昔に書いていたイナズマイレブンの二次小説。
半田真一君の逆行ものを目指していた名残のような文章で、逆行までの日常だけです。
もしかしたら今後続きを書きたくなるかも知れないです。
※激しいキャラ崩壊、残酷な描写、胸糞的な要素が含まれます。
───もう一度だけ、あの日に戻れたなら──
───贅沢なんて言わない、もうちょっとだけ、皆と楽しくサッカーがしたいんだ
都内 某所 とあるオフィス街
初夏。冷房の効いたオフィスの一室、そこではなんとも中庸な見た目の若い男がやや年嵩の男のデスク前に立ち申し訳無さそうな表情でいた。
「おい、半田!ここ間違ってるぞ!何度言えば分かるんだ、もう新入社員じゃないんだぞ何度も言わせるな!」
「すいませんっ、直ぐ直しますので」
「ああそれと、課長が至急会議室に来るようにと言っていたぞ、伝えたからな」
「分かりました、有り難うございます。」
上司である男に叱責されながらも自分のデスクに戻りいそいそとラップトップに向かう若い男。
そんな彼を見ながら周囲の人間は口々に小声で話す。
「最近半田君調子悪いよね」
「前はもう少し仕事が出来る奴だったのに....」
「此処だけの話、彼あの伝説のイナズマイレブンの同級生でクラスメイトだったって」
「ええっ、それ本当か!?じゃあ頼めばサインとか貰って来てくれるかな」
「さあ、只の噂だからな」
ぼそぼそと話す声が聞こえないのか話題の男は作業を終え上司に再確認を行う。上司は軽く頷きこれならいいだろう、と判を押す。
「半田、最近こんな初歩的なミスが目立つが何かあったのか?俺で良ければ相談に乗るが」
「いえ、大丈夫です....サッカー中継を生で観てたら夜更かししちゃって....」
「サッカーか、俺も息子もサッカーが好きでな、この前なんか一緒に観戦したよ。だがな半田、趣味も結構だが仕事に影響が出るようじゃ話は別だ。」
今回は大目に見るが次は無いと釘をさされ、若い男は解放された。
(そういえば課長が会議室に呼んでいるといってたな)
男はその後の予定を確認し、会議室へと向かうのだった。
◇◇◇
すっかり日は沈み照明の落とされたオフィスの一角で一つだけ明かりが灯りキーボードを叩く音が響く。程なくしてそれは止み、男の伸びをする声とスーツの衣擦れが終止符となった。
「あーやっと終わった。ってもうこんな時間か!終電間に合うかな?」
時計の短針は12に差し掛かりかけている。急いでパソコンの電源を落とすと荷物を纏めて会社を後にするのだった。
街灯が照らす夜道を歩く。
「全く課長のやつ、俺に仕事を押し付けやがって。何がお前なら出来るだろだよ。自分がやりたくないからてきとーに若手に無茶ぶりしてるだけだろっつーの」
そういって道端の小石を蹴飛ばす。
男の名は半田真一。
今年で24歳になる何処にでもいるサラリーマンだ。
かつて日本で名を轟かせたあの“イナズマイレブン”雷門中メンバーにして立ち上げ当初の最古参の一人である。
10年前のFFIジュニア世界大会にて優勝したイナズマジャパンのメンバー大半が属していた学校のクラスメイトとして認識されている。
間違ってはいないが、矢張寂しい気持ちにもなる。
しかしそれもやむ無しと半ば諦めがついている。何故なら彼は生来これといって特徴が無く、何をやっても中途半端、ビリになった事も無ければトップを飾った事も無い。
普通の高校大学を出て都心のちょっと良い会社でありふれたサラリーマンなんてやっている。
見た目だって、普通だ。背格好は平均的、不細工でもないし、イケメンでもない。雑踏に紛れる、印象に残らないモブ顔というヤツだろう。
因みに彼女いない歴=年齢。
