それでも、これだけのドラマがあった。
ついに最終章「真鍮の曳光弾」。
本当の意味での「"最後"の一戦」が始まります。
第146話
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ここに来るまでに、いろんなことがあった。
ここに来るまでに、大きなものを犠牲にした。
ここに来るまでに、たくさん無茶をした。
全てはあの日取り逃したタイトルを、取りに行くため。
シニア級、東京大賞典。
泣いても笑っても、これが最後。
今日、12月29日は、インシルカスラムのラストランだ。
インシルカスラムが目を開けると、そこは大井レース場の地下バ道だった。
アメリカウマ娘が帰国してから、東京大賞典までは2週間も空かない。
ウマ娘医学的にはチャンピオンズカップから東京大賞典に行くことは2連闘になり、インシルカスラムにとっては大きな負担になることはもはや言うまでもない。
そして、去年無理矢理連闘してどうなったかも。
「アタシ、帰ってきたんだ……」
インシルカスラムはポツリと、まるで久しぶりにこの場に来たかのような発言を漏らした。
レース場自体はJBCレディスクラシックで1カ月前に走っているはずなのに。
インシルカスラムは、この2週間もない間はあっという間に過ぎ、何をしていたかあまり覚えていない。
まるで、中京レース場でチャンピオンズカップを終えた後、すぐに大井レース場にテレポートされて東京大賞典を待っているかのようだった。
つまり、それはチャンピオンズカップでの疲労が完全には取れず、多少持ち越していることを意味する。
パフォーマンスには影響がないだろうが……。
インシルカスラムは左足のつま先で地面を何度か叩く。
違和感はない。
だが、去年走る前だって違和感はなかった。
今は大丈夫、なんて何の安心にもならない。
「なにボーっとしてんだよインシー!」
「ぐぇ!?」
突然、背中をバシーンとブッ叩かれた。
案の定、2、3歩よろけて後ろを振り向くと、そこにはガルディアコダンが見事な平手打ち後のポーズで立っていた。
「ここまで来て、今更ビビったなんて言わねーよな?」
ガルディアコダンはインシルカスラムを追い抜くと、後ろから来いよと手招きした。
普通なら不安がっているウマ娘を勇気づけようとしているシーンなのかもしれないが。
何もガルディアコダンだって、インシルカスラムをただ励ますためだけに背中を叩いて手招きしたわけじゃない。
"インシーよりも前に出る。"
日常生活ですらそれだけでインシルカスラムをキレさせる挑発行為であることは、ガルディアコダンも承知の上でやったのだ。
「は?誰がビビってるって?」
思わず条件反射で声にドスを効かせてしまったインシルカスラム。
思わずレースした後のことだとか、骨折のことだとか、不安が全部頭から吹っ飛んでしまった。
そういう意味では、ガルディアコダンの挑発はインシルカスラムにとって必要不可欠だったかもしれない。
インシルカスラムはダンッ、ダンッ、ダンッ、と地面に脚を叩きつけるように靴音を鳴らしながらもう1度ガルディアコダンを追い抜いた。
もしかしたらこの東京大賞典でまた故障してしまうかも……なんて考えてるウマ娘がとてもできる行為ではない。
「さっさと来いコダン!絶対泣かせてやる!」
「ああ、そりゃ楽しみだぜやってみろよ!」
2人はいつも通り。
いや、1年ぶりにワーワーと大ケンカをしながら大井レースのコースへと歩いて行った。
心配しながらレースに向かうなんて、インシーらしさとは真逆の行為です。
ついでですがBeyond Dreamsもプレイしました。
この話も全くの無関係ではない故に考えさせられるところがあります。