「あちゃー、それならなんだか申し訳ないことをしてる気分になってきましたねえ」
控室の外からノックと共に聞き覚えのある男の声がした。
その調子の乗った声は、絶対に申し訳ないなどとは思っていない。
「サルートも一緒です、挨拶と勝負服のお披露目に来ましたよ。入っても?」
「……ああ、どうぞ」
何時ぞやのように、森内トレーナーは扉を開けて、藤正トレーナーとフルセイルサルートを迎え入れる。
「--G1、2着でも、人々に勇気は与えられるのではないかしら?」
フルセイルサルートはカツカツと露骨に靴音を鳴らしながら控室に入ってくる。
フルセイルサルートの勝負服はインナーは白、アウターは青を基調として黄色いラインやポイントがいくつか入った女海賊らしい服装だ。
パイレーツハットを直しつつ、フルセイルサルートはインシルカスラムと目線を合わせる。
……睨むといったほうが正しかっただろうか。
もちろん、インシルカスラムも負けじと睨み返す。
「サルート……!アタシの話聞いてたのかよ、恥ずかしいじゃんか」
「あら、立派な志じゃない。壊し甲斐がありそうで、とっても楽しみよ!」
「上等だ!返り討ちにして笠松に帰りたいーって泣かせてやるからな!」
「終わった後に泣くのはあなたの方よ、楽しみにしててちょうだい!私がちょっと負けたくらいで、泣いて笠松に帰る根性なしだと思ってるその態度、気に入らないわ!」
目線があった2人はさっそくワーワーと煽り合いを始める。
「……止めなくていいんスか、これ」
「まあ、出走まで好きなだけやらせてやろう。トレーナーの俺たちは喧嘩の叩き売りじゃなくて冷静にお互いの分析だぞ」
「そうですね、ライバルについていろいろ話を聞きたいと思ってたとこです」
「--2枠3番フルセイルサルート、2戦2勝の笠松からの刺客、中央を崩さんとかかります」
「うちのサルート、インシーと互角って大方予想されてるみたいですね。まあ同格のレースにお互い勝ってるんだ、そう見られます」
パドックに並んで歩く出走者たちを見つつ、実況も聞きながら、森内トレーナーと藤正トレーナーは関係者席で積もる話を片付けていく。
「……インシーはずっと中央で練習している。が、サルートは中央に比べて練習器具の乏しい笠松でメイクデビューまでやってきた」
「--5枠9番、インシルカスラム、1番人気です。こちらも2戦2勝確かな実力でダートの頂点へと輝くのか」
「そこからメイクデビューを勝ち、早速プラタナス賞でも勝利。どんな手を使ったんだ」
中央トレセンはウマ娘でのレース世界の本部となるため、当たり前だが設備は日本一。ダートであっても相応のトレーニングができる。
だが、地方の笠松トレセンはそこまで潤沢な設備があるかと言えば、やはり一歩二歩は劣ると言わざるを得ない。
インシルカスラムのメイクデビューの時、フルセイルサルートはまだ笠松トレセンの制服を着ていた。
設備のハンディキャップを背負いながらもメイクデビューで勝利して中央に電撃移籍。
そこからさらに短い間隔でプラタナス賞も勝利している。
インシルカスラムに比べて大慌てのスケジュールだが、それでもしっかりと成果を残している。
記録上、どちらも2戦2勝で互角に見えるが、森内トレーナーにとってはフルセイルサルートのほうがわずかに上手にすら思えていた。
「アンタと一緒です。サルートの実力が半端なかった、それだけですよ」
「一言で片づけられるものじゃなかっただろう」
「インシーに勝てなきゃ、長々語ってもみっともないですからね」
そう言ってるうちにウマ娘のゲートインが完了する。
彼女たちのダートの軌跡は、ここからが本番だ。
「各ウマ娘ゲートイン完了です……スタートしました!」
ブラス・トレーサーは燃えと根性と煽りあいでできています。
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