Fate/Fantasia edge   作:わがし狂太郎

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15話

 

 砂埃が舞っている。

 視界は不良。

 あれほどの体躯を持つアーチャーでさえもその姿を視認できない。

 一羽の鷹は彼らの小争いには飽いたのか、既に上天からは消えていた。

 一陣の風が吹くと徐々に砂埃は晴れていく。

 

 「「!」」

 

 それを見てアルフォンスもセイバーも思わず驚嘆の声を上げる。

 そこにいるアーチャーは。

 そう、アーチャーは倒れてすらいなかった。確かに左胸は赤黒く変色していたが、筋骨隆々のその体躯には傷一つ無い。

 

 「どうなっとるんじゃ?もしかして、不死身か?」

 

 シルビアも少し離れたところから、目を丸くし声を上げる。ぽろり、と落ちたパイプを慌てて拾っては再び咥えた。

 

 「しかも、まずいのう。今の宝具で真名がわかってしもうたじゃろう」

 

 一方のアーチャーはケロリとした様子で、大声で笑いながら隣の元嶺に向かって言う。

 

 「すまん!申し訳ない!一本とられてしまった!」

 「まったく!遊び過ぎなのよ。でも、驚きね。相手のサーヴァント、セイバーセイバー呼ばれてたけどランサーだったのよ!これがわかったのはすごいことじゃない?」

 

 元嶺とアーチャー、二人の声は大きく、聞きたくなくても聞いてしまったシルビアは真名が割れなかったことを安堵しつつも、げんなりした顔をした。

 ──なーんもわかっとらんじゃないか!あやつら!

 

 「喧しい故、何事かと来てみれば」

 

 不意に今までに聞いたことがない、重低音で威厳のある声が辺りに響く。場にいた全員は声の方へと振り向いた。声の主はぐるりと周囲を取り囲う楕円形の岩壁の上におり、両腕を組んでこちらを見下ろしている男であった。

 

 「道化どもの戯れであったか。この我に無駄な労力を使わせたな」

 

 そう言った男は、頭には美しい光沢のあるターコイズブルーの頭巾を被っており、その頭巾の布が左右の耳から後首までをすっぽりと覆っている。それでもまだ布地が余っているのか、首元から肩までその布地がぐるりと回されていた。顔の仔細ははっきりとわかり、きめ細かい小麦色の肌に剛胆な男らしく厚い唇。目鼻立ちは気性を表してか、猛々しく力を感じる作りではあるが、どれも整っている。眉は黒くしっかりとしていて顎はがっしりとした、若々しくも偉丈夫といった容貌だ。服装は丁寧に織られた白い絹布を贅沢に使ったボリュームのあるもので、それには美しい金糸の刺繍が高級絨毯のように巡らされている。あからさまに高価そうな金や瑠璃色の装飾品が頭やら肩やら腰やらにつけられているものの、男の風貌には何故かよく合っていた。二の腕から先は素肌が見えており、小麦色で均整のとれた凹凸のある筋肉質の両腕を胸の前で組んでいた。

 

 「君も混ざりたいのか?大歓迎だ!強敵は何人いたって構わない!」

 

 アーチャーは男に向かって大声で言う。

 男の方は明らかに不機嫌な顔つきで見下ろしながら言った。

 

 「パピルサグの贋物風情が、誰に声をかけている。不敬者め。我は戦士ではない。本分を弁えず戦いなどに興じる気はない。貴様らだけで争うがよい」

 「そうか!いや、それは残念だ!」

 「して、先程聞こえたのは『ゲイ・ボルグ』であったな。それは遠い果ての島、名は知らぬがその島にいたというクー・フーリンという者の槍である筈だが?すると、青男、貴様がそうか」

 

 青頭巾の男はそう言ってセイバーを見やる。

 セイバーことクー・フーリンは剣を男へ向けて喧嘩腰で言った。

 

 「てめえが名乗らないのに、答える義理はねえよなあ?ええ?」

 「ほう?戦士の分際で道理を説くか、面白い。貴様、我が名を知りたいと申すか」

 「そりゃあな。で、なんての?あんたの名前」

 「愛する民の要望であれば応ずるのが帝王たる我の責務。だが、まだ名を明かすときではないと、我が同盟者が言うのでな」

 「なんだよ!そりゃないぜ!」

 「心苦しいのは我とて同じよ。愛には愛を持って応えてやらねばならぬというに。故に許せ。寛大なる我がクラスのみ貴様らに開示しよう。我がクラスはライダー。ライダーのサーヴァントである」

