ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

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決着。


第144話

ーーー133ーーー

 

その瞬間、インシルカスラムは、流れる時間がゆっくりとなっていくのに気づいた。

 

周りが見えなくなる領域とは違い、自分も周りもそこにあるのに遅くなっていく感覚。

 

去年と同じ感覚だ。

 

おそらくこのまま普通に走れば、同じ運命をたどる。

 

だが、二の舞など許されない。

 

 

許しはしない!!!

 

「ここだぁーーーっ!!!」

 

インシルカスラムは中京のダートを力いっぱい踏みつけ、前傾姿勢を取った。

 

それによってコンマ数秒間だけ。

 

ハイエストフェローをハナ差で抜き、アンベールから差し切られるクビ差寸前、という瞬間が生まれた。

 

そして。

 

Incy Lead the Wayの発動条件は"自分が1位でいること"!

 

インシルカスラムは、全ての力を使い、一気に足元が爆発したかのように前に出る。

 

それと同時に、一気に世界から、人が消えた。

 

これまで、領域とは自分から集中して出すものだった。

 

だが、今回は無意識の集中か、まるで領域そのものが意思を持って自分から勝手に出たかのよう。

 

これまで散々Incy Lead the Wayも領域もいろいろなレースで使ってきた。

 

だが、それを合わせたら?

 

その瞬間的加速は、差しウマ娘であるアンベールとのリード差が縮まらなかったほどだった。

 

「OH......MY......THREE GODDESS......!!(おお、三女神よ……!)」

 

ゴールの瞬間、英語実況者は感動と畏怖でぐちゃぐちゃになった感情のあまり、涙を浮かべて手に持っていたマイクを落とした。

 

 

中京レース場から、割れんばかりの大歓声が上がった。

 

インシルカスラムの視界が元に戻ると、急に疲れがどっと来てしまい、思わず膝をついて四つん這いにになり、目の前にあった砂を掴んだ。

 

Incy Lead the Wayもスタミナを急激に減らし、領域もまたスタミナを大きく持っていく。

 

同時に重ねがけした瞬間こそ、呼吸というものを忘れてどこまでも走っていけそうな感覚に陥ったが、その反動が一気に来てしまったらしい。

 

「ハァ……ァ゛……順位、どうなった……!?」

 

領域に入ったままゴールすると順位が分からない。

 

慌ててインシルカスラムは顔を上げて掲示板を確認しようとする。

 

しかし、まずインシルカスラムが見たのは。

 

「Noooo! I messed up!(ちっくしょう!やっちまった!)」

 

「No way......(ウソでしょ……)」

 

掲示板の番号よりも、頭を抱えて悔しがるハイエストフェローと、予想外のことに動揺するアンベール。

 

つまりは。

 

ほんのわずか、インシルカスラムが抜け出してチャンピオンズカップに勝利したことになる。

 

インシルカスラムには、1年越しのリベンジという悲願を見事に果たしたのだ。

 




実際のウイニングポストではこのシーンはありませんでした。
これは、あってほしかった未来です。
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