原作17章の後、噂と伝承から生まれた精霊として、剣心とキリトとサロメが登場。彼らが大精霊の森でシーラやレノと話す内容は……?

※!!!!注意!!!!※

魔王学院の不適合者第17巻のネタバレがあります!!!

アンチ・ヘイトタグと転生タグは保険です(多分大したことはないです)



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※!!!!注意!!!!※

魔王学院の不適合者第17巻のネタバレがあります!!!













ネタバレ回避用改行



第1話

 

 

 第一魔王アムルや、正帝との戦いから二千年後──。

 大精霊アハルトヘルンの木々が開かれた草むらの一角で、剣がぶつかり合う音が響いていた。剣にまつわる2人の精霊が、昼過ぎから試合形式の稽古に励んでいるのだ。

 片方は黒髪に黒いコートという真っ黒クロ助。だが顔立ちは肌が白くやや中性的。右手には重さを感じさせる黒い剣を持ち、左手には透き通るように白い剣を持っている。

 ゲームと二刀流剣術を極めれば英雄になれるという噂と伝承から生まれた精霊──遊剣精霊キリトだ。

 

「ダブルサーキュラー!!」

 

 キリトは相手に向かって突進し、右手の剣を左下から斬り上げる。それを紙一重で避けた相手に対し、キリトの左手の剣での攻撃が迫る。

 それを相手は刀で受けた。刃と峰が逆になった独特の刀で。

 いまキリトの相手をしている精霊は、赤い髪に左頬の十字傷が目印で、キリトに負けず劣らず中性的な顔立ちをしている。

 彼は決して人を殺さず、逆刃刀で人を活かす流浪の旅を続ける剣客の精霊──不殺精霊るろうに剣心だ。

 キリトの攻撃を受け止めたことで生じた力を生かし、剣心は身体を回転させながら剣技を繰り出した。

 

「飛天御剣流──龍巻閃!!」

 

 辛うじてキリトはその回転薙ぎ払いを二刀で受け止めたが、勢いを殺しきれずにふっ飛ばされる。間合いが空き、キリトの脚が浮いたのをいいことに、剣心は決着を狙える大技を繰り出した。

 

「飛天御剣流──九頭龍閃!!」

 

 神速で突進すると同時に、一瞬で九回の斬撃を叩き込む技だ。少なくとも噂と伝承の範囲では──回避も防御も不可能。

 だが、キリトは諦めない。勝つためなら理すら滅ぼす覚悟で感覚を研ぎ澄まし、剣技の深淵を覗く。

 

(一瞬で九連撃を叩き込んでくるっていうなら──こっちは一瞬で九回防御すればいい!!)

 

 二本の剣を最大限に活かすキリトと、速さを極めに極めた剣心が、9回の攻防を交わす。ほぼ同時繰り出されたかに見えてしまう程速い9回の攻撃の順序を、キリトは──何とか見切った。

 

「くっ……!」

 

 9連撃を終えた剣心は、一呼吸入れざるを得ない。苦悶の表情を浮かべて剣心が晒したその隙を、キリトは見逃さなかった。

 

「スター……バーストストリーム!!」

 

 始まったのは星屑が煌めくような16連撃。速さでは九頭龍閃の方が上だが、その16連撃全てが、流星の如くあまりにも重い。九頭龍閃を繰り出した後の疲労も相まって、剣心の手が痺れる。

 そしてとうとう16回目の斬撃で──逆刃刀が剣心の手を離れて、宙を舞った……。

 

「そこまで!」

 

 魔剣大会のルールに準ずるなら、剣心の敗北。ゆえに審判役の女性の精霊は、決着を宣言した。

 彼女を形作る噂と伝承は──『真の名工が鍛えた剣には、魔力とは異なる別の何かが宿る』──というもの。

 息子レイ・グランズドリィを喪って二千年を生きてきた半霊半魔、シーラ・グランズドリィだ──。

 

──※──

 

 決闘を終えた二人の剣士の精霊と、三人の女性の精霊は、草むらに竹を編んで作ったピクニックシートを広げてお茶を楽しむことにした。

 

「おハーブティーですわ〜〜!!」

「サンキュー」

 

