20XX年4月某日。ニューヨコの平和な日常は、突如として終わりを告げる。

 巨大なサメの頭部を持つ異形の怪人【サメ怪人】が沿岸部から現れ、破壊の限りを尽くし始める。逃げ惑う人々、崩れ落ちる建物。街は瞬く間に恐怖に包まれる。

 魔法少女の蒼月ユナ、陽向ヒカリ、紅葉ヤヨイの3人は、暴虐の限りを尽くすサメ怪人に正義の心を魔法力に変えて、立ち向かう。

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前編

 20XX年4月某日、ニューヨコ市。

 

 港に停泊する豪華客船から、けたたましい悲鳴が上がった。青く澄んだ空の下、きらめく海面を切り裂き、突如として現れたのは、信じがたい異形の怪物だった。上半身は巨大な鮫、鋭利な牙がむき出しになった恐ろしい頭部。血走った瞳は獲物を求め、周囲を睥睨する。下半身はねじれた人間の足を持ち、ザラついた鮫肌に覆われた巨体は、ゆうに4メートルを超えていた。

 

「ぎゃあああああ!」

 

客船のデッキは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。観光客たちは我先にと逃げ惑い、手すりにしがみつき、恐怖に顔を歪める。サメ怪人は、巨大な口を開け、悲鳴を上げる人々を次々と捕食していく。鋭い歯が肉を引き裂き、赤い血が海面を染める。

 

 恐ろしい脅威が、ニューヨコに迫っていた。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 春の柔らかな日差しが、賑やかな街並みを暖かく照らしている。オフィス街の喧騒から少し離れた路地裏にある、隠れ家のようなカフェ「ソレイユ」には、甘く香ばしい匂いが漂っていた。午後の授業を終えたばかりの女子高生たちが、カフェオレ片手に楽しそうに談笑している。その中に、ひときわ目を引く3人組がいた。

 

 私立湊星高校の制服に身を包んだ、蒼月ユナ、陽向ヒカリ、紅葉ヤヨイ。

 

 窓から差し込む光を受けて、ユナの長い黒髪がしっとりと輝く。彼女は静かにメニュー表を見つめ、指先でページの端をそっと撫でていた。その向かいに座るヒカリは、元気いっぱいの笑顔で目をキラキラさせている。腰まである艶やかな髪を揺らし、身を乗り出すようにしてメニューを指差した。

 

「わー、見てユナちゃん、ヤヨイちゃん! これ、期間限定の新作だって! 『エンゼルフィッシュパフェ』! 名前も可愛い~!」

 

 ヒカリの声は、まるで小さな鈴が転がるように弾んでいる。彼女の言葉に、ヤヨイがツッコミを入れる。

 

「なんやそれ、天使の魚? ふっつうに想像つかへんな。見た目も派手に青いし、どんな味するんやろ?」

 

 ヤヨイはメニューに載った鮮やかな青いパフェの写真を見て、少し眉間にシワを寄せた。彼女の口調は、生まれ育った関西のイントネーションが色濃く出ている。

 

「ラムネ、味、かな」

 

 ヤヨイとヒカリの間に置かれたメニュー表から、静かな声が聞こえた。ユナだ。

 

「ユナちゃん、ラムネ味ってわかんの? すごい! 私、見た目だけじゃ全然わかんなかったよ!」

「・・・この、透き通った青色。ラムネ味のキャンディーに似ている」

 

 ユナはそう言って、再び静かにメニューを見つめた。口数は少ないが、彼女の言葉には確信があった。ヒカリは「なるほど~!」と感心し、ヤヨイは「ユナはホンマ、意外なところで天才やな!」と笑った。

 

 3人は新作パフェを一つずつ注文した。店員が去った後、ヒカリは両手で頬杖をつき、うっとりとした表情で窓の外を眺めている。

 

「新作パフェ、楽しみだね~。早く来ないかなぁ」

「まあ、そう焦りな。それにしても、ユナはええんか? いつもの抹茶パフェやなくて」

「・・・たまには、いい」

 

