無惨様ニコニコで草   作:カラ硝子

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とりあえず一旦幕間は終わりです。
まだ構想を練り切れてないので、無限列車編は慎重に作ります。

みやともさん、ずわいさん、フランチェスターさん、happa64さん、GI8さん、桜一郎さん、ミックスさん誤字報告ありがとうございます!


無限鍛錬編・後編

 

 夜が明けるまでの時間は、永遠のようで、瞬く間だった。

 

 黒死牟様が去った後、俺はしばらくその場に崩れ落ちていた。

 脳が、与えられた情報の処理を拒絶していたのだ。

 

 模倣しろ? 明日までに? あの天変地異みたいな斬撃を?

 

 ……不可能だ。

 

 そもそも俺は人間を喰っていない故にいくら血を分けて頂いたとしても、上弦の鬼には届かないだろう。それほどまでに彼らと俺には差がある。

 

 いくら原作の知識があってもその絶対的なスペック差では届かない。

 

 数分か、数十分か。ただ絶望に打ちひしがれていたが、やがて東の空が白み始め、俺の体を焦がす死の気配が迫ってくる。その恐怖が、麻痺していた思考を無理やり再起動させた。

 

「……死にたくない……!」

 

 その一心で、再生もおぼつかないボロボロの体を引きずり、近くの山肌に強引に鬼の力で風穴を開け、転がり込む。日中の間、俺は眠ることもできず、ただ暗闇の中で震えていた。傀儡に持って来させた肉も、緊張のあまり喉を通ることはなかった。

 

(どうする? どうすればいい? あの動き、あの呼吸、あの剣筋……! 我流の呼吸とは根本的に違う。無理やり真似しようとしても、体に負担が……待てよ? 無理やり痣を出せば? ……いや、だめだ。そんな事をすれば今度こそ本当に八つ裂きにされる。せめて痣を出した時の感覚を思い出して、再現できればいいんだが……)

 

 ……だめだ、やはり素人の浅知恵では改善策が見つからない。ならここは少しでも呼吸に詳しい者からヒントを得るべきだ。

 

 そう考えた俺は血鬼術を使い、各地に潜ませた鬼殺隊士の傀儡に命令を送った。

 

【水の呼吸】【炎の呼吸】【風の呼吸】

 

 ……俺がこれまでの中で傀儡にした隊士たちに、それぞれの全集中の呼吸の型について問う。本当ならば実際に型を使っている所を見たい所だが、今は昼間である。この血鬼術で傀儡の五感を操作出来れば……いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

 そもそも、型とはなんなのか……? 原作の知識だけでそれを語るには不十分だ。

 

 炭治郎の時は、育手である鱗滝左近次が水と一体になれという、明確な描写が少なく、不明な点が多くある。正直、あまり、参考にはならないだろう……。

 

 隊士達が言う呼吸、足の運び、腰の回転、力の伝達……その全てが完璧に連動して初めて成立する『理』と言えば良いのだろうか? 俺にはそれが足りていなかった。結局、今までやっていたのは、ただ腕の力で武器を振り回すだけの、本当にただの暴力でしかなかったのだ。

 

 ──そして、黒死牟様が見せた月の呼吸、その壱の型。

 

 原作知識で知っていた通り、他の月の呼吸の型のように無数の三日月の刃が飛び交う技ではない。それはただ一閃。

 

 故にこそ、ごまかしが一切効かない。純粋な剣技の極致。凝縮された破壊の奔流。

 

 見える三日月の刃が少ないから簡単、なんて事は大間違いだろう。むしろその逆。その一閃の純度が高すぎるのだ。一滴の不純物も許されない。俺が今まで積み上げてきた物を、一度全て捨てなければ、あの領域の入り口にすら立てないだろう。

 

 その後も、考えて、考えて、考え続け、気づけば日が沈み、夜を迎えた。

 俺は覚悟を決め、再びあの更地へと向かう。死地へ赴く気分だった。

 

 黒死牟様はまだ来ていない。時間は、ない。

 

 俺は血鉄砲を構え、記憶を頼りに黒死牟様と同じ型の構えを取る。

 そして、黒死牟様の刀と同じように、血鉄砲に血を送り、銃の機能を僅かに残し、長く、鋭く、そして歪に変形させる。

 

