Fate/Fantasia edge   作:わがし狂太郎

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2話

 

 例えば、夕陽を見ている時、人は何を思うのか。ある人は郷愁を、ある人は夕飯の献立を、ある人は一日の感謝を、それぞれ覚えることだろう。

 ロイ・サンゴスターは乾いた大地、固まった砂と大岩からなる山の合間に沈んでいく大きな夕陽を見ながら、『何故』とだけ思い続けていた。彼のそれは最早妄執と呼ばれるものであり、夕陽に照らされて紅い、ただ一人の影は答を求めて彷徨うのであった。

 ロイの見た目は物乞いのそれに近い。目は酷く窪み、頬は削げ、元から特徴的だった鷲鼻はより目立っている。茶色の、ただそれは元はクリーム色だったはずのローブには苔と茸までも生えてしまっている。白髪の混じった黒髪は油で不衛生な艶を持ち、無精髭はワイルドには程遠い、ただ生え散らかした様相をしていた。

 しかし、それも致し方ないことであった。

 彼が意識を取り戻したのはつい一ヶ月ほど前、なんとそれまでの三十三年もの間、意識を失っていたのであった。

 何故だ。

 理由を探さねば。

 と、ロイは思った。

 探索するには地上に出なければならず、だが逸る気持ちは彼の体力が戻るのを許さない。甲斐甲斐しくも、意識がある無いに関わらず面倒をみてくれていた者たちは、地上に出るのに躊躇いがあるらしく、彼一人の道行きとなったのだった。

 故にかような姿であっても致し方ない。

 かつての『鷲鼻の魔法使い』と呼ばれる面影がなくとも。

 何故だ。

 あの方法は間違いであったのか。

 否。おそらくは否。

 探さねば、()を。

 ()の遺物を。

 ロイには確信があった。()ならば、この胸の疑念に対する解を持っていたであろうと。

 恐らく()ならば真相を知っていたに違いない。いやさ、真相を掴みかけたが故に死んでしまったのだ。

 そうしてロイの旅は続くのであった。

 

 ここは『オイライキ砂漠』と呼ばれる地域で、ロイの知る限りでは()の足跡を辿るに、最期に近かった。

 夜の帳がすっかりと下りてしまったため、ロイは岩陰に隠れて野宿をすることにした。一週間前に立ち寄った村で譲ってもらったロバは主人であるロイより先に寝息を立てている。このロバの顔は不思議と人を苛立たせるものではあったが、体は頑丈で、一日中ロイはロバに乗るというより、最早荷物のようにもたれかかって砂漠の中を進んでいた。次の日、また次の日とロバに載せられてロイは砂漠を進んでゆく。

 

 

 奇跡的に砂漠を抜けてから六日目。ロイの手持ちの水が尽きかけていた頃、山々と森に隠れるように人工的に開けられた洞穴の入口を見つけた。

 人がいれば水と食料を恵んでもらおうとロイはその洞穴の中に入っていくことにした。しばらく進んだところで広い空間に出ると、数軒の家が散見された。

 そこは小さいながらもドワーフの集落であった。

 異邦人を見つけたドワーフたちは警戒していたものの、害をなす存在ではないとわかると、水と食料をロイに恵んでくれた。

 

 「ありがたい。感謝する。お礼としては些か足りないが、そこの家の屋根を魔術で治してしんぜよう」

 

 ロイは魔術を駆使して、あるドワーフの家の屋根を治してやった。すると、家主のドワーフは感激はしていたものの妙なことを言い出した。

 

 「ありがてえ、ありがてえが不思議な力だな。まるでコンコン滝の魔法使いみてえなことができるんだな。アンタ」

 「コンコン滝の魔法使い?」

 「ここらに伝わる昔話だよ。いやー、本当に魔法を使えるやつがいるとは。見れて良かった。長生きしたかいがあったってもんよ」

 

 ロイはドワーフたちに感謝を述べると、コンコン滝へと向かうことにした。

 古老のドワーフに聞いたところによれば、集落から半日程度、山を登ったところに滝があり、そこをコンコン滝と呼んでいる、ということであった。

 昔話によると、そこら一帯は魔法使いの住処であり、時折、集落を訪れては住人と交流したらしい。今では尾ひれがついてヒロイックに竜を倒したことになっているが、それはありえない誇張であった。

