響かせる様を目の当たりにした。

 

 

「な……ッ!?!?」

 

 夜のホタルイカみたいに、芝生の海を埋め尽くす青い単眼。

 握り締めたはずのヒートソードが、どさりと、芝生を転がる。

 

 コイツは門番ではなかったのか!?

……まさか。セントラルタワーを警備する機械兵はこれが通常で──

 

「む、無理だろ、こんなの……」

 

 

 絶望に揺れた雑兵の一言が、巨壁のごとく連なる銀色に叩き落とされた。

 

 

 完膚なきまでの、数の暴力。

 尻目に壁を覗けども、背後の門扉は硬く閉ざされている。

 往路に使った一本橋は崩れ去った。

 退路はない。

 

「ぐぁぁあああ……!!」

 

 無数の刃に針地獄となって潰える雑兵たち。

 死骸に群がるアリを見たような感覚に、図らずも、震える足は後退って、

 なのに、

 

「……星追いの英雄よ。我が奴らを引き付ける。貴行はその先へと進め」

 

 刺々しく改造された制服は、一歩前に石畳を叩いた。

 

「き、貴様……死ぬ気か!?!?」

 

 いつものように、顔前に腕を掲げた妙なポーズ。

 俺はフードの底に目を剥いて唾を飛ばす。

 高慢な笑みは恐怖に崩れることなく、忍者刀を正眼に構える。

 

「我は我のやりたいようにやるのみッ!!」

 

 銀色の軍勢を映す桃色の瞳は、夏の快晴みたいに澄み渡っていた。

 

「……」

 

 コイツが機械兵を引き付けてくれるのであれば、セントラルタワーに侵入することも、確かに。

 ごくりと、生唾を吞む音が静寂に響く。

 

「……すぐにMCを破壊してくる。貴様は、それまで持ちこたえていろ……」

 

 俺は唇を噛み締め、前傾姿勢に疾走の準備へ移った。

 

「──MCの破壊?そんなことの為に、我は花道を作るつもりはないが」

 

 両脚に充実する力は、発散する行方を見失った。

 

 振り返った桃色の瞳は、ぽっかりと見開く翡翠の義眼を映し出す。

 

「なぜ、星追いの英雄はここに来たのだ?」

 

 コイツは今更、何を言っているのか。

 俺がここに来たのは、ゼウスを破壊して安寧を手にするためであり──

 

「──アルナ・ミュラーを、助けるのではないのか?」

 

 べらべらと論理を塗り重ねる唇は、たったの一言で打ち砕かれた。

 

 けれど、それも一瞬のこと。

 振り払うようにローブの裾を揺らす。

 俺は眉間に皺を寄せて言い返す。

 

「……そんなことを言っている場合ではないッ!今はとにかく、ゼウスを破壊せねば!!」

「せねば?」

 

 眼帯の奥から詰め寄る桃色の瞳に、ぐっと、胸底が軋む。

 オンボロPCみたいな脳みそは上手い答えを1つも寄越してくれず、サッと、視線を落とす。

 

「……こ、ここで死んだ奴らの意志を無駄に、」

「仁義なき嘘は、人を曇らせるぞ?」

 

 

 それが単なる言い訳に過ぎぬことは、もはや、とっくに見透かされていた。

 

 

 中二病は骸骨のペンダントを撫でて、フッと、緩やかな口元に声を吐き出す。

 

「仁義なき嘘は人を曇らせる。されど、慈悲深き嘘は人を輝かせる。それもまた、流れる星々の姿よ」

 

 血を吸った包帯の右腕は、中階が楕円に膨れ上がったセントラルタワーを指差して、

 

「さぁ、星追いの英雄よ。貴行が心に求むるものはなんだ?」

 

 誰の為でもない大儀を被った心が、洗い落とされる。

 一本芯の通った言葉を胸に、俺はいま再び、セントラルタワーへと足を向け直した。

 

「……死ぬなよ、中二病」

 

 フードの底から、ポツリと一言残す。

 中二病はいつものごとく、理解の及ばぬ現代アートみたいな奇妙なポージングを気取る。

 

「クハハッ!我を誰と心得るか!!我こそは森羅万象を司る世界の支配者よ!!」

 

 ユンジェは忍刀を正眼に構え、青い単眼の群れへと突っ込んだ。

 その一等星のように輝かしい背中が銀色に吞まれるまでを、確かに見届ける。拳を強く握り込む。

 

「……行くか」

 

 俺は機械兵の隙間を掻い潜り、セントラルタワーの入り口へと雪崩れ込んだ。

 

 

 




 次回の投稿日は10月19日の日曜日です。
 それでは、また次話でお会いしましょう!
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