 ユナは静かに微笑む。その表情は、普段のクールな印象からは想像もつかないほど穏やかだった。実家が剣術道場で、幼い頃から厳しい稽古に打ち込んできたユナ。そのせいか、どこかストイックで近寄りがたい雰囲気を持つ彼女だが、心を開いた仲間たちの前では、ごく普通の女子高生なのだ。

 

「前にユナが食べてた抹茶パフェ、めっちゃ美味しかったけどな。一口もらった時、本気で感動したわ。抹茶の味が濃厚やのに、全然しつこくなくて、甘さも絶妙でな」

「・・・ヤヨイも、運動部の練習後に食べるアイス、いつも美味しそう」

 

 ヤヨイは学校で運動部に所属しており、日々激しいトレーニングに励んでいる。ユナはそんなヤヨイの姿を、いつも尊敬の眼差しで見つめている。

 

「そりゃそうやろ! あれだけ走って跳んで、汗かいた後のアイスは格別やで! ユナもたまにはうちの部活、見に来たらええやん。な? ヒカリも!」

「うん! ヤヨイちゃんの部活、いつか見に行きたいな! ユナちゃんと一緒に!」

 

 ヒカリの無邪気な言葉に、ヤヨイは嬉しそうに頷いた。しかし、ユナは少し困ったように目を伏せる。

 

「・・・私は、剣道部の顧問に頼まれて、たまに指導してるから・・・」

 

 ユナの言葉が途切れると、ヒカリはにこやかに言った。

 

「ユナちゃん、剣道もすごいもんね! この前、稽古してるのを見たけど、なんか、ユナちゃんだけ動きが全然違くて、まるで剣の妖精みたいだった! かっこいいなぁ」

「・・・大したこと、ない」

 

 ユナは少し照れたように顔を伏せる。ヤヨイはそんなユナの頭を、遠慮なくガシガシと撫でた。

 

「謙遜すなや。ユナはホンマにすごいんやから。あたしはユナみたいに、言葉がなくても相手に伝わる強さみたいなもん、持てたらええなーって思うわ」

 

 ヤヨイの言葉に、ユナは驚いたように顔を上げる。ヤヨイの真っ直ぐな瞳が、ユナの心に温かい光を灯した。ヤヨイはユナの言葉の少なさを、決して欠点だとは思っていなかった。むしろ、そこに彼女だけの強さを見出していたのだ。

 

「それにしても、ヒカリの魔法もすごいよな。この前、あたしが道で転んで怪我した時、ヒカリが『大丈夫?』って言って傷口に手をかざしてくれ時、じんわりとした温かさで痛みがスーッと引いていったんや。ヒカリの魔法は人を笑顔にできるんやな」

 

 ヤヨイの言葉に、ヒカリは恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 

「えへへ、そうかな・・・でも、そうだと嬉しいな。それにヤヨイちゃんが元気になってくれて、よかった!」

 

 ヒカリは幼い頃から不思議な力を持っていた。本人はそれが魔法だとは考えていなかったが、中学三年生の時、とある異変に遭遇して魔法力が覚醒。それ以来、たまに人のために力を使っているのだった。

 

 そんな他愛のない話をしていると、新作のパフェが運ばれてきた。テーブルに置かれた瞬間、3人の目が輝く。

 

「うわあああああああ! ほんとにエンゼルフィッシュが泳いでるみたい!」

 

 ヒカリが興奮気味に声を上げる。パフェのグラスの中には、青いゼリーの上に白い生クリームが波のように盛られ、その上にゼリーで作られた小さなエンゼルフィッシュが乗っていた。ユナは静かにスプーンを手に取り、ヤヨイは「うわー、写真撮らな!」とスマホを構えた。

 

 写真撮影が終わると、3人は一斉にパフェを食べ始める。

 

「んんん~~~! ラムネ味だ! ユナちゃん、すごい!」

 

