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インシルカスラムのお見舞いに、最後のウマ娘がやってくる。
「インシー、具合どう?」
テンカバスターが扉を少しだけ開けて、様子を窺うように顔だけ見せる。
どこぞの2人とくらべて大変大人しい。
「具合も何も体調は悪くないってば!遠慮しないでいいよテンカ!入って!」
インシルカスラムは繰り返し手招きを高速で繰り返してテンカバスターを迎え入れる。
テンカバスターはようやくインシルカスラムの病室に入る。
勝負服が真っ白だったが、私服も純白だ。
テンカバスターはお見舞いの日用品を置くと。
小さくため息をついた。
「私、東京大賞典でインシーと勝負できるのをすごく楽しみにしてた。これで白黒はっきりつけられるんだって」
「でも……」
こんな結果は望んでなかった、という風に、テンカバスターは小さく首を横に振った。
「アタシもテンカに勝ちたかった。最強になるには3人に勝たないと、ってデビューのころから思ってた」
「サルートは倒した。コダンも倒した。あとはテンカ、アンタだけなんだよ」
インシルカスラムもまた、テンカバスターと戦えることを楽しみにしていたと打ち明かす。
そして、インシルカスラム対テンカバスターの対戦結果は、まだ0戦0勝0敗だ。
これまで散々言ったように、東京大賞典はカウントのうちに入らない。
「インシー、次はどこに出るの?」
「まだ正式に決めたわけじゃないけど、帝王賞かな」
インシルカスラムはそう言っているが、まだ骨折が回復していないのに出走を予約登録することはできない。
あくまで、今の様子から最短のG1は帝王賞だろう、というだけだ。
それを聞いたテンカバスターは。
急にインシルカスラムに顔を数cmの距離まで近づけて、耳を後ろに絞った。
傍から見れば、インシルカスラムに対して怒っているようにしか見えない。
……あの大人しいテンカバスターが?
さっきの発言に気に入らないことがあるのだろうか。
「"正式に決めて"、インシー。帝王賞に出たいんでしょ?」
テンカバスターの声は怒ってこそいなかったが。
その威圧感は、インシルカスラムを驚かせるには十分だった。
「えっ?」
あの大人しいテンカバスターから詰め寄られてインシルカスラムは思わず1秒ほど固まるが。
今後の不安でウダウダと悩むのはインシルカスラムではない。
固まる時間が2秒になる前にインシルカスラムは頷いた。
「決めるよ、テンカ。帝王賞には出る!」
「なら、私も出る」
テンカバスターは即答で、自分も帝王賞に出走することを表明した。
その言い方は、お見舞いに来るまでは決めていなかったが、インシルカスラムの決意を聞いて決めました、という風だ。
「え、テンカ、もしかしてアタシに合わせた?」
「そう」
確かにテンカバスターとどこかで勝負したいとインシルカスラムは思っていたが。
まさかテンカバスターのほうから、速攻で果し合いを申し込まれるのは想定外だった。
テンカバスター、彼女もまた過酷なダートの第一線で活躍するウマ娘。
大人しそうに見えるが、見えるだけ。
優しくなんかは、決してない。
「私は戦い続けることでしか私を証明できないウマ娘」
「だからインシー。私と戦って。1度と言わず何度だって」
白く、純粋で、他よりも大人しい彼女の名前をもう一度思い出してほしい。
テンカバスター(Tenka Buster)。
彼女は"天下"を取るべきウマ娘であり。
そのために、"Buster(破壊者)"となって、立ちふさがる物を壊す。
テンカバスターの両親はきっとそんなウマ娘になってほしくて名付けたのだろう。
テンカバスターとは、紛うことなき戦士といえるウマ娘であり、戦闘狂なのだ。
そんなテンカバスターは、インシルカスラムにとってもちょうどよかった。
インシルカスラムは指数本しか入らない程度まで近づいてきたテンカバスターの顔に軽く頭突きをかます。
「あいた」
テンカバスターは軽くひるんで顔の位置を戻したが。
それが承諾の意志であることは分かったらしく、額をさすりながら笑顔を浮かべていた。
「それはこっちのセリフ!できるだけ早く治すから、何度だって一緒に走ろうな!」
「--待ってる」
ブラス・トレーサー最後の1人も、常識なんかありゃしない。
森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?
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トレーナー失格だ!クビにしろ!
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ペナルティを受けるべきだ!
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事情があったなら仕方がないのでは?
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トレーナーは何も悪くない!