Fate/Fantasia edge   作:わがし狂太郎

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4話

 

 腰携えた二剣の内、一方だけをセイバーは抜く。まるで、手心を加えるような余裕のある堂々とした足取りで三匹の厄鬼の前に立つ。

 厄鬼たちはそれを受けて猛り立ち、狂ったように叫び始めた。それは言語化できぬものであり、この世のものとも思えないものであった。

 しびれを切らした一匹の厄鬼が飛びかかる。が、涼やかにそして目にも止まらぬうちに、セイバーは裏に回り込んでおり鬼の首を切り落とす。

 呆気にとられた残り二匹。

 セイバーに近い一匹に、間もなく一閃。胴から二つに裂けてしまった。

 残されたあと一匹は、恐怖の色も見せずに大口を開けて牙を見せつけるものの、これまた一振りで真っ二つに斬り倒された。

 

 「どうよ?マスター。お前さんのサーヴァントとして上出来か?」

 

 そうセイバーは問うもののアルフォンスは返答できない。

 そもそも、厄鬼は村の力自慢がなんとか頑張って追い払えるようなものであり、三匹も集まるとコチカ村では大騒ぎであった。いくらサーヴァントが自分たちとは違う強さを持ってるとはいえ、これは。

 

 「強すぎる。そう思ったんじゃな?」

 

 ぽん、と肩を叩いてシルビアは言った。

 

 「だが、案ずることはないぞ。お主のその手の令呪、これはサーヴァントを強化するのみならず、強制的に命令することもできる。たとえセイバーが変な動きをみせたとして、その令呪で制御すれば良いのじゃ。まあ三回までの限定ではあるがの」

 「おいおい。信用してくれてねえのな、全く。裏切るなんて戦士の恥、俺がするわけねえだろ。ま、疑り深いのは結構だけどよ。あー、あと裏切らせないっていうなら、『ゲッシュ』が俺にはあるから、そっちをかけてくれても構わないぜ?」

 「「ゲッシュ?」」

 「おう。俺たちアルスター、いやケルトの人間は『ゲッシュ』っていう、要は誓いだな、これを立てて神々の恩恵を受けていたんだよ。今の俺はこの『ゲッシュ』をスキルとして保有している状態みてえなんだよな。で、俺のゲッシュは俺自ら立てるだけじゃなく、他人からもかけさせられるようになってるわけよ。だからお前さんが、どうしても信用ならねえって言うならこいつを使ってもらって構わない。破れば俺には禍が降りかかるから、俺は必死に守ろうとするぜ?」

 「いや」

 

 アルフォンスは頭を振る。

 

 「それはいいよ。そこまでは。うん、ありがとう。僕はセイバーを、し、信じてる」

 「そうかい」

 

 だが、それは、とセイバーは思ったが言葉を飲んだ。というのも、大声で喚き散らしながら一人の女が森の中からすっ飛んで来たからだ。

 

 「なんだ、なんだ!一体どんな馬鹿が迷い込んだのかと思って来てみれば!」

 

 その女は文字通り飛んで来ていた。

 女は筋肉質の体を持ち、その肉体を見せつけるかのようにピッタリとした黒い服装をしていた。特に胸元はV字に開いており、豊満な胸元はある意味で攻撃的に誇示されている。口にはタバコを咥え、勝ち気で真っ赤な目を三人に向けている。そして、背から生えた羽を音もなく動かし、宙を飛んでいた。

 

 「シルビアじゃねーの!懐かしいな、おい!」

 「助丸香」

 

 シルビアはやれやれといった調子で額に手を当てながら、名を呼んだ。

 

 「タバコはやめておけと、あれほど言うたであろうに」

 「はっ、何を今更。こいつを教えたのはテメエだぜ?」

 「わたしは教えてなどおらん。お主が勝手に見様見真似で始めただけのこと」

 「ぶわっはっは!そうだったか?まあ、昔話はいいや。で、何しに来た?」

 

 そう言うと助丸香の目つきは一段と険しくなる。アルフォンスは鷹の前の雀のように、思わず顔を強張らせた。

 

 「なに、そう凄むでないわ。わたしらは聖杯巡礼の最中でな。戸狩の近くに竜脈の反応がある、そこへ行きたいだけじゃよ」

 「んお?!巡礼?巡礼か!いいよなー!俺もついて行きたいが……」

 「ジョマル大帝ー!ジョマル大帝ー!」

 「俺達を置いてかんでくださいよ、ジョマルさん!」

 

 と、賑やかに二人の少年がやってきた。彼らもまた背から羽が生えている。ただし、大きな羽音がしていて助丸香とは羽の種類が違うようだ。

 

 「大帝じゃねえっての!」

 

 と助丸香は少年二人に吐き捨てるように言ってから、少し照れたように三人に言う。

 

 「ってわけでよ、俺も今や一端の酋長ってやつなんだ。月群族(俺たち)も色んなヤツがいるから、あくまでいくつかの集落の長ってだけだけどよ。最近、各集落周りにも厄鬼災霊が多いし、部族の爺や婆やたちもうるせーし、責任ってやつ?があるとかないとかで、悪りいが一緒には行ってやれねえ」