「すぅー……はぁー……ふっ!」

 

 教わった常中の呼吸を意識する。今までとは違う、深く、長く。

 そして、振り下ろす。

 

「ぐっ……!」

 

 しかし、結果は見るからに無様だった。ただの力任せの一振り。体が軋み、腕に変な力が入ってあらぬ方向に剣が流れる。

 

「違う……! これじゃない……!」

 

 何度も、何度も繰り返す。

 

 呼吸を意識すれば、動きが疎かになる。動きを意識すれば、呼吸が乱れる。

 

 脳が焼き切れそうなほどの集中を要し、全身の筋肉が、悲鳴を上げて断裂していく。これは黒死牟様に斬られるのとは違う。己の未熟さが、己の肉体を内側から破壊していく痛みだ。

 

「ぐっ! ……はぁっ……! はぁっ……!」

 

 何万回振るっただろうか。闇雲に振るう中で、ほんの僅かに、ほんの一瞬だけ、呼吸と動きが噛み合ったような感覚があった。その瞬間を逃すまいと、さらに集中力を高める。

 

(思い出せ……あの静寂を。あの威圧感を)

 

 黒死牟様は型を放つ時、力を込めているように見えなかった。まるで、水が流れるように自然に……それでいて、全てを断ち切る……。

 

 そうだ、型を放つ為に重要なのは、力じゃない。『流れ』だ。力任せではない、その型の軌跡をなぞる様に、振り切るための無駄を無くすことが重要なんだ!

 

 ──ようやく、模倣への入り口を見つけた。そう喜び、そして気付いた。

 

 夜が深まり、月が天頂に昇る頃、ついにその時が来ていた事を。

 

「……来たか」

 

 背後に現れた黒死牟様の気配に、俺の心臓が凍りつく。

 

「時は満ちた。貴様の答えを……見せてみよ」

「……はい」

 

 未だ完璧な模倣は出来ておらず、そして後はない。

 しかし、この夜に掴んだ『型』の理の一端でも届くかどうかは分からない。

 

(それでも、やるしかない!)

 

 俺は一度、深く息を吸い、そして集中する。雑念が消え、世界から音がなくなる。

 目の前の空間を、ただ両断することだけを考える。

 

 黒死牟様から教わった構え。

 黒死牟様から教わった呼吸。

 

 そして、黒死牟様が見せた、あの月の軌跡をなぞるように──―

 

 振り抜く。

 

『ヒュッッ!!!』

 

 空気を切り裂く音は、今までとは明らかに違った。鋭く、澄んでいる。血鉄砲の切っ先が、ほんの僅かな間、淡い月の光のようなものを帯び、そして霧散した。それは三日月の刃と呼ぶにはあまりにもお粗末で、儚い残光だった。

 

 だが、それは間違いなく、俺が今まで放ったどんな一振りよりも速く、重く、鋭かった。

 

 俺は肩で息をしながら、ただ黒死牟様の言葉を待つ。心臓の音が、やけに大きく聞こえた。

 長い、長い沈黙。黒死牟様は俺が斬った空間と、俺自身を、値踏みするように見つめている。

 

 やがて、冷たい声が響いた。

 

「……醜い」

「っ!」

 

 その一言に、俺は死を覚悟した。

 

「呼吸は未だ浅く、力の伝達は滞り、剣筋は揺れている。我が月の呼吸には到底及ばぬ。……赤子の筆跡だな」

 

 やはり、ダメだったか。そう思った、その時。

 

「……だが」

 

 黒死牟様は続けた。

 

「……型としての『理』を、僅かながら宿してはいる。……貴様が今まで振るっていた暴力とは、違うものだ」

 

「及第点には程遠い。……だが、死罪を免じるには足りる」

 

 その言葉に、俺の膝から力が抜けていく。

 なんとか、なんとか首の皮一枚で繋がったのだと。

 

「……勘違いするな。貴様が私の型を会得したわけではない。……ただ、その入り口で、門を叩く許しを得たに過ぎぬ。頂は、未だ遥か遠きものと知れ」

 

 黒死牟様は俺の前に立ち、その刀を静かに抜いた。

 