 キリトにそう言って、一人の女性精霊がコップを差し出した。

 見た目は20代のスタイルの良い女性。ブラッドローズ色のドレスから覗く鎖骨と絶対領域が色香を漂わせる。紫の後ろ髪は6本の長いロールになっており、薄紫の魔眼がぱっちりとしていて可愛らしく美しい。

 いかにもお嬢様といった容姿だが、彼女を形作る噂と伝承は──『今はまだ一般人でも、百満点の笑顔を大切にすれば、いつか百満点のお嬢様になれる』というもの。つまり彼女は一般人女性ということになる。

 その名を、百満点精霊・壱百満天原サロメという。

 

「剣心もお疲れ様〜」

「かたじけないでござる」

 

 剣心にハーブティーを差し出したのは、髪が澄んだ湖のように美しく、翡翠色のドレスを纏った少女。

 彼女こそ、あまねく精霊の母、大精霊レノである。夫のシンと娘のミサを喪って二千年が経っていた。

 キリトがハーブティーを飲みながら話を切り出した。

 

「シーラさん。俺の二刀流ってどうかな? 大勇者レイ・グランズドリィに、ちょっとは近づけたかな?」

 

 レイは生前、たびたび霊神人剣エヴァンスマナと一意剣シグシェスタによる二刀流を振るっていた。神の名を騙る歯車エクエスを相手にしたときだってそうだった。

 シーラが微笑みながら答えた。

 

「いい線は行ってると思うけど、まだまだね。ウチの息子みたいに、終滅の日蝕に穴を開けられるほどとは……ちょっと思えないのよね」

「うーん、厳しいなぁ」

 

 ポリポリとキリトは頭を掻いた。

 続いて剣心もレノに話しかけた。

 

「拙者も精霊王シン殿の、平和を守る剣技を早く拝見したいでござるよ」

 

 レノは何処か遠くに目をやりながら答えた。

 

「きっと……帰ってくるよ。約束したんだもん。剣や魔王アノスのことを忘れても、私のことは忘れないって。必ずここへ帰ってくるって」

 

 その約束をしたのは二千年前──ではなく、もはや四千年前だ。その際は天父神ノウスガリアの陰謀により、逆にシンが二千年の生き恥を晒し、レノは魔王アノスに助けられて二千年の滅びから救われた。

 

「シンは二千年、ミサを育てる為に生き抜いてくれたんだもん。私だって、二千年でも三千年でも待ってあげなきゃね!」

「左様でござるか」

 

 そう言って笑うレノの背に、サロメが肩を寄せた。

 

「ワタクシもミサ様に早くお会いしたいですわ〜〜!!」

 

 サロメの愉快なトークが始まった。

 

「魔王学院に一般人白服生徒として入学後、百満点の笑顔でレイさんを支え、圧倒的カリスマと美しさを誇るラスボス系お嬢様として覚醒を果たしたミサ様の人生は、ワタクシという精霊を形作る大事な一要素ですわ! ミサ様、もといアヴォス・ディルヘヴィア様と共に、ぜひお嬢様トークにお花を咲かせたいですわ〜〜!」

 

 それを聞いたレノは、笑みをサロメに向けた。

 

「うんっ! ミサが帰ってきたら、友達になってあげてね!」

 

 そして再び、ハーブティーを一口含んでから、レノは何処か遠くへ目を向ける。爽やかなハーブティーの味わいと、穏やかな風に揺られながら。

 

 ──ねぇ、シン。ミサ。早く会いたいよ。

 

 ──最初の頃は『置いていかれた』と思って、いっぱい、いっぱい泣いちゃったよ。シーラさんと一緒に。

 

 ──でもね。違うんだよね。私は生き延びたから、2人が帰る場所に、たくさん笑顔と精霊を産んであげなきゃ。

 

 ──シン。キリトと剣心だけじゃない。剣にまつわる精霊が、いっぱい産まれたよ。優しい精霊ばっかりだよ。帰ってきて、手合わせしてあげてよ。

 

 ──ミサ。サロメだけじゃないんだよ。ミサと仲良しになれそうな、女の子の精霊や、恋の精霊が、いっぱい生まれたよ。あなただって大精霊なんだから、面倒見てあげてよ。

 

 ──ずっと待ってるよ、あと千年経っても、二千年経ってもね!

