ーーー97ーーー
「私も話を聞いた。……トレーナーのこと、信頼してるんだな」
インシルカスラムは大きく頷いた。
「うん。自分で言うのもなんだけどさ、アタシは手のかかるウマ娘なんだと思う」
これまでを振り返ってみても、インシルカスラムは身体が弱いのに無茶ばっかりしてきた。
身体が弱いのがなんだ、無茶したってやれるんだからな!
そう見せつけてやりたいのがインシルカスラムの走る1番の理由。
結局、こうなってしまったが。
「でも、トレーナーはアタシのやりたいこと全部させてくれた。どっちか選べって言われたら、どっちも取れる方法を考えてくれたんだ」
チャンピオンズカップ、東京大賞典。どちらか1つを避ければこの悲劇は回避できたかもしれない。
だが、インシルカスラムはどちらも出たかった、どちらも取りたかった。
「認められるわけがない!何も自分が壊れるまでやらなくてもいいじゃないか!」
普通のトレーナーなら、インシルカスラムの頬をひっぱたいてでもそうやって止めようとするだろう。
だが、森内トレーナーはあらゆる手を尽くして、どちらも取らせてくれようとした。
結局、こうなってしまったが、別にインシルカスラムは恨んでいない。
森内トレーナーで出来なかったのなら、誰もできないのだから。
「だから、アタシは絶対他のトレーナーの言うことなんか聞きたくない。余計な世話焼いてくるから」
「……そうか。いいトレーナーに会えたんだな」
「だろ?アタシ、幸運かもね」
温泉から上がり、浴衣姿になってロビーに向かうオグリキャップ。
すると、ちょうどそこには、同じく浴衣姿の森内トレーナーいた。
「オグリキャップ。インシーの付き添い、感謝する」
「気にしないでほしい、可愛い後輩で親友の世話くらいいつでも焼く」
2人は近くのソファに腰を下ろす。
「今インシーは?」
「ゲームセンターがあったから今そっちに夢中になっている」
「そうだな。温泉に入ってすぐに寝ちゃインシーもつまらんだろう」
オグリキャップはどこか遠くを見て思いに耽った後、立ち上がり森内トレーナーに向き直る。
「インシーのトレーナー。私からお願いがある」
「聞こう」
「"--どうか、インシーにとって最善の選択を"」
そう言葉を残すと、オグリキャップはロビーから出ていった。インシルカスラムの付き添いに戻るのだろうか。
森内トレーナーはオグリキャップからの言葉を噛み締める。
まだ森内トレーナーがトレーナーを続けられると確定したわけではないが、その言葉は森内トレーナーの決意を改めさせるには十分だった。
「……ああ。約束する」
1月下旬。URA本部。
荘厳な会議室には強面のスーツ姿の男たちが40人ほどが集まっていた。
まるでイギリス議会のソード・ラインのように部屋の左側に約20人、右側に約20人と真っ二つになってにらみ合うように座っている。
おそらく、それがそのままお互い反対同士の意見を持つ集まりなのだろう。
何も知らない人がこの場に入ればヤクザか何かの幹部会だと思うだろう。
中央には、インシルカスラムに怒鳴られてしまった査問委員会の委員長が議題を仕切っていた。
「--これよりURA所属トレーナー、森内洋一の罷免について、審議を開始する」
「ここにいる全員が投票し、可決されれば、森内洋一はトレーナー資格を剥奪され、URAからは懲戒免職という形で処分が下される」
この左右に分かれた20人は森内トレーナーのクビに対して賛成か反対か、意見が真っ二つに分かれた、ということだろう。
「委員長。否決された場合は?」
「森内洋一はトレーナー資格を失わず、インシルカスラムのトレーナーであり続ける。この議題そのものが初めからなかったことになると思ってくれ」
委員長の男は手を叩き、開始を促す。
この40人ほどが、森内トレーナーの未来を決めることになる。
「時間はある。じっくりと考えて、結論を下そうじゃないか」
運命が決まるまであと少し。
森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?
-
トレーナー失格だ!クビにしろ!
-
ペナルティを受けるべきだ!
-
事情があったなら仕方がないのでは?
-
トレーナーは何も悪くない!