「今宵は、その醜い一振りを完成させる。……夜が明けるまで、ひたすらに振り続けろ。剣筋が今の一振りから僅かでも劣化した瞬間、お前の両腕を斬り飛ばす」

 

 その瞳には、昨日までの侮蔑とは違う、どこか機械的な、純粋な『指導』の色が浮かんでいた。

 

「……返事は」

「!! は……はいっ! ご指導、よろしくお願い申し上げます!!」

 

 こうして、醜いながらも、俺は確かに、月の呼吸の、その入り口に立てたのだ。

 そして、それは俺の地獄の剣術稽古の本当の、意味で始まりだった。

 

 

 

 ──

 

 ──そして、その夜から数日たった頃、魘夢から近々での無限列車での活動を知らされ、柱の傀儡化という任務の為、一時的に鍛錬を中止したいと、黒死牟様に伝えた。

 

 こうして地獄の鍛錬は終わる……と思っていたのだが……

 

 ……俺の申し出を聞いた黒死牟様から放たれる圧が、これまでとは比較にならないほどに重く、そして鋭くなり、激怒された事を察した。

 

「……ほう。ようやく道の入り口に立った赤子が……自ら歩みを止めると申すか」

 

 黒死牟様の瞳が、俺の魂の芯を射抜くように細められる。

 

「っ!! い、いえ! 滅相もございません! これも、あの方のご命令故……! 下弦の壱と共に、鬼狩りの柱を始末、あるいは傀儡にせよとの……!」

 

 俺は必死に弁明する。この御方にとって、無惨様の命令は絶対だ。それに縋るしかない。

 

「…………」

 

 長い沈黙。それは、俺の処遇を吟味する、裁きの時間。

 

「……あの方の、御命令か。……ならば、罷り成らぬとは言わぬ」

 

 ……助かった、と内心ほっとする。

 

「だが、狂酔。この鍛錬の中断は、貴様の弱さが招いたものだ。貴様があの場で柱を仕留めきるだけの力を持っていれば、このような回り道は不要だった」

 

「は……はい……! 仰る通りでございます……!」

 

「……良いだろう、行くがよい。だが、ただ任務をこなして戻ることは許さぬ」

 

 黒死牟様は、俺の目の前でゆっくりと刀を構える。その動きは、過去の壱の型とは明らかに違う、流麗なものだった。

 

「貴様が対峙する柱……その剣技、呼吸、一挙手一投足の全てをその目に焼き付けてこい。強者の太刀筋とは何か、死線の中で学んでくるのだ。……それが、貴様がこの場を離れることへの対価だ」

「……月の呼吸・参ノ型……【厭忌月・銷り】」

 

 瞬間、黒死牟様の体が霞み、異なる方向への二連の横薙ぎが放たれる。俺の体を掠めるようにして通り過ぎた斬撃は、背後の森を広範囲にわたって薙ぎ払い、大小無数の三日月状の刃が嵐のように渦巻いて木々を塵に変えた。

 

 呆然と、唐突な剣技を披露されて困惑している中、黒死牟様は続ける。

 

「……忘れるな。貴様が足掻いているのは、このような深淵の、ほんの水面に過ぎぬということを」

 

「もし、任務に失敗し、柱一体も相手に出来ずに逃げ帰るようなことがあれば……その時は、貴様をこの深淵にて沈める。……二度と浮き上がれぬようにな」

 

 その言葉を最後に、黒死牟様の姿は、闇に溶けるように消えた。

 

 後に残されたのは、凄惨な破壊の跡と、新たな死の宣告を刻み付けられた俺だけが、立ち尽くしていた。一時的とはいえ地獄から解放された安堵と、それ以上の絶望的な課題を背負わされた恐怖が、ごちゃ混ぜになって俺の心を支配していた……。

 

 ──無限列車編へと続く。




うーん、やっぱり駆け足だったなぁ…原作でもっと時間のある期間があればいいんだけどなぁ……遊郭編後くらいか?それまで続いたらいいなぁ…。

皆さんに参考までに聞きたいんですど、このまま原作に沿ったルートにするか、それとも原作から大きく離れ、鬼側無双RTAみたいに展開を早くするかどっちがいいですか?

  • 今まで通り原作準拠で進める
  • 主人公の血鬼術による鬼側無双ルート
  • その他(ifとして後で作る)
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