もしモデル馬に関わっていた人に出会ったとしたら「モデル馬を最大限リスペクトしてこのウマ娘になりました!どうぞ読んでください!」と言える自信があります。
そんな彼女たちをただのやられ役にはしません。
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「良い戦いだったサルート!」
観客席から小さくそう応援され、思わずフルセイルサルートは顔を上げた。
藤正トレーナーの声じゃない。
観客席から聞こえていたのは、インシルカスラムを称える声だけじゃなかった。
「サルートの気迫見せてもらったぞ!」
「互角の勝負だった!アンタは追いつける!」
「次はインシーぶっ飛ばして大金星あげちまえ!」
観客席からはそういったフルセイルサルートを応援する声も聞こえてくる。
そう、ここはJBCレディスクラシック。
去年は確かな実力で勝利し、今年も確かな実力で追いすがったフルセイルサルートのファンもまた、数多くいた。
「よかったな、アンタのファンもいるじゃん」
だらんと抱えられているインシルカスラムはフルセイルサルートを軽く小突いた。
「……そうね。観客はあなただけを見に来たわけじゃないのよ」
そういうと地下バ道に入る前、観客席からギリギリ見える位置でフルセイルサルートは足を止めると。
観客席に向けて、空いている手を思いっきり伸ばして、ファンコールに応えた。
強い雨風で青いコートがたなびき、手を大きく広げたその姿は。
まさに嵐の中の大海原を、"帆を一杯に張って進む(フルセイル)"船のようだった。
「応援、感謝するわ!見てなさい!」
「次こそ、この赤いチビッ子を沈めてやるんだから!」
「サルートもなかなか人気者じゃないか」
フルセイルサルートのアピールを見ていた森内トレーナーは羨ましそうに言葉を零した。
1着を取ったはずのインシルカスラムがぐったりしてフルセイルサルートに寄りかかっている今、この大井レース場で観客席に向かって手を大きく掲げてアピールできるのはフルセイルサルートだけだった。
「そうでしょ?ったく、俺みたいな二流トレーナーが担当するには出来すぎたウマ娘です」
いつの間にか藤正トレーナーの機嫌は直っており、頬杖を突きながらも、真剣にフルセイルサルートが手を振る様子を見ていた。
「そんなこともないだろう。インシー担当トレーナーが俺しか務まらないように、サルート担当もお前しか務まらんさ」
「そうなんスかね。じゃ、俺がふてくされてばかりもいられませんや」
藤正トレーナーは姿勢を直し、頬を数回叩いて気合を入れ直した。
「次は東京大賞典です、森内さん。あと1つのサルートの目標達成するまで協力してもらいますよ?」
「協力は出来んな。欲しければ自分で奪いに来いとサルートにも伝えておけ」
帆を張って全速力で(Fullsail)!
敬礼(Salute)!