 

 レノがそう思いを巡らせているときだった。懐かしい声がしたのは。

 

「あの〜。ラスボス系お嬢様って、何なんですかねぇ……。私が死んじゃってる二千年の間に、新しく生まれた言葉なんでしょうか……」

 

 その声の主を知らないキリトと剣心とサロメは、ゆったりと後ろを向いた。

 だがレノとシーラは違う。錆びて止まっていた時計の針が再び動くときのような、遅々とした動作で首を向けようとする。

 

 ──愛しい娘の声がする方へ。

 ──息子の恋人の声がする方へ。

 

「さっき君の二刀流を見てたんだけどね。どうせなら、性質が全く異なる二つの剣を使ったほうが、修行になると思うよ。聖剣と魔剣じゃ難しいんだったら、炎の魔剣と氷の魔剣ぐらいから慣らしていけばいいんじゃないかな?」

 

 ──愛しい息子の声がする方へ。

 ──二千年前も四千年前も、共に戦った勇者の声がする方へ。

 

「一見何も斬れなさそうな逆刃の刀で、人を活かし平和を守る剣ですか。我が君が築いた平和と、貴女の愛によく似合う精霊が生まれたものです」

 

 ──息子の恋人の、父親の声がする方へ。

 ──帰りを待ち続けた、最愛の夫の声がする方へ。

 

「お母さん! シーラさん! いま戻りました!」

「ただいま……母さん。それにレノも」

「お久しぶりです、シーラさん。そして……」

 

 その剣士は、レノの前で跪いた。

 二千年前と変わらない佇まいで──。

 

「レノ。ミサを死なせてしまい、そして二千年も貴女を待たせてしまい、申し訳ありませんでした。今度こそ四千年前の約束を果たします。貴女への愛を手土産に、ここへ戻ってきました」

 

 シーラとレノは……大粒の涙を流していた。

 それは悲しみの涙ではなく──。

 喜びの涙だった──。

 

「シンッ!! ミサッ!!」

「レイ……レイッ!!」

 

 レノは夫のシンに抱きつき、レノに娘のミサが抱きついた。

 シーラは息子のレイに抱きついていた。

 シーラは喜びの涙を流しながら、息子を叱った。二千年溜め込んだ分、たっぷりと。

 

「バカ!! 私がどれだけ心配したと思ってるの!? 前世の父親のために死んで、現世の母親が喜ぶとでも思ったの!?」

「ごめん……母さん」

「近い内にミサさんとの結婚式を、かわいい孫の顔を見せてあげるって言ってたでしょ!! よくも二千年も待たせてくれたわね!! 聖剣世界の元首からしたら、二千年なんて大した時間じゃないのかしら!?」

「そんなことは……ないよ。ごめん……」

「根源とか前世とかを考えたら、自分の方が年上だから先に死んでもいいとでも思ったんじゃないでしょうね!? この親不孝者!! 貴方が大きくなるのを見届けるのが! 孫の顔をいつか見るのが! 私の生き甲斐だったのに!!」

「ごめん……」

 

 とびっきりの長いお説教は、まだまだ続く。レイはひたすら謝るばかりだった。

 二千年前、シーラは同じ内容の説教を、レイがいなくなった部屋で独りしていた。悲しみの涙を流しながら。

 しかし今は違う。喜びの涙を流しながら、ちゃんと返事をしてくれる本物の息子に向けて説教しているのだ。

 そしてその説教は最後に……。

 

「まぁ……。ちゃんと帰ってきたし……。正帝とかいう奴もちゃんと斬ってきたんだから……。許してあげるわよ」

 

 そう言って、締め括られた。

 グランズドリィ家と同時に、レグリア家も二千年ぶりに家族で会話をしている。

 

「シン! ミサ! 会いたかった! 生きてて良かった! 良かったよぉ……!!」

「お母さん! ごめんなさい! 死んじゃって……転生に……時間がかかっちゃって……」

「相討ちが限界という不甲斐ない勝ち方しか出来ず、申し訳ありませんでした」

 

