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理事長室を後にした森内トレーナーは見舞いに必要な荷物を入れた紙袋を持って。
その足で病院に向かい、インシルカスラムに先ほどの尋問裁判の一部始終を報告する。
「はあ!?じゃあトレーナーはクビってこと!?」
案の定、インシルカスラムは激昂する。
「ああ……インシーのトレーナーは他の奴が面倒を見る、とはっきり言われてしまった」
「そいつなんっにも分かってない!!アタシは!アンタにトレーナー続けてほしいの!」
もし、この場に重役がいたらインシルカスラムは右フックでブン殴っていたに違いない。
自らの脚を折ったトレーナーを信用するウマ娘が一体どこにいる!?と重役は吐き捨てた。
常識で考えればそうだが。
ここにいるのだ。
インシルカスラムが信用するトレーナーは、森内トレーナーだけだ。
「……俺だってそのつもりだ」
改めて、インシルカスラムも森内トレーナーも、自らの担当を変える気はないことを再確認できた。
おそらく、このまま何もせず時を待てば、確実に森内トレーナーはトレーナー資格を剥奪され、URAからは去らなければならなくなる。
この運命をどうにか避けるべく、トレセン学園から病院に来るまでの間に、森内トレーナーはあらゆる方法を模索した。
まずは。
「おそらく、近くインシー本人にも直接今後を問いに来るだろう。このまま続ける気かどうかとか、代わりのトレーナーは誰にするとか……」
「……俺が言えた立場じゃないが、どうか、インシーの口からもトレーナーを変えずに続けたいと伝えてくれ」
当たり前だが、URAとはコースを走るウマ娘のためにある組織だ。
コースを走るウマ娘であり、今回の悲劇の当事者であるインシルカスラムからの意見が何より尊重されるだろう。
本人が「トレーナーを変えないで!クビにしないで!」と言えば嫌でも重役たちはその気持ちを汲み取らざるを得ない。
どうか協力してくれ、と森内トレーナーは深々と頭を下げた。
が、すぐにインシルカスラムに無理やり頭を上げられた。
「言えた立場だろ!任せといて!絶対、トレーナー続けてもらうからな!」
「ありがとう、インシー。俺も続けたい。今後ともよろしく頼む」
森内トレーナーとインシルカスラムは顔を合わせて頷いた。
「そうだ、話は変わるが、手土産を持ってきた」
と森内トレーナーは堅苦しい雰囲気をやめると、後ろに置いてあった紙袋をインシルカスラムに差し出した。
インシルカスラムが紙袋を除くと。
中身は暇つぶし用グッズがたくさん入ってあった。
携帯ゲーム機の、最新パズルゲームのソフトやクロスワードの雑誌など、頭の体操になる暇つぶしだらけだ。
インシルカスラムは暇つぶしとして最も好きなことがパズルであることを、森内トレーナーはしっかりと覚えていた。
「ありがとうトレーナー!これもらっていいの!?」
「ああ、どうせインシーのことだからヒマでヒマで仕方ないとぼやいているだろうと思ってな」
図星だ。ぼやくどころか暴れている。
インシルカスラムは久しぶりにした嬉しそうな顔で紙袋を漁っていくと。
筆記用具と問題集やレース理論に関する本が出てきた。
嬉しそうになっていたインシルカスラムの表情が固まる。
「……バレたか。紛れ込ませておけば、帰るまでには誤魔化せるかもと思ったんだがな」
病院にいたらトレーニングはもちろんさせてもらえないが、唯一、賢さトレーニングはできる。
森内トレーナーにとってここにいる間も何かできることはないかと考えての策だった。
が、インシルカスラムは特に嫌な顔をせず、問題集をパラパラと開ける。
「でもじっとしてるよりかは全然マシ!眠たくなったらいつでも寝れるしー?」
インシルカスラムは早速問題集の1ぺージ目を解き始める。
森内トレーナーの表情が思わずほころぶ。
久しぶりに見たインシルカスラムの笑顔は、東京大賞典から絶望ばかりに叩き落とされ続けていた森内トレーナーが見えたわずかな希望だった。
これからも続けるために、なんとしても足掻かないと。
森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?
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トレーナー失格だ!クビにしろ!
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ペナルティを受けるべきだ!
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事情があったなら仕方がないのでは?
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トレーナーは何も悪くない!