Fate/Fantasia edge   作:わがし狂太郎

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23話

 

 『フロイド・タカダ記す。

 

 石英暦一八八年二月一二日

 

 この地方は「八つ岡」と呼ばれている。

 ジフ山やオイライキ砂漠にあるアリッサの大バルハンなど特徴的な凸形地形が八つ存在するかららしい。なんともまあ単純な所以だ。単純であるがゆえに覚えやすくて良いことではあるが。しかも、アリッサの(・・・・・)とついている三日月砂丘(バルハン)については、つい最近その名を冠した。あの不毛地帯を開拓した女王の偉業を賞して、ということらしいが、その通りであろう。設置式特級礼装キ号は私の術式を参考にしたらしいが、開発が成功したのは彼女の地頭の柔らかさによるところなのは自明だ。あの土地は確かに幾つもの街道が交わるところではあるから、意地でも開発したいという心境は容易に理解できる。その結果、王朝の衰退を招いたが。

 

 ルカ歴二五一年八月三〇日

 

 砂鯱。

 備忘録としてここに記す。

 随分ぶりにオイライキ砂漠を歩くことになったが、この怪物のことをすっかり忘れていた。再度忘れないためにもここにこの怪物の事を記しておこうと思う。

 鯱、とされているが見た目はウバザメに近い。もっとも体長はその五倍以上あるが。殆ど砂の中で生活をしており、巨躯を現すことはまれである。外皮は薄ベージュ色と青鈍色からなる斑模様で、薄ベージュ色はうまい具合に砂の色に溶け合っている。目は完全に退化しており、獲物や外敵(いるのか?)の存在は音による探知で知覚しているようだ。砂上の獲物を捕食するときは砂下、薄皮1枚くらいまで浮上してくるので背びれが突き出る。つまり、背びれが見えたら逃げろ、と言うことだ。これを忘れてはならない。だが、彼らの泳ぐ速度は人が走るよりも当然速いので、背びれが見えて走り出すときには、もう祈るしかないのだが。

 

 石英暦二九年一一月三日

 

 どうやら、私の魔術についての誤解が広がっているらしい。私の得意とするのは、過去行使された魔術の痕跡を『探知』し、それを『掬上(サルベージ)』し、『再現』することだ。副次的に『解析』する能力もついているが、それはあくまでも『再現』する過程においての副産物に過ぎない。アレンジは不得手であるから、私に期待しても無駄なことなのに。

 そういったものはバフムートあたりに依頼するがいい。彼は『改良』を得意としていたはずだ。シルビアでもいい。彼女の魔術は説明を聞いてもいまいちわからない。『流れ』とかいうふわふわしたものに干渉できるとのことだが、私がわからないということはそれだけの可能性が秘められていると思われる。で、なければトンマーゾあたりにでも期待するがいい。ルカーニア家の得意分野は『分霊』だったと思うが、トンマーゾ自身には情熱がある。時に情熱はあらぬ方向へと飛躍させるのに役立つ。人類における飛躍的な進歩とはそういったところから発生するものだ。家柄でいえばファンダイエイク家が一番であるから、やはりバフムートへ依頼するべきなのではないだろうか。ああ、そもそも彼は『改良』が得意どころか『万能の人』と呼ばれるくらい優秀なんだった。やはり彼に依頼するべきだろう。

 

 年輪歴一〇五年八月八日

 

 この世界では奇妙な現象が起こることがある。

 その一つが水の話だ。

 ある特異の水を経口する、もしくは触れただけで良いかもしれないが、そうすることにより、他人の記憶を垣間見れたり、あるいは他人の能力を転写できたりなど不思議なことがある。水にはともすると、他人の魔力が内包されることがあるらしい。必ずしも上記の現象が起こるわけではない。確率だけでいえばかなり稀だ。条件も判然としないが、普段口にしている飲料水ではこうはならない。それなりに特殊な環境下においての発現と予想される。

 まだ、こうも新しい発見があるということか。生まれたてのときは数多くの新発見があった。だが、徐々に新発見はなくなっていき、新鮮な感動とは得難いものになったのだ。この発見は私にこの世界は思うよりまだまだ広大であったということ知らせてくれる。その感動をもってここに記す。

 追伸──久しぶりにシルビアから掬上の依頼がきた。今回はなんでも中南米あたりの古文書が欲しいらしい。前回、スコットランドの時にはかなり時間を要したので、早速明日から取りかかるものとする。

 

 グレゴリオ歴二〇六〇年二月一日

 

 ここでは程度の差はあれど皆が魔力を帯びている。常時、なんの意図もなく魔力を行使しているので、それを用いているという認識は極めて薄まっているものの、確かにそれはある。考えてもみてくれ。例えば右手を動かす時、シナプスを経由して電気信号を右側に送り右上腕二頭筋やら右尺骨筋に重力に逆らうような記号を送って右手を上げる、という煩雑な行為を態々認識している人はいない。『右手を上げろ』で事足りるからだ。それと同じことだ。魔術回路を励起させるのに不断の努力は必要なく、血脈を玉璽の如く厳重に保持する必要もなく、生まれながらに備わっている。無論、微弱であるから大きな変革があるかというとそうではないし、認識もしていないので一見すると全ての行為が何気ないものに見える。例外的に魔力操作に長けているエルフ族は、超然的な行為を生活に利用しているというが、それはエルフ族に限ったことである。今後、魔力の使い方が全部族に波及するようなことがあれば、様々な分野に応用されることであろう。

 

 (千切れていて読めない、暦と年月が書かれていたと予想される)年三日

 

 今日、一つの聖杯戦争にケリがついた。

 勝者は取るに足らない人間族の女だったが、彼女はこの戦いの中で大きく成長した。以前とは別人なくらいにこの世界を背負う覚悟を持ち、手にした力の使い方を吟味しているようだ。その結果は好ましい。彼女が数多いる聖杯戦争の勝者のように一国のリーダーとなるかどうかは今後の彼女次第だ。

 私の拙い分析によれば、今回の聖杯戦争による魔力補填では私の目的にはまだ届かない。これまで何度も聖杯戦争を開催し、その度に余剰魔力を回収してはきたが、まだ足りない。後数回で到達する筈ではあるが、そう簡単に開催はできない。準備や仕込みを怠れば回収率は落ち、開催するコストの方が上回ってしまい本末転倒だ。そもそも私は錬金術師ではないから、聖杯を錬金するのには時間がかかる。

 そうだ、聖杯で思い出したが、またやつらが嗅ぎ回っているようだ。私が持つあの聖杯の臭いをいつまでも追っているハイエナみたいなやつらだ。信仰心などとっくに失っているだろうに、聖杯を管理することに関してはいつまでも御執心らしい。だが、見つかるわけにはいかない。私の本懐を成し遂げるのに余計な横槍は入ってほしくないのだ。

 本懐まではまだ先が長い。準備期間を考慮すると、後数回といっても年単位でのプロセスを踏んでいかなければならないだろう。時間はある。焦ることなく着実に、目的へと近づいていくのだ』

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