テンカはただ自分が楽しみたいだけ。
どっちも強キャラじゃないでしょうか?
ーーー114ーーー
帝王賞も残り400mを切る。
順位は変わらずインシルカスラムが先頭となって最終直線へ。
2番手に上がりつつあるテンカバスターとの差は1バ身あるかないかといったところ。
インシルカスラムはテンカバスターからのプレッシャーに圧され、差がだんだん縮まるかのように思われた。
「追い抜けない……!」
しかし、プレッシャーを感じているのは何もインシルカスラムだけではなかった。
テンカバスターは経験豊富なダートウマ娘だ。
インシルカスラムがどれくらい強いか、今のリード差ならどれくらいのスピードで走ればゴールまでに追い抜けるか、全部勘である程度分かる。
その"勘"は。
このままでは負けるぞ!と激しく警鐘を鳴らしていた。
「……ならこのままじゃいられない!」
テンカバスターは歯を食いしばってさらに加速する。
テンカバスターは目の前にいた2位のウマ娘を容易く追い抜き、残りの敵はインシルカスラムただ1人。
1と1/2バ身の差は、どんどんと縮まっていき、やがて1/2が消えるくらいまでの距離になる。
……しかしインシルカスラムとの差は思った以上に縮まらない。
インシルカスラムもまた、ラストスパートでスピードを上げてどんどんと集団を突き放して逃げている。
目の前にいるはずのインシルカスラムが、まるで地平線の彼方にいるかのように遠い。
いつの間にか、テンカバスターの視界からは2が書かれたハロン棒すらも消えていた。
残り200mもない。
インシルカスラムとの差は……1バ身!
さっきからまったく縮まらない!
「……インシー!!」
「"インシーーー!!!"」
たった2mの距離しか離れていないのに、テンカバスターは喉が潰れそうなほどの絶叫を上げて、インシルカスラムの名を叫んだ。
そこまで叫ばないと聞こえないんじゃないかと思うほど、インシルカスラムは遠くにいるように感じたのだ。
「強かったよ、テンカ」
自分の名を叫ばれたインシルカスラムは、ぽろっと漏らすように呟いた。
「だから、アンタに勝てたこと、自慢にしてやる!」
インシルカスラムは、そう叫び返してゴールへと向かう。
「ふふっ……」
それを聞いたテンカバスターはレースの結果を悟り、口角を上げた。
――それが、たまらなく嬉しかった。
まもなく、テンカバスターはいわゆる完全敗北を叩きつけられる。
それは、テンカバスターにとって本望だった。
自らがあらゆる手を尽くして、それでもなお敵わぬ強者に討ち取られるのなら。
そして、その強者に、自らの強さを認めてもらえたのなら。
戦士として、これ以上美しい散り様などなかろう。
「インシルカスラムだ!インシルカスラム、逃げ切ってゴォォォルイン!」
「テンカバスターを打ち破り、今年の帝王賞覇者はインシルカスラムとなりました!!」
実に74話ぶりの優勝。