「G1タイトルがほしい」とかでもない。
「強くなりたい」とかでもない。
「身体が弱くても走れる」と証明したいから。
今やめてしまったら「走れない」ことが証明されてしまう。
だから、インシルカスラムは何が何でもここでやめるわけにはいかない。
彼ら重役の気遣いは、そんなインシルカスラムの気持ちを踏みにじってしまったんです。
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「どういうことだ……!?あの森内が良いなどと!」
帰路で査問委員会の委員長は納得いかない表情でブツブツと愚痴を吐いていた。
「予想できない故障なら仕方なかろう!だが森内は欲をかいた連闘で故障させたのだぞ!?」
「もしこのままインシルカスラムがケガしなかったとしても、あの男は川崎記念、フェブラリーステークスと入れたでしょう」
右にいた資料を持つ男も委員長に賛同する。
「4か月で5戦?冗談じゃない」
「タフなウマ娘ならまだしも、病弱なウマ娘だと分かっていながらやるのは愚行の極みです。虐待と言っても過言ではありません」
「ああ、考えれば考えるほどインシルカスラムが森内を庇う理由がどこにもない。お前もそう思うだろう?」
委員長の男は、森内トレーナー自身に極刑を突き付けた重役の男に話を振る。
重役の男は少し考えこみ。
「……だが委員長。本部に森内のトレーナー資格剥奪に反対する署名が届いていたことを覚えているか」
既に藤正、打出、小原の3人のトレーナーは手を回していた。
自分自身や担当ウマ娘、そして伝手を頼った森内トレーナーを知る者たちは査問委員会に反対の声を上げ始めていた。
それはオグリキャップのダービー特例出走のような大規模なものではない。
本部で議題に上がる日まで必死にかき集めても1000もいかないのではないだろうか。
それに、委員長はその話を聞いた時、その署名を一蹴していた。
「あんなもの、派閥か友人か、何かしらの理由で森内を盲信して署名しているだけにすぎん!」
「私もそう思っていた。だが、インシーのあの様子を見たら……」
重役の男は言葉に詰まり、あることを思い出した。
森内トレーナーに極刑を宣告し、そのまま帰る予定だったが、心のどこかでひっかかっていたこと。
「なぜ君は、インシーに無茶をさせてしまったのだ!?」
それに対し、森内トレーナーはこう答えていたことを覚えている。
「それが、インシーの望んだことだから」
普通なら自分の失態をウマ娘に責任転嫁したと捉えられてもおかしくはない。
しかし、インシルカスラム本人の気持ちはさっき耳が痛くなるほど聞いた。
インシルカスラムは無茶することを望んでいた。
そして、インシルカスラムを最も大事に想うからこそ、森内トレーナーは彼女の望みを無理矢理止めることができなかった。
……いや、どうにか乗り越えようとしていた。
それでも乗り越えられなかっただけで。
「我々は、もう一度考え直す必要があるのかもしれん……」
委員長に向けてではなく、独り言のように、重役の男はつぶやいた。
最早追放ルートしかありえなかったこの物語で。
彼らの考えが、変わり始めた。
森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?
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トレーナー失格だ!クビにしろ!
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ペナルティを受けるべきだ!
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事情があったなら仕方がないのでは?
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トレーナーは何も悪くない!