「この街も1年ぶりか。1年見ないだけでも、色々変わるもんだなあ」
「あの、すいません。地元の方ですか?」
視線を下げれば麦わら帽子。
見上げるように、鍔の下からは可愛らしい少女の顔。
「えぇ、久々の帰省でして。一応、地元ですかね」
「あっやっぱりそうでしたか。お盆の時期ですしそうかと思ったんです」
「ん?いや待ってくださいね」
「神様って信じますか?」
「うわ、幽霊に宗教勧誘する人がいるとは思いませんでした」
駅前
「死因はなんですか?」
「故人に対して聞く話題じゃないですよ」
「人生で故人と会話する事を前提としたシチュエーションをあまり想定していなかったので話題に困ってしまいまして」
「そのような想定を常日頃からしている人がいたらかなり怖いですね。そこいらの怪談より怖いです」
「そこいらの怪談に出演する側からの意見ならば信憑性が増しますね」
「幽霊の怖さなど所詮見えないから怖いというだけです。見えれば怖くないんですよ。えっそういえばなんで見えてるんですかコワ……」
「おっとそこいらの怪談より怖い存在になってしまった」
神社へと続く石階段
「お盆は地獄の文化ですが、仏教徒でしたか?」
「そこまでわかっていてよく改宗の話を出しましたね」
「異教徒だと迫害するタイプではありませんので」
「ついでに言えば宗教ってのは生前の行いを律して死後に報われる、と言うのが基本的形式ですが、既に死後を迎えた私が改宗するとお思いで?」
「ウチの福利厚生は手厚いですよ。なんと死後にポイント5倍」
「最期にスーパーのポイントデーみたいな倍数で生前の善行をカウントされるの逆に廉価になりそうで嫌ですね…」
鳥居
「どうですか、ウチに改宗する気になりましたか?」
「考えてもみてくださいよ。神様とかいう非現実的な存在が本当にいますか?」
「あなたの存在が非現実的な点についてはどうお考えでしょうか」
「正論で説き伏せようとしても無駄ですよ。私は数多くの正論に対して泣き叫ぶ事で乗り切ってきました」
「正論ってことは認めていると言うことですね」
「泣き叫びますが?」
「この話は一旦辞めにしましょうか」
車通りの多い大通り
「一体何がそんなに気に入らないんですか?」
「目の前を通る人々に何もいない場所に向けて喋り続けるヤバい奴という目を向けられても尚喋る無神経なところでしょうか」
「あっ主神様ではなく私が問題だったんですね。よかったよかった。それではこちらに名前を書いて頂ければ」
「そういうところですよ」
「あっ喉が渇きました。カフェに行きましょう」
「そういうところです。まあ、家に早くに着いてもどうせ誰も起きてないでしょうし行きますが」
カフェ 店内
「今の店員さんの顔を見ましたか?怯えていましたが」
「主神様の威光が漏れ出てしまっていたのでしょうか」
「狂人の座るテーブルにアイスティーを何故か二つも運ばねばならない店員さんの心情を考えると涙が出ますね」
「まあまあそう仰らずに。飲まないのですか?」
「何故幽霊の私が飲めると思ったのでしょうか」
「お供えもの判定でワンチャンあるかなと」
「……あぁ、有難う御座います。死者を悼む気持ちがあった事に驚いています」
「ふふふ、新たな信仰を得るためにはなんでもしますよ」
「感謝を返して欲しいところですね」
街中
「ふと思ったのですが、それだけ強い霊感を持ちながら宗教勧誘ってひょっとして本当にヤバい神が見えてたりします?」
「何を言っているんですか、主神様は凄くてヤバいですよ」
「途端に怖くなってきたな」
「おっ興味が湧きました?今なら私の紹介で今年の善行換算が1.5倍のサービスがついてきますよ」
「よくよく考えると善行を倍にするの意味がわからないんですよね。あと故人なので今年の善行とか0で何倍にしても0です」
「善行を積むだけじゃ飽きるかなという心遣いにより、現代のソシャゲのようなサービスタイムの発生を主神様が提案致しまして」
「あまりにも俗っぽい」
「親しみやすさも大事かなと」
「サラッと流しましたけど神の声が聞こえているの完全に巫女の役割果たしてますね。すごい才能ですよ」
「まあ妙なものが見えても良いことは少ないですけどね。ほら例えばあそこの悪霊と目が合ってしまいました。食らえ主神様ご威光パワー!」
