白い靄の中、浮いている感覚を覚える。
ふわふわと意識はないがある方向へと進んでいるようだ。
徐々に靄は晴れていき、見えてきたのは緑の大地と、死体の山。
穏やかな黄緑色の大地に、業火の如き炎があちこちで燃えていて、黒い煙を吐いている。
礫として横たわっているのは、馬や人。
建物の残骸は木っ端となってあたりに散らばり、男たちの叫び声が木霊している。
思わず目をそむけたくなるような光景であるが背けることができない。そも、体の自由がない。
俯瞰して見えていた平原に馬と男の姿が見えた。
男は馬に引かせた台車に乗って人という人を鏖殺しつくしていた。平原は男の倒した人間の骨や、血肉が転がり赤黒く染まっていた。
「クー・フーリン!」
戦士らしからぬ男が台車で駆けている男に声をかけた。
どうやら鏖殺しているのはセイバー、いやさ、クー・フーリンらしい。
「槍をよこせ!」
「なに!?またかよ!?これで三度目だぜ!?」
台車に乗っているクー・フーリンは返り血で真っ赤になった顔を向けて疑念を叫ぶ。
「もう槍はくれてやった!てめえらの願いを聞いてやる
「槍をよこさんというのならば、末代まで拭えぬ不名誉を被るだろう!」
「俺の不名誉は俺のものだ!勝手に知らねえ未来にまでおっ被してんじゃねえよ!」
おおきく振りかぶってクー・フーリンは槍を投げた。放たれた槍は戦士らしからぬ男を刺し貫き、後の数十人まで貫き殺した。
弾ける鮮血。
飛び散る頭蓋。
首も飛び、千切れた四肢も弾け飛ぶ。
刹那、丁度クー・フーリンには死角となる方角から槍が放たれると、彼の腹を裂いた。
「ぐわ!痛ってえ!」
台車と引いていた黒馬とを繋いでいたものは木っ端となって砕け散り、馬は走り去ってしまった。残されたのは臓腑を台車に撒けたクー・フーリンと、もはや動くことのない台車だった。
槍を放った男の一団がやってきて彼を取り囲む。
朦朧とした眼差しを向けてクー・フーリンは言った。
「へへ。悪いが、そこの湖で水を飲んでもいいかい?」
「いいだろう。だが、ここへ必ず戻ってこい」
「ああ、わかったよ。だが、素直に戻るか分からねえぜ?俺から目を離さないようにするんだな」
そう言ってクー・フーリンは散らばった臓腑をかき集めて、腹へとねじ込むとよたよたと歩き出した。
クー・フーリンは湖で体を洗い、水を飲むと再び平原へと戻ってきた。
彼は丁度よい石柱を見つけると、腰紐で自分と石柱とを結びつけて倒れないようにした。深く長い呼吸はいつしか力が弱くなり、小さく細々としたものへの変わっていった。目には最早光はなく、口も既に閉じることさえできない。返り血と己の血で顔面から体中まで赤黒くなっていた。
「ああ、誰かそこにいやがるな」
とクー・フリンは今にも死にそうな顔を上げ、だが、力のこもった声で言う。しかし、彼のその言とは裏腹に先ほどの槍の男の一団は、後からやってきた戦闘に巻き込まれて誰もいなかった。
つまり、その場にいたのはアルフォンスであった。
「ったく、律儀なこって。嗤うなら嗤え。嘲るなら嘲ろ。好きなだけ貶めるがいい」
どうやらアルフォンスを先の一団の一人と勘違いしているらしい。恐らくはもう、目が見えていないのだ。
心からの笑み、といった至上とも思える笑みを浮かべてクー・フーリンは言葉を継ぐ。
「だが、この身を駆け巡る高揚感は俺のもんだ。この生を走りきった俺だけのもんだ。へへ、こいつは譲らねえぜ?羨ましいだろ、ざまあみろってんだ」
ふっと穏やかな顔つきになると、クー・フーリンは静かに息を引き取った。
彼の立つ平原には、数多の死体。それらは倒し続けた敵の骸であり、クー・フーリンが戦ったという証であった。
再び視野が白い靄の中に戻ると、アルフォンスはゆっくりとため息をついた。
そう、人を殺し、殺し尽くしてこそ戦場に立つ意味がある。
それが戦場での結果だ。
敵を倒し、人を殺し、潰し、その果てに死があったとしても。
戦果を上げてこその意味がある。
結果を残さないものが居続けてなんの意味があるのだろう。
自分には。
果たして。