好物はチャーハンだ。
そんな奴でも人に誇れるものはある。
それは勿論サッカーだ。幼少の頃から試合を見るのも自分がやるのも好きだった。
ポジションはMFだけど何処でもプレイ出来る。
例に漏れず目立った功績は残せなかったが中学に入って新たな出会いがあった。
元雷門中サッカー部キャプテン、サッカーバカこと現欧州サッカー代表の円堂守である。廃部状態のサッカー部をマネージャーの木野秋と建て直しフットボールフロンティアという大言壮語を真面目に考えてサッカーに誰よりも真剣に取り組んでいた。
中学でまたサッカーが出来ると聞いて彼と染岡竜吾、現イタリア代表者のファンタジスタは部室の扉を叩いたものだ。
最初の一年はそれこそ部として認知されず、ひたすら3人で狭い場所を縫うように基礎練を行い過ごした。
今思えばあの始まりが、一番楽しかったように思う。
2年になり後輩が入っていきなり組まれた最強強豪校との練習試合。
それから少年達のジュニア世界一に輝くまでの冒険が始まった。
それから十年。男は見ての通りサラリーマンをやっている。サッカーに関われてはいるが地元小学生サッカークラブの監督という立場。殆どボランティアみたいなものだ、自分が社会人チームに入ってプレーしたのは数えるくらいしかない。
それでもサッカーの魅力には逆らえなくて、子供達のきらきら光る眼差しと楽しそうにプレーする様子は嘗ての自分を見ているようで懐かしさを感じたからかも知れない。
それでも時々思う。自分はやっぱりこのままではダメだと。この現状に、嫌気が差していた。
借りているマンションに着き、晩飯の残り物を温める。TVを点けると、夜中だったがサッカー中継をやっていた。
そう言えば最近シーズンが始まったなと思いだし、活躍している旧友の事を思い浮かべた。
中学を卒業して高校大学と進む過程で少しずつサッカーとは距離を置き将来の事を集中して考えるようになった。
その時はサッカーを何処か只のスポーツ、一時的な熱中はするが所詮は学生時代のエンターテイメントに過ぎないと考えていた。
大体のやつがそうだと思う。スポーツ推薦等で引き抜かれるヤツはほんの一握りだ。学生の部活でプロになって食っていけるのは本当に才能のあるものでそれ以外の大多数は夢を妥協し別の道を模索する。努力の天才と呼ばれる連中も一つの才能だ、努力の末報われ偉大な功績を残す。
では天賦の才や努力の才も無いヤツは?
凡才もイイトコでどんなに努力してもどうにもならないなら?
努力が足りないのか、結果が無いなら努力とは呼べないのか?
今までの血反吐を吐くような日々は無意味なのだろうか。
彼等とは今でも少ないが連絡を取り合っている。オフ会というヤツだろうか、居酒屋で待ち合わせるが世界レベルで活躍するあいつらはオーラからして違う。己はしがないリーマン、向こうはヒーロー、己は負け犬、向こうは勝ち組、嫌な対比ばかり浮かんでくる。
( ......っち)
心のなかで舌打ちし飯を掻き込むとスーツを着たまま風呂にも入らず寝床へとダイブし寝てしまった。明日も仕事だというのにどうにもムシャクシャしてやるせなかった。
朝起きて会社にいくため押し合いへし合い満員電車に揺られ、流れを止めないよう改札を越えて会社に着きタイムカードを押す。
かわりばえのしない仕事をこなしそれなりに人付き合いもしなければならない。
いつもの日常が続いた。
ある日の仕事が終わり、半田は監督をしている稲妻KFCの練習にて指導を行っていた。
「そこだ!よ~しよくやったなぁ」
「今のパスはうまかったぞ!」
「こらこら、回りをよくみるんだ」
