ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

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第120話

ーーー108ーーー

 

「ゲートイン完了。……スタートです!」

 

ゲートが開き、素晴らしい集中力でインシルカスラムはコンマ数秒、他のウマ娘より早く飛び出す。

 

一気にアクセルを踏み込み、ギアを急激にガチャガチャと上げていく。

 

脚に痛みや違和感はない。

 

「ハナを取ったのはインシルカスラム……リードは3バ身、最も得意な戦法に持ち込みました」

 

ところで、模擬レースやメイクデビューでやっていたインシルカスラムの走り方を覚えているだろうか。

 

"序盤で3~4バ身引き離し、そのまま最後までセーフティリードを保ってゴールインする。"

 

G1クラスのライバルたちになると、それを崩されたり、思い通りに行ってなお勝算が確実じゃないこともある。

 

だが、G3程度の奴らなんかに。

 

"例えインシーでもブランクがあるなら"などと、インシルカスラムの状態ありきで自分のレースを決めているような奴らなんかに。

 

「負けるわけがないよな!!」

 

 

「藤井記者と言ったか。1つ聞きたい」

 

レースを見ながら、森内トレーナーは藤井記者に耳打ちする。

 

「なんでしょ?」

 

「俺のこと、恨んでいないか?」

 

藤井記者はインシルカスラムがどうしてケガしてしまったかを知らないはずはない。

 

森内トレーナーは続けられるとはいえど、あくまで上が続けてもよいと許可を出しただけに過ぎない。

 

まだまだ世間からの批判は大きく、藤井記者も森内トレーナーはインシルカスラム担当として相応しくない、と思っていても何ら不思議ではない。

 

「アホなこと言わんといてください」

 

藤井記者からは嘲笑が返ってきた。

 

「担当がケガしたからっていちいちトレーナーのクビ切っとったら、URAからトレーナーがおらんようになってしまいますわ」

 

だが、その感情は恨みとは程遠いようだ。

 

「まあ、褒められることちゃう。せやけど……」

 

藤井記者は中盤に差し掛かったインシルカスラムを見る。

 

リードは4バ身。縮まる気配はない。

 

脚の調子はすこぶる良さそうに見える。

 

なにより、インシルカスラムの顔は、清々しく。

 

今、ダートコースを走れることを、とても楽しそうにしていた。

 

「インシーにあんなええ顔させられるトレーナーを引き裂くほうが、ボクはアカンと思います」

 

 

「あー、残り200m……」

 

これまでのレースを振り返っても、平安ステークスの実況者は諦めたというか達観したような気の抜けた実況をしてしまっていた。

 

中盤まで4バ身離して1位を走っていたインシルカスラム。

 

最終コーナーを回ってどんどん加速し、5,6,7とバ身を引き離しているからだ。

 

最早自分が実況などしなくても見ればわかるだろと、実況者にしてはあるまじき態度だったが、実際そうだ。

 

一方的な蹂躙と言ってもいいほどの着差を引き離して。

 

インシルカスラムは京都レース場のゴール版を走り切った。

 

「よっし!」

 

2着がゴール板を駆け抜ける前に、インシルカスラムは走りながら観客席に人差し指を向け、観客たちをなぞっていく。

 

南部杯で確立した、インシルカスラムの勝利の決めポーズだ。

 

「やったぞ!これがインシーだ!インシーの完全復活だ!!」

 

「俺は……この走りに惹かれたんだ……っ」

 

「また戻ってきてくれるって信じてた!応えてくれてありがとうインシー!」

 

観客席からはインシルカスラムのファンたちの感動の叫びが飛んでいる。

 

その大きな声は、本人にも届いていた。

 

「……ありがとな。アタシ、まだまだやるよ!」




走れるなら、インシーはまだまだ強い。
このレース見て、続けさせて良かったと思いました。
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