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「査問会議の結果はもう聞いています。森内さん、1月末にはトレーナー資格を剝奪されることが決まったそうですね」
打出トレーナーは不本意そうに首を横に振った。
「ああ。俺自身も、至極当然の結果だと受け止めている」
森内トレーナーも打出トレーナーと同じように首を横に振る。
仮に立場が逆で森内トレーナーが追及する側だとしたら、森内トレーナーだってそのトレーナーの資格は剥奪すべきだ、言うだろう。
だから、現時点では追及されている森内トレーナーの資格は剥奪されるべきだ、と誰しもが思っている。
「でも、俺たちに、『今までお世話になりました』って言いに来たわけじゃなさそうですね」
藤正トレーナーは、ニヤリとした笑みを返した。
森内トレーナーは強く頷く。
つまり、トレーナー資格を剝奪されることが決まって、それを至極当然だと思っているが。
しかし、トレーナー資格は、剝奪されたくない。
そのために、藤正トレーナー、打出トレーナー、小原トレーナーに協力を仰ぎに来たのだ。
何とわがままで、自分勝手で、意味の分からないことを言っているのだろうか、と思うが。
「別れの言葉を言えない理由は2つ。俺がインシーの担当を続けたいから。そして」
「--インシーが、俺の担当であり続けたい、と言ったから」
「トレーナーは途中で変更が認められてます。森内さん、あなたがいなくなったら、僕がインシーの面倒見てやるっていったらどうします?」
続いて打出トレーナーがその温和な表情を崩して真顔で言ったが。
「インシーは他のトレーナーに乗り換えるのは嫌だと言ったぞ。そして」
「インシーのトレーナーもまた俺だけだ。お前たちを含め、他の誰にも任せられん」
その言葉を聞いて、小原トレーナーは目を閉じて、腕を組む。
「……お前、インシーをスカウトしたとき、なんていったか覚えてるか?」
インシルカスラムをスカウトしたのは2年前のことだ。
それでも、森内トレーナーはその言葉をまだ深く胸に刻んでいた。
「本人(インシルカスラム)とお前たち(3人のトレーナーたち)に『俺しか担当できる奴はいない』って言わせることをする」
一字一句間違えずに繰り返した森内トレーナーに、小原トレーナーはフッ、と軽い笑みで強面をわずかに崩した。
「--言われてんじゃねえか。大した野郎だぜ」
インシルカスラムは、"森内トレーナーしか、自分を担当できる奴はいない"と確かに病院ではっきり言ったのだ。
「ハハッ、森内さん、担当に似て頑固になってきたんじゃないスか?」
「試すのはもう十分でしょう。さすが森内さん。あなたこそ漢の中の漢です」
藤正トレーナーと打出トレーナーはガッツポーズで協力姿勢を示した。
「俺たち自身、そして俺たちの伝手頼って、資格剥奪の撤回を掛け合ってやる」
「森内、お前はURAにいるべきトレーナー、そしてこれからもインシーの担当トレーナーでいるべきだぜ」
小原トレーナーは今度は森内トレーナーの頬ではなく、肩を力強く叩いた。
これだけの協力者が集まれば、きっと森内トレーナーは、トレーナーを続けることができるかもしれない。
「皆、ありがとう……!この恩は、インシーがシニア級のレースで1着を取ることで返させてもらう」
「うわ、最後の最後で締まらねえこと言いましたねえ」
「恩を挑発で返す人初めて見ましたよ。もちろん、受けて立ちましょう」
「そいつは受け取れねえぜ。シニア級のレースの1着はテンカのモンだからな」
お互いに、「自分の担当はたった1人だけだ」と言っているなら。
協力してやらないわけにはいかない。
森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?
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トレーナー失格だ!クビにしろ!
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ペナルティを受けるべきだ!
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事情があったなら仕方がないのでは?
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トレーナーは何も悪くない!