一人一人個性があり、それを潰さないように的確な指導を心掛ける。小学生という事もあり体は出来ていないしメンタルも年相応、掴み合いの喧嘩だってしょっちゅうだ、何より彼等に求めすぎてはいけないと肝に命じている。
まずはサッカーの楽しさを覚えてもらい一定のモチベーションを定着させることが重要だ。
将来は有名なサッカー選手になりたい!とか実に子供らしくて素敵ではないか、のびのびと心の底から楽しめるなら、永くサッカーを愛せるような環境作りも監督の使命だと自負している。
数年前、旧イナズマイレブンOBにして前監督の会田さんから監督業を引き継ぐ際に言われたのだ。
『半田君、君のサッカーを愛する気持ちは微塵も衰えていない。他の皆とは違う道を歩んだ君だがだからこそ頼めるのだ』
『どういう事ですか?俺は只のサラリーマンだしサッカーが特別巧い訳でもないのに』
『そこだよ、半田君。今だから言えるが、君はあの頃熱意がなかったのではないかな?失礼を承知で言わせてもらうが君のプレーは御世辞にも巧いとは言えなかった、努力はしただろうが回りの才能に追い付けず遂には足切りだよ。』
『君は、悔しくなかったかい?』
『確かにあの時は悔しくて堪りませんでした。でも気付いた時には遅かったんです。あいつらは何処までも遠くにいってしまっていて、2年の中で俺だけが残って。もう諦めが勝ったんですよ。奴らに追い付けないならせめて近付こうと必死で努力して卒業試合には多少実力はついていましたからね』
『それだけじゃないよ。』
『えっ?』
『FF優勝、エイリア学園とやらの襲撃、世界大会に彼等が進む間、廃部同然だったサッカー部は人が増えに増えた。君は努力の傍ら部員達を纏め上げていたじゃないかね』
そう言うと会田さんはニコリと笑った。
『才能が無い人間が殆どだ、だからこそ努力でそこまで辿り着けた君の実力は本物だ』
他人の痛みが分かる、報われない事の悔しさを知っているからこそサッカーの教え方にも説得力があり的確だと言われた。
今はこの仕事に自信が持てる、最近までは信じていた。
ある日の指導が終わり、河川敷が夕焼けに包まれる頃。
半田は久しぶりに社会人チームでプレイする事になり肩慣らしとして一人残ってボールを転がしていた。
ワイシャツの袖を捲り革靴をスパイクに履き替えたサラリーマンは、イメージを重ねながら体捌きをしボールに回り込みゴール前まで来ると踏み込んでシュートを放つ。
経験者だけあって手慣れており、ボールは回転を伴いゴールポストに吸い込まれる。
「....よし」
汗を拭いひとまず休憩だ、とボールを拾った時、背後の土手上から声がした。
「半田、頑張ってるな」
振り返ると其処には見知った顔があった。
──特徴的な髪型にオレンジのバンダナを巻きジャージ姿の青年、円堂守だった。
10年経った今では背も延び一流のプロサッカー選手として活躍する円堂だが、当時から顔は変わらない。
どれだけ童顔なのだろうとふと思った。
今確かホーリーロード、嘗てのフットボールフロンティアの後進だが雷門中選手団の指導監督として遥々イタリアから戻ってきているらしいとは聞いていたが、本当だったようだ。
「円堂......」
その後、円堂は久々に二人でサッカーミニゲームでもやろうと提案し、アマチュア虐めかと冗談混じりに返せば割りとマジに弁明された。
そんなつもりは無かったのに。
ゲームといってもセンターサークルに二人で立ってお互いのゴールを守りつつ相手ゴールを狙うだけのものだ、三点先取形式で始まったが、案の定半田はボロ負けした。
一点ゴールポストに跳ねて惜しかった面もあったが3-0で完敗だった。
此処で腐る程子供ではないが、圧倒的な力の差を見せつけられた悔しさと清々しさがあった。