「……目からビームを出す除霊方法は初めて見ました。だいぶ恐ろしいですね。おっとこちらを見ないでください」
「はっはっは、安心してください。人間には無害ですよこのビーム」
「幽霊には有害な事に変わりはないので見ないでください。あっすごいほら向こう向こう、UFOが居るので向こうを見てください」
「いえ、あれはUFOではなく観測域外生命体ですよ。綺麗な羽ですがよく見えましたね?」
「ただ霊感があるだけでは留まらないんですね」
住宅街
「そういえばお盆ですがまっすぐお家に帰らなくてもよろしいので?」
「駅から出てきたところに話しかけてきた人の言葉とは思えませんね。私からするとこれだけ長々と歩き続けた結果、自宅の方向まで付いてくる貴女に恐怖を覚え始めています」
「まあまあ、ご同伴ってやつですよ。料金加算しときますね」
「本物の同伴してくれるところはそういう事面と向かって言っちゃダメですけどね」
「おっと経験がおありで」
「ノーコメントでお願いします」
「なんで玄関まで同じなんですかね。うち手先の器用さだけが取り柄の息子しかいないはずなんですが」
「再婚先の連れ子の可能性を考慮しくても大丈夫ですか?または息子さんの子供とか」
「再婚相手をどうこう言う口は無いわけですが、幽霊相手に宗教勧誘仕掛けてくる娘と上手くやれているかどうかは心配ですね。あと孫に関しては年齢的にありえないです」
「まあ、どれも違うんですけどね。私は精霊馬ですよ」
「えっ?」
「御子息様がTwitter……おっと、今はXでしたね。X映えするからとキュウリで美少女精霊馬を作った結果が私です。すごい手先の器用さですよね。キュウリを凍らせてまで細部を彫っておりました」
「…………枕元で苦言を呈してやりましょうかね」
「ちなみにF1カーと私のどちらにするのかをギリギリまで悩んでいました。最速400km/hでのご帰省ができず残念でしたね」
「候補が候補すぎてギリギリ今のほうがありがたいかもしれないですね。絶叫系本当にダメなんですよ」
「流石にこのボディで貴方を乗せると犯罪臭がすごいので同伴という形になりましたが如何だったでしょうか」
「心霊写真として映ったら最悪の光景となるので、尊厳を失わずに済んだのは助かります」
「ちなみにこの性格はご遺族様の付加した設定によるものです」
「性格のデティールまで作り上げたのなら枕元どころか腹の上に立ってやりたい所存ですね」
「お心遣いとして流石にこの姿であの世まで迎えに行くのもな、という事で駅にてお待ちしておりました」
「確かに沢山の精霊馬に乗って帰省する人々に紛れて少女に乗る奴がいたら非常に拙いものがありますね。現地では私のところは作っていないのかと悲しみを覚えましたが、お心遣いをありがとうございます」
「ちなみに冗談で入ったカフェの店員さん、あれ我々が見えていたので怯えていたんですよ」
「えっ……あっ!あの店員さん精霊馬も見えていたんですね!?」
「そりゃ幽霊と幽霊じゃないけど人間じゃない謎の精霊(美少女)が当然のように入店したら怖いですよね」
「ではあのアイスティーは店員さんからのお供え物だった訳ですか。本当に申し訳ないことをした」
さて、気付けば正午。
随分のんびりとした帰路になったが。
「私の存在意義は貴方様を送る事。駿馬のような足が無い代わりに、退屈な帰路で無ければ良かったのですが」
「……ありがとう、楽しい帰り道でした」
「そうですか、それならば良かったです。さあさ、お入り下さい」
ドアに手を掛け開けようとし、指がすり抜ける。
まだ生前の癖が残っているなと苦笑をこぼし、家の中へと一歩。
「ただいま」
地獄の釜も蓋が開く。
一年に一度、ご先祖様の帰る日を。
久々に入った家。
眼の前には、人影があり。
「おかえりなさいませご主人様。ご遺族様が制作なされた帰り用の精霊牛でございます。冥土に帰るのにメイドを連れてとは抱腹絶倒で御座いますね。ちなみにこの無駄に豊満な胸囲は牛を表しているそうです」
「本当に一回祟ってやろうかな」
ちりんちりんと風鈴の音。
玄関には無駄なほど精巧に作られた麦わら帽子を被る少女(胡瓜)と、巨乳メイド服着用少女(茄子)が飾られて。
随分と手先も器用になったものだと、苦笑した。