ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

158 / 166
インシルカスラムのラストラン。思うところは?


第148話

ーーー137ーーー

 

各ウマ娘、スムーズにゲートインしていく。

 

大外のインシルカスラムは最後にスッとゲートに入り、まだ開いていないゲートから大井レース場を眺める。

 

やはり、年末の大一番かつ、最後のレースかつ、インシルカスラムにとって何としても外せない特別なレース。

 

となると感慨深いものが込み上げてくるものかと思っていたのだが……

 

「(なんか、そろそろ見飽きてきたな)」

 

思いのほか、インシルカスラムにそんな感情は沸いてこなかった。

 

何度も走ったレースだ。

 

何を感傷に浸ることがあろうか。

 

インシルカスラムは余計なことを考えるのをやめて、スタンディングスタートの構えを取った。

 

「各ウマ娘、ゲートイン完了」

 

 

ガコン。

 

「スタートです!各ウマ娘好スタートを切りました」

 

ゲートが開き、勢いよくウマ娘が飛び出した。

 

出遅れはなし。

 

まずは何人かの逃げウマ娘たちが先頭争いを繰り広げる。

 

もちろん、ここに参戦するのはガルディアコダンとインシルカスラムだ。

 

「まず先頭を取ったのはガルディアコダン」

 

「3番手にインシルカスラム」

 

ガルディアコダンがテンポよく前に出て主導権を取った。

 

最序盤はインシルカスラムの負け。

 

しかし、ガルディアコダンは手放しで喜べるかと言われればそうでもない。

 

ガルディアコダンは後ろに意識を向ける。

 

「(チッ、さっさと内に切り込んだな)」

 

大外のウマ娘がそのままダラダラと外を走ると大きく円を描く距離ロスにつながる。

 

それを嫌って一気に内に切り込んだとしても大きくスタミナを削るが。

 

前者を選ぶのはインシルカスラムの頭も本能も許さなかったようだ。

 

「テンカバスターが4番手」

 

「6番にいるのがフルセイルサルート、今日は前目に行くウマ娘が多いようです」

 

 

「そりゃそうでしょう。ここにいる俺らの担当全員、先行以上ですからね」

 

藤正トレーナーは実況の言葉に呆れた独り言をつぶやいた。

 

場所は変わって関係者席。

 

去年と同じく、担当ウマ娘のテーマカラーをした4人のトレーナーが真剣にレースを眺めている。

 

「どこかで斜めに走らなければならないのが大外の逃げですが、即断即決で内に切り込んだインシーはさすがですね」

 

「コダンとて分かっていただろう。あとは展開がどう動くか」

 

打出トレーナーと森内トレーナーはお互いに逃げを担当するウマ娘としてライバルを称えつつ状況を注視する。

 

「--お前ならやれるぜ、テンカ」

 

テンカバスターにしか興味のない小原トレーナーは静かに、しっかりとテンカバスターを応援していた。

 

「レースは中盤戦に入ります。1000m通過タイムは60.4秒のミドルペース」

 

ふと、森内トレーナーは耳から入ってくるざわめきが気になり、観客席の方向を見る。

 

よくよく観客たちの顔を見てみれば、レースの後半戦が近づくにつれて、不安な表情をする観客が増えてきている。

 

「い……行けインシー!」

 

「絶対……勝つんだ!」

 

インシルカスラムのファンだというならば分かっているはずだ。

 

今口にした言葉こそがインシルカスラムの力になる応援。

 

一方、不安な観客たちが心の奥底で思っている言葉は口にするべきではない。

 

インシルカスラムは、そんな言葉よりもとにかく勝つことを望んでいるはずだからだ。

 

それでも。どうしても。

 

こう願わずにはいられなかった。

 

 

"どうか、無事に帰ってきてください。"

 




そんなこと考える暇あるなら「とにかく勝て!」と全力で応援してほしいと思っているはず。
でも、去年の惨事を見てしまった人の中には、100%そう思うことはできない人だっています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。