 ヒカリが一口食べると、顔いっぱいに幸せを広げる。その隣で、ユナは静かにスプーンを進めていた。ラムネ味のゼリー、バニラアイス、生クリーム。それぞれの甘さが絶妙に溶け合い、ユナの口の中に広がっていく。ヤヨイは一口食べた後、「うっま! こんなん毎日食べたいわ!」と叫び、豪快にパフェを食べ進めている。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。パフェを食べ終わり、3人が笑顔で談笑していると、ヒカリのスマホが「ブブブッ」と振動した。スマホの画面には、緊急ニュース速報の文字が点滅している。

 

「え、何これ・・・?」

 

 ヒカリの声が、少し震えている。彼女の表情が、一瞬で凍り付く。ヤヨイもユナも、自分のスマホに届いた速報を見る。

 

 画面に映し出されたのは、ニューヨコの沿岸部に突如として現れた、巨大な怪人の姿だった。鋭い歯が並ぶサメの頭部、筋肉質の上半身。全身は硬いサメ肌に覆われ、巨大な腕でビルを破壊している。

 

「なんやこれ・・・」

 

 ヤヨイの声が、カフェの喧騒にかき消されそうになる。ユナの瞳からは、さっきまでの穏やかな光が消え、剣士のような鋭い眼差しが宿っていた。

 

 平和な日常は、突然、終わりを告げた。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ヒカリのスマホに表示された緊急ニュース速報は、3人の笑顔を瞬時に奪った。カフェ「ソレイユ」の明るく穏やかな空気は、一瞬にして凍り付く。楽しかった会話も、目の前にある食べかけのパフェも、まるで遠い世界のものになったかのように、彼女たちの意識から消え去っていた。

 

 画面に映し出されているのは、ニューヨコ市の沿岸部に突如として現れた、信じられない光景だった。

 

 鋭い歯が並ぶ巨大なサメの頭部を持つ異形の怪人。血走った目は、常に獲物を探すような鋭い光を放っている。筋肉質な上半身には、巨大なサメの胸ビレが発達したような腕が生えており、その鋭い爪が、まさに今、目の前のコンテナを一瞬で引き裂いていた。

 

 バリバリと耳障りな音を立ててコンテナが潰れ、中身が散乱する。その怪人の下半身は人間のような二本の足を持つが、関節が逆についており、陸上での移動はぎこちない。それでも、その一歩一歩が地面を強く踏みしめ、アスファルトをひび割れさせていく。

 

「な、なに・・・これ・・・?」

 

 ヒカリの声は、震えていた。天真爛漫な彼女の顔から笑顔は消え失せ、代わりに恐怖と混乱が浮かんでいる。スマホを握る手が、小刻みに震えていた。

 

 ヤヨイはヒカリの隣で、硬い表情のまま画面を凝視している。関西弁の威勢の良さはどこにもなく、ただひたすらに画面に釘付けになっていた。

 

「・・・ホンマもん、や・・・」

 

 彼女が呟いたその言葉は、誰に聞かせるわけでもなく、ただの独り言だった。数年前にヒカリと共に遭遇した、街で起こった怪事件。それは魔法少女として覚醒するきっかけとなった事件だが、今回の怪人はその時見たものとは比べ物にならないほど、巨大で、禍々しかった。

 

 ユナは静かに自分のスマホ画面を見つめていた。ヒカリやヤヨイのような驚きや恐怖は、表情には表れていなかった。しかし、彼女の瞳の奥には、剣士として培ってきた冷静さと、何かが始まる予感に満ちた決意が宿っていた。この異常事態は、きっと自分たち魔法少女が関わるべき事態なのだと、本能的に理解していた。

 

 カフェのテレビからも、緊急ニュースが流れている。

 

『沿岸部から上陸したこの正体不明の怪生物は、現在、港湾地区を破壊しながら内陸部へと向かっている模様です! 付近の住民は、ただちに避難してください! 繰り返します、ただちに避難を!』

 

 アナウンサーの焦った声が響き渡る。その背後では、悲鳴や建物の崩壊音が混ざり合い、とてつもない騒乱が起こっていることがわかる。

 