 「ライダー……」

 

 隣で聴いていたシルビアはそう呟きながら、くまなくライダーを見る。一つでも特徴的な点があればそこから真名に遡れる、とそう考えていた。

 

 「貴様は答えずともよい、青男。先の反応を見れば明確過ぎる故な」

 

 ライダーはそう言って視線をセイバーとアーチャーの間に向けた。あくまでも間に視線を投射しており、二人は眼中に入っていない様子であった。黒い瞳に映っているのは地面のみ、長い嘆息を漏らすとライダーは言った。

 

 「元より下らぬ児戯ではあったが、これでは興醒めよな。貴様ら!疾く消え失せよ!さもなくば死ね!」

 「急になにを言い出しやがる!」

 「この感じは……。なるほど!そうか!」

 

 セイバーはわからず喚くばかりであったが、アーチャーはライダーと同じようになにかを感じ取ったらしかった。アーチャーは横にいる元嶺に向かい大声で言う。

 

 「マスター!この場を早く離れるぞ!お友達方も!早く!」

 

 アーチャーが言い終わるか否かの刹那、中天に昇った陽の光が一瞬陰る。それと同時にセイバーとアーチャーの間の地が大きく陥没し、その陥没地中央に一人の大男、アーチャーよりも一回り大柄な大男がしゃがんでいた。頭に深緑の頭巾を被った虎のような顔つきのその大男は、ゆっくりと立ち上がると天に向かって大口を開き動物のような咆哮を上げた。まるで猛虎の化身かなにかだと、アルフォンスは錯乱しながら思った。

 

 「なんじゃ、ありゃあ!?」

 

 セイバーは素っ頓狂な声を出しながらも半身を引き戦闘態勢をとった。

 

 「この魔力量、サーヴァントじゃ!恐らくはバーサーカー!手当たり次第に破壊し尽くすの狂戦士のクラスじゃ!」

 

 シルビアはセイバーにそう向かって言い、加えて大声でアルフォンスに退却を促す。アルフォンスはこくん、と頷くと背を向けて一目散に逃げ出した。

 

 「この場はここでお開きとしよう!ランサー君!また今度仕切り直しだ!」

 

 陥没地挟んで向かい側のアーチャーが叫ぶ。ぐっと親指を立てて屈託のない笑顔を浮かべると、蹄を鳴らして彼と元嶺たちは逃げていった。

 

 「ランサーじゃねえってのに」

 

 と呟きながら気配のある方、岩壁の上をセイバーは見やる。そこにはまだライダーがいて、腕は組んだままで逃げる気配もない。セイバーは不思議がって声をかけた。

 

 「あんたは逃げねえのかい?それともあんたは遊んでくつもりかよ?」

 「更に一人、いや、人ではなかったか、ともかくやって来る。我はその方とは古くから面識があってな。挨拶でもしておくつもりなのだ。愛故に貴様に告げておくが、我はその狂戦士には興味はない。だが、狂戦士の方は貴様に興味があるようだぞ?」

 「あん?」

 

 とセイバーが視線を正面に戻すと、バーサーカーと目があった。否、バーサーカーの目には瞳孔がなかったので、感覚的なものではあった。だが、どうやらセイバーに照準を定めたのは確実であるらしかった。

 バーサーカーの火竜の如き咆哮。

 片手に握った矛を向け、セイバーの方へと迫ってくる。

 

 「なにをしとるんじゃ!セイバー!連戦する余力はないじゃろ!逃げるんじゃ!」

 

 既に囲いの外、草原を駆けながらシルビアが叫んでいる。その更に先をアルフォンスが駆けている。セイバーは慌てて剣を納めると、凄まじく綺麗なフォームで走り出した。

 その後を雄叫びを上げながらバーサーカーが追っていく。

 こうして楕円形の岩壁の中は誰もいなくなったのだった。

 

 

 陥没地だけが残された、楕円形の岩壁の内。

 岩壁の上でライダーは腕組みをしながらじっと待つ。

 

