Fate/Fantasia edge   作:わがし狂太郎

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10話

 

 ざあーっと音がしている。

 大きくはない、むしろ心地の良い水音だ。

 それは人工滝、つまり室内にある壁泉からするもので、上部の縁から溢れ出た水が下へと落ちているのだ。流れ出た水は床下を通り、足元から室外へと流れているらしかった。人工滝はぐるりと部屋を一周していて、まるで洋上に浮かぶ筏のように床面が存在していた。部屋の中央には円卓がある。円卓と言っても真ん中はくり抜かれていて、ドーナツ状であり、そのくり抜かれた中央には一段高くなった水盤があった。そこからもまた水が溢れては床下へと流れ込んでいる。水盤の真上にはウェディングケーキを逆さにしたようなシャンデリアがぶら下がって光を放つ。放たれた光は部屋の壁に埋まっている宝石たちを輝かせていた。滝の縁や水盤の中は光源でも埋まっているらしく、特に強く光り輝いている。反射光は壁面や天井を照らし、水面の輝きを反映しているため、水の中のような錯覚を覚えるのだった。

 ハナと彼女の一団は、入ってきた扉口から見て手前左方の椅子へ給仕らしき女エルフに促されるまま腰掛けていた。逆側の右方には、また別のエルフに誘導されたビコト族の一行がいた。一瞥するだけで高貴でないものとわかるその一行は、部屋の内装についてあれこれと話をしている。ビコト族の(・・・・・)一行とハナが認識したのは、手の甲にある揚羽蝶のような赤いアザから、赤毛のビコトが巡礼者であるとわかったからだ。格好はそれなりにしっかりとしたジャケットなどを着てはいるが田舎者らしく着させられてる感が強い。幼さの残る顔つき、そばかすと丸鼻が一層頼りなさを演出している。彼の一行は三名からなっているが、そのうちに人間族の女が一人いる。その女は象牙色のローブを纏い、麦わら帽子を被っている。エメラルド色の瞳に金色の毛髪と、美しい顔つきではあるが、思慮分別がないのか室内というのにパイプを咥えて排煙している。もう一人は恐らくはサーヴァントであろうと思われた。逆だった青髪のその男の格好は、生地をふんだんに使った全身をふわりと包み込むような服装をしているが、腕周りや足周りは動きやすいようにピタッとした衣装になっている。そのため、筋肉がよく発達しているのが見え、戦い慣れしているような印象を受けた。若い人間族の男らしい見た目ではあるが、感じられる雰囲気が尋常ではないため、十中八九サーヴァントと思われた。

 ここの主人であるはずのエルフの姿はまだない。概ね、立場が上であるものはあえて遅れて登場し、その立場をより誇示しようとするものであるので、その演出であろうとハナは理解できた。

 

 「まさか、ここでお会いできるとは」

 

 とロジャーはビコト族の一行のうち、麦わら帽子を被った女に声をかけた。互いの反応を見るに彼とその女は旧知の仲らしかった。

 

 「わたしもそう思っとったよ。しかし、残念じゃのう。ホクにも断られたんで、次はお主を誘おうかと思っておったんじゃが」

 「荷物持ちですよね?それは私もお断りしたい」

 「なんじゃ冷たいのう」

 

 まあ、と女は煙を吐いて言葉を続ける。

 

 「ジャンガラ公の末裔が巡礼するとなれば、仕方のないことじゃのう。ドワーフにとって彼は特別じゃからな」

 「あら?あたくしのことをジャンガラ公の血族と知ってらして?なかなか、勉強熱心じゃない、人間。褒めてあげるわ」

 

 ハナは話に割って入った。ジャンガラ公と聞いては黙っていられない。

 

 「はっは。もちろん、知っておろうとも。ドラボリバルのじゃじゃ馬娘よ。生まれながらに貴族とは、そこまでバカクソにつけ上がれるものかのう?」

 「ハナ様、ハナ様」

 

 とロジャーは女の返答に少し苛立っているハナに耳打ちする。

 