「・・・避難って、言われても・・・」

 

 ヒカリは、スマホを握りしめたまま、辛そうに呟いた。その言葉の裏には、逃げ惑う人々への深い共感と、何もできない自分への無力感がにじみ出ていた。

 

「みんな・・・みんな、怖がってる・・・。助けを求めてる・・・」

 

 彼女は、まるでその悲鳴が直接自分に届いているかのように、顔を歪ませていた。

 

 ヤヨイは、机を叩くようにして立ち上がった。

 

「あかん! このままやったら、街が、ホンマにめちゃくちゃになってまう!」

 

 彼女の正義感が、怒りとなって全身から噴き出していた。考えるより先に行動するタイプである彼女にとって、この状況でただ見ているだけという選択肢はあり得ない。

 

「警察も、自衛隊も、こんなんどうしようもないやろ! なんとかせんと! あたしらが、なんとかせなあかん!」

 

 ヤヨイの言葉には、強い決意と使命感が満ちていた。中学時代、内に秘めていた強い魔力が爆発的に覚醒した彼女は、当初、その力を制御できず暴走することもあった。

 

 しかし、ヒカリの支えや特訓を経て、自分の力を「戦うため」に使おうと決意したのだ。目の前の危機は、まさにその決意を試される時だった。

 

 ユナは、二人の様子を静かに見守っていた。そして、ゆっくりと席を立つ。

 

「・・・行く、ヒカリ。ヤヨイ」

 

 その声は、いつもと変わらない静かなトーンだったが、そこには揺るぎない力が宿っていた。その言葉を聞いたヒカリは、ユナの顔を見上げる。

 

 ユナの目は、もう迷っていなかった。いつものクールで近寄りがたい雰囲気はそのままに、しかし、その奥にある熱い正義の心が、ヒカリにも伝わってくる。

 

 ユナは元々強い魔法力を持っていたが、潜在能力に気付かずに生きてきた。しかし、怪事件に巻き込まれたことでその力が覚醒し、魔法少女となった。剣術道場で培われた心身と、覚醒した魔法の力。その両方を兼ね備えた彼女は、すでに戦う準備ができていた。

 

「・・・うん、行こう! ユナちゃん、ヤヨイちゃん!」

 

 ヒカリは、震える手でスマホをポケットにしまうと、力強く頷いた。恐怖はまだ消えていない。しかし、みんなを助けたいという一心で、彼女の中に眠っていた勇気が目を覚まそうとしていた。

 

 3人は、カフェを後にする。

 

「すみません、お会計、お願いします!」

 

 ヤヨイが慌てて財布を取り出し、レジへと向かう。店員はテレビのニュースを呆然と見ており、彼女たちの声が耳に入っていなかった。ヤヨイは少しためらってから、テーブルの上に代金と「お釣りはいりません」とメモ書きを置いて、外に出た。

 

 外に出ると、すでに街は騒然としていた。遠くからサイレンの音がいくつも聞こえ、人々は皆、不安げな表情でスマホをのぞき込んでいる。普段は賑やかな通りも、どこか緊迫した空気に包まれていた。

 

 3人は人混みを避け、人気のない路地裏へと足を踏み入れる。

 

「・・・ヒカリ、大丈夫?」

 

 ユナがヒカリに問いかける。

 

「うん、大丈夫! ・・・みんなを、助けたいから!」

 

 ヒカリは震える声で答えたが、その表情には強い意志が宿っていた。

 

「・・・あたしも、大丈夫。怖いけど、これしか方法ないやろ」

 

 ヤヨイはそう言って、拳を握りしめる。

 

 三者三様の想いを胸に、彼女たちは変身する。

 

「私たちの、正義の心を魔法力に変えて!」

 

