ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

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雨は「冷たい!気持ち悪い!」だけではない。


第132話

ーーー120ーーー

 

今日は雨に加えて風も強く、斜め向きに雨が降っている。

 

スタートしたとき、雨の降る向き的にウマ娘たちは背中側に雨が当たっていた。

 

しかし、コーナーを回り、大井レース場は約500mの中盤の間、ずっと直線が続く。

 

つまり、コーナーを回って長い直線ということは。

 

「2コーナー回って長い直線に続きます。先頭は変わらずインシルカスラム」

 

後ろにいるウマ娘たちは順位こそ大きく変動しないものの、やや横への移動が目立つ。

 

無意識に前のウマ娘を雨よけにしようと誰かの後ろにつこうとしているのだ。

 

フルセイルサルートは最初からそうしていたため、あまり横へ動くことはない。

 

むやみやたらと横方向への移動を繰り返すのは余計なスタミナを消費する。

 

フルセイルサルートの堅実な行動は終盤に有利な準備を整えている。

 

 

しかし。

 

先頭のインシルカスラムは前のウマ娘なんていない。雨よけがない。

 

降りかかる雨は全て顔に直撃する。

 

「今……どこ走ってるんだろ……!?」

 

必然的にインシルカスラムは顔を下に向け、視界の大部分が地面のまま走らざるを得ない。

 

激しい雨音で実況も周囲の足音も聞こえづらい。

 

いつゴールなのかわからない状態で、まともにこれからのペースなど考えられるわけがない。

 

「上げなきゃ……顔……!」

 

下を向いて走るなんてインシーらしくない。

 

インシルカスラムは顔に雨を喰らいたくないという本能に逆らって顔を上げる。

 

案の定、容赦のない雨が顔を打ち付ける。

 

目の前に見えたのは、第3コーナー。

 

残りは700m弱。

 

 

と分かったその時。

 

右目で大粒の雨がバチャッと跳ねた。

 

「っあ……ッ!」

 

雨が右目に入った。

 

思わずインシルカスラムは右目を固く閉じて、再び顔を下に向ける。

 

拭いたいが、手だって濡れているし、拭ったらフォームが狂う。

 

「(右目が……見えない!)」

 

どうしようと考え……たいが、そんな暇はない。

 

ウマ娘の世界で0.1秒の差とは、1/2バ身差と等しい。

 

わずかコンマ数秒でも脚を緩めれば、今取っているリードがあっという間に消し飛ぶ。

 

「(とにかく走らなきゃ!右目なんて、いや両目が見えなくたって、走るだけならできるだろアタシ!)」

 

インシルカスラムは右目を固く閉じたままレースを続行した。

 

視界がわずかに狭くなり、遠近感が狂う。

 

それでも、何事もなかったかのようにインシルカスラムはコーナーに突っ込んでいく。

 

大井レース場を走るのは初めてではない。

 

感覚でだって走れる。走るしかない。

 

 

「大丈夫かインシー!」

 

インシルカスラムがわずかにひるんだのは関係者席からでも感じ取れた。

 

だが、走り続けられているということは故障ではない。

 

それなら、森内トレーナーはインシルカスラムを信じるしかないだろう。

 

「(俺はインシーに全てを賭ける!応えてくれ!)」

 

そう祈りだした森内トレーナーに対して。

 

藤正トレーナーは嘲笑うようなリアクションを返した。

 

「インシーが勝ちますようにってお願いしてんスか?そりゃ無理っスねえ」

 

藤正トレーナーは空に顔を向け、森内トレーナーを親で指さすと。

 

 

今までしてこなかったような苛立ちを声に含んだ。

 

「おい三女神、コイツの願い聞くなんてふざけたことすんじゃねえぞ」

 

「JBCレディスクラシックはなァ、インシーじゃなくてサルートのモンなんだよ!」




ここにきて初めて藤正T、キレた。
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