 獣道もない森林に道を切り開き、主従を逆転させてロバを後ろにロイは山を登っていく。鬱蒼とした山林は天然の要塞のようでもあった。

 半日どころか、すっかり日も暮れたころ、ようやくロイは滝壺までたどり着いた。大きくはない滝であり、滝壺から溢れた水が先程の集落近くまで流れているようであった。

 ほう?とロイはあるものに気づく。

 恐らくは多くの者が気づかないであろう、夜であれば尚更に。

 だが、ロイは長らく地底にいた。そこで培われた眼力が、それに気がつく事を可能にする。

 滝の裏側に洞窟が見えていた。

 ロイが近づいてそれを見ると、人工ではなく天然でできたもののようだった。

 ──結界もなにもない、ハズレかも知れん。

 そう思いつつもロイは中へと入っていく。いずれにせよ、ここで一夜を明かさねばならなかったので入る選択肢以外にはなかったのだが。

 中はなだらかな下り坂になっていて、滝に近いにも関わらず乾燥していた。時折、動物が中に入るのか果物の欠片が落ちているが、より奥まで進むとそれも無くなった。

 思ったよりも奥深い、そうロイが思いかけたところで行き止まりとなる。

 

 「!」

 

 ロイが見たのは、明らかな人工物。

 紙だった。

 行き止まりは小部屋のように、僅かながら岩壁で仕切ができており、中に無数の紙が散らかっていた。ロイが身近な一枚を拾ってみると、それは探している()の遺物であった。とうとう見つけ出したロイは、手近なところから拾っては、狂ったように読み始めた。

 

 『フロイド・タカダ記す。

 

 グレゴリオ暦二〇九〇年六月二二日

 

 ようやく聖杯とのパスを発見した。

 以前、日本の滋賀に住む遠戚に聖杯の仕組みを聞いていたことが幸いだった。これがなければ、見つけることは千年かかっても難しかったであろう。

 ただ、今はまだパスを見つけただけだ。これから、このパスを繋げていかなければならないが、それはもう少し時間がかかるだろう。

 

 グレゴリオ暦二〇九五年五月五日

 

 パスとは関係が無いが、新たな発見をした。

 この聖杯には『聖杯戦争』なる術式が記憶されている。

 この『聖杯戦争』とやらの仕組みはこうだ。

 

 その一、聖杯より選出された者を『マスター』と呼ぶ。彼らは皆『令呪』という、赤い紋様を有する。

 そのニ、マスターは『サーヴァント』と呼ばれる使い魔を召喚する。

 その三、サーヴァントを用いて殺し合いを行う。

 その四、最後まで残った一組が勝者、つまり聖杯の所持者となる。

 

 とまあ、かなり血なまぐさいものではある。

 次に補足点としてはこうだ。

 サーヴァントとは、偉人、英雄、虚構など人類史に名を残した……いや、これは正確ではない。彼らは正式名称『境界記録帯(ゴーストライナー)』と呼ばれるようにこの地球上に記録されたものであり、その規格は一概に言い表せられない。ただ言えるのは強力な魂であるということだ。

 この魂を英霊の座という高次の存在から喚び出し、七つの金型に押し込む。この金型を『クラス』と呼び、それぞれ『剣士(セイバー)』『弓兵(アーチャー)』『槍兵(ランサー)』『騎乗兵(ライダー)』『魔術師(キャスター)』『暗殺者(アサシン)』『狂戦士(バーサーカー)』に分類される。

 殺し合う以上、サーヴァントの真名を詳らかにするのは悪手と考えられていた。

 例えば『オリオン』という英霊、つまりサーヴァントを召喚した場合、彼の弱点である蠍は星座になるほど有名なのだから、これが露見した場合、勝ち進むことは難しくなってしまうからだ。

 更に、サーヴァントとは『宝具』という己の偉業、事績、特徴を反映した必殺技、もしくは切り札のようなものを少なくとも一つは有して現界するらしいが、これも真名に繋がるため、なるべく秘匿することが推奨されているらしい。

 例えば『ゴールデン・ハインド』という宝具を有する英霊は『フランシス・ドレーク』に決まっている、という具合だ。

 逆に言えば、相対するサーヴァントの真名を知ることができれば、この聖杯戦争を有利に勝ち進めるというわけだ。

 この儀式で顕現する聖杯は、勝者の願望をなんでも叶えるものであるらしい。第三魔法に通ずるとも、有名な鯨取の王に由来するとも、護国のために古代日本の皇族が制作したとも言われている。

 なんとも、眉唾ものではあるが、仕組としては理解できる。おそらくは倒される『マスター』『サーヴァント』の魔力を聖杯に集め、その収集された魔力によって願いを叶える、という術式であろう。完全とはいかないが、再現することはここでも可能なはずだ。

 万能の願望器、とはいかずとも魔力を集めればできることは多岐にわたろう。例えば『厄災』に抗するということはどうだろうか。目下、最も手を焼いていると言って良いこの厄介な事柄に対して、魔力をもって対抗することで打開は望めないのだろうか。例えば一騎のサーヴァントにこれを注力するなりすれば、なかなか悪くはない気はする。無論、失敗の可能性はある。成功すればこれ以上のない成果と言えるだろうが、それにはまだまだ試してみることがありそうだ』

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