此方も即興で書いたものが多くなるので、出来は悪めです。
百合多めの短編集→https://syosetu.org/novel/361737/
約束
数日前の事なんですがねぇ、えぇと、私はとあるゲームをやっていまして。えぇ、もしかしたらあなたにはもう話したかもしれませんねぇ。すみませんね、どうも記憶が曖昧なもので。
そのゲームは所謂育成ゲーム、というやつでね、まあ世間で言うアイドル育成、とかいうのではなく。シャチの世話をするゲームだったんですよ。最低でも三日に一回、餌をやらないと、シャチが死んでしまう。勿論私はシャチが好きだったし、何より妻と別れてからこれだけが救いだったんで、殺さないように大切に世話をし続けてたんですけどね、ある時ふと思い返したらね。おや、ここ三日間くらい、アプリを開いてないぞ、と。そりゃもう焦って、すぐさまアプリを開いたんですね。そしたら体力が0%って表示されて。ギリギリで助かったのかーと思ったら、まあ0%っていうだけあって、私のシャチはもう死んでいたんですね。ああ辛いなあって思って、もうアプリごと消してしまって。いやあ、それまではまあ、こういうゲームではよくある話だと思うんですよ。
でもね、その夜に見た夢が不気味でねぇ。何故か水の中にいるんです。そして、お腹が減ったなあ減ったなあと思いながら人を待つ。でも結局誰も来なくて、死んじまうんです。そうです。シャチが死ぬんじゃなくて、私が死ぬんですよ。まあ変な夢を見ることくらいあるだろうと思ってその時は放置してたんですけど。そしたらねぇ、次の日もまた同じ様な夢を見たんですよ。
しかも今度はもっと酷い夢でね。途中までは一緒なんですけど、最後は私がシャチに食い殺されて終わるんです。流石にまずいんじゃないかなあと思いつつ、まだ偶然かもしれないと思って、その日も放置するわけですね。そうすると今度はもっと細かく食い荒らされるんですよ。夢の中だから痛くはないだろって、寧ろ痛くないほうが怖いんですよこれ。目の前に腕やら腸やらが飛び出してきてね、誰のだーって思ったら自分のなんですから。そりゃあんた、もう恐怖なんてもんじゃありません。
ここまで来たらいくらなんでも流石におかしいなあと思って、近くの寺に祓ってもらいに行くわけですね。そしたらその住職、なんて言ったと思います。あんた、後ろに女の人の霊が憑いてるよって。そんなわけがないだろう、俺が殺したのは……っつってもゲームの中の話なんですけど、人間じゃねぇぞと。でもその女の霊は危害を与えるつもりじゃない。何かを、恐らく忘れてしまった何かを、必死に伝えようとしている。何言ってんのかわからなくて、その日は取り敢えず家に帰って寝たんですね。そしたらまた変な夢を見た。でも、今回は全く内容が違ったんですよ。黒いような赤いような、兎に角よくわからないところで丸くなってるんです。そして、外から声が聞こえてくる。あれは男と女じゃなかったかな。そりゃ前までに比べたら全然マシな夢なんですけど、何かまずい、と思ったんですね。深淵を覗く時、深淵もまた……なんていいますけど。覗いちゃいけない何かがあるような気がしたんですよ。そっからはもう絶対寝ないようにと耐えて、耐えて。でも歳でしょうかね。二日目にはもうぐっすり寝てしまって。でもその直前に、明らかに声が聞こえたんですよ。約束、守ってね、って。ああそう言えば、シャチの育成ゲームでも、三日にいっぺん餌をやるっていうのが約束だったなと……ルール、っていう言い方をしてなかったんですね。それを思い出して、ゲームだとして約束を破った私への罰なのかなあなんて思いながら眠ったんですよ。
そしたらね、今度もまた全く違う夢を見たんです。暑い車の中で放置される夢。ずっと一緒にいるって約束したはずの人がいつまでも来なくて、そのまま私は茹だって死ぬんです。もうシャチに襲われる以上の恐怖でしたよ。なんたって、もう絶対逃げられないっつう状態が延々と続くわけですから。そして何より、私はその車に見覚えがあったんです。そうです。昔、私が乗ってた車ですよ。もうこれ以上死ぬような思いをしたくなくて、今度こそ寝ないようにしようとしたんですけど、やっぱり眠くはなってしまうものでねぇ。結局次の日も私はしっかり寝てしまったんです。その日の夢はいつもよりもはっきりと覚えてますよ。なんたって、娘が出てきたんですから。まだ五歳くらいの頃ですかねぇ。コロンとしてて、まあ可愛らしい。生きてたらあんたにも是非見せてあげたかった。で、その娘に向かって、私は言ってるんですよ。お前がピンチな時は絶対に駆けつけるって。そしたらまた、約束、守ってね、って。人間って辛い記憶には蓋をするものでしてねぇ。私もその例に漏れなかったんですが、妻との別れの理由は、娘が死んだことだったんですよ。目が覚めて、全部思い出しました。
もう20年も前だったか。私は寝ている娘を車に乗せて、買い物に行ったんです。その頃は今ほど暑くなかったんで、そういうことをしてもまだ平気な筈だったんですよ。でもねぇ、家の娘、案外体が弱くて。そのまま熱中症になってしまって、私が着いた頃にはもうとっくに息がなかったんですね。
勿論家内は怒りますよ。それで、離婚届を出されたんです。ピンチな時は絶対に駆け抜けるって約束して、寧ろ、私は娘を置いていってしまったんですね。
じゃあ背後の女の霊は誰なのかって、それは娘で間違いないと思いますよ。もう20年経ってる訳だから、幽霊だって成長しないとは限らない。態々シャチまで使って思い出させて、必死に訴えてるってことは、何かしらがあって……きっとまた、ピンチになってるんじゃないかって、私は思うんですよ。それに、放置するのはよくない、とも伝えたいのでしょうしね。
えぇ、なんでこの話をしたかって。ただ話したかっただけですよ。人間、やっぱりあんまりにも大きい事を独りで背負うと心が壊れて、それこそ記憶を封じてしまったりするでしょうから。
さて、まだまだ話すことはありますが、まずはここで一旦終了とさせていただきましょう。あんたはどうか、約束を忘れて、こういうことにならないように。態々最後まで聞いてくれてありがとう。
私は今から、約束を果たしに行きますよ。
ホラー、書けるようになりたい