 「彼女はシルビアです。烟りの魔法使いシルビア」

 「え!?あの女が!?」

 

 とてもそうとは見えない、ハナはキッと女を睨めつける。

 ──言われてみれば、確かに煙を吐いてるし、魔法使いっぽい格好ではあるけども。

 

 「なんじゃ?わたしの顔になにかついておるのか?」

 「いえ、なにも。失礼しました。魔法使いシルビア。貴女とはつゆ知らず……。あたくしはハナ・ジャンガラ・ドラボリバルと言います。何卒ご容赦を」

 「ふむ。そう改められれば、こちらも礼を尽くさねばならぬな。ほれ、こちらはアルフォンス・シシャじゃ。ビコト族の巡礼者となった」

 

 わ、とシルビアに首から引っ張られてアルフォンスはハナと目を合わす。透き通った瞳は田舎者であるが故の無垢さなのだろうか。重圧も重責もなにも知らない澄んだ瞳、ハナにはそれが少し気に障る。

 

 「挨拶は結構。あたくしたちは手を取り合うのでは無く、競い合うのだから」

 

 それを聞いたアルフォンスはひどく落ち込んだ様子であった。

 

 「よう、ところで」

 

 逆に意気揚々なのはアルフォンスの横にいる青髪のサーヴァントだ。

 

 「そっちのあんたがサーヴァントだよな?感じでわかるぜ」

 

 指を指されたのはランサー。彼は椅子には腰掛けず、ハナとリーファの間、半歩下がったところに立っていた。指を指されたことでランサーは赤い髭をもぞもぞと動かし、不機嫌な顔つきになった。

 

 「だとしたら、なんだ?」

 「へっ。いいねえ。端から喧嘩腰じゃねえとやり難いもんな」

 「相手をして欲しいのならはっきりそう言えばいい。回りくどい。甘咬みで甘える子犬か?」

 「子犬?へえ、この俺に犬ってか?」

 

 青髪の男は目を見開き、口元にうっすらと笑みを浮かべると、片手に剣を握りゆっくりと立ち上がった。前かがみになり顔は笑顔ではあるが、大きく見開かれた眼にはしっかりと敵意が込められいる。

 

 「待って!セイバー!いきなりどうして喧嘩腰なのさ!」

 

 アルフォンスがセイバーを必死に制する。

 

 「貴方も自重なさい、ランサー」

 

 ハナはランサーを尻目に見る。ランサーはセイバーとの視線を切り、申し訳なさそうに頷いた。

 

 「あら、止めてしまうの?せっかくサーヴァント同士の殺し合いが見られると期待したのに」

 

 そう言って現れたのは一人の女。金色の巻き髪に青い目を持つ女であり、真っ赤な襟を立てたコートに嗜虐的なピンヒールを着こなしている。コートの中、上半身は胸元が菱形に切り取られた黒いジャケットで下半身は光沢のある黒いスカートを履いている。隙間から見える胸元や足は白磁のように滑らかで白い。片手には白銀色のスタッフが握られていた。人間族に見えるが、肌を粟立たせるほどのこの魔力量からいって恐らくはサーヴァントと推察された。

 

 「あんたみたいないい女がサーヴァントなのか?こりゃ参ったな」

 

 セイバーが言う。顔は笑顔のまま、手には剣が握られたままだが、敵意は薄れ言葉の抑揚も柔らかい。

 

 「あら?手加減してくれるのかしら?これは嬉しいわ。貴方みたいな人にはとても敵いそうにないもの」

 「時と場合によるけどな。女子供とはやり難い。こいつは俺の性でね」

 「お優しいのね」

 「キャスター。無駄話はそこまでにしておけ。愚かな振る舞いで俺を失望させるな」

 

