苦労人だな…
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トレーナー資格の剥奪は、重役が読み上げて直ちに履行されるものではなく、この後本部理事会にこの議題を提出し、可決されて初めて資格が失効する。
最も、執行されるまでの1カ月もない間、唯一の担当は病院から出られない。
今この場で処刑されるのと、何もできないまま1か月後に処刑されるので大した違いはなかった。
重役を含め、本部ではこの議題は「担当ウマ娘をレースに出しすぎてケガさせました」と誰もが捉えるだろう。
未然に防げなかった不幸ならいざ知らず、今回は明らかに故意だ。
間違いなく情状酌量の余地なし。
全会一致で有罪だ。
秋川理事長だけは擁護に回ってくれるだろうが、本部理事会は理事長の鶴の一声で判決がひっくり返ったりなどしない。
「秋川理事長、チャンピオンズカップへの出走を打診したのはあなただと聞いた。最終的に決めたのは森内トレーナーだが、あなたも厳罰を覚悟していただきたい」
「くっ……覚悟はできている……」
それに、秋川理事長自身も、今回は裁かれる側だ。
「以上だ。何か最後に言い残すことは?」
重役は書類を片付け、淡々と帰る準備を始めた。
森内トレーナーは、手を震わせながら声を絞り出す。
「……俺はどうなっても構いません。しかし、インシーは……今後どうなるのですか?」
その問いに答える前に、重役はため息をついた。
「どうせURAを追放されるくせに、なぜインシルカスラムの今後など気にするんだ」と言いたげなのが丸わかりだ。
「表彰式ではレースを続ける気だと聞いた。だが君が消えようと、代わりのトレーナーはいくらでもいる」
「しかし、インシーは他のトレーナーの世話になる気はありません!本当です!病院で直接聞きました!」
ここで、初めて森内トレーナーは顔を上げる。初めて重役に向けて声を大にする。
本部から来た重役はトレーナー資格は剥奪できても、インシルカスラムと森内トレーナーの間にできた絆までは、剥奪できない。
「では引き続きインシルカスラムは君の下で走り続けたいと?バカな!自らの脚を折ったトレーナーを信用するウマ娘が一体どこにいる!?」
「それは……」
常識で考えればそうだ。
森内トレーナー自身も、自分は担当をケガさせてしまった最低なトレーナーだと思っている。
しかし。インシルカスラムは契約解除をする気はないし、他のトレーナーに移り変わるのが嫌だとはっきり言った。
森内トレーナーに気を使って本心を隠して言ったとは到底思えない。
そもそもインシルカスラムはそんな性格じゃない。
インシルカスラムは、言いたいことを言いたいだけガーッとまくし立てるタイプなのは、この物語を読んでいるあなたも含め、誰もが分かることだ。
それを、書類を読んだだけの重役は分かってない。
「何にせよ君が再びインシルカスラムのトレーナーに就くことはもうない!」
「残された1か月の間、君にできることは、インシルカスラムに泣いて許しでも乞うことだけだ!」
重役はそう吐き捨てて理事長室を後にしようとする。
泣いて許しを乞うことは既にしているし、インシルカスラムに「それはやめろ」といわれたことを重役は知らないだろう。
だが、もはやただの森内となろうとしている目の前の項垂れた男に、他にできることはなかった。
重役が扉に手をかけようとしたその時。
ドアノブをつかむ直前で、重役の手が止まった。
報告書を読んだだけで勝手な判断を下しているのもそうですが。
インシーの今後をどうするかっていう話より、まずトレーナーをクビにするかどうかを話し合っている(一方的)時点でURA本部のお偉い野郎は無能です。
森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?
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トレーナー失格だ!クビにしろ!
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ペナルティを受けるべきだ!
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事情があったなら仕方がないのでは?
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トレーナーは何も悪くない!