 そんな感動の再会を、キリトと剣心とサロメは、空気を読んで一歩離れたところから見ていた。

 

「ううっ……。お涙が止まりませんわ……。本当は……うぅ……。百満点の笑顔でぇ……お祝いしたいですわ……」

 

 そう話しながら泣き続けるサロメに対し、キリトと剣心は穏やかな笑みを浮かべている。

 キリトが話を切り出した。

 

「なぁ……。剣心さん」

「何でござるか、キリト殿」

「俺たちの本物……『オリジナル』が死なせてしまった、大切な人も……転生してるかな? 雪代巴さんとか、サチさんとか」

 

 精霊キリトと精霊るろうに剣心は、あくまで噂と伝承であり偽物だ。

 暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴードは──『本物』に会ったことがあるのだ。

 アノスはアムルや正帝との戦いで死んだ仲間の手がかりを探して、様々な世界を旅した。その中には異世界も含まれている。

 アノスは出会ったのだ。黒の剣士キリトに。流浪人の緋村剣心に。

 その思い出を、アノスは配下に語って聞かせて──物語を書かせた。

 その名は、ライトノベル『ソードアート・オンライン』と、漫画『るろうに剣心』である。

 ミリティア世界を中心に大ヒットしたこれらの物語は噂と伝承になって、それが精霊キリトと精霊るろうに剣心を形作っている。

 但し、あくまでミリティア世界の精霊だ。精霊キリトは日本社会をよく知らないし、アインクラッドでの戦いの記憶はどこか他人事だ。精霊るろうに剣心にしても、幕末の動乱の記憶は他人から伝聞して学んだ知識程度にしか思うことができない。

 

「しているといいでござるな。巴殿も、サチ殿も」

 

 本物の剣心なら、雪代巴のことは『巴殿』ではなく『巴』と呼ぶ。

 本物のキリトなら、『サチさん』とは呼ばずに『サチ』と呼ぶ。

 この二人は偽物で、呼び方も違ってしまっているが、平和や安寧を願う気持ちは本物だった──。

 

 一通り両家が涙を流し終えると、シンが話を切り出した。

 

「レイ。レノやシーラさんと再会できたところで、言いたいことがあります」

「なんだい?」

 

 それは転生しても変わらぬ、重過ぎる愛──。

 

「正帝ごときからミサを守れないような男に、娘はやれませんね」

 

 シンは収納魔法陣から、虚空剣ノインを取り出した。やろうと思えば鞘に納めたままでも敵を斬れる名剣。そういう意味では逆刃刀に近いものがあるかもしれない。

 瞬間──。

 レノとシーラは、先ほどまでの涙が嘘のように怒り出した。

 

「バカァ! 馬鹿シンッッ!! 二千年も待ちぼうけしてたシーラさんの前でなんてこと言ってんの!!」

「いい加減にしてくださいよシン先生!! レノさんに孫の顔をいい加減見せてあげてください!! だいたい貴方だって第四魔王と相討ちだったじゃないですか! 魔王アノス君の右腕のくせに!!」

 

 しかし、それに反してレイは余裕のある笑みを浮かべていた。

 

「いいよ。剣で語れっていうなら望むところだ。デュエルで決着をつけよう」

 

 レイが収納魔法陣から取り出したのは、一意剣シグシェスタと、霊神人剣エヴァンスマナ。二千年前から変わらぬ愛剣、キリトが憧れた二刀流の深淵である。

 一触触発の闘志を目の当たりにして、サロメが目を輝かせた。

 

「ま……まさか……。お魔王様の右腕とお勇者様が、二千年ぶりにおデュエルをなさいますの!? 今すぐお魔王学院とお勇者学院に連絡ですわ〜〜〜〜!! 実況お配信の手配とベガ立ちお嬢様の準備が必要ですわ〜〜〜〜!!」

「あのぅ、サロメ……さん?」

 

 ミサにそう話しかけられたサロメは、優雅にドレスを靡かせながらミサの方を向く。そしてお気に入りの口上を述べた。

 