 そう言って女の後ろから一人の男が歩いてくる。パステル調の淡い青い肌を持ち、これまたパステル調の桜色をした髪を有する男だ。後髪は背の中程まで伸びており、漣のように綺麗にうねっている。赤茶色の襟が太く、全体にゴテゴテした装飾の施されたロングコートを羽織っており、顔立ちは彫りが深く美麗である。目は大きいが目端が鋭利で釣り上がり、耳は尖り、鼻筋は綺麗にすっと通っている。肌色や髪色、それに顔立ちを含めると神秘的で耽美な印象を多分に受ける。このように男の容姿は美的で特異的ではあったが、アルフォンス一行は別の事に驚いている様子であった。

 

 「ちょっと待て!キャスター!?あんたキャスターのサーヴァントなのか!?」

 

 セイバーは驚いた顔で言う。

 シルビアも驚きをもって立ち上がり、アルフォンスは立ち上がりはしないものの驚きと恐れを含んだ顔をして、女のサーヴァントを見つめている。

 女は意味深長な笑みを浮かべるばかりでなにも答えない。

 “キャスター”と男は質問には答えないまま、給仕エルフに案内されてハナたちの横へ腰掛けた。

 

 

 「アルフォンス様ご一行、ご着席ください」

 

 給仕エルフの中で一際気品のあるサッシュを掛けた初老エルフが言う。

 

 「これより宝石谷領主ダストロイ・ドロフスキー様がいらっしゃいます」

 

 初老のエルフはそう言うと、これまでの来客者が来た方とは別にある年季の入った樫でできた扉を開けた。

 ゆっくりとお上品に開かれた両の扉の中から二人の男が入ってくる。扉が開くなり、柑橘類とラベンダーの混じった香りが部屋に流れ込み、室内でありながら爽涼とした野原にあるかのような雰囲気になった。

 入ってくる二人のうち一人は耳が尖った男であり、ツンと高い鼻と柔らかい眼差し、そして眩いばかりの気品を纏ったエルフであった。彼の髪は青銀色で、光の加減によっては黄金色に輝いて見える。背が高いが華奢であり、肩からかけている上衣と手にはめた純白の手袋は貴金属のような光沢を放っていて、その立ち振舞と相まって荘厳な教会の如き雰囲気を纏っていた。

 恐らくはダストロイと思われるその男の隣には、片眼鏡と真紅のローブを羽織った人間族風の男。片手には紅い宝石の嵌められた枯れ木の大杖を握っており、かつかつと床を叩きながら部屋へと入ってくる。

 

 「バフムート……」

 

 シルビアは小さくひとりごつ。

 バフムートは彼女に気づいたものの一瞥するだけで、そのまま横を通り過ぎた。

 

 「お忙しい中、よくぞお集まりくださいました。巡礼者の皆様。私は宝石谷の領主ダストロイ・ドロフスキーと申すものです」

 

 初老のエルフが引いた椅子に腰掛けるとダストロイがそう言った。声は男性にしては高く、女性にしては低い、中性的声色であった。

 ダストロイは修辞を駆使した祝辞を滔々と並び立て、場の雰囲気を緊張感があり格式高いものへと変えていく。言葉だけで場を操作できるのは、場数を踏んだ者が出来る稀有な所業であると言えた。

 

 「……というわけで、巡礼者の皆様にご案内をお出しいたしましたが、私の力及ばず、全員が参加、というわけにはいきませんでした。申し訳ない。さ、気を取り直しまして、ささやかながらではございますが、お食事を準備しましたので、英気を養いつつ、皆様の交流の場になれば幸いです」

 

 自然と拍手が起こり、給仕エルフたちが小さなグラスを片手に部屋へと入ってくる。座っている者だけでなく、立っているランサーにもグラスが行き渡ったのをダストロイは確認すると言った。

 

 「では、はじまりの乾杯を。バフムート様にお願いしましょう」

 「……わしがか?」

 「もちろんですとも。そも、この企画はバフムート様のものですから。私はただそれに乗っかっただけのことです」

 

 諦めたようにバフムートは小さくため息をつくと、グラスを顔の高さまで掲げると言った。

 

 「乾杯」

 「「乾杯!」」

 

 そうして食事会ははじまった。 

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