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そして、今、ぼくは同じ場所にいる。腕時計を見ると夜九時。あのときよりも遅い時間だ。
凍える両手を口の前に持ってきて、はぁっと息を吐きかけた。
「おっ、来たかぁ」
と言って手を振ってくれたのは大谷だ。近づくと、彼は黒縁眼鏡を茶色い縁のものに変え、髪型も坊ちゃん刈りではなかった。
でも待ち合わせよりも早く来るのは夏休みの旅行と同じだ。
からかったら固く握った拳骨を突きつけられる。
「いつまでも中学生のころのこと言うの、やめろよな」
昔のような会話をしつつ、ぼくの目はもう一人を探していた。
「新波なら、まだ来てないよ。あいつ、ほんと遅刻魔だよなぁ。こんなクソ寒い中で待たせんな、ってーの」
大谷の言葉にクスリと笑ってしまった。新波の変わっていないところを見つけてホッとしたからだ。
あれから、ぼくらは共に中学校生活を送ったがそれぞれ違う高校へ行った。入学当初はよく会っていたけれど、だんだんと疎遠になっていった。高校で新しい友達ができて、そいつらと遊びにいくようになったからだ。
それでも大学に入学する前に「三人でもう一度会わないか」という話になった。
待ち合わせ場所をこの駅前にしたのは、新波。その張本人がまだ来ていないとは。
「新波、どんなになってっかなあ」
ぼくがマフラーを巻き直していたら、大谷が冗談めかして言った。
「いやあ、髪の毛金髪にしちゃって、頬に入れ墨入れてたりして」
「ホントだったら笑えないよ」
釘を差すと、大谷がにんまり笑った。その笑みも中学生のころからほとんど変わっていない。
新波も、こうだったらいいな、とぼくはこっそり祈った。もちろん、しばらく会っていないのだから、変わっていて当然なのだろうけれど、根本は変わっていてほしくなかった。ぼくは期待と不安に胸をいっぱいにして待っていた。
目を向けた先は、あのころよりも暗く映った。ここを新波が歩いてくるのか、とぼんやり考えた。
そこである人物に目を奪われる。
「あれ、新波かな」
大谷が隣で身を乗り出す。ドキドキしながらその人物を見つめた。
新波らしき男は片手をあげる。暗がりの中、むきだしの手が周囲の店の明かりを受けて浮かびあがった。昔と変わらず肌は白いようだ。
自分の表情がほころぶのがわかる。それは向こうも同じだった。
それで、わかった。あいつは紛れもなく新波だと。
身長も伸びているし、髪も茶色に染めていたけれど、彼はぼくの友人の新波に違いない。
ぼくは前に出た。あの旅行の帰りと同じように、闇へと向かって。後ろから大谷がついてきているのがわかる。
そして呼んだ。
「新波!」
その呼びかけに暗がりから彼が応じてくれた。
おしまい