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「やったぞ!インシーがもう1度G1を勝ったー!!」
「奇跡の復活だ!」
観客席からは大歓声が上がった。
クラシック級での東京大賞典の悲劇から半年。
インシルカスラムは、地獄から這い上がって、再びG1の栄光を手にした。
「ハァッ……!ハァッ……!」
インシルカスラムはいつも以上に激しい呼吸を繰り返していた。
下を向いて荒い呼吸を繰り返し、オレンジ色のロングヘアで前が見えなくなり、汗がボタボタとダートに落ちていくのが分かる。
久しぶりのG1だったことに加え、プレッシャーに晒されたことでいつも以上に消耗してしまった気がする。
それでも、まだ自分の脚で立てている。
インシルカスラムは1度深呼吸すると、顔を上げてオレンジ色の髪をかき上げる。
そして人差し指を観客席へ、中継されているテレビカメラへと向ける。
「やったやったやったーーーっ!!」
インシルカスラムは走りながら観客席の端から端までをなぞっていき。
なぞり終わると、ガッツポーズをして、拳を再び観客席へと突き上げた。
「見てるかみんなーーー!!アタシは、帰ってきたぞーー!!」
「おめでとうインシー!」
「俺、このレース一生忘れないよ!」
「まだまだG1勝ってくれー!」
観客席の皆もまた声を張り上げて、インシルカスラムの復活を祝福した。
「インシーが……やってくれたよ!」
「すごい……!こんな奇跡があるんだな!」
病院にいたものもまた、次々と涙をこぼした。
病弱なウマ娘でも勝つことができる。
病弱なせいでどん底に突き落とされても、這い上がり、全てを乗り越えて勝つことができる。
たった今、インシルカスラムはそれを証明した。
病院ではテレビに見入っていた小さなウマ娘に、インシルカスラムを診察した担当医が語り掛ける。
「--インシーは、全てを乗り越えて、あれだけ強くなれました。君も、あのようになりたいですか?」
小さなウマ娘は、覚悟の決まった顔になっていた。
「うん。私、手術受ける!」
「私も、インシーみたいに強くてかっこよくなりたい!」
喜びながら観客席にアピールするインシルカスラムを後ろで見ていたテンカバスターに、不思議と悔しさはあまり感じられなかった。
悔しい、リベンジだ!と思うことは簡単だ。インシルカスラムもまた、再挑戦を快く引き受けてくれるはず。
しかし、テンカバスターにはリベンジの前にやるべきことがある。
「インシー。私は、1から鍛え直すことにする」
テンカバスターはインシルカスラムを呼び、握手の手を差し出した。
「私は、もっともっと強くなる。それからリベンジしてもいい?」
インシルカスラムはこれまでしてきたように、乱暴にテンカバスターの手を握った。
「じゃあ、強くなったテンカを楽しみにしていいってことだよな?」
「うん。--待ってて」
2人はいつになるかわからない再戦と、今日の健闘をがっちりと掴んだ握手で称え合った。
一方、関係者席。
残り200mあたりから、小原トレーナーは顔を上げ、腕を組み、まるで瞑想をしているかのように目を閉じていた。
ゴールした後、小原トレーナーは結果を悟り、ゆっくりと目を開けた。
「なあ。お前がいなきゃ、インシーはここに来なかったか?」
小原トレーナーの目線は空に向いていたが、それが森内トレーナーへ問いかけていることは感じ取れた。
「ああ、間違いない」
今までそうしてきたように、森内トレーナーは自信を持って答えた。
森内トレーナーがインシルカスラムを帝王賞に連れてくるのが、最善の選択だったはずだ。
「礼を言うぜ。このレースを見れたこと、トレーナー冥利に尽きる」
自分の担当であるテンカバスターは負けてしまったにもかかわらず、小原トレーナーは森内トレーナーに礼を述べた。
担当ウマ娘と互角の実力を持つ相手とG1の舞台で全力でぶつかり合えたこと。
そして、何より終わった後の担当ウマ娘が幸せそうな顔をしているのを見たら。
小原トレーナーにとっても、これ以上幸せなことはない。
「礼ならインシーにも忘れずにな」
「もちろんだ」
地獄から這い上がり、奇跡の復活。
インシルカスラムの物語は、まだまだ続きます。