…いや。1年ぶりといったのなら。
私が採点者なら不正解にします。
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インシルカスラムとガルディアコダンが地下バ道を出て大井レース場のコースへ出ると。
そこには、テンカバスターとフルセイルサルートが待ってくれていた。
4人は1年ぶりにこの大井レース場で一堂に会することになる。
……いや、正確には1年ぶりではない。
去年のあんな東京大賞典をレースなどと思っている者は誰もいない。
改めて、初めて4人はこの大井レース場で一堂に会することになった。
この東京大賞典を、思い出に残る1戦とするために。
東京大賞典の出走者はみな大井レース場を何度も走ってきたベテランダートウマ娘ばかり。
係員の指示がなくとも、自然と列を作り、パドックを歩いていく。
大井レース場のパドックを歩くウマ娘は、主に4つの色がよく目立っている。
実況と解説は有力な4色のウマ娘を順番に紹介していく。
「1枠2番、ガルディアコダン、2番人気。これまでの戦績はなんと44戦24勝、今年は南部杯とJBCクラシックを制しました」
「45戦目の25勝目として、自らのレース人生に区切りをつけるにふさわしい場所でしょうね」
緑のガルディアコダン。
「3枠6番テンカバスター、27戦17勝、3番人気です。今年フェブラリーステークスを2連覇したダートの武芸者が再び東京大賞典にやってきます」
「強者ぞろいの東京大賞典です。ぜひとも印象に残る戦を繰り広げてほしいものです」
白のテンカバスター。
「続いて5枠9番、フルセイルサルート。4番人気です。戦績は16戦11勝、今年は川崎記念にかしわ記念と名だたるG1を獲得してきました」
「続くインシルカスラムとは深い因縁があります。彼女にとってこの1戦は外せないでしょう」
青のフルセイルサルート。
そして。
「さあ1番人気は大外7枠13番のインシルカスラム、戦績は12戦10勝!」
「去年の東京大賞典の悲劇を知らぬ者はいないでしょう。しかし彼女は地獄からこの場へと舞い戻ってきました!」
「前半戦をケガで失いながら帝王賞、JBCレディスクラシック、さらにチャンピオンズカップと勢いは衰えません!」
赤のインシルカスラム。
インシルカスラムが紹介された瞬間、観客席のざわつきが大きくなる。
多くのインシルカスラムファンが期待を寄せていながらも、やはり不安を感じずにはいられないのだ。
ウマ娘全員のパドック紹介が終わると、自然と4人はゲート前に集まる。
「インシー」
そしてまず話を切り出したのは、去年ケンカの売りあいにドン引きしていたテンカバスターだった。
テンカバスターは優しくインシルカスラムに握手の手を差し出す。
「約束通り、私はあの日からたくさん練習を重ねてきた。リベンジマッチ、受けてくれる?」
もちろん、その手にはインシルカスラムにしか見えない透明の果たし状が握られている。
インシルカスラムは、その果たし状を握りつぶすように、テンカバスターと固い握手を交わした。
「あったりまえ!で、今回も負けろよな!」
と、その矢先に。
インシルカスラムの方向を向いていたテンカバスターは急に横から胸倉を掴まれた。
掴んだのはフルセイルサルート。
「随分とインシーだけにご執心のようねテンカ。私に寝首を搔かれることは考えてくれないのかしら?」
耳を後ろに倒し、脅すような声で、自分を見てくれていないことに怒っていた。
そんなフルセイルサルートに対して、テンカバスターは目を細めて微笑み返す。
「サルートのことも考えてほしい?」
もちろん、この言葉の意味は「雑魚の貴様など考えるまでもない」だ。
もちろん、そう受け取ったフルセイルサルートの血管は容易くブチギレた。
「ええ!!テンカにもインシーにも、コダンにだって"この私が負けるなんて"って考えてもらわなきゃあね!!」
フルセイルサルートはそう吐き捨てると、乱暴にテンカバスターの胸倉を投げ捨てるように払って離した。
胸倉を掴まれ、離されるまでテンカバスターの身体は1ミリも動いていなかった。
「やれやれ、今度はオレが"勝手に言ってろ"って突き放すやつか?」
「なら勝手に噛みつきあってな!その隙に、オレが今年も東京大賞典、もらっていくぜ!」
目の前の12人のことを仲間でライバルと言ったなら。
私が採点者なら不正解にします。
仲間でもなければ好敵手ですらない。
敵だ。蹴落とせ。叩きのめしてやれ。