 平和な日常は、完全に終わりを告げた。今、彼女たちは魔法少女として、ニューヨコ市を守るために立ち上がろうとしている。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 カフェを出た3人は、人通りの少ない裏路地を走っていた。遠くから聞こえてくるサイレンの音と、人々の悲鳴が、彼女たちの心を焦らせる。普段はただの通学路である路地裏も、今はもう「日常」という言葉からはかけ離れた、異様な緊迫感に包まれていた。

 

「ユナ、ヒカリ、ここや!」

 

 ヤヨイが、人気のない倉庫の裏手にある小さな広場へと駆け込む。彼女は周囲を素早く見渡し、人目がないことを確認すると、二人に振り返った。

 

「・・・行くよ、みんな」

 

 ヒカリが震えながらも、力強く言った。その声には、恐怖を乗り越えようとする確かな意志が宿っている。ユナは無言で頷き、ヤヨイとヒカリの間に立つと、二人の手をそっと握りしめた。

 

「私たちの、正義の心を魔法力に変えて!」

 

 ヒカリの声が、広場に響き渡る。その言葉を合図に、3人の身体が淡い光に包まれた。ユナの長い黒髪が、月明かりのように神秘的な青い光を放ち始める。ヤヨイの髪は、紅葉のように鮮やかな赤色へと変わり、ヒカリの艶やかな髪は、太陽の光を閉じ込めたような黄金色へと輝いた。

 

 光が収まると、そこに立っていたのは、見慣れた制服姿の女子高生ではなく、可憐な戦闘服に身を包んだ魔法少女たちだった。

 

 ユナが纏うのは、夜空を思わせる深い青を基調とした、動きやすいミニスカートの戦闘服。腰には、刃を象ったかのような装飾が施されている。ヒカリの衣装は、太陽の光を浴びたような明るい黄色と白を基調とした、フリルやリボンをあしらった可愛らしいデザイン。そして、ヤヨイの戦闘服は、情熱的な赤と黒を基調とした、プロテクターを思わせる機能的なデザインだった。

 

「行くで、みんな!」

「うん!」

「・・・うん」

 

 3人は言葉を交わすよりも先に、再び走り出した。魔法少女へと変身したことで、身体能力が飛躍的に向上している。アスファルトを蹴る力が強く、走る速度も常人の比ではなかった。

 

 やがて、彼女たちの視界に、破壊の限りを尽くすサメ怪人の姿が飛び込んできた。

 

 沿岸部の埋立地は、すでに廃墟と化していた。積み上げられたコンテナは無残に引き裂かれ、クレーン車は大きく曲がり、倒壊している。道路はヒビだらけで、至るところに巨大な足跡が残されていた。その破壊の中心に、約4メートルという巨体を誇るサメ怪人が立っている。

 

「う、嘘・・・ホンマに、テレビで見たまんまや・・・」

 

 ヤヨイは息をのんだ。テレビの画面越しで見ていた怪人よりも、目の前で見るその姿は、遥かに巨大で、威圧的だった。血走った目が獲物を探すようにギョロリと動き、人々が逃げ惑う姿を視界に捉えると、ニヤリと口角を上げたように見えた。

 

 その時、サメ怪人が、鋭い爪が生えた腕を振り上げた。その先には、避難しようとしていた親子連れがいた。母親は子供を庇うように抱きしめ、恐怖に顔を歪ませている。

 

「あかん! 間に合え!」

 

 ヤヨイが叫び、全力で駆け出した。彼女の身体から、赤く輝く魔力が噴き出し、サメ怪人と親子の間に、巨大な魔力の壁を築いた。

 

魔力防壁(マジックウォール)!」

 

 ヤヨイがそう叫ぶと、透明な赤い光の壁が、親子の前を覆い隠した。サメ怪人の腕が、その魔力防壁に激突する。

 

 ドォォォォン!!

