もちろん、相手にとってはリベンジを果たされるなんてもっと許されない。
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ウマ娘が飛び出し、中京レース場のダートコースを駆け抜けていく。
「In the Champions Cup, it was a good start from all runners.(さあ始まりましたチャンピオンズカップ、まずは全員きれいなスタート。)」
「さて序盤どう展開が動くでしょうか……」
日本実況はそう言ったが、ダートレースをよく見ているファンにとっては序盤の展開は大方予想がつく。
なにせ日本代表インシルカスラムは自他共に認める先頭民族。
どんな手を使ってでもインシルカスラムは1番手を取りに来るに違いない。
何なら日本だけでなく、インシルカスラムを知るアメリカ人ファンもかなりの数がそう思っただろう。
「Oh my goodness, both are close for the early lead!(なんと、両者とも先頭争いは接戦です!)」
だが、実況を含め多くの予想は裏切られた。
なんと、ハイエストフェローが最初からインシルカスラムと熾烈な先頭争いを繰り広げに前に前にと出ようとしたのだ。
「フェロー!?こんな最初から前に……!」
「The prank was a success! I wanna fight you from the beginning!(ドッキリ大成功!私は最初からお前と戦いたかったんだよ!)」
去年のチャンピオンズカップでハイエストフェローは先行策を取ってきていたはず。
だが、去年の森内トレーナーの言葉通り、ハイエストフェローは逃げと先行の両方に適性がある。
今回は逃げを選んでインシルカスラムと真っ向からぶつかりに来たらしい。
「I'll take your match!(その勝負、付き合ってやるよ!)」
そして、インシルカスラムが先頭を簡単にくれてやれるような性格じゃないのはご存じの通り。
とはいえ、目の前の相手との鍔競り合いだけに気を取られて全体のレースを見失うほど2人もバカではない。
「アンベールは12着の位置にいます。続いて……」
そんな2人から目線を離さず、アンベールは後方集団に位置する。
アンベールは言葉こそ発さないが、自身が聞こえる心拍数を冷静に感じ取りながら、計算高くレースを進めていく。
ウマ娘の世界ではたびたびスナイパーという言葉が使われる。
その意味はだいたい人気のないウマ娘が1番人気や偉業達成目前のウマ娘を追い抜いて大逆転することを指すが。
アンベールのことを表現するスナイパーの意味はそれとは違う。
先頭から何十mと離れた位置からマークを離さず。
しまった、と先頭が気付いた時には"既に仕留められている"。
アンベールの走り方はまさに本来の意味での"スナイパー"だ。
「1000m通過してレースは後半戦。タイム59.8、未だ争う2人がハイペースを作る」
レースが折り返し地点を過ぎても、インシルカスラムとハイエストフェローはお互い一番前を譲らないように前を走っていく。
ほんのわずかハイエストフェローが前と言ったところか。
去年のチャンピオンズカップでは、この時点で11位にいたはずのアンベールがいつの間にか6位にまで上がってきて、インシルカスラムにゆさぶりをかけていたことを覚えている。
インシルカスラムはハイエストフェローとなおも鍔競り合いを続けつつ、アンベールに意識を向ける。
アンベールの位置は13位。
チャンピオンズカップは間もなく残り600m。
差しウマ娘ならそろそろスパートをかけなければ間に合わないはずだが、前には上がってくる様子はない。
「(あれ、おっかしいな……アンベールがまだ仕掛けない?)」
まさか、アンベールともあろうものがこのままバ群に飲みこまれるわけもないだろうに。
しかし、後ろのアンベールばかりに気にしていては今度は前のハイエストフェローに置いていかれる。
「来ないならそのまま沈みな!フェロー、そろそろ前を空け――!」
「Unveil is coming up on the outside!(アンベールが外から上がってきた!)」
来ないわけないだろ。