 「ああ、立派になったのう。助丸香。サクラが見たらなんて言うたかのう」

 「ふん。さあな。勝手に先に死んじまったやつのことは知らねえよ。大体よお!人間族は寿命が短すぎんだよ!根性出せっていうんだよなー」

 

 ぶわっはっは!と助丸香は笑った。

 薄っすらと目尻に涙が浮かんでいる。

 シルビアもそんな彼女を見て微笑んだ。

 

 

 「じゃあここまでだな」

 

 と助丸香は戸狩集落の入口前で言った。一緒には行けないが戸狩までであれば道案内はできる、と彼女が案内を買って出たのであった。

 

 「そこの横の道……ちげえ!それは沢だ!沢!そこだってんだ!そこ!そう、それな?間違えんなよ?その獣道をしばらく行くと、狭いが木がなくて拓けたところがあるからよ。そのあたりなんじゃねえかな?」

 「そうか。なにからなにまですまんな、助丸香よ。お礼と言ってはなんじゃが、ほれ」

 「んん?なんだこりゃ」

 

 と言って助丸香は手渡された小箱を見た。

 

 「マッチか。なんだよ。やっぱり俺にタバコ吸わせてえんじゃねえか」

 「ほっほ。お主ではそれで火はつけられんよ」

 「は?嫌がらせか?」

 「そうぶーぶー言わずに、黙って持っとれ」

 

 ったく、と呟きながら助丸香は素直に小箱を尻のポケットにしまった。

 

 「巡礼かあ。あの時俺がもうちっと強く言ってればな。もっと早くに対処できたのかねえ。んん?なあシルビア?」

 「なんじゃ?」

 「俺たちの旅は無駄じゃなかったんだよな?」

 「もちろんだとも。それ、お主が聞くことか?」

 

 助丸香は歯を剥き出しにして笑った。

 

 

 助丸香の指示した獣道は枯れ葉が道を覆っていたため、時折道に迷い、いくらか時間がかかりながらも、三人は無事に目的の場所へたどり着いた。

 そこは確かに、助丸香が言ったように、狭いながらも木が生えておらず、あたかも円形の広間のように草原になっていた。その草原の中央に、二メートルくらいの高さがある、猫の石像が置いてあった。

 

 「あ」

 

 シルビアが思わず声を上げる。

 

 「なんだろう?この石像。この像が大八禮場?……ん?どどうしたの?シルビア」

 

 アルフォンスが尋ねる。

 しかし、彼女は像を見たまま固まってしまっている。

 

 「ねえ、どうしたの?どうしたのさ?……」

 

 「シルビア」

 

 白髪の優しい顔をした初老の男がこちらを見ている。

 

 「なんだよ、このクソ爺」

 「ふほほ。クソ爺とは。君もさして歳はかわらんだろうに」

 「そりゃまあ、そうだけど。ねえ?柊木。あんたなんで『若位相の術』を使わなかったの?折角トンマーゾが開発してくれたのに」

 「んー、そうさなあ」

 

 と言いながら柊木という男は手元の猫を撫で続ける。片手にはパイプを、片手には猫を、と兎に角手が空にならない男であった。

 

 「彼らとともにありたい、からじゃないかのう?まあ、バフムートには随分と馬鹿にされたもんじゃったのう。彼は元から爺さんじゃからなー。それで、そうそう。老けゆくというのは、彼らと時を共にしておるようで良い、そう思ったわけじゃな、僕は」

 「ふうん」

 「ふうん、て。君も似たような計画を持っておるじゃないか。先祖代々の素晴らしい計画を。時計塔では蔑まれただろうが、根源へと至るアプローチとしては最上じゃ。いや、最上は言いすぎたかの?まあ、少なくとも僕にはとても最上の、最適解の計画に思える」

 「そう、三代程度のクソみたいな家系の話だけど、ありがと」

 「ふほほ。照れおってからに」

 「照れてない!」

 

 ぽろり、とシルビアの口からタバコが落ちる。

 

 「ぐわー、勿体無い」

 「シルビアよ。タバコはやめといた方がいいぞ?やるからにはパイプにせにゃ。パイプに」

 「なにがパイプだ!クソッたれめ!さっきのタバコは虹沼村のエルフ謹製だったのにー。これかれもクソ爺のせいだ!」

 「ふほほ。こりゃまた、八つ当たりもよいところじゃあのう。シルビアよ、まあこれも老婆心ながら…いや、老爺心か?とにかく君を慮ってあえて言うが、もうすこーし言葉を柔らかく使った方がええぞ。僕みたいに爺口調にしてみるとかのう」

 ふん、と鼻を鳴らしてシルビアはそっぽを向いた。

 そんな横顔を優しい眼差しで見つめながら柊木は続ける。

 「ままならぬものではあるが、この世界もまた順風満帆というわけではない。大なり小なり歪を孕み、それが人々を惑わしたり傷つけたりするわけじゃな。我々は、いや、あくまでも僕個人は、人々が惑い苦しむのをどうにか取り除きたいと考えておるんじゃよ。今も昔も。……ふむ、お説教もこのところで良いじゃろうて。今朝犬たちが見つけてくれたキノコがあるんじゃが、食べてゆくか?のう?聞いておるのか……」