 

 地響きのような轟音とともに、壁にヒビが入る。ヤヨイは歯を食いしばり、必死に耐えていた。腕に伝わる強烈な衝撃が、彼女の全身を震わせる。

 

「・・・な、なんやこの力・・・! こんなん、聞いてへん!」

 

 防御を得意とするヤヨイの魔力をもってしても、サメ怪人の一撃を防ぎ切ることは困難だった。彼女の魔力防壁は、まるでガラスのように、少しずつ砕け散っていく。

 

 その隙を逃さず、ユナが動いた。

 

「ヤヨイ! 援護する!」

 

 ユナは愛刀を模した魔力の刃を具現化させると、サメ怪人の側面へと素早く回り込んだ。剣道で培った洗練された体術と、魔法少女としての跳躍力を駆使して、サメ怪人の頭部目掛けて跳び上がる。

 

蒼月ノ太刀筋(アオツキノタチスジ)!」

 

 ユナの身体から放たれる青い魔力が、刃に集中していく。一筋の閃光となり、サメ怪人の硬いサメ肌へと叩き込まれた。

 

 ガギィィィン!!

 

 金属がぶつかり合うような甲高い音が響き渡る。ユナの一撃は、確かにサメ怪人の肌に当たった。しかし、与えたダメージはほんのわずかなものだった。サメ怪人の皮膚には、薄い引っかき傷がついただけで、血は滲んでいない。

 

「・・・硬いっ」

 

 ユナは驚きを隠せない。蒼月流剣術を習う際に、剣術道場の師範である父からは「全ての攻撃は急所を狙え」と教えられてきた。より攻撃的で実戦的な蒼月流の、その教えに従い彼女は、的確に首筋の急所を狙ったはずだった。しかし、その一撃が全く通じない。

 

「ユナちゃん、ヤヨイちゃん、危ない!」

 

 ヒカリの声が響く。彼女は二人を援護するために、周囲の瓦礫から避難している人々を助け、誘導していた。その時、彼女の身体から、淡い光が周囲に広がる。その光を浴びた人々は、一瞬怯えた表情を浮かべたが、次の瞬間には、恐怖心が和らぎ、冷静さを取り戻していた。

 

「みんな、落ち着いて! こっちです! 早く、安全な場所へ!」

 

 ヒカリは、自分でも意識しないうちに、人々の心を鎮める魔法を使っていたのだ。それは、彼女の「みんなを助けたい」という純粋な想いが具現化した力だった。

 

 しかし、サメ怪人はそんなヒカリの魔法をものともしない。防壁にヒビを入れられたヤヨイと、攻撃が通じなかったユナを前に、サメ怪人は獰猛な笑みを浮かべた。その血走った目が、次の獲物を探すように二人へと向けられる。

 

「グルルルルル・・・」

 

 低い唸り声を上げると、サメ怪人はヤヨイの魔力防壁を一気に粉砕した。

 

「きゃっ!」

 

 防壁が破られた衝撃で、ヤヨイは大きく吹き飛ばされる。ユナは咄嗟にヤヨイを庇おうとするが、サメ怪人の巨大な腕が、ユナにも襲いかかった。

 

「・・・っ!」

 

ユナはなんとか腕で衝撃を受け止めたが、その強烈な一撃は、彼女の身体を地面に叩きつけた。彼女の身体から、変身が解けそうになるほどに、魔力が揺らぐ。

 

「ユナちゃん! ヤヨイちゃん!」

 

 ヒカリは二人の危機を目の当たりにし、悲鳴を上げた。サメ怪人は、倒れたユナとヤヨイに、止めを刺そうと大きく腕を振り上げる。

 

 その時、ヒカリの目の前で、人々の悲鳴が、まるでスローモーションのように彼女の耳に届いた。

 

「みんなを、守りたいのに・・・!」

 

 ヒカリは悔しさに、唇を噛みしめた。

 

 サメ怪人の巨大な腕が振り下ろされる直前、ヒカリの身体から、まばゆい光が溢れ出した。その光は、ユナとヤヨイの身体を包み込み、傷を癒していく。

 

 しかし、サメ怪人の攻撃を完全に止めることはできない。3人は、初めての戦いで、自分たちの力が、単独では通用しないという絶望的な現実に直面していた。

 

 

 

【→To Be continued...】


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