「はいっ! ミサ様! いかにもワタクシは! 一・十・百・千! 満天サロメ〜! 『今はまだ一般人でも、百満点の笑顔を大切にすれば、いつか百満点のお嬢様になれる』という噂と伝承から生まれた精霊、壱百満天原サロメでございますわ〜!!」

 

 サロメはビシッと、ポーズをバッチリ決めた。小さく拍手をしてから、ミサは要件を言う。

 

「えーっと。ラスボス系お嬢様とか、ベガ立ちお嬢様とか……なんか二千年の内に色々分からない言葉がいっぱい増えてるみたいなんですよね……。アノス様も転生してすぐは、サーシャさんやミーシャさんや私達から色々教わってましたし……サロメさんが私に色々教えてくれませんか?」

 

 パァッと、サロメの顔に百満点の笑顔が咲く。そしてミサの手を握った。

 

「もちろん! “待”っておりましたわァ!  この“瞬間”を、ですわァ!! お手を取りお御足を取り、懇切丁寧に教えて差し上げますわぁ〜〜!!」

「あ、ありがとうございます!」

「代わりに……なのですけれど……」

 

 唇に手を当て、うるうるした眼でサロメは頼んだ。

 

「ワタクシに……魔王っぽさの何たるかを教えて欲しいですわ……」

「魔王っぽさ……ですか?」

「えぇっ! ホラホラ、例えば……。『今のはおジオグレイズじゃなくておグレカですわよ〜〜!!』とか! 『殺されたぐらいで死ぬワタクシではありませんわよ〜〜!!』とか! 強さとカリスマと可愛さとダークネスが混ざりあったあの感じ! あの魔王っぽさこそ、ラスボス系お嬢様に必要なモノですわ〜〜!!」

 

 眼をキラキラさせながらそう話すサロメ。その眼前で……ミサの身体が黒い霧に包まれていく……。

 黒い霧の中から、重厚さがありつつも可愛らしさを秘めた声が響いた。

 

「なるほど……。そういうことならば、よくお聞きなさい。愛しき我が故郷に暮らす精霊よ……」

 

 足元の霧が晴れれば、見えたのは檳榔子黒のドレス。

 

「あなた方が信じ噂と伝承を広めた魔王は帰ってきましたわ……」

 

 長く伸びた深い海のような黒髪が、艷やかに光る。

 

「わたくしこそ偽りなれど暴虐の魔王にして大精霊──」

 

 ミサを元にした可愛らしい顔立ちに、大人びた妖しい艶かしさが加わった絶世の美女の名は──。

 

「アヴォス・ディルヘヴィア──ですわ!」

 

 そして彼女は、魔王っぽさの極致たる台詞を口にした。

 

「命懸けで銀水聖海を救ったぐらいで、わたくしが死ぬとでも思いましたの?」

 

 するとサロメは「ほわぁぁあああああ!!」と黄色い声を上げ、全力で拍手を送った。

 

「これこそ本物の、ラスボス系お嬢様ですわ〜〜!!」

「魔王としては偽物ですけれど」

 

 拍手を終えたサロメは、次にビシッと、キリトと剣心の方を指差した。

 

「さて! お魔王様とお勇者様とお精霊王様の帰還! そして始まるおデュエル! ワタクシはお魔王学院とお勇者学院まで<転移(ガトム)>でひとっ飛びしてお知らせをして参りますから、お二人はアハルトヘルンの皆様方にお知らせしてきてくださいませ!」

「お安い御用でござるよ」

「わかった! ひとっ走りしてくる!」

 

 こうしてサロメ、剣心、キリトは、一旦その場を後にしたのだった──。

 

──※──

 

 アハルトヘルンの北端にて、向かい側から走ってくる剣心を見て、キリトは走る速度を緩めた。同時に剣心も速度を落としている。

 話せる距離まで近づいたところで、キリトから声をかけた。

 

「合流できたってことは……」

「これで一通り回れたはずでござるな」

 

 無論、精霊一人ひとりに話をしてきた訳ではないし、そこまでする必要もない。まともに伝言ゲームが出来そうな精霊や、シン・レノ・ミサの帰還を心待ちにしていた精霊にさえしっかり伝わっていればそれでいい。そしてその任務は既に果たされた。

 