 

 「シルビア」

 

 はっとしてシルビアが見ると心配そうな眼差しを向けているアルフォンスがいる。

 そして、目の前には大きな猫の石像、そう、これは。

 

 「大丈夫?」

 「ああ、すまんの。ちょっとぼうっとしてしもうた。……よし、ここが禮場の一つで間違いない。アルよ、指輪を石像の台座に置くのじゃ」

 

 アルフォンスは指輪を台座に置いた。すると、指輪の周りがふわりと青白く光りだした。

 

 「指輪が白から緑に変われば完了じゃ。しばらく待機しておこうのう」

 「それで」

 

 とセイバーが問う。

 

 「この可愛らしい猫の像はなんだ?」

 「これか?これは猫地蔵と言ってな。その昔、激甚厄災『終末蛇アペプ』がこの世界に顕現した時、それを封じた柊木将門を称えて各地に造られたものじゃ」

 「へえ、じゃあ英雄の像ってわけかい。猫が英雄で柊木っていう名前だと。すげえ猫もいたもんだ」

 「んん?猫?ああ。いやいや、柊木は人間じゃ。彼は動物を使い魔としておって、中でも特に猫を好んだ事から『猫の使いの賢者』と呼ばれておったんじゃよ。その由来から猫地蔵が建ったわけじゃな」

 「すごいよねえ。厄災を封じるなんてさ。柊木さんも僕たちみたいに巡礼をしたのかい?」

 

 アルフォンスは草原に腰を下ろして聞いた。

 

 「いや、彼は」

 

 と言ってシルビアは少し俯きがちになる。

 

 「どうした?」

 

 セイバーが心配そうに彼女の顔を覗き込む。

 シルビアは穏やかに微笑むと、問題ないと手を振ってセイバーに応えて、言った。

 

 「彼は巡礼者ではなかったのじゃ。アペプの時は色々と問題があって巡礼が上手くいかず、しかも、アペプは不死身の大蛇でもあったもんじゃから相当に手こずってな。それで、彼は自らの命を代償にアペプを封印したわけじゃよ。あの誰も近寄らん『嘲笑の霧森』の奥深くにのう」

 「へえー。この地蔵さんもそんな人の由来があったんだね」

 

 そうアルフォンスが言い終わるか否かの瞬間、セイバーは素早く彼の眼前に立ち、森の奥深くに怒鳴りつけた。

 

 「何者だ!そこにいることはわかってんだよ!大人しく出てきやがれ!」

 

 暫くの静寂。

 アルフォンスは怯えた顔をし、シルビアは口を一文字に結び固唾をのむ。

 セイバーは地蔵から見ておよそ十一時の方向を睨めつけたまま、一刀を抜き身にした。

 

 「そう猛るでない、キヒヒ。怒鳴らんでも今出ていくわ」

 

 女の声がする。かなり年季の入った女の声だ。ぬらり、と木々の間から、背の折れ曲がった老婆が現れた。

 

 「このクラスで慣れてないことするもんじゃあなかったわい。キヒヒ。アサシンであれば多少は出し抜けたかも知れんが」

 

 老婆は紫のローブを羽織っていて、手には枯れ木で作られた杖を握っている。フードを被ってはいるが、顔の仔細は見えている。鼻は鷲鼻であり、顔はシワだらけ、薄気味悪い笑みを浮かべたその口は歯抜けであった。

 この魔力量、サーヴァントか、とシルビアは察する。

 

 「何者だ?」

 

 今度は少し声量を抑え、だが、更に敵意を込めてセイバーは問う。

 

 「キャスター。それに以外に答える義理はないじゃろうて。オマエとわし、これから殺し合おうかと言うんになあ」

 「闘争が望みなのか?ええ?キャスターさんよ」

 「いやなに、大人しく死んでくれるのなら、殺し合いは望まぬよ。わしも楽できた方がええ。キヒヒ。まあ、ありえぬとは思うがの」

 「少しよいか?キャスター」

 

 シルビアが睨めつけながら問う。

 

 「ここの禮場を譲る気はないが、かといって積極的に戦うつもりもない。お主が大人しく引くのならわたしたちは手を出さないが、それでも戦うと?」

 

 キャスターはシワだらけの瞼を少し不快そうに上げると刺々しい口調で言った。

 

 「何を言うかと思えば馬鹿馬鹿しい。聖杯が絡んだ時点でサーヴァント同士戦う以外になかろうに」

 「それはお主のマスターの意見でもあるのか」

 「くどいのう。お喋りをしたければ、他をあたるんじゃな。そちらから来ぬのであれば、こちらからゆくぞ」

 

 セイバーはやや腰を落とし前傾になると臨戦態勢となった。

 柄を握る手に力が入る。

 両の足は今か今かと飛び出す瞬間を待っている。

 そして。

 そして、アルフォンスが叫んだ。

 

 「ちょっと待ってよ!」

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