……というわけでもないようで?
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「……これは、処遇を伝えに来た本部役員としてではなく、私個人としての質問だ」
口調は厳しいまま変わらなかったが。
今からいうことは、重役としてではなく、ウマ娘とそのレースを愛するただ1人の男としての本心なのだろう、ということが察せられる。
「君のこれまでの経歴を調べさせてもらった。インシーだけでなく、これまで2人のウマ娘を担当し……」
「そして、インシー含め、ウマ娘からはかなり慕われていたそうじゃないか」
この情報は、今回の報告レポートだけでなく、森内洋一というトレーナーについて詳しく調べていなければ知りえない情報だ。
そして、重役はインシーとニックネームを変えたことから、本部役員である前に1人のインシルカスラムのファンだったことがわかる。
「インシーを担当している君のことも、秋川理事長から聞いていた。君は、ウマ娘を幸せにするために心血を注ぐ男だと……思っていた……!」
重役はバッと振り向く。その目には悔し涙が浮かんでいた。
そこにいたのは、さっきまでの冷徹に判決を下す血も涙もない男ではなかった。
インシルカスラムがレース中に骨折したニュースは何度も聞いた。
書類も何度だって確認して、間違いはなかった。
何だったら、車椅子に乗せられた本人の姿すら見た。
それでも。
「君は担当ウマ娘に無茶をさせるような愚かな男じゃなかったはずだ!なぜだ!?」
「なぜ君は、インシーに無茶をさせてしまったのだ!?」
そこまで確信を得てもなお、何かの間違いだと思いたかった。
インシルカスラムがケガをしたという事実が。
そして、優秀であったはずの森内トレーナーがこんなことをしてしまった、という事実が。
しばらく森内トレーナーは下を向いたまま。数秒の時が流れる。
そして、森内トレーナーは顔を上げる。
「…………それが」
「インシーの望んだことだからです」
しっかりと目線を合わせ、森内トレーナーははっきりと告げた。
重役は言葉を受け止め、また数秒の時が流れると。
「……そうか」
とだけ告げて、今度こそ扉を開け、理事長室を後にした。
その一言が期待か、期待外れかまでは、読み取れなかった。
「あああぁぁ……どどど、どうすれば……!?」
2人取り残された理事長室で、秋川理事長は激しく取り乱し始めた。
「こ、こうなってしまったのは、元はと言えば私のせいッ!、本当に――」
秋川理事長は膝をつき、いつかしたように、床をぶち抜きそうな勢いで土下座しようとするが。
そこを先回りした森内トレーナーに止められた。
「理事長、インシーへは俺が既に謝ったよ。謝るの禁止、と言われてしまったがな」
その言葉が「謝罪を受け入れたくない」ではなく、「悪いことしていないのに謝るな」なのは秋川理事長も感じ取れた。
「しっ……しかし!森内トレーナー!君がトレーナー資格を失うことはURAにとって、そしてインシーにとって大きな損失ッ!」
「何もできない私を許してくれ……!」
どうにかできないものか、と秋川理事長は考えをめぐらすが、今の秋川理事長もまた沙汰を待つ身であり、できることは少ない。
「許すも何も最初から理事長に対して怒るようなことはない」
森内トレーナーはそう告げると、立ち上がり、理事長室を後にしようとする。
「森内トレーナー、どこへ……?」
「--インシーの見舞いに」
まだ信じられない。
お前は優秀だって信じたい。
どうして?
森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?
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トレーナー失格だ!クビにしろ!
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ペナルティを受けるべきだ!
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事情があったなら仕方がないのでは?
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トレーナーは何も悪くない!