「楽勝楽勝!どうだったトレーナー?」
インシルカスラムはゴール直後の喜びを持ってきたまま森内トレーナーに駆け寄る。
「すごいなインシー!こんなところで収まる器じゃないぞ!」
「だろー?早くG1連れていけよなー!」
褒められて気分をよくするインシルカスラム。
森内トレーナーも、褒めて伸ばすのが一番好きなやり方だし、インシルカスラムにとっても効果的だろう。
「おめでとう、インシーさん。そしてはじめまして」
近くにいたフルセイルサルートはどことなく上から目線な拍手をインシルカスラムに送る。
「あ?誰?」
なんとなくそれはインシルカスラムにも伝わったようで、素直に喜ばす、怪訝な視線をフルセイルサルートに向けた。
「紹介する。フルセイルサルートだ。いずれ、戦うことになるだろう」
「へぇ、じゃ、ライバルってことかな!よろしく!」
紹介されてインシルカスラムは一旦怪訝そうな視線を直してフルセイルサルートに握手の手を差し出す。
インシルカスラムはフルセイルサルートより身長が10cm以上低いのでやや上方向に。
フルセイルサルートはインシルカスラムの手を素直に取って握手する。
「ええ、よろしく」
そのまま数秒。お互い握手している手を放さない。
しかも2人の握手している手が震えだす。
どうやら、2人とも若干ひきつった笑顔のまま、全力で相手の手を握り潰そうとしているらしい。
「なあ、よろしく以外に何か言いたいことあるのかよ、聞いてやるから言えよ……」
「あら、気の強いチビっ子のプライドをへし折るのは気持ちよさそうね、と思いまして!」
「そう簡単にへし折られてたまるか!!ッ、チビっ子なのは何も言い返せないけど……!」
インシルカスラムもフルセイルサルートもお互いに気の強いウマ娘。
社交辞令の握手をしてから即、挑発合戦に入ったらしい。
「おい2人とも、見てるこっちが気が気でならない……」
森内トレーナーが2人を止めに入ってようやく握手の手が離れた。
「サルート、インシーはジュニア級で全日本ジュニア優駿に出走する。出てくれるか?」
「ええ、もちろんよ!挨拶してから1秒で、インシーにだけは負けたくないって思いましたもの!」
「それはこっちのセリフだサルート!首洗っとけよ!」
握手の手が離れてなお、言い合いを続ける2人。
やれやれ、2人を戦わせるときは苦労しそうだな、と森内トレーナーは心の中でため息をついた。
おそらく近いうち、フルセイルサルート側の藤正トレーナーも同じことで心の中でため息をつくだろう。
「いっ……ててててて。サルートのやつー、本当に思い切り握ったなー……手、折れたかもしんない」
メイクデビューのレース場を出ながら、インシルカスラムはフルセイルサルートに思い切り握られた手を振って感覚を戻そうとしていた。
「インシーだって本当に思い切り握ってただろ。……大丈夫だ、痕はついてるがな」
「じゃあいいや。トレーナー、サルートに絶対勝てるようにするためにはどんなトレーニングがよさそう?」
「"絶対"勝てるように、か」
森内トレーナーはインシルカスラムが熱中症になりかけて以来、トレーニングの負荷を大幅に下げた。
普通のウマ娘ならほんのストレッチ程度で終わってしまうような。
何も病弱なインシルカスラムのトレーニング負荷を軽いものにすることは悪手ではない。
インシルカスラムは才能あふれるウマ娘だ、軽いトレーニングを続けたとしても十分な勝算がある。
しかし、"十分"勝てるようにではなく、"絶対"、勝てるような状況により近づくには……。
ブラス・トレーサーのウマ娘は気が強い子ばっかなので今後もこういう口プロレスが登場します。お楽しみに。
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