ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

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この世界にも新年がやってくる。
そして、1月が来るということは……。


第105話

ーーー93ーーー

 

年始を経て、トレセン学園では新学期が始まった。

 

「インシーちゃん、ケガ大丈夫?辛くない?」

 

「階段とか、荷物とか持つからね!」

 

インシルカスラムも松葉杖をつきながら授業に出席しており、その姿を見るや否やクラスメイトが心配になって駆け寄ってきてくれた。

 

「ありがとう!アタシだけでやれることはするよ!どうしようもない奴だけお願い!」

 

そんな学園と病院を往復する日が続いて1月が下旬に入ったころ。

 

森内トレーナーの資格剥奪、もとい処刑日までは10日を切った。

 

「インシーさん、ちょっといい?」

 

放課後、インシルカスラムはクラスの担任の先生に呼び止められた。

 

「なーに?」

 

「本部役員の方が聞きたいことがあるからって病院を訪れるそうなの。きっと今後のレースの話よね?」

 

インシルカスラムの担任の先生はトレーナーではない。

 

ウマ娘のレースのことは一般人よりは多少知っている、程度でしかないただの教員だったが。

 

その聞きたいこと、によってインシルカスラムの人生が左右されるのだろう、ということは想像できた。

 

「大事な話になる思うわ。……うまく話せそう?」

 

ケガのこと、今後の進退、そしてトレーナーについていろいろと聞かれるだろう。

 

もしかしたら、トラウマを抉るようなことも聞かれるかもしれない。

 

そう思って担任の先生はそこまで言って少しうつむいた。

 

「--大丈夫、先生。アタシ、伝えたいことはっきり伝えるから!」

 

だが、インシルカスラムに限って、そんな心配は無用だった。

 

「……そうね。インシーさんはそういう子だものね。頑張って」

 

 

放課後、病室に戻って夕方頃。

 

病室をノックする音が聞こえる。

 

「いるよー」

 

インシルカスラムが返事すると、物々しいスーツ姿の格好の男が3人入ってくる。

 

インシルカスラムとは初対面だが、3人のうち左にいたのが森内トレーナーに極刑を言い渡した重役の男だ。

 

右の眼鏡をかけた男はインシルカスラムには目もくれず、歩きながら手元の資料ばかりをずっと見つめている。

 

「インシルカスラムかね?URA本部から派遣された査問委員会の委員長だ」

 

そして中央の年配の男が話を切り出した。

 

インシルカスラムの耳がわずかに後ろに傾く。

 

この3人は自分のトレーナーをクビにしようとした張本人たち。

 

言いたいことはたくさんある。でもまずはアンタたちの言い分聞いてやるよ。そういう感情だ。

 

「まずは東京大賞典、残念だったな。我々一同、心痛のほど申し上げる」

 

「……別に。アンタたちのせいじゃないよ」

 

インシルカスラムは少し間を置いた後、素っ気なく答えた。

 

お気持ちだけお察しされてもちっとも嬉しくない。

 

インシルカスラムをよく知る者なら「応援してるぞ!」とか「きっと乗り越えられる!」と励ましの言葉を付け加えなければインシルカスラムは喜ばないと知っている。

 

どうやら話している委員長は、インシルカスラムというウマ娘にはどういう言葉をかけるべきか知らないにわか野郎らしい。

 

 

次に、右端で資料ばかりを読んでいた男がようやくインシルカスラムに目を移した。

 

「ええと、復帰には厳しいリハビリを乗り越える必要がありますし、乗り越えたところで今までと同じパフォーマンスができるとは限りません」

 

「それに、今までのデータから見ればピークアウトも近く来る恐れがあります。それでも、本当に続けますか?」

 

ウマ娘のレースとは現役でいられる時間が短いスポーツだ。

 

多くのウマ娘はシニア級を繰り返すうちに途中でピークアウト、全盛期を過ぎて衰えが来たことを痛感し、引退を悟る。

 

その時期がシニア級1回目か、2回目か、それ以上かはウマ娘によるが。

 

インシルカスラムはジュニア級の早いうちからレースができていた早熟タイプだ。

 

1回目のシニア級、つまりは今年で能力が衰える可能性は十分にある。

 

右端の男が資料ばかりを読みふけっていたのは、おそらくそれを心配していたのだろう。

 

だが、インシルカスラムにとってそれは、余計なお世話以外の何物でもなかった。

 

「本当に続ける!」

 

「アタシはもう走りたくない、なんて一言も言ってないだろ!?」

 

明らかに不機嫌そうにインシルカスラムは右端の男を睨みつけた。

 

リハビリがなんだ。

 

ピークアウトがなんだ。

 

それを理由で諦めろというのか、インシルカスラムに。

 

失言だと理解した右端の男は慌ててインシルカスラムに両手を見せて落ち着け、というジェスチャーを取った。

 

「こ、これは大変失礼しました。あなたが続けるつもりなら、我々はそれを全力でサポートするつもりです」




こんな酷いケガをしたウマ娘をこれ以上走らせたくないと思うことはダメなことじゃない。

でも、それを……"彼女"が嫌がったら?

これは、ブラス・トレーサーという話を作るうえで最も伝えたかったこと。

森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?

  • トレーナー失格だ!クビにしろ!
  • ペナルティを受けるべきだ!
  • 事情があったなら仕方がないのでは?
  • トレーナーは何も悪くない!
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