「じゃ、戻るか」

「歩いて戻っても十分間に合うはずでござる」

 

 キリトと剣心がアハルトヘルンの南方向に足を向けた──そのときだった。

 

「もし。そこの赤い髪の方」

 

 背後から凛とした女性の声がして、剣心とキリトが同時に振り返った。

 精霊ではなく、人間の女性二人だ。声を掛けてきた方は二十歳前後で長い黒髪に端正な顔立ちをしており、落ち着いた様子だ。もう片方は十五歳前後で短い黒髪からあどけない顔立ちと少し怯えた表情が覗けた。その少女は、大人びた方の女性の腕に両手を絡ませていた。

 大人びた方の女性が続けて話した。

 

「ここは……大精霊の森でしょうか。私たち姉妹、うっかり迷い込んでしまったようで。日没までに帰れればそれでいいの……ですが……」

 

 姉とおぼしき方の女性は、不意に言葉を止めた。剣心の方を見つめながら。対する剣心も何故か、身動きを取れずにいる。

 姉らしき方は妹の手から自分の腕をするりと抜いて、剣心の方へゆっくり歩み寄った。

 そして彼女は、まるで一度やったことがあるかのように自然な動作で……剣心の左頬の十字傷に触れた。慈しむように。

 

「この傷……。いつ付けられましたか? どこで? 誰に? 何だか……何かを思い出しそうな……気がするのですが……」

 

 その様子を見ていたキリトにも、妹とおぼしき方の少女が歩み寄っていた。

 

「あの……お兄さん?」

 

 その少女から話しかけられたキリトは、そちらに目を移した。

 

「なんだい?」

「いきなり変なこと言ってたらゴメンね。お兄さんは──『赤鼻のトナカイ』って曲、知ってる?」

 

 ドクンっという自身の脈動が、キリトには聞こえた気がした。少女は話し続ける。

 

「あのね。私、けっこう歌が得意なんだよ。第三十四代魔王聖歌隊になれたらいいなって思うぐらい。ほら、人によって、『こういう曲が似合うんじゃない?』って思う曲があると思うの。アノス様に似合う曲とか、エミリア学院長に似合う曲とか。何だかね、お兄さんを見てたら……『赤鼻のトナカイ』が似合う気がして……。それを……言わなくちゃいけない気がして……」

 

 ポロッと、少女の目から涙が一粒落ちた。

 

「あれ? おかしい……な……。初対面の人に……何言ってるんだろ……私……。あれ……?」

 

 剣心とキリトは思い出していた。偽物である自分達にとっては、想いが伴っていない、知識としてだけ知っている記憶。時空を超えた世界の、凄惨な悲劇の記録。

 最愛の女性の幸せと命を斬ってしまった、幕末の人斬りのことを。

 くだらない虚栄心と快感欲しさに、いたいけな少女を死地に追いやったビーターのことを。

 

 そしてもう一つ、思い出したことがある。つい先程、シン・レイ・ミサの帰還を見て交わした会話だ──。

 

 ──俺たちの本物……。

 ──『オリジナル』が死なせてしまった、大切な人も……。

 ──転生してるかな? 

 ──雪代巴さんとか、サチさんとか。

 

 

 ──しているといいでござるな。

 ──巴殿も、サチ殿も。

 

 そしていま、二人の偽物の剣士は心に誓った。

 絶対に自分達が名乗ってはならない。

 彼女達が会うべきは本物の方。オリジナルの方だ……。

 剣心が口を開いた。

 

「拙者は精霊でござるから、この傷は生まれつきでござる。されど、貴女の記憶を思い出す手がかりなら知っているでござるよ」

 

 キリトもそれに続くように少女に話す。

 

「いい曲だよな、『赤鼻のトナカイ』。俺は、その歌と君の涙を必要としている人を知っている。そしてそれは俺じゃないんだ」

 

 剣心とキリトは目を見合わせて、そして頷きあった。

 

「今日のところは拙者達が家まで送り届けるでござる」

「明日にでも、時間が取れないか? 君達は、暴虐の魔王に謁見した方が良い」

 

 過ぎ去った悲劇に……新たな希望の1ページを描く為に──。

 




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