 「王様ー、王様やー」

 

 とやって来たのは彼のマスターである六平寺杏介であった。彼は人間族の青年であったが、普通の人間族ではなかった。彼と彼の一族は『蛙洞人』と呼ばれる特殊な人間族であり、彼らは大蝦蟇を使役する。既に伝承は途絶えているため、彼ら自身も由来を知らないが古代から続く『疣蝦蟇仙人』の末裔であるが故に大蝦蟇を使役できるのである。彼らは『トモガマ』と通称される一匹の蛙と生まれたときから死ぬまでを共にし、互いの魔術回路を共有することができる。よって、彼らは通常の人間族では考えられないほどの魔力量を有するのだが、これが今回は功を奏した。実はこのライダーは、強大であるが故にかなりの魔力消費をするサーヴァントだったのである。

 六平寺は彼のトモガマであるケロ吉に乗ってぴょこぴょことライダーの下へとやってきた。

 

 「大きな音がしたけーが、なにがあったんだべか?おんや?誰もおらんけど、なにをしよっと?王様や」

 「古い知己を待っている」

 

 ライダーは顔を向けずに言った。

 

 「そうだっんだべかー。知己ねー。えっ、王様の知り合いなんていたんべか」

 

 六平寺がそう言い終わるか否かの瞬間、一人の女エルフが空からふわふわと降りてきた。栗色の長い髪を持つそのエルフは、青い首元に襟まであるマキシワンピースを着ていたが、体の美しさを強調するかのようにぴったりとしており、腰の横からスリットが入っていてスラリと長く白い足が見え隠れしている。篭手のような装備品や腰にはコルセット、首周りにも装飾品があるが、どれも金細工であり色とりどりの宝石が埋め込まれている。女エルフはライダーを見下ろすように中空に浮かびながら言った。

 

 「なんだか凄い音がしたから来てみたら、なんであんたがいるのよ?」

 「久しいな。イシュタル。我が愛人よ、貴様が来るのはわかっていた」

 「ちょ!」

 

 女エルフは顔を真っ赤にし足をバタつかせると怒鳴った。

 

 「な、なによ!いきなり!そんな昔の話、しないでくれる!?」

 「王様の待ち人って元カノだったべさ。隠すこともなかったんになー」

 

 六平寺は冷やかすように言う。

 するとイシュタルというその女エルフは、人差し指でビシッと彼を指した。

 

 「こら!そこの人間!勝手に理解しない!」

 「イシュタルよ。我が愛すべき神として問う。かようなとこで何をしている?」

 

 腕組みしたままのライダーは、視線だけをイシュタルへ向けて尋ねた。

 

 「何って、別に?道の途中で変な音がしたから寄っただけ。そっちこそ、なんでこんなとこに?なにしてるわけ?」

 「我らは巡礼なる祭儀の参加者なれば、ここに来るのも必然というもの。既に無用ではあるが」

 「いや、そういう意味じゃなくて、よ?あなた個人の事情を聞いているわけ」

 「決まっている。万願の大器、それを得ること。それを用いて我が領地たる世界を改めて検分することよ。当世風に言わば、そうさな、世界旅行といったところか」

 「世界旅行!?折角なんでも願いが叶うっていうのに、なんてくだらない。まあ、あんたらしいっちゃあらしいけど」

 「では、同じ質問を貴様に問おう。貴様は一体何をしている?サーヴァントとも呼べぬ身で、何故現世を彷徨っている?」

 「それは……」

 

 と言いかけてイシュタルはくるりと背を向けた。衣装は背中がぱっくりと開かれており、白い素肌が栗色の髪の合間から疎らに見えていた。

 

 「そんなこと、わざわざ私から聞かなくても、あなたならわかるでしょ。その目、その目があれば大体のことがわかるんだから。私はもう用はないし急いでるから行くわ、じゃね」

 

 イシュタルはそう言って片手をひらひらと振ると、空を駆けて去っていく。遠く離れ豆粒ほどの大きさになるとライダーは呟いた。

 

 「我が眼は全てを見通すといってもあくまで一点の夢見に過ぎぬ。知らぬ仲でもあるまいに、よく言うものよ。ま、何故かは想像はつくがな。彼奴が今世に残るは兄妹の絆。相も変わらず愛い神よ」

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