「やっぱりプロはスゲェな、俺じゃ手も足も出ない」
「そんな事はないさ、お前だってドリブルは巧いしシュートもよかった。普段別の仕事してるのに寧ろよく此処までのレベルだって感心したしプロで活躍してる奴が負けちゃ沽券に関わるからな」
円堂は至極真面目そうに言ったが、半田にはどうにも嘲笑というか、何処か努力を否定されたように感じられた。
円堂は社会人チームでプレーしている事を知っており、頼んでもいないのにシュート練習に付き合うと言ってきた。
何時もなら有難いのだが今回は嫌味に聞こえた。
河川敷に架かった橋の下、半田はスプレーで壁にマーキングされた円に向かってシュートを続けている、円堂は直ぐに終わる用事があるから少し待っていろと言って雷門中へと戻った。
それを待つ間こうして蹴っているわけだがやはり昔のようにはいかない。成長してフィジカルは上がったが柔軟性等はデスクワークのお陰で見事に鈍っている。
時々オーバーヘッドや振り向き様に蹴り返していく。
これでもサッカー部としての意地がそうさせるのかノーバウンドで返してく様子は端から見れば半田は中々に良い動きであった。本人は自覚が無いが。
太陽が沈み辺りはもう薄暗い。足元が見えなくなったので半田は練習を切り上げ、荷物を纏めた所で丁度円堂が帰ってきた。
「悪い半田、遅くなった」
「いや、良いけど、もう暗いから練習は無理だぞ。これからどうするんだ?」
円堂は昔のようにニッコリと歯を見せて笑った。
「俺んちに来いよ!晩飯まだなんだろ?一緒に食おうぜ!」
円堂には悪気はないのだろう......とはいえ最近はこいつに嫌悪感というか、嫉妬にも似たものを感じていた。
今日の所は正直関わりたくなくなった。
「でも、いきなり押し掛けたら迷惑じゃないか?向こうだって準備があるだろうし」
「だーいしょうぶだって!さっき夏未に電話したらOKだってさ」
食い下がるのも気が引けたので承諾した。
円堂はこの歳で立派な一軒家(ガレージ付き)に住んでおり、美人な妻もいる。その上年俸何億単位の絶頂期のサッカープレイヤーなのだから俺とは天と地程の差がある。また思考がネガティブになっているのにも無意識で俺は気づけない。家はこの近くにあり、歩いて十数分の近さで何度お邪魔したことがありに社会人なっても友人としての付き合いは欠かしていない。今の今までは
道すがら円堂とは他愛もないお喋りを続けやれ近況報告だの注目のサッカー選手だの他の仲間達の話題等話は弾んだ。やがて新築の大きな一軒家が見え、表札には円堂と書かれた家の前に着いた。
カメラインターホンを鳴らすと、少しして若い女の声がした。
≪どちら様....ああ貴方だったの、今開けるわ≫
玄関扉の向こうからパタパタと足音がするや否や隣にいた円堂が、
「あっ、悪い半田!忘れ物したから先に食べててくれ、じゃっ!」
何故か冷や汗を流しながら元来た道とは別に走り去っていった。勢い付いたかと思うと一瞬で姿が遠くなりプロ選手としての才覚を遺憾無く発揮していた。
(なんだよ、円堂の奴偉い焦ってたが)
その時玄関が開き、中から一人の女が現れた。ウェーブがかった茶髪を伸ばし家事の途中なのかエプロンを身に付けた美女だった。
「あら、いらっしゃい。どうぞはいって」
ソプラノの透き通る声で女が言う。彼女は嘗ての雷門中サッカー部マネージャーで生徒会長で今は円堂夏未と名乗った。円堂と雷門は大学卒業と同時に入籍したばかりで結婚式にはメンバー一同呼ばれて祝いの言葉を述べた。染岡なんかは自作の歌で笑いをとってた。本人は真面目そうだったがあれは笑い種だ。
「あら、あの人は?」
「いや、円堂は何だか急用があるらしくて学校に戻ったけど」
全く仕方ないわね、と文句を言いながら案内された。鞄を置き、テーブルにつこうとすると真っ先に手を洗うようピシャリと怒られる。此処は昔から変わらないようだった。戻るとすっかり料理が並べられ、サラダにスパイスの効いたカレーが山盛りだった。
「あの人カレーライスが好きなのよ、子供っぽいでしょう?」
クスリと笑う彼女の瞳には親愛が籠っていた
「そうかな、俺は好きだけど」
円堂が帰ってくるのを待ちつつ、半田は雷門と話していた。
この空間に男女二人だけというのもなんだか気まずい、ついつい視線が顔では無く身体へと移ってしまう。
ブラウスを押し上げる胸は大きく、腕はたおやかで白魚のような細長い指先にはリングが光り、キッチンに立った時の魅惑の腰付きが思い起こされ変な感覚だった。
人妻の色気。
それに正面からみると本当に美人だと再確認する程整った顔立ちだ。
ここにいない円堂が羨ましく、仄暗い嫉妬や妬みが心に巣食うのを感じ取った。円堂は彼女と夫婦だから夜の営みもあるだろう、こんな美人の体を好き勝手出来るのは英雄の特権だとでも言うのか。
余談だが半田は童貞ではない、入社して半年頃に先輩にそういう店に連れていってもらった。今でも金がある時は時々行くがどうせなら彼女としたいと思っている。
まさか此処で襲いかかる程飢えていないが、気が散って話が入らない。食欲をそそる匂いが鼻につきカレーを食べたいが主役がいないのでどうにも食べ辛い。温かいカレーが少し冷めた時雷門は痺れを切らした。
「全く遅いわねあの人、もう冷めてしまうわ」
「ごめんなさいね半田さん、帰ってこないみたいだしもう食べてしまいましょう」
「あ、あぁ、そうだね」
一口スプーンで口に運ぶ。
口に入れて味わった途端、暴虐が舌を襲った。
スパイスなんてものじゃない、これは!
「ぅぅっ、ぐ........」
不味かった。唯々不味い。純粋に非常においしくない。見た目や香りは美味しそうなのにどんな調理をしたら味がこんな風になるのかさっぱりだ
今なら円堂が走り去ったのか分かる気がする。
(円堂の野郎、食いたくないからって俺を生け贄にしやがって!糞、にしても不味いなコレ)
途切れかけた暗い感情が再燃し、心が締め付けられ視界が狭くなった。普段の俺なら笑い話にでもするとこだが我慢の限界だった。
「半田さん、大丈夫?もしかして口に合わなかったかしら」
とぼけた面の女がそんな事を聞いてくる
「いや、そんな事ないよ。とても美味しい」
(食えるかこんなモン、反吐がでる!)
殆ど味わわずカレーを早めに掻き込むように食べサラダも平らげる。もう此処にいたくない。
(帰って口直しをしたい。たしか餡掛けチャーハンがあったな)
「ご馳走さま、美味しかったよ」
「お粗末さまでした。良かったわ」
「もう時間も遅いし、円堂も帰らないからお暇させてもらうよ、じゃ」
さっさと上着を着て玄関に直行し扉に手を掛けた時、手首辺りを後ろから掴まれた。柔らかい手の感触が伝わり振り返る。
若干申し訳なさそうな雷門がいた。
「なんだよ?」
「半田さん、私の料理、おいしくなかったでしょう?私あの人からも言われてるのよ、個性的だと言って誤魔化しているけれど」
(だったら直せよ!不味いもん客人に食わせるなんてどうかしてるぞ糞女)
「そうだな、この際はっきり言わせてもらうが酷すぎるな。俺の方がまだ上手いし残飯として出した方がまだ通るぜ」
言いはなった言葉に目を見開き次いでキツい目付きになった
「そこまで言わなくてもいいじゃない!私だって頑張ってるのよ、でも中々上達しなくて」
グチグチと小言を言い始めた雷門を一瞥すると
「まぁ俺の意見だから気にするなよ、俺もひとのこと言えないが」
扉を開け出る間際何か此方に喚いていたが無視して帰宅の途につく。
(気楽なもんだぜ、人の気も知らねーで........円堂の上で腰でも振ってろ淫乱女が)
もやもやした気持ちを抱えたまま部屋に帰り玄関の扉を乱暴に閉める。
上着と鞄を投げ捨てネクタイも力任せに引っ張って緩め生地が裂ける音がしたがどうでもよかった。
「はぁ....今日はついてねーな。円堂はウザいし雷門の飯は不味いし、なんだかなぁ」
なんと無しにTVを点けるとニュース番組をやっていた。他愛もないゴシップ、政治、事故や事件の話題、いつもの下らないニュースのオンパレードで見る気が失せたので携帯端末で動画を見ていた。寝床の壁に寄り掛かって小さく笑いを起こしつつボーッとしていると壁の方から音が聞こえた。
動画を止め壁に耳をつける。断続的に聞こえる、甲高い声が女の嬌声だと気付きそっと耳を離す。確か隣は同年代のカップルが住んでたのを思い出す。
「俺だって風俗じゃなく生でヤりてぇよ、気の合う可愛い子と」
(どうせムリだが)
悶々と黙って床を見つめていた。TVの音、外を通る車、目覚ましのカチコチ音........
「外で頭冷やすかな」
コンビニで何か買ってこよう、色々あった1日だが食って寝て何もかも忘れようと考えた。
──今思えばこの時俺の選択が、その後の運命を分けたのだろう
「あざっしたー」
コンビニで適当に缶ビールとつまみを買って家路についた時だった。街灯が照らす夜道で黒っぽい何かが立っているのが見えたので目を凝らすとどうも人影のようだ、少し気味が悪かったが遠回りも面倒だし道幅もあったので道端を目を合わせずに通り抜けようと歩いた。
少しずつ近付く距離。横目でチラリと見つつ足早に去ろうと視界から消えた瞬間。体を衝撃が襲った。
「うっ」
慌てて振り返るとフードを被った人物が後ろに立っており、手元には夜の闇でギラリと光った銀色の刃、ソレに何か赤いものが........
認識するや否やフードの人物は自分に駆け寄りその凶刃を振り下ろした。ザクッと柔らかいモノに刺さる音と衝撃、胴体を執拗に刺突されるがまま何とか手を伸ばすも引き抜かれた刃につられるように紅い雫が弧を描く。
此処に至って頭の片隅に通り魔に襲われたと確信したが遅かった。
急激に命が抜け出すのを感じて目の前が暗く、ジェットコースターが後退するように内臓諸ともゾッと下へ下へと引っ張られる
グワンと背中に感触があり、地面に倒れたと感じた喉を振り絞り声を上げようとしたが、馬乗りになった通り魔が血塗れのナイフを逆手に半田の喉に宛がった
「や、や........め」
ザッ、と。
深々と突き立てられたまま体重を乗せて横に抉るように切り裂き喉笛が真っ二つになる。
ごぼごぼと頸動脈から鮮血を吹き出し手で抑えようとしても全く止まらない。
痛みを感じない程の傷と出血で何も考えられない半田。
無抵抗の重体に通り魔は何度も何度も刃を突き立て、呼吸が聞こえなくなるとおもむろに立ち上がり小走りで夜の闇へと消えた。
「─────ニュースをお伝えします。今朝未明、稲妻町住宅街の道路脇で男性が倒れていると通りがかった住民から警察と消防に通報があり、男性は病院に搬送されましたが死亡が確認されました。死亡したのは都内の企業に勤める会社員の半田真一さん24歳男性、捜査関係者への取材によりますと金品は取られておらず体に複数箇所の刺し傷があったことから殺人と見て捜査を進めています─────」
......これは、あり得たかも